死んだわ。
ソレがワテの思考の全てだったんよ。
負けイベとしか思えん状況やで?
リオレウスやで?
ワテの胴体くらいあるバカでっっっっかい火の玉が轟々言いながら、とんでもねースピードで直撃コースを爆進してるんやで??
死ぬに決まってんだよな〜コレ。
ワテは生まれたての小鹿のような脚で懸命に踏ん張ってイズチなボディを前面へ押し出した。
未来ある若者(犬含む)がこんがり焼けるR18グロ映像を拝むよりはイチ抜けして即死した方がまだましやろ?
そもそも、親を残して子が先に死ぬとかお天道様が許してもこのイズチのイッ君が許しませんよって!
(あんな思いはもう……………?)
なんか変な思考が流れたが、いや知らんな。
コレにて竜生お仕舞い!!
そう思ったんやが。
「グギャ!?」
なん───アッッッッッツ!!!
火球が弾ける。
俺の身体の表面に触れて、ワテの自慢の羽毛が一瞬で炭になる…………が。
熱い…熱い……熱い熱い熱い熱い熱い!!
燃えるように熱いのは。
皮膚ではなく、己の内側…これは!?
───キンダンドングリの技…でござるニャ!
ここで説明しよう!!
キンダンドングリの技とは!
ゲーム中ではアイルーLv15のサポート行動であり、オトモアイルーの体力が0になった時に自己回復行動と置き換わる形で発動するパッシブスキルだ。
なんでこの技が発動したかと言うと、脱走前に脳みそお爺ちゃんなコガラシパイセンが忘れて行った隠れ身の巻物を拾ったとき、ついでに落ちてた毒色のドングリを拾い食いしてた事に起因するのである…が。この時のワテにはそれを理解する脳ミソがなかったんだな〜!
(なんか…メッチャテンションが上がる。うっひょょょょ〜〜〜↑↑↑↑)
「ギシャー!!」
身体中の細胞が活性している。
燃え尽きた胸の羽毛が毛根ごと再生され、見事に美しくワテのお毛毛が生え変わる!
(こんなお薬が欲しかった前世定期)
二十歳のボティーに酒とエナドリをブチ込んだようなハイテンション。身体が疼き、思考が沸騰して、脚がひとりでに駆け出した。
もちろん、最低限のセオリーは外さない。
駆けながら口を開け、地面に転がる川原の丸石をガバガバと飲み込む。
(気分はクジラ…ホエールロック!)
同時に軌道も変える。
直進では後ろに残した子供とテンマを巻き添えにするし、直角ではヘイトが外れかねない。
斜め45℃の意識で距離を詰め、ゴクリと飲み込んだ砂利石を今度は吐き出す!
「
胃に含んだ砂利*1が勢い良く飛び出してリオレウスの視界を塞ぐ。
【GULLLLLL…!!】
ダメージは皆無だろう。
しかぁし! ワテの砂利ブレスは胃酸がべっちょり! 例え畜生のレウス君でも気持ち悪いと感じる程度の清潔感はあるのだろう、明らかに苛立ちを感じさせる赤いオーラがワテを捉える───ので、ココで大きくバックステップ!
【GIAOOOOO!!】
予想通りの咆哮。
近すぎれば被捕食者の筋肉を硬直させる死の魔法となるが、距離さえ取っていれば少し大きな音に過ぎない。
【GIIIIII!!】
次にヤツが選んだのは突進かみつき。
「ギャオォォォォ!!」
ワテも負けじと切り裂き突進…なんて、択を取ったらその瞬間に食い殺されちゃうからね!
突っ込む動作をフェイントにして、ギリギリで飛び跳ねてかみつきを躱す…と同時に!
「シッ!」
眼球を狙った尻尾の一撃が弾かれる。
なんの事はない。
ヤツはただ瞼を下げただけ。それだけの動作で生み出された鱗の防壁が、まるで鉄を殴ったような手応えでワテの鋼の尻尾アタックが弾き返したんやが───そんなもん、想定の範囲内ですやろ?
一度目を閉じた生物が次にする事。
そらーあんた、お目々カッ広げての状況確認か、残された片目をコチラに向けるかの2択な訳でして。
そこへ追い打ちの砂利ブレスをドカ〜ン!
