【悲報】ちんちん改造したのに戦争に負けるw 作:ひつまぶし太郎
ぶらっくぶれっど。
そう命名したこの店には開店以来変な来客が絶えないわけだが、なぜなのだろう。
気まぐれで開く割には食っていける程度には客足があるわけだが、どうにも偏り寄りが激しいというか。
たかりモンスターのヤンキー陰キャと元お嬢様コンビとか国家元首とか四賢人の一人とか、お偉いさんのヒゲモジャジジイとか。
東京エリアの濃いやつら全員集めてみたみたいな客層ばかり相手してると、どうにも胸焼けして仕方がない。
普通のお客さんもいるんだけどね。
「キヒッ、君のせいだと思うんだがねぇ」
「いやいやお前より頭が変な奴なんてそうそういないだろ殺人鬼。類友じゃないから別に。勘違いしないでよね!」
「これはこれは手厳しいじゃないか!痛いところをあまりにも突き刺すから、殺してしまいたくなるよ君のことが!」
「うるさいなぁ。少しは娘を見習えよおっさん」
まったくぽんぽんぽんぽん。
痛いところ突き刺された瞬間弾けやがって。
黒ひげ危機一発かオメーは。
「…ふむ、たしかに。いささか行儀の悪い仕草だったかな?」
行儀が良い振りしてるだけのシリアルキラーがなんか言ってるぜ。
雑談に興じながら、僕は思う。
知り合ってそれなりになるが、殺し合いから始まった関係としては落ち着いてるな、と。
『ああ、ちょっと、君。一つ問おう』
『…あ゛ぁ?』
『……いきなり口が悪い…』
『人様に上から目線で問うてくる奴とかろくでもねーやつしかいねえんだわ。殺すぞ』
『荒みすぎてない?』
だが同時に、奴は僕の命をまだ諦めてはいないし、血なまぐさい関係とも言い換えられるので、やっぱり落ち着いてはないかもしれない。
こないだも仕入れの帰りに襲われたしな。
『死ねえい!!』
『お前が死ねよ』
『パパをいじめるな!』
『何だよスピキ気取りか?チョワヨー チョワヨー ムルゴルレジチョワヨー!!!』
『くっ、この…!相変わらず無駄に強いな君は…!』
『スピキデルジバセヨ!(咆哮)』
まぁ普通に返り討ちにしたけど。
僕バカだからわかんねえけどよ…別に雑魚に命狙われたところでどうってことはないから別にいいってことにするぜ…。
「とはいえ君も知っているだろうが私は───」
「ラジオネーム世界を滅ぼす者さんだろ。聞き飽きたってそれ」
「…君は私の言動をどうにも冗談だと思ってる節があるね」
冗談だと思ってるというか。
むしろ冗談以外なんだと言うのか。
なにせこの蛭子という男が頑張らなくても世界は滅びるのだ。
それをわざわざ加速させようと頑張ったところで、結末は変わらない。
端的に言ってバカの所業である。
「力なきうんちゃらかんちゃらはまじちんこでおっぱいぶるんぶるんだってこないだ聖天子様が言ってたぜ」
「力なき、までは言ったのだろうけどね…聖天子様には同情するよ。君は真面目がすぎる」
「どのへんが?目ぇ腐ってる?」
それともかいけつゾロリ的な話なのか。
真面目に不真面目みたいな。
だとしても見当違い甚だしい。
僕はただの気まぐれパン屋だ。
それ以上でもそれ以下でも、それ以外すら認めない。
「…まったく、君ほどの人間がパン屋に甘んじるなど、世界の損失だとなぜ理解できない?」
「世界とか知らないっす」
「ふむ…世界が滅びればパン屋もできなくなると思うが」
「そんときゃ木こりでもするよ」
「…………………」
のれんに腕押し。
どこ吹く風の僕に辟易したのか、仮面をつけ、よくわからん礼服のような服を着こなす男はついに沈黙する。
ふっ、勝った。
レスバも雑魚とかやっぱ世界を滅ぼす者さんはダメだな。
「……戦争こそが我々の生きる意味だ」
戦争に負けた人類種がなんか言ってんよ。
「戦争なんて意味ねーから。まじで。ちんちん改造する意味もなかったよなほんとに」
「それについては心の底から同情するよ」
「同情するならちんこくれよ。僕は普通に他人のちんちんに容赦しねえからな。もぐぞ。僕がちんちん失ってんだからお前らもちんちん失わないとだろ」
