【悲報】ちんちん改造したのに戦争に負けるw 作:ひつまぶし太郎
そしてお気に入り登録誠にありがとうございます!
原作に入るとどうしても切り時が難しくて一話の長さが伸びがちで困ります。
「死ぬ前に、なにか。言い残したことはある? 里見くん」
ニコリ、と微笑む美人を前に蓮太郎は、笑顔とは本来威嚇であるという話を思い出していた。
───事の発端は数時間前。
近所でガストレア絡みの事件があったと目の前の彼女…社長からの電話を受け、仕事を他社に取られまいと必死に自転車を漕いだ蓮太郎は、結局、その仕事を全うすることができなかった。
駆けつけた現場にいたのは、感染源のガストレアでも感染者であるガストレアでもない。
『世界を滅ぼす者』を名乗る不気味な男だった。
『民警くん。随分遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ…最近ふざけたパン屋のせいで神経が苛立ちやすくてね』
『なんだ……アンタ……同業者か?』
『確かに私も感染源ガストレアを追っていた。しかし同業者ではない。なぜならね──この警官隊を殺したのは私だ』
『…なんで全裸にしてんだ…?』
『それは不本意な事故だった…悲しい事件だったのさ』
『ふざけろ!』
『ふざけてなどいない!!!ふざけないでもらおうか!!!!』
そして、その男に一撃蹴りを叩き込み、相手の事情で見逃されてようやく飲み込めたのは、感染源も感染者も待ちに解き放たれてしまったという冷や汗ものの現実。
慌てふためくように街を駆けずり回っていた蓮太郎と、現場にいた多田島は、銃声と
そこにあったのは、焼け焦げた
『蓮太郎…店主が…』
『…ああ、わかってる…』
『おい民警…これは…!』
『…骨のDNA鑑定をしてやってくれ。たぶん、部屋の主と一致するはずだ』
『な、それは!ありえねぇだろ!?ガストレア化したら、DNAは…!』
『まだ、人だろうぜ。…あいつが、そんなヘマをするわけねえからな』
鑑定の結果、本人のものと確定。
本件は『殺人事件』扱いとなった。
遺族へはすぐに連絡が行われ、同時に訳知り顔で事情を口にした蓮太郎たちも軽い取り調べを受けることになった。
署への同行を求められるほどのことではない。
ガストレア化する寸前だったという延珠の証言と状況証拠から、正当防衛が認められることは間違いなかったからだ。
…罪に問われることも厭わない。
自分の信念を、社会に適応させることを諦めた後輩。
戦争が彼を変えたのか。
戦争が彼の本質を浮き彫りにしたのか。
あるいは変わってしまったのは社会の方なのだろうか。
後輩の心の奥底を見通せたことのない蓮太郎にはわからない。
だが。
後輩に、殺人を決意させてしまうほどの戦争だったことだけは、蓮太郎もよくわかっていた。
───いやあの戦争とかじゃなくてちんちん改造されたことに普通に納得してないんだけなんですけど。
かつて後輩はそんな冗談を口にしていたがきっと違う。
延珠も、震えながら。
それでも、自分になかった視点を学び、少し成長の兆しを見せていたことだし。
───ちんちん改造されたやつの哲学から学ぶことって何?エロい話?
