最高を体現するために 作:競馬ファン
目標達成のために
やぁ、みんな俺だよ俺。今は多分胎内にいる。まだ景色を見ることはこの成長途上の体では叶わないが、何だか形容しがたい安心感に包まれている。
まいまざーの温もりを感じ、安心して眠りこけていると、急に濁流が押し寄せたかのように俺の体をある方向へと押し流す。巨大な圧力を感じた俺は目を覚ました。
(遂に産まれるのかー)
などと吞気なことを考えながら俺を押し出す?押し流す?力に身を委ねる。
体感20分後だろうか、俺は胎内という温室から脱力したまま外の世界にほっぽり出された。初めてこの目で見た世界は色素が薄かった。
そんな感想を抱いた俺はとりあえず立ち上がろうと足に力を入れるが、父の単眼レンズのカメラを破壊して2時間正座させられた後のように上手く足に力を入れることができない。
格闘すること約15分遂に、俺はこの狭い部屋にて自らの足で立ち、歩くことに成功した。
周囲の人間が何やら驚くような声を上げているが、成長途上の俺の体のせいか、うまく聞き取ることができない。
足との格闘を終えた俺は早速初乳を貰おうとまいまざーの傍に自らの足で寄る。
『母上、母乳プリーズ』
『……』
『母上?』
俺が問いかけると同時に母上は──
「放馬ぁぁぁぁ!!」
『母上⁉』
出産で体力を使い、今年で繫殖牝馬も引退と思われる年齢にもかかわらず俺に初乳を上げることなく逃げられた。
俺は馬としてこの世に生を受けてから約十五分、育児放棄されました……(´Д⊂グスン
そんな育児放棄をかまされてから1ヶ月。まだまだ雪が残る2月。俺は草を食んでいた。それはもう四六時中。俺の世話をしてくれる人──茶髪でチャラそうな男、ユウジからは
「アオ……食ってないと死ぬのか?」
「お前もうちょっと動けよ?太るぞ?」
と、変な生き物を見るような目で見られました。
だってやることねぇんだもん!景色はいつも代わり映えせず、色素が薄く刺激がないし。痒い所に手は届かねぇし。
こちとら草食ってねぇとこちとらやってられんのじゃ!
お前が見てないだけでちゃんと走ってるし!
「まぁそうカッカすんなって。事実なんだからさぁ。まったく、短気は嫌われるぞ?」
ムッカァァァァァァァ!!!!
何やこいつ俺の神経を逆撫でするプロかなんかかな?何勝手にやれやれしてんだよ!表出ろやこの1ヶ月で草を食んで成長させた後ろ足で蹴り飛ばしてやろうか?あ?
「おー怖い怖い、ここはけがをする前に撤退させていただきましょうかね。桑原桑原」
……逃げんじゃねぇよくそがぁぁぁ!!!!
俺の絶叫が北海道某所でこだました。
数分後
次は放馬してでも蹴り飛ばすと決意を固めた後、一人物思いにふける。
俺は1ヶ月で把握した情報をもとに、自分の状況を整理し、自身の競走馬として目標達成の為に必要なことの確認をすることにした。
まず、俺を生産したと思われるのは、コーザンファームと呼ばれる国内最大級の超大手だ。最近では、IFHAのレーティング135を獲得して競馬ファンを賑わせたイクイノックスや、みんなの英雄ディープインパクトなど、数々の名馬を生産している。
そして、生産された馬は大きく分けて二つのルートに分けられ、デビューするだろう。
まずは、セレクトセールに出され、セリにかけられる。これが一番メジャーな気がしないでもない。オークション形式で行われ、馬主を持った人が出品された幼駒たちを購入するものだ。
二つ目は提携先のクラブに直接売却されることだろう。クロノジェネシスなんかがその類だろう。
まぁ、俺にどうこうできる話ではないが、いずれは海外に遠征したいので金持ちに買われたいものである。
次に目標の歴史に残る名馬であるが、一番わかりやすいのはレーティングだろう。さすがにレーティング1位だから俺最強!とは思わないが、インパクトはあるだろう。フランケルなんかも確かにマイルだったら敵は居無かったのかもしれないが、中長距離だと楽勝できるかという問いに疑問は残るような感じだ。
けれども強かったか?と聞かれたら強いと答えるだろうし、人というのは数値に弱い。
次に最強馬と聞かれたらまず思い浮かべるのは、勝ち方とタイムだろう。
最強馬なんてのは決められないが、歴史的名馬で名前が挙がるのは、マンノウォーやセクレタリアト、ドクターファーガー、ダンシングブレーヴにシーバードやミルリーフなど名前が上がる。
日本馬ならディープインパクトやシンボリルドルフなどが言えるだろうが、共通して言えるのは、勝ち方が派手であったり、詰まらないと思わせるほどの安定感*1だろう。
歴史に残った名馬には、ウォッカのように評価が分かれるタイプもいるだろう。正直ウォッカの評価にはどうしても"東京なら"が付いてくるのだ。(個人的主観)
彼女が弱いわけでは決してない*2が、3歳以降東京競馬場以外での重賞級勝利がチューリップ賞しかないのだ。もう一度言うが、ウォッカが弱いわけではない。(弱かったらG16勝なんて無理)
俺は牡馬であり、歴史に残る名馬を目指しているので場所を選ぶわけにはいかないのだ。
以上のことから目標達成のためにすべきは【場所を選ばず大レースを派手に勝ちまくる】だろう。転生前はフランケルとかブラックキャビアに勝つことばかりに執着していたが勝った所で、エクセラー*3みたいな、知る人ぞ知る(と思われる)名馬みたいな評価に落ち着くだろう。
こだわるべきは、どのレースをどんな勝ち方で勝つかであって、どの馬に勝つかではないのだ。(今更)
第一距離が彼らとは違うのだ。彼らはマイルや短距離それに比べて俺は日本に生を受けた時点で三冠路線ほぼ確だし、マイルや短距離で終わるつもりもないので、遠征するとしても凱旋門賞やBCクラシックとかだろう。
できるとしたら、馬主がロマンチストとか種牡馬としての価値を上げるために挑戦するといった感じだろう。
まぁ今の自分には食って走るくらいしかできることがないので、大人しくたくさん食って気が向いたら走っとけば大丈夫だろう。
これでもサクラ肉にはなりたくないし歴史に残る名馬になりたいので一応走ってはいる。
けれども走るのは楽しいがそれ以上に食べることに幸せを感じるのだ。どうせ来年の夏頃には育成牧場でたくさん走ることになるし、外は寒いし後2ヶ月くらいは真面目に走らなくたっていだろう。
怪我*4をして痛い思いをしたくないという情けない気持ちなんて一切ない……はずだ、はずなんだ。
拙作を見ていただきありがとうございました。