「最悪な等価交換はやめてくれ」
「名作だよな。…ちなみに僕なら賢者の石を躊躇なく使うよね。初手リゼンブールの人間全員賢者の石に改造して僕のハガレンはフィニッシュよ」
「君こそが魔王だったか…。と言うかちんちんの人体錬成の対価にされるとか最悪すぎないか?」
最悪なのはこの世の現実なんだよ。
さて。
「パパ!これにする!」
そんな風に面白くもない雑談に男どもが興じている傍らで、パンを真剣に吟味していた少女が声を上げた。
彼女の手元にはお盆があり、さらにその上に正気とは思えない量のパンが積み上がっている。
無言でせっせとお気に入りを積み上げているのは見えていたが、彼女はパン屋を動物タワーバトルかなんかと勘違いでもしてるのだろうか。
「ああ、小比奈。慌てなくていいよ…そう、そんな十何個も積み重ねたお盆を持ったまま走ると───「ああ!」こけるよ、と言いたかったんだが…」
パンで作られたバベルの塔はあっさりと崩れ、床を汚す。
ロールパンが何度か床ではねて転がり、トトロの顔面にお盆が突き刺さった。
ぐちゃり、と。
トトロに仕込んでいた苺ジャムがはじけ、まさに殺人現場と言って差し支えのない状況が出来上がる。
顔面から床に転けてうつ伏せになる姿は年相応なのかもしれないが、彼女が生粋の近接アタッカーで殺人鬼なことを思えば、なぜそうなると首を傾げたくなる鈍臭さだった。
「うう…パパごめんなさい」
床にうつぶせになり、顔を伏せたまま不貞腐れてうごかなくなった幼女の姿には哀愁が漂っていたが、僕の心は凪いでいた。
「構わないよ。いくら小比奈でも、あの数は無茶だったね」
「ヤムチャだったな本当に」
よしよしと頭を撫でる姿だけをきり取れば、さぞや美しい光景なのだろう。
親子揃って殺人鬼で地獄行き間違いなしの二人だということに目を瞑るのなら。
「じゃ、弁償で。やりぃ儲けたぜ」
「…………こういうときは気にしなくていい、もう一度選んでおいでと言うものじゃないかな。まちのパン屋さんなら」
「汚いお金がたくさんあるやつにはサービスしないって決めてんだよね。ほら、マネーロンダリング手伝ってやるからじゃんじゃん吐けよ
「ところで店主くん」
「なんだよ」
言い分があるなら聞こうか。
「私はこないだ君に実験作の試食とやらを無理やりさせられたわけだが」
「人聞き悪いなぁ。ラジオネーム世界を滅ぼす者さんなのに試食パンごときにビビってんの?って言ったら勝手に食べただけだろ。煽り耐性ちんちんマンが」
「無理矢理!食べさせられたわけだが!」
「あーはいはい」
そういうことにしておいてあげよう。
僕は大人で聖人君子なので。
包茎野郎とは違うのだよ包茎野郎とは。
「それ以来私の能力がどうにも不具合を起こしていてね」
「へぇ…そりゃ大変だ」
「そう、大変なのだよ。なぜか斥力フィールドを本気で使うと近くにいる成人男性の服がすべてはじけ飛ぶのだからね」
「そりゃ変態じゃん」
僕が半笑いで顔を上げれば、ぎり、と奥歯を食いしばるような音がした。
プライドの高いこの男は、自分の能力も同時に相当大切にしている。
この男にとって能力とは自分の存在意義を支える大黒柱であり、同時にこの能力があるからこそこいつは自分でいられるのだ。
正気かよ。
僕なら全然これっぽちも改造されたちんちんをアイデンティティにはしたくないね。
「パン食った程度で壊れるお前の機能が悪いだろ。旧型か?」
新人類なんちゃら計画とやらも大したことねーな。
「…………………」
「そんなんだから僕に手も足も出ずに負けんだよ。ラジオネーム世界を滅ぼす者さん」
「マキシマム───!」
このあと、普通にボロ負けした世界を滅ぼす者さんは泣きながら壊した店を弁償して帰っていった。
まったく。
これだから犯罪者は。
すぐカッとなるから困る。
可哀想になぁ。
僕に負けるとちんちん改造されたやつ以下とかいうとんでもない罵倒を受けることになるんだよな。
大丈夫?
