【悲報】ちんちん改造したのに戦争に負けるw 作:ひつまぶし太郎
改めてプロローグを読み返していただくとほんの少しだけ別角度で楽しめるかもしれません。
里見蓮太郎と天童木更。
本人たちが望むと望まざるとも世界のうねりの中心に巻き込まれる2人が、チンカスによって無理やり舞台に上げられたちょうどその頃。
ある少女は、一人の少年との出会いを思い出していた。
その少年との初対面を、その少女が忘れることは生涯ないだろう。
色褪せることなく。
色濃く、鮮やかに。
その少年の気高さは、少女の胸に今なお焼き付いている。
「───へぇ。あんたが噂の雪被り姫?」
「…えっと」
祖母に、いずれ聖天子として後を継ぐというのなら、会っておかねばならない相手がいると告げられ連れてこられた暗い一室。
首輪を付けられ、手枷をされ、鉄格子の向こうでへらりと笑う少年は、驚いたように目を見開く少女に対してあまりにも自然体だった。
てっきり政治家として重鎮の年上と引き合わされると考えていた幼い彼女の予想を裏切る、全てが真反対の存在。
老成していない。
政治家ではない。
スーツは着ていない。
こちらの肩書きに全く怯まない。
むしろ、初対面からしばらく。
ずっと会いたいと思っていた相手だった。
「たしかに処女厨受け狙いとしては格好の神輿って感じ」
「……………」
自分よりも年下のはずのその少年は、とにかく口が悪かった。
世界を見下し、諦め、失望していた。
「怒れよ、張り合いないなぁ」
祖母はすでにこの場を離れている。
ここにいるのは、二人の子どもだけ。
冷たい空気は、少年に纏わりついて締め上げてるような錯覚すら覚える。
「あなたは…」
「なんだ。何にも説明受けてないわけ?……おいおいあのババア僕に丸投げかよ。こちとら5歳児だぞ。かすかべ防衛隊並みの待遇を寄越せよな」
呼吸することすら面倒くさそうに。
その少年は無意味な言葉を並べ立て、しかし最初の一瞥で少女への興味を失ったのか、手元の雑誌をぺらりとめくる。
…思えば、この頃から二人の関係は変わっていないのだろう。
互いの間に、鉄格子という冷たい隔たりが聳え立ち、少年は独り。
手を伸ばせば触れられるのに、本質的に同じ場所には居られない。
「僕はただの兵器だよ。聖天子様直属のね。その使い道は、その代の聖天子様が決めるんだとさ。今は何だっけ。徹底管理の上での運用みたいな方針だっけ?…つまり射精管理されてんだよね」
戦場に咲く紅蓮の花。
逃げ遅れた人を庇い、たった独りで人類への滅びに立ち向かう幼い少年を、彼女は知っていた。
4歳という年齢で、大人を、人類の行く末を任されてしまったその少年は、しかし。
誰よりも人を救っていたのを知っている。
動けない老人、泣きわめく子ども。
そんな、戦場で真っ先に命を失う相手のために、自分の傷を厭わない救世主。
吹き飛ぶ腹部、バラバラと零れ落ちる機械部品と剥き出しになるケーブル。
引き千切れる腕部は、すぐに換装される機械義手。
味方も敵も区別なく、血に沈んでいく地獄でその少年はなお美しかったことを覚えている。
『あなたは───』
『おいガキ。どこのボンボンか知らないけど二度と自分を犠牲にしようとすんじゃねーぞ』
その日訪れた場所は、安全を約束された場所のはずだった。
前線から遠く離れ、軍の本拠地が構えられたエリア。
陣頭指揮を執り政治と軍事を一手に引き受けてる祖母に代わって、激励として各地を回る母に連れ添われ。
その日少女は、いつもよりも少しだけ戦場に近い世界に足を踏み入れた。
…何も問題ない慰問のはずだった。
だが、結局のところ。
人は滅亡の危機に瀕してなお、一枚岩になれなかった。
だから。
それ故に。
いずれ3代目聖天子となるその少女は、テロリストに連れ去られることになる。
●
「聞こえるか、我々は革命軍パライソ!繰り返す。我々は革命軍パライソ!」