【Giya!?】
残念ながら2段目の攻撃も強靭な瞬膜により防がれる。だが、運良く尖った岩の先端が良い感じにヒットした結果、多少の痛みはあったらしくリオレウスがそれを嫌がるように巨大な頭を後ろへ振るった。
視覚を潰した瞬間、あえて大きく音を立ててレウスの左前に着地して、即座に懐へと飛び込む───ブォン!!───先程ワテが着地した地点を削り飛ばすように、丸太のようなレウスの尻尾が振るわれた。
まーこの辺はね?
この距離でこの角度なら尻尾攻撃来るよね…て言う、モンハンプレイヤーなら知ってて当然の誘い行動よな。
確かレウスくん、腹は硬いけど尻尾はそこまで硬くなかったハズ…な〜の〜で〜〜〜!
「ギャブウ!!」
肛門の近い尾の付け根に喰らい付く。
被ダメージ判定無しの場所でクリティカル攻撃! これぁ痛いやで〜!!
な〜んて言った所で…まぁ雀の涙なんやけどな。
トイプードルがハスキーに挑んでるようなもんやし。
痛いっても足の小指を机の角にブツけた程度の『痛い』なんであって………。
これ…どーすんの。
ホントに…??
◆
時は遡り場所は移ろう。
日暮れ直後。
里の外れにある篝火の下。
ムースのオトモ候補であったイズチが脱走した…と言う知らせから間を開ける事なく届けられた一報と、それにより発令された緊急クエストに対処するべく、そこに4つの影が集っていた。
「どうか、ご無事で………!」
影の1つは巫女装束の女性。
彼女が声をかけるのは、カムラノ装に身を包み背に大弓を担ぐ白髪の少女…ムースだった。
「うん…」
言葉は少ない、しかし…その瞳に浮かぶ決意の色が、足らぬ言葉よりも遥かに強く巫女の少女…ヒノエへと語りかける。
「ご武運を…」
火打石を打ち鳴らすは巫女であり妹、ミノト。
「こんなの…こんなのおかしいよ!!」
最後の一人、ヨモギだけはこのクエストに納得していなかった。
「だってムースちゃんはまだ強くない! 猛き炎って言ってもまだ見習いだし、装備だって里で一番弱いんだよ!? 一人で行かせるだなんてあんまりだよー!!」
今回のクエストは大社跡へ迷い込んだと思われる子供達の救出。近隣では巣立ち直後の若いリオレウスの目撃情報があるため十分に注意し、かつ迅速にクエストを達成するよう求められている。
「ムースちゃんはガルクにも乗れないんだよ!?」
アイルーの毛にはアレルギーを起こし、ガルクには極端に毛嫌いされる困った体質のムース。
アイルーは兎も角、ガルクと言う機動力を抜きに広大な大社跡で子供二人を救出する。
ヨモギにはこれが簡単なクエストだとは思えなかった。少なくともようやくアオアシラを倒した程度の駆け出しハンターに務まるクエストだとは…とても。
───しかし。
「ヨモギさんの心配はわかりますよ」
「されど百竜夜行の予兆は続いています」
「里長の…判断、だから…」
里の民には里守としての防衛の任があり、まだ弱いからこそムースには子供達を救出するべく
当然、そこには未来の猛き炎を鍛え、その実力を見極める…と言う目的も兼ね備えてはいるのだが。
「ヨモギ…」
怒りに震える手を、ムースがそっと包んだ。
「心配、かけて…ごめん」
自分がもっと強ければ。
ガルクと仲良く出来ていれば。
あのイズチと、心を通わせていれば。
そんな気持ちが言葉にはならない。
口下手な自分を変えることも出来ない。
一足飛びに強くなったりも出来ない。
出来ない事ばっかりだから、だからムースは自分に出来る事をしようと思った。
「待ってて、くれる…?」
ギュッと手を包む。
気持ちが伝わるように。
言葉よりも心でお話が出来るように。
「………待ってる。待ってる…よ!!」
可愛い。
ヨモギは本当に可愛い…と思う。
ムスッとして膨れた可愛い親友に微笑んで言う。
「帰ったら、うさ団子…作ってね」
出来たてホカホカのうさ団子。
