【悲報】ちんちん改造したのに戦争に負けるw 作:ひつまぶし太郎
今回から原作です。
朝。
隙間風だらけの店内で夜を過ごすわけにもいかず、とりあえず先生の家というか研究室で一夜を明かすことになった、というのは置いておこう。
先生が女子が急に突撃してきて慌てて部屋を片付ける男子高校生みたいな必死さで部屋を片付けて途中で諦めたのを尻目に、僕は熟睡することができた。
化学薬品だらけの室内と、解剖室も兼ねているせいで染み付いた死臭は、僕にゆりかごのような安心感を与えてくれる。
今日は起きてから赤子の泣き声も怨み節も聞こえないのもいい。
え、じゃあ先生の家で毎日寝ればいい?
やだよ僕絶倫じゃないもん。
昨日もそれはもうお楽しみだったからね、先生が。
「うぅー…頭痛い…ああ少年…おはよう」
のそり、と。
まるでホラー映画の幽霊のような緩慢さで、髪を振り乱した先生が顔を上げる。
そうやって後悔と期待と自己嫌悪で歪んでいても変わらない美貌に、僕はなんだか心の置きどころを見失って目線を逃がした。
「おはよー先生。昨日はお楽しみでしたね」
「うっ…つい…」
「つい、ねえ…昨日はやけに攻め攻めだったじゃん。王子様系みたいなセリフをねっとり僕の耳元で囁いちゃって」
なんだっけ。
『結婚したのか…私以外のやつと…』だったっけ?
背徳プレイにハマりすぎだろ。
「ピロートークを朝起きてからするのは犯罪だろう!?」
「犯罪者はどっちだろうねぇ…あ、黙った」
センセイの沈黙を確認!
撃破しました!
「じゃ、先生。またいつか」
「………いくな」
「さびしんぼかよ」
入り口近くで先生に呼び止められて、思わず振り返る。
「君がそういう表情をするときは決まってよくない日だ」
「そうかな」
どんな表情なのか教えくれよ。
参考にするから。
「幻聴が聞こえていないんだろう…それは長年の君が培ってきた第六感で…」
まぁ、先生の心配も最もだ。
幻聴が聞こえない日はいつだって良くないことが起こる。
まるで幻聴に責め立てられるよりも僕が嫌がることが起こると予見するかのように。
だが、そんなもの。
そんなものは。
「先生。大丈夫だよ」
「少年…」
「警察には変態がいるって通報しないでおいてあげるから」
「そういう話じゃないんだが!?」
「『ふふっ、愛しの相手がいるのに体は正直だな』『結婚するのは、私だと思ってた』『今夜は返したくない…』」
「昨日の再放送はやめてくれ!!!ていうか録音しないでくれそんなもの!!」
「はいはい。朝飯なら冷蔵庫に入れてるから。じゃーねー」
もうこないからね〜、とは言わない。
たぶんまた来ることもあるだろうし。
ぐわぁ、だの。
ぬおおお、だの。
自分の黒歴史に悶える先生の声に僕は気を良くしながら、廊下を進む。
薄暗い地下の研究室から出てくる僕の姿にぎょっとしたような顔をする大学生たちとすれ違いながら、外へ。
…まぁわかるよ。
黒い服に白髪のチビとか暗い廊下ですれ違うとビビるよね。
だけど女の子に間違うのは許せねえよ。
お望み通りパニックホラーらしく呪ってやろうか?
