【悲報】ちんちん改造したのに戦争に負けるw 作:ひつまぶし太郎
『ぶらっくぶれっど』。
そんな看板を掲げるパン屋がある。
売上は鳴かず飛ばずというわけでもないが、繁盛してるわけでもない。
そもそも『世界ってクソですよね。全員ちんちんもげるウィルスとか流行んねえかな』が口癖のバカ店主の気が向いたらパンを焼くという、極めて舐め腐った方針のせいだ、というのもある。
かと思えば狂ったように黒パンを量産し、余ったからといって軽バンに乗せてどこかへと廃棄しに行くのだからわからない。
そもそも店主が見た目だけは幼い少年で、果たして労働基準法はどうなってるのかとか、働いてないときの収入はどうしているのかとか、疑問の尽きない謎の名店。
何より『ちんちんあり〼』とか店の前の黒板に書いてあるあたりが、客足を遠ざける手伝いをしていた。
そんな感じで、なぜか潰れないパン屋として、東京の都市伝説として最近は語られることもあるらしい。
分からないことだらけだが、一つ分かっていることは。
「───!」
ぶらっくぶれっどのパンは絶品なのだ。
噛み締めた瞬間、口の中いっぱいにソーセージの旨味が広がり、マスタードの辛味がより食欲を後押しする。
…ただのホットドッグだと言うのに、暴力的な美味さがあった。
店主は食べるだけで服が脱げるパンを日夜開発してるとかほざいていたが、今のところそんな危険物は確認されていない。
「うめぇ…」
久しぶりのまともな食事を噛み締めるように呟く自分を見てニコニコ笑う店主の目線が恥ずかしくて、蓮太郎は思わず顔をそらす。
「貧乏って大変っすね。働かないんですか?」
違った。
ニコニコなんて可愛らしさはない。
ニマニマとした悪意マシマシな笑顔だった。
ついでにチンカスもトッピングされてきそうだなとか頭によぎったせいで、一気に最悪の気分になる。
「うるせえよ。働いてんだよ俺だって!」
「へー…ちなみにさっきから無心で食べてるパン、今のところ合計千三百円すよ」
「………つけで」
空腹のあまり記憶をなくすほど無心で食べたパンは手元のホットドッグ含めて3つ。
家にいる居候のためにと渡された菓子パンも合わせれば、おそらく千三百円では済まないだろう。
この情勢では、小麦自体の値段が高いのだから。
じゃあ払えるのかといえばかなり厳しく。
結局のところ、なぜか甘やかしてくれるチンカス後輩の好意に甘えるしかないのだ。
正直恐怖しかない。
あとから何を取り取られるのか分かったもんじゃあない。
居候の相棒も尻子玉が抜かれる怯えていたし、たぶんこいつは妖怪だ。
「後輩にたかるって恥ずかしくないんすか?これだからヤンキー陰キャは」
「ヤンキーと陰キャって相反するだろ…」
「僕も昔はそう思ってました。そう、先輩に会うまでは。誇っていいですよ?ダーウィンが来たで特集が組めます」
「あーそうかよ!光栄だね!」
「いるもんですねぇ。ヤンキーと陰キャの
「だったらお前はチンカスとゲボの
「ほげぇ」
聞いてるのか聞いていないのか。
怒鳴る蓮太郎もどこ吹く風でけらけらと笑いながら、エロ本をペラリとめくる営利意識がかけらもない店主は、無造作に飴を掴み器用に指だけで剥くと口に放り込んだ。
「んぐ。ま、つけはいつでもいいですよ。所詮廃棄行きのパンです」
「もったいねえなぁ…」
「味は確かなんですけどねぇ…なぜか余るんですよ、ホットドッグ」
「商品名がちんちんサンドは誰だって買わねえだろ」
蓮太郎だって空腹のあまり意識が朦朧としてなかったら食べなかった。
本当に食べてしまったのか?などとニヤつく店主を見て、詐欺師として罪にとえないんだろうかと考えすらしたくらいだ。
「そこは譲れませんね、残念ながら」
「譲れよ。ったく、残念な頭だと苦労するな」
「先輩ほどじゃないっす」
「お前より頭悪いと思われてるの心外だわ」
「テストの点だと僕に負けてんだよなぁ」
「……昔はそれなりに俺だってなぁ…」
昔は神童と呼ばれていたなどと。
この馬鹿に自慢気に話していた過去の自分を消しされるもんなら消し去りたい。
「過去の栄光に縋るとか恥ずかしくないんですか?」
「ほっとけ!」
皮肉の一つも聞きやしない。
まるで超越者のような、年不相応な泰然自若っぷりは今日も変わらない。
きっと明日もそうなのだろう。
昨日と変わらず、明日も同じで、今日という日を積み重ねる。
岩壁でももうちょっと変化があるというのに、この少年は普遍で不便で不変だった。
「つーかそれ、お前が読んでいい年齢か?」
「あー…ほら。僕が拾ったわけじゃないんですけどね、河原を散歩したらリュックに吸い込まれてて。捨てる神もいれば拾う神もいるってやつですね」
「神ね」
「紙だけに」
「うるせえな」
神とやらは随分と実在性のあるものらしい。