うるさい。
蓮太郎は脳内で急速に自我を持ち始めた後輩をつまみ出して、現実に戻ってきた。
「す、過ぎたことはしょうがねぇだろ」
「この、お馬鹿ッ!ちんちん!」
ただ、もし問題があるのだとすれば。
「…なんか今とんでもないこと言った?」
ガストレアの排除を生業としているくせに、今回何もしていない民警には、びた一文今回の件で支払われることがないという。
ただそれだけの現実が、そこにあったことだろうか。
「よりによって
どうするのよ、と言われても。
蓮太郎は冷や汗をかきながら彼女の拳を躱し、逃げ惑う。
「ちょっと里見くん、一発でいいから…一発でいいから殴らせなさい!」
「あんたの一発は洒落にならないだろ!」
一度舐め腐った態度の後輩が木更の一発で壁にめり込み動かなくなったことがあるのを蓮太郎はしっかりと覚えている。
恐ろしい話だ。
あの後輩、あれでも世界最強の一角とか言われてた気がするのだけど。
だとするのなら木更さんが世界最強でいいよもう、みたいなやけくそさがあった。
「今月は収入ゼロよ。誰のせいだと思ってるのこの甲斐性無し、最弱、お馬鹿!ちんちん!」
「やっぱなんかとんでもねえ言葉挟んでるよな!?やめてくれ木更さん!あいつの悪影響が出すぎだって!」
「挟むとか出すぎとか、卑猥なこと言わないで!」
「これで怒られるの納得いかねえよ!」
真っ黒いさらさらのストレートヘアと、雪のような白い肌。
美和女学院のセーラー服に袖を通しているせいで、胸元に結ばれた赤いリボンを除けば、完全に純色の黒と白だけだといえる。
笑うと可愛い美人なのだが、不機嫌な表情でむっつり押し黙っていることが多いので、なんとも勿体ない話だった。
ちなみにバカガキが初対面の彼女に向かって『うわ制服がかわいそう…怪獣じゃん。どこがとは言わないけど。ロッキー山脈?AVのコスプレするならもっと余裕のあるサイズの方が脱いだ時にギャップ出ますよ』と言い放ったのだが。
…その後壁にめり込んだので本人はその記憶を失っている。
「なあ、また新しい仕事を受けた時に頑張ろうぜ、木更さん」
「馬鹿なこと言わないで! これが最後のチャンスだったのよ!」
あと、仕事中は社長と呼びなさい。
そう続けようとしたであろう木更の言葉は、事務所の電話が鳴り響いたことで塞がれた。
「…まさか、依頼か?うちに?」
信じられない、という表情をしてはいけないのだろうが、会社を立ち上げてから借金の取り立てと嫌がらせ以外で鳴ったところを蓮太郎は見たことがなかった。
「本当に良い会社なら立地なんて関係ないのよ!ふふっ、会社経営って難しいなって思ってたけど、案外なんとかなるじゃない!」
以前宣伝のためにティッシュ配りするくらいなら蓮太郎に衆人環視の中で爆発してみせろとまで言っていた社長だが、どこかで宣伝でもしたのだろうか。
いや、ないな。
蓮太郎は的外れな思考をすぐに打ち切る。
この会社が有名になったのはただ一度だけ。
後輩が会社と同じビルにあるゲイバーとヤクザを使って、天童民間警備会社を『モノリスに悪質なイタズラ書きをした』テロリストに仕立て上げたせいで社会的に炎上した時だけだ。
同時期に拡散された『ちんちんだけは許さない。ちんちん退治のスペシャリスト!天童民間お金玉警備会社!!!』と銘打たれたその広告は、いまだにインターネットにタトゥーとして刻まれており、東京エリアのモノリスに刻まれた巨大なちんちんの落書きもまた、消えていなかった。
つーか普通にどうやったんだよモノリスへの落書きなんて。
初期のナルト並みの行動力やめろ。
「…おほん、はい!こちら天童民間警備会社です!」
『お金玉もしもし〜?お金玉民間警備会社ですか?あれ?聞こえないのかな。お金玉もしもし〜?お金玉社長?お金玉デカ男です!』
ぶちり、と。
木更が『電話線』を引き千切った。
「おいおい何してんだよ木更さん。せっかく依頼の電話かもしれないのに…」
「もういやっ!なんでうちには変な依頼しか来ないの!?ていうかお金玉デカ男って誰よ!!」
「うちは実績がないからなぁ…」
実績もないのに悪評だけがあるのが崖っぷちすぎた。
蓮太郎はデスクの横から新しい電話線を取り出して付け替えながらため息をつく。
「このおんぼろ電話、悪戯電話しかこねえな」
「そろそろ買い換えようかしら…」
「買い替えるには仕事をもらわないといけないんだなこれが」
「……世知辛いわね…あぁ…お腹すいた……」
くぅ、と。
木更の腹がなり、その切ない音に蓮太郎は思わず目をそらす。
そんなヒモと恋人の気まずい沈黙のような空気になった事務所の電話が、再び鳴る。