「まぶしっ」
外に出て向かうのはもちろん自分の店。
たぶんそろそろ工事も終わってることだろう。
世界滅ぼす系おじさんから搾り取るだけ搾り取って金に物言わせてるしな。
とりあえず巨大ロボに変形できる機能と、現代版カールじいさんとして空をぶっ飛ぶロケットエンジン、それにミラーボールも頼んでおいたし、さぞ派手な見た目になってるに違いない。
ワクワクしてきた。
「つまりこれがパパ活ってことか」
「違うと思うけどな…」
「あ?誰だよあんた。ロリコンか?」
「ひでえな!?」
とりあえず、買い物しようか。
うん。
それがいい。
僕は唐突に話しかけてきたおっさん警察官の横をすり抜けて、街へと繰り出した。
「おい嬢ちゃん!何か困ったことあれば…って、もういねえのか…」
「多田島警部!車の準備できました!…どうかされたんですか?」
「……いや、なんでもねえよ。たぶんな」
●
「───蓮・太・郎・の・薄・情・者・めぇぇぇッ」
閑静な住宅街に、少女の怒鳴り声が響き渡る。
なぜ怒っているのか、僕にはもちろんわかっている。
彼女は、全速力で漕ぐ運転手によって自転車から振り落とされたのだ。
僕なら今頃下手人を消し炭にしてるので、小言を言うだけで済ませてる彼女は聖母のような寛大さなのだろう。
「おのれぇ、『ふぃあんせ』の妾を、よもや捨てていくとは……」
「ウンウンそれは彼氏が悪いねじゃあ彼氏にいれるね」
「そういう話ではないのだ!」
「君が彼氏に怒る。僕が彼氏に入れる。同じでは?」
「全然違うが!?」
「あそう?まぁ僕も普通に女の子が好きだから凄く嫌だなとは思ってたけど…」
というかその彼氏とやら先輩だしな。
興味ないね。
というか嫌だね。
先輩とドッキングはしたくねえわ。
でも先輩がロリコンだって噂は容赦なく使わてもらうぜ。
「お嬢ちゃん
「だーれがお嬢ちゃんだぶっ飛ばすぞ」
「え、あ、ごめんよ…?」
「店主…この男」
メンチを切る僕の袖を引く女の子の頭に手を載せ、下がらせる。
「任せときなって。小学生をナンパしてくるような奴は僕が今からぼこぼこにするから」
「妾がしてるのはそういう話じゃないぞ!?」
「そういう話だよ。つーか僕女の子に間違われんのが一番嫌いなんだよ殺すぞ!!」
「私怨たっぷりではないか!」
「その点トッポはすげえよ。ミカもすげぇ」
「意味がわからなくなるから脊髄反射で言葉を口にするでない!怖いのだ!」
なにやらロリっ娘がうるさいが無視だ無視。
僕はちんちんがないならそれは実質女の子では?みたいなことを抜かすバカは絶対に許さないと決めてんだよ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、怪しい者じゃない。俺は岡島純明、多分この近くに住んでいるけど、帰り道がわからないんだ」
「小学生女児に話しかけるやつは十分怪しいやろが〜い!!!」
「待て待て待て!2人とも一旦離れるのだ!埒が明かぬ!」
「私には、嘘つかないでぇ!!!」
「ええいおぬしはもう黙っておれ!ややこしくなる!」
もちろん僕だって、話しかけてきた男の事情はわかっている。
抉られたような大きな傷。
止まらない流血。
致命傷…どころではない。
これはもう致死の域だ。
死んでいないとおかしい人間が生きているのは、この世界ではまぁ珍しくはない。
もちろん理由は一つしかないけども。
「なぁおっさん。何か言い残すことは?」
「いや、その…」
「そうやって急に切り替わるからヤク中サイコパスシャブカスゲロトゥーフェイスって言われるのだ…」
「言いすぎじゃない?」
おそらく、ガストレア化寸前の今に至っても自覚症状はないのだろう。
あるいは、脳が理解を拒み現実が受け入れられていないのか。
だとしても、僕がやることは変わらない。
懐にいつも入れっぱなしにしている、鉄の重みに触れて、引き抜く。
「店主…!」
「延珠ちゃんは目を瞑ってていいよ」
民警には、ガストレア化しそうな人間への告知義務がある。
それは、最後の慈悲なのか。
それとも、民警の心理的負担を少しでも和らげようとするための予防的措置なのかは、民警として働いたことが
そんな残酷な仕事を好き好んで民警やってるやつが二万人以上いるとかこの世界マジ卍。
イカれたやつばっかじゃん。