腰まで伸びた乱れた白髪が絡まるのも厭わず、なんならその性別を知らなければ美少女にしか見えないあどけない美貌なのに、鼻くそほじって屁をこいている。
エロ本を捨てる神なんているくらいなら世界を救ってほしい。
切実に。
「ちなみに実際結構落ちてるんですよ。たぶんガストレア化して死んだ元人間とかの持ち物なんでしょうけど」
「お前の倫理観って…」
「たまに血とか紫色の粘液とかがついてたりするのでその時は運が悪かったなぁと思って燃やします」
「持ち主の運の話ししてる?それともエロ本がダメになって残念って話してる?」
「ちなみにその焚き火で焼いた焼き芋のこと、僕はスイートポテトって呼んでたり」
「最低じゃん」
「で外周区の子どもに食わせるわけですね。将来スイートポテトを頼んだ時に焼き芋が出てこなくて困惑するガキどもの顔が浮かぶぜ」
「カスじゃん」
ドン引きする蓮太郎のリアクションもものともせず、その子どもはエグい水着を着てセクシーポーズをとるグラドルに切り抜いた聖天子の顔写真を貼り付けている。
…普通に不敬罪だった。
「ちなみに見つけたエロ本(完全版)は大概外周エリアに持ってくんですよ。おもろいですよ?これが一般的な漫画だって言ってガキにエロ本読ませるの」
なんかもう色々最低だった。
呪われた子たちがエロ本を読む光景を想像した蓮太郎は、思わず目眩がして思考を打ち切る。
いつか刺されるだろこいつ。
いや刺されてください三百円あげるから。
「呪われた子たちになんか恨みでもあんのかって言いたくなる所業なんだよなさっきから」
「やだなぁ別に何の恨みもないですよ。暇つぶしに遊んでるだけで」
「お前って悪魔かなんかの生まれ変わりなんだっけ」
「生まれが悪魔的ではありますよね」
「………………」
思わず黙り込んだ蓮太郎をよそに、ぺっかぺかの笑顔を浮かべた少年はエロ本を天高く掲げる。
「できた!聖天子ちんちんデラックス!モデルアナコンダだぜ!うーんこれはステージIVはあるなぁ!」
「ぶっ殺されてえのかお前はさっきらさぁ!」
見れば聖天子の顔をしたグラドルの股間からどこから切り抜いたのか巨大な肉棒が生えたキメラコラ画像が生み出されていた。
一体全体どういう技術なのか。
境目のわからないコラ画像と目が合って、あまりの気まずさに目をそらした。
これが世に解き放たれた場合、まず間違いなく首が飛ぶ。
後輩の。
ついでになぜかその後輩に巻き込まれて自分の首まで落とされる未来が見えた蓮太郎は慌ててバカの手元からエロ本をひったくった。
「しってます?ボノボってちんちんでフェンシングするらしいですよ。わくわくしてきますよね」
「しない、全然。あとそれなんかただの都市伝説って聞いたことあるぞ」
「くわしいんすね」
「まぁ動物は割と好きだし…」
「いや僕が言ったのはおちんちんフェンシングなんて都市伝説をしっかり把握してる先輩が詳しいのは下ネタだろって言ったんですけど」
「やっぱお前俺のこと舐めてるよな!?」
「僕より暫定IP序列も軍の階級も下の人に言われてもなぁ」
ぐっ、と。
言葉に詰まった蓮太郎は苦し紛れに嫌味を口にする。
「…引退してるくせによく言うぜ。過去の栄光に縋る男ってみっともないと思わないか?」
「殿堂入りってやつですね」
「クビだろ不良軍人」
「実際のところはまだ席だけはあるらしいっすよ。怖いですね」
しゅぼっという音ともに白い棒に煙が灯る。
あどけない容姿の子供が、白い煙をぷかぷかと吐き出して満足気に笑う姿は、いつまでたっても慣れるものではない。
「タバコは成人してからだぜ高校生」
「エロ本喫煙無免許運転。通報すれば即逮捕なのに経歴は真っ白。終末世界極まってるっすねぇ…ま、そもそも超法規的措置による高校生生活。戸籍も人権もない僕からすれば通ったところで別に何のメリットもないわけですが」
「ふん、世も末だな本当に…」
なんなら十四歳だろうお前、とは口にしない。
見た目は小学生、年は中学生、所属は高校生。
ちぐはぐな少年は、この世界の歪みそのものだった。
「世界ってクソですよね。全員ちんちんもげるウィルスとか流行んねえかな」
「やめろ」
「ちなみにこれはタバコじゃなくて幸せになれる葉巻で───「没収」そんなあ」
二〇三一年、世界残存人口、七.五億。
IISOに登録している民警の正規ペア、二十四万組。
モノリスの中で身を寄せ合い、静かに破滅の道を歩む斜陽の世界。
そのパン屋は、そんな世界で勝手気ままに店を構える。
ここでは、民警も呪われた子たちも天才も、国家元首すら関係ない。
安くて美味い。
ただし気まぐれ。
『ぶらっくぶれっど』
本日も変わらず営業中。
こんな感じでゆるくキリのいいとこまでやっていきます。
よろしくお願いします。