きっと、これは不味い状況なのだと。
幼い頃からすでに政治家としての教育を受け始めていた彼女は、しっかりとその事実を認識していた。
「我々は聖天子の孫娘を預かった!要求はただ一つ。聖天子の命だ!彼女は混乱に乗じて軍部を掌握し、政治も支配している!独裁者を許しておけば、この先日本に未来はない!!」
がたん、と。
荒い運転の車が跳ね、縛られたロープが少女の手首にきつく食い込む。
「繰り返す!我々は革命軍パライソ!孫娘の命が惜しければ!命を差し出せ国家元首!!!」
自分の額に突きつけられた重たい鉄の塊は冷たくて、それが拳銃という名前の命を奪う道具だと理解している少女の心を竦ませた。
「おい向かう先はこっちであってんだよな!?」
運転手の男が、無線を切り満足げな顔をする男に振り返る。
「ああ!軍の最前線の駐屯所。あそこは事前に仕掛けた爆弾のおかげで今はまともに機能してないはずだ」
「クックック…つまり、邪魔者はいないってことか」
「ああ!ガストレアどもが食い漁ってくれてるだろうさ。俺たちはこのガストレア誘導薬の入ったグレネードでちょっとアイツラの気を逸らして、そのままシェルターに入り込めば、誰も見つけられないって寸法よ!」
残忍で人を人とも思わない彼らは、本当に同じ人間なのか。
身を震わせるしか出来ない少女は、祈るように目を瞑った。
「だけど、周辺に避難所もあったはずだろう?そいつらはどうする?」
「知るか!腐った軍の力を借りないと生き残れない弱者など楽園にふさわしくない!」
「それもそうか!」
最低な会話。
自分が正しいと信じ切った、狂気の正義への陶酔。
だが、彼らの得意気な顔は、そこまでだった。
「な、なんだぁ!?」
たどり着いた最前線の駐屯所。
そこは、この世の地獄だった。
血の池、屍山血河、死屍累々。
足を吹き飛ばされた兵士の死体を鹿型のガストレアが貪り、直後紅蓮に呑まれる。
鮫の頭を持つ肉食獣が装甲車を引きずり回し、直後分厚い鉄の板で切断され、再生が始まるより早く爆煙が薙ぎ払う。
───そこは、
あの世ではなく。
まだ現実に生きて、抗っている人間のいる戦場だった。
「掘れぇ!さっさと!」
「で、でも…っ」
「つべこべ…言ってんじゃねえよ!!!死にてえのか!死にたくなきゃ死ぬ気で穴を掘れつってんだ!!!」
避難所にいたであろう三十人余りの民間人が一人の少年に護られるようにして身を寄せ合っていた。
「ぶっちゃけ足手まといなんだよあんたらは!せめて助かるために自分でできることをやれっつってんだ!」
「わかってる……!」
ガストレアの数は1000を超えていた。
そんな大群を前に、避難所にいたであろう民間人がおそらく欠けることなく生存しているのは、奇跡に等しい。
「なんで軍の生存者がいる!それに何だこの数は!?」
「知らねえよ!!!」
もはやテロリストたちの声は遠く。
少女は、その少年に目を奪われていた。
戦場に咲く、紅蓮の希望。
他人の命を諦めずに懸命に足掻く、英雄の姿に。
「くそっ、どうする!?」
「引き返すに決まってるだろう!!」
テロリストの乗る車に気付かない少年は、戦車の弾頭を片手に構え、首長竜のようなガストレアの頭蓋に直接叩き込む。
そして、空中で身を翻し機械の腕を構えた。
直後、閃光が戦場を薙ぎ払う。
数は、減らない。
「ああーもう!クソだりぃな!!!なんだこのクソゲー!次から次に!わんこそばか!?誰だよ軍の駐屯所に特大の爆弾仕掛けたバカは!スタンピードが来るのも知らなかった素人だろどうせ!!!死ねよ!!!」
車のスキール音が、戦場の喧騒にかき消され、少女はその地獄から自分が遠ざかることを悟る。
この車は狙い通りとは行かずとも、自分という人質を抱えたまま、地獄を生み出しておきながらのうのうと逃げおおせるのだろう。
そして、人質の自分もまた、他人の足を引っ張るだけ引っ張って、命を繋ぐのだ。
───それでいいのか?