魔法のように美味しくて、ヨモギのように温かい。
「きっと、コミツと、セイハクも…喜ぶ」
それを皆で食べるのだ。
そんな未来を勝ち取る為に。
ムースは一人、クエストへ挑んだ。
◇
虫の音が五月蝿く、風にざわめく木の葉が煩い。
視界は限られ人の身の嗅覚はあまりにも頼りない。
「シッ…!!」
先程捕まえた野生の翔蟲を空に放ち、鉄蟲糸を繋げて宙を舞う。 流石に野で捕まえた翔蟲を制御し続ける事は不可能だが、そこはまた見つければ良い話だ。
「せやッ!」
養殖され、訓練された2匹の翔蟲を操り更に空の高みへと舞う。森の異常…小さな綻び。
子供達の安否は刻一刻が過ぎる度に………。
「…くッ」
走る。
息が切れる。
翔蟲で飛び跳ね。
また走る。
無用な戦闘を避け、すれ違うモンスターの瞳の色から獲物を狩るモノが放つ熱量の有無を見定め、違うと判断してまた飛び立つ。
何度繰り返してもアタリは来ない。
削れる時間、削げる体力。
あまりにも広く、見通しの効かない夜の大社跡。
もっと奥にいるのかも知れない、いやそんな筈はない。見落としている可能性が高い。
しかし現に子供達の影も形も見当たらない。
やはり奥なのか?
それとも、もしや既に………!?
───ォォォォォォ───
遠くに聞こえた。
ガルクの遠吠えだ!
大社跡に野生のガルクを見たことはない。
オトモ隠密隊の極秘任務かも知れない。
けれど、その方向にもしかすると───!?
唐突に嫌な気配を感じて視線を向けた。
ムースの睨む先にはただならぬ圧があった。
(何か…居る)
最初に気付いたのは月の光だった。
天の月光と同じ輝きが地上に2つ。
その奥に嘴と、体毛が。
全身が墨染めされたかのような強靭な体毛で覆われ、迅竜の名冠するに至った翼腕の刃が瞳の光を怪しく弾く。
「ヤバ…っ!」
それこそはナルガクルガ。
竜の硬さに獣の柔軟性を備えた樹海のハンター。
【……………】
声もなく…悠々と暗がりから姿を現す。
威風堂々たる強者の竜は。
【シャガァァァァァァァ!!】
縄張り迷い込んだ愚かなハンターに、その怒りを炸裂させた。先手はナルガクルガのトゲ弾。
独特のモーションでゆらゆらと振った尻尾から、トゲの塊を射出する。
「フッ…!」
弓息法を使用して空に逃げ、射程圏外へと着地して。それまでに消費していたスタミナを急速に回復させる。
戦う気はない。
それが竜に伝われば御の字ではあるが。
【ジャッ!】
鼠をいたぶる猫のように、いっそ楽し気な…と表現しても良いような快活さでナルガクルガがムースへと迫る。
斜め飛びつき攻撃、かみつき、強靭にしなる鞭のような尻尾によるなぎ払い。
避ける、飛ぶ、距離を取る。
相手がナルガクルガでなかったなら。
もし、ここがゲームの世界であったなら。
敵対行動を取らないムースはこの竜の執着から逃げ果せる事が出来ただろう。
しかし、この世は現実。
ナルガクルガは狡猾であり、執拗。
一度狙った獲物は最後まで追い詰める執念深さを持っている。例え相手が弱くとも、脅威足り得ないとしても…。
「ク…位置が…もぉ!!」
息もつかせぬ連続攻撃。
これにより遠吠えの主の位置どころか、己が今、何処に居るのかすらもわからなくなってしまった。
(このままじゃ………っ!?)
焦るムースの耳が何かを捉える。
───ゥ………ホウ…ホウ───!!
「フクズク…!?」
上空を旋回している茶色のフクロウ。
月光を弾く装飾にムースの目が見開かれた。
「あの飾り、里長…の!」
コチラが気付いた事を理解してか、天のフクズクが道を示す。
「あっち…わかった!」
己に備わったありとあらゆる技法を使い、ムースはフクズクの影を追い深い森を突き進むのであった。
───そして。
◇
限界にゴザル〜〜〜〜!!
拙者、イズチのイッ君!
もはや限界にゴザルぞ〜〜〜〜!!