今後も裏社会でやってけそ?
●
「うぅー…また負けた…」
「あれで本気じゃないのだから恐ろしい…」
始まりの少年。
あるいは、かつて人類の希望と呼ばれていた者。
蛭子影胤は、先ほどの戦闘を思い出してため息を吐き出した。
マキシマムペイン。
速射性に優れ、人体を容易く破壊し得る最強の盾。
それをあっさり踏み越えてくる少年と蛭子の間には、いっそ恐ろしいほどの格の違いがあった。
始まりの街に引きこもってる勇者が魔王より遥かにレベルが高いとかやめてほしい。
切実に。
───トングを片手に、娘の剣をすり抜け、蛭子の股間を執拗に的確につまんでくる。
そんな少年の姿がフラッシュバックする。
「…むぅ…次は斬る!」
隣で気合を入れる娘の頬には、うんちの落書きがマジックペンでされていた。
「小比奈、こっちにおいで」
「パパ?」
「…水性か。彼なりの気遣いかな」
クソガキのような性根と、世界を滅ぼそうとする自分よりも深い絶望を秘めた瞳。
思い返せば、蛭子へは苛烈な攻撃を見せることもあるが、小比奈相手には無力化か無視を徹底しているように思う。
もっともそれが分かったところで、それが隙にならないからこその余裕なわけだが。
『ちんちんがないと始まらないから絶対嫌とは言わせない〜』
『くっ!』
放った銃弾がすべて弾かれ、店の壁にパンツの絵が弾痕で描かれる。
真正面にいたはずなのに見失う。
デコピンで手首の骨が砕けた。
『あそーれそれそれそれ!』
最後は股間から突如飛び出した鉄の棒に薙ぎ払われ、店を叩き出された。
蛭子の放った斥力によって割れた店先のガラス窓を踏み越え、その少年は蛭子の財布を掴み取る。
『自分で払うのと僕にドヤ顔でもってかれるのどっちがいい?』
見れば、店内もひどい有様だった。
白髪を靡かせ、月光を背に笑う少年にはほこり一つついてないというのに。
『……君の実力なら店内が壊れる前に私たちを制圧できたのではないかね』
『最近レジとオーブンの調子悪くてさ。ついでに模様替えもしようかなって思ってたんだよね』
『………………』
勇者行為にも程がある。
どうやら自分がファームに使われたらしいことを悟り、隣で娘が不貞腐れるのに揃って自分も地面に蹲りたくなった。
『…払うとも』
『あそう?よかったー、払わないって言われたらちんちんを奪おうかなって思ってたんだよね。ホットドッグとフランクフルト、どっちがいい?』
『払うからにじり寄らないでくれ!!!』
大人の矜持でなんとかその弱気を振り払い、ついでに財布の中身が足りなかったから近所のコンビニまでダッシュさせられATМから金を下ろしたわけだが。
「この屈辱は必ず返すよ…」
この何度目かもわからない敗北は、蛭子の消えない闘志への燃料となって、刻まれることになる。
「パパ、それ何度目?」
「うるさいよ小比奈。男にはね、意地ってものがあるのさ。小比奈もそうだろう?」
「負けっぱなしは嫌!」
「そうだろうとも」
蛭子は娘を肩車しながら、拳を握りしめた。
「パパがいないと始まらないから絶対嫌とは言わせない〜」
「………彼も口にしてたがなんだねそれは」
「もー、パパ。時代遅れ…これはティックトックで流行ってるやつ!」
「若者文化は難しいな…」