「急げ急げ急げ!」
「くっそ、スリップして方向転換が…!」
後にだからあんたは頭がおかしいって言ってんだよ、と真正面から罵倒されることになる愚行を彼女は犯した。
ガストレア誘導薬の入ったグレネード。
唖然となり、慌てふためき、自分から注意がそれたその隙をつくように。
6歳の少女はそのピンを、引き抜いた。
「お前!?」
「このガキ!!」
閃光が弾け、ガスが噴き出す。
真っ白な少女はしかし、極彩色の液剤で汚れ、手のひらを火傷するのも構わずに、自分の命を投げ捨てた。
それは覚悟と呼ぶにはあまりにも幼い衝動。
狭い見識と拙い思考が導き出した、反撃の狼煙。
「自分がなにしたのかわかってんのか!?」
「…ええ…わかっています。それでも、少しでも、人の役に立ちたいのです。このどうしようもなく、祖母と人類の足を引っ張る今の状況でも…!!!」
「こいつ…!!」
五百を優に超える赤い瞳が、車を射竦める。
先頭の、極端に背中が肥大化したカバのようなガストレアが走り出すのと、男たちがアクセルを踏むのはほとんど同時だった。
全てがスローモーション。
自ら下した恐ろしい選択に震え上がりながら、それでも祖母や母のように気高くありたいと心に決めた後の国家元首は、死にたくないという本音を必死に押し殺しながら、それでも安堵していた。
これで少しは、あの地獄もマシになる。
きっとあの少年の実力なら、少しでも注意が逸れればガストレアの大群相手でもすぐに殲滅してくれる。
なら、自分の命にも少しは意味があったのだ。
これがきっと祖母の足を引っ張ることになってしまった今の自分にできる、最良の───
「ひぃ、助けてくれ!!!」
「おいもっと飛ばせ!!!!!クソ、クソクソクソクソ!!!!」
ああ。
それでも。
「やっぱり…お友達くらいはほしかったです」
───少年が動き出すのは、それら全てより早かった。
「どけコラボケええええええええええええええ!」
数百を飲み込む巨大な爆炎が大地へ叩きつけられ、群れの大半が消し飛ぶ。
その反動で高く飛び上がった少年は、少女の乗る車をも飛び越えて拳を構えた。
「覚悟はできてんだろうな犯罪者どもがぁ!!!!ガキさらって最前線の駐屯所を爆破しやがって!!挙句ガキに自殺選ばせるようなクズどもはさぁ!!」
左腕に展開された巨大な銃のバレルが唸りをあげ、男たちの顔面が蒼白になった。
「死に晒せこらぁぁぁアアアアア!!!」
車を黒い弾丸の嵐が両断し、群れの残りを破壊し尽くす。
「不味い飯に冷たい床のムショで100万年反省しとけ!二度とお天道様の下に出てくんじゃねえぞ!!」
後に残ったのは、即席の塹壕に身を隠したことで爆発から逃れた三十名の民間人と、泡を吹いて気絶するテロリスト二人。
そして。
「あなたは───」
「おいガキ。どこのボンボンか知らないけど二度と自分を犠牲にしようとすんじゃねーぞ」
二人の子供は、向かい合う。
最大出力の爆発を咄嗟に使用した影響でひしゃげた右腕。
焼け爛れた右半身と、血の止まらない頭部の傷。
廃材を突き刺して補強しただけの左脚に、剥き出しになった腹部から溢れる機械の内臓。
余裕のない口調。
ズタボロになりながら、それでも。
その少年は、その少女を一心に慮っていた。
口が悪いくせに、触れていいか迷ってるくせに。
「……痛いです…」
「うるさいな」
結局人を嫌いになれないその少年に強く…強く抱き締められ、震える声で安堵されたその日。