「「………………」」
どうせ悪戯だろうなと言う諦観と、馬鹿の相手はしたくないしそっちが取れよという無言の攻防はしかし、長くは続かなかった。
「里見くん」
「いやいや、こういうのは社長が取ってこそだろ?仕事がねえんだから…」
木更は嫌そうな顔で逡巡しながら、受話器を持ち上げた。
『しもしもー?ぶらっくぶれっどですけどー。ちん童民間警備会社でお間違いないしょうかー?それともバキバキの童貞と目がバキバキの復讐者が織りなすバキ童民間警備会社だっけ?』
「あ?」
「木更さん抑えて抑えて…」
『お金玉もしもし〜?』
「殺すか…」
思ってた数倍低い声がでた木更をなだめながら、蓮太郎はスピーカーのスイッチを押す。
「よぉお金玉デカ男。悪戯なら切るぞ」
『えー仕事の依頼しようと思ったのにその態度はなぁ…別のとこにしようかなー』
「待て待て待て!社長も俺も空腹でイライラしてんだよ…それよりほら依頼の話、聞かせてくれないか?こっちは今日依頼を失敗したばっかで困ってんだよ」
お前のせいで、と口にしないだけの理性はぎりぎり間に合った。
ついでに里見くんはいいわよね後輩にたかって定期的にパン食べてるんだからという木更の鋭い目線も無視した。
『まぁ確かに。フニャオスでロリコンの先輩が遅漏だから間に合わなかった説もありますよね今日のは。そりゃお困りでしょうよ。聞けてよかった』
「誰がフニャオスでロリコンだよ!俺が遅かったんじゃなくてお前が早すぎたんだろ!バカ金玉野郎が!」
『早漏で候。…なんでもふぃあんせ、らしいじゃないっすか。先輩も隅に置けないっすねぇ。遅漏な先輩はさぞ奥さんを楽しませてるってわけっすか』
「ふざけろカス」
「あなたたちいつもこんな最低な会話してるわけ?呆れた…」
電話口の向こうでニヤニヤ笑っているでろう後輩の顔が脳裏に浮かんで蓮太郎は思わず舌打ちしかけ、なんとか鋼の意志で、辛うじてぎりぎり既のところで飲み込んだ。
「チッ」
飲み込めなかった。
思い人の前でして欲しくなさすぎる会話すぎて、蓮太郎の理性が持つわけもなかった。
『今舌打ちしたっすか?』
「してねえな」
『ほな投げキッスかぁ…』
「気持ち悪いこと言うなよ…あとあれは、延珠が勝手に言ってるだけだ!」
『はいはいそうねだいたいねー』
「聞けよ!」
『でねー、仕事はねー明日防衛省に行ってほしいんすよね。集合時間は午後の1時。報酬は行った先で貰う分と、僕の代理ってちゃんと宣言して仕事をしてくれるなら即金で五百万』
「ごっ…!?」
結局のところ、その金額の意味をその後輩は口にすることなかった。
ただ、成功報酬ではなく仕事を受けた時点で支払うという言葉に収入ゼロの会社が逆らえるはずもなく。
蓮太郎と木更は翌日、防衛省に足を運ぶことになる。
政府からの普通の依頼らしいっすよ、知らんけど。
そんな至極適当な、舐め腐った言葉に従うのは屈辱ではあったが。
それでも、木更と蓮太郎と延珠は久しぶりに動物性タンパク質にありつけたことに感謝していた。
「おい蓮太郎!それは妾が育てていた肉だぞ!」
「知るか!」
「里見くん箸をどけて!それは私のよ!」
「ぬおおお!木更!おっぱいを押し付けるんじゃない!」
「あっちぃ!ちょ、そんな暴れたらまだ焼いてない肉たちが床に落ちちまうだろ!」
「わはは!妾がもらっていくぞ、この肉は!」
少なくとも、このときは。
いや、正直うっすら嫌な予感はしていたし絶対ろくなことにならないのはわかっていたけど、3人揃って見ないふりをしていた。
ちんちん改造されたカス。
略してチンカスによる500万の依頼なんて、裏しかないのはわかっていた。
仕方ないね。
弱いやつが死に方を選べないように、貧乏な会社は仕事を選べないのだ。
後年、この時のことを振り返って、未来の里見蓮太郎(英雄)はこう語っている。
『戻れるならあそこに戻りてーよ。いやほんとに。そんで俺があいつを殺して全部なかったことにする。え?東京エリアの未来?知るかそんなもん!東京より先に俺の尊厳が大絶滅してんだろうが!!』
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
新作日間ランキング3位とか日間ランキングの一桁順位で数日妙な粘りを見せていましたがついに転落しました。
寂しいような気持ちと、ちんちんがランキングにいちゃあだめだろ(マジメ君)!という安堵の気持ちと。
なんにせよタイトル一発ネタみたいな作品にも関わらず一時の夢を見させていただけたのは、乞食作者に慈悲をくださった皆様のおかげでございます。
今後ともご愛顧のほどよろしくお願いします。