「じゃあ聞き方を変えるけど」
「……やめてくれ…」
「人間のまま死にたい?」
僕の言葉がとどめになったのか。
「あぁ──」
男の口から、諦めたような声が漏れた。
今まさに、ガストレアウィルスによって身体を作り変えられているであろうその最中で、消えかけの理性の最後の光が僕を射抜く。
「頼む。妻と娘に…今までゴメンって伝えてくれないか?」
「嫌だね。お断りだ…なぜなら」
男の心臓に、僕は銃口を突きつける。
もう何度も繰り返してきた動作に淀みはなく、躊躇いもない。
「あんたは死ぬ間際まで立派だったって僕は言うからな」
「ありがとう…なら、そうだな…幸せになってと───!」
閑静な住宅街に、一発の銃声が響き渡る。
それで終わり。
彼は人間として死んだ。
だから、彼の内側から膨れ上がろうとするその黒い異形の脚は彼ではない。
あっさりとヒトの形を留めていられる臨界点を突破しようとするその理不尽に、僕は拳を突きつけた。
「死ねよ、害虫」
骨格からDNAまで、ヒトのカタチを脱ぎ捨てようとするその変化よりも素早く、僕は指を鳴らす。
───発火。
火柱が上がり、紅蓮が咲く。
燃える音は、その大きさに反してひどく静かだった。
ガストレアになるはずだった身体が、炎の向こうでゆっくりと崩れていく。
その男の無念も、後悔も、生まれ落ちようとしていた罪すらも。
その赤は、万物を区別しない。
区別しないからこそ、救いだった。
残ったのは、焼け焦げた人骨のみ。
ガストレアになった『誰か』も、それによって生み出される被害もない。
岡島純明は、人のまま死んだ。
僕が殺した。
この手で、跡形もなく。
骨だけを残して。
「店主…お主…」
「悪いけどさ。伝言、頼むよ延珠ちゃん」
ガストレア化するまで殺してはいけないというのは、法律で決まっているのだったか。
それとも、人のまま殺すことへの抵抗があるがゆえにほとんどの民警がしないのだったか。
興味がないので正しいところは僕も知らない。
ただ、多くの現場でガストレア化した後に彼らが民警に処理されるというのだけは知っていた。
そして、その多くの死が、肉片どころか骨一つ家族に届けられることなく焼却処分されることを、僕は知っている。
仮に遺骨が届いたとしても、それは人のそれではなく。
書き換えられたDNAは、本人のものと一致することは絶対にない。
「……それでは…でも…そんなことは…」
遠くから、パトカーのサイレンと、焦ったような足音が近づいてくる。
大方付近を捜索していた警官と、イニシエーターである彼女の保護者…もとい、相棒である先輩のものだろう。
僕は自分の鞄を拾い上げると、声を震わせ、目を迷わせる藍原延珠に背を向ける。
「───人のままあの世に送る。何もできない兵器の僕ができる、唯一の手向けだからね」
彼らは二人一組の戦闘員。
パンデミックを防ぐため、警察や自衛隊に代わって、身に修めた力でガストレアと戦う。
そんな、人類の最後の希望らしい。
だが僕は思う。
そんな世界、滅びていい。
だってそうだろう?
戦うのも、苦しむのも。
子どもの役目ではないはずなのだから。
『ぶらっくぶれっど』
自分の店の前にたどり着いた僕は、その看板に書かれた文字に苦笑する。
クローズにしていた小さいぶら下げ看板をひっくり返し、店の中に足を踏み入れる。
今日は晴天。
戦場とは程遠く、血と硝煙の匂いもしない。
世界の滅びを忘れたような、穏やかな日差しで店が満ちる。
昨日の夜に頼んでおいた工事はもう完了していて、完璧な仕事っぷりには惚れ惚れするね。
新しい木の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、それからここに並べるパンを空想する。
僕は新品のオーブンに火を入れて、パンを焼く準備を始めながら伸びをした。
「さて。…シャワー浴びて店番しよ」
『ぶらっくぶれっど』
本日も変わらず営業中。
「あ、もしもし工事のおっちゃん?頼んでたロケットエンジンがどこにもないんだけど。ミラーボールもないし…肝心のコクピットはどこに隠してんの?………え?お前みたいなバカは宇宙まで頭の軽さで飛んでいける?頭のおかしさがミラーボール?おいおい客に向かって言いすぎだろ!誰がヤニカスシャブシャブハッピーセットガンダムだこら!!」