「───無事で良かった」
「……あっ」
気高く生きることは、死ぬことではないと。
ただ真っ直ぐに人の温もりをもって教えてくれたその少年を、少女が忘れることはきっとない。
後に駆けつけた1代目の聖天使に向かって『ガキの子守もできねーやつに人類救えるかバーカ』と唾を吐き捨てた少年は休暇も兼ねて独房に放り込まれる。
祖母なりに、孫娘と戦場しか知らない少年を感謝も込めて引き合わせようという計らいはしかし。
「私を覚えていますか?」
「誰だよ知らねーな。つーかなんで結婚する予定もないのにウェディングドレス着てるんです?」
少年がこの日のことをあんまりちゃんと覚えていなかったことでお釈迦になった。
少年目線、死にものぐるいで敵を殺して回ってなんとか助けた子供は極彩色の液剤で汚れて火傷を負っていて人相とか覚えてないのも仕方がないような気がしなくもないのだが。
とりあえず。
この1ヶ月後、少年が四賢人にちんちん改造されて戦場から離脱したことで、もう一度3代目聖天子と道が交わるのは、また少し先のことになる。
───そして、現在。
「聖天子様」
「はい」
「捕まえました」
「でかしました!まったく、人の電話をさんざん無視した挙句代理をよこすなんて舐めたマネ許されると思ってるんですかね、まったく!」
十年越しに、ようやく聖天子はその少年を表舞台に引きずり出すことに成功した。
「ちなみにどうやって捕まえたんですか?」
「なんか、檻にエロ本仕掛けたらしいですよ。天童菊之丞補佐官の指示で」
「………はい?」
国家元首からの電話を『メンヘラみたい』『寝る前に寝るって連絡してくださいとか言われても困ります』『束縛されるの楽しくなってきたんで無視しますね』等々舐めた発言を繰り返していたチンカスは、最終的にエロ本ぶら下げた檻に捕まるという。
アホすぎる形で、表舞台に連れ戻されたことはあまり知られていないし知られてはいけない事実だった。
こうして、役者は出揃う。
新人類創造計画。
七星の遺産。
国家元首に、民警。
呪われた子達。
世界を滅ぼす者。
元人類の希望の機械兵器。
東京の命運を決める戦いの火蓋は、まもなく切って落とされようとしていた。
今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。
2人は幼馴染。
プロローグの時の聖天子様がいかにウキウキだったか。
聖天子(直属の上司)になって初仕事として彼女はクソボケチンコ店主を表舞台に引っ張り上げようと頑張ってたわけですね。
健気だぁ…。
以下怪文書注意。
幼い時に脳を焼かれた英雄が自分に絶対服従の所有物になる首輪をされてるところを見て思春期の聖天子様はどう思ったんでしょうね。
祖母への嫉妬でしょうか。
いずれ自分のものになると理解した仄暗い制服感と歪んだ独占欲でしょうか。
個人的には先代への嫉妬があると最高にいいなって思いますね。
自分ではなく親の所有物だと見せつけられて女の顔が出る思春期前の少女。
ぐつぐつどろどろ煮込まれて約十年物の湿度が爆発するとかね最高なんすよ。
「私の英雄なのに…」
最強無敵の英雄が自分には勝てない。
自己肯定感低いから押し倒されても嫌な顔一つしないどころか嬉しそうな顔をして、捻くれてるくせに真っ直ぐ人を心配して、生意気言うくせに人寂しい顔もする。
案外律儀で従順な誘い受け年下兵器に聖天子様の性癖はもうぼろぼろ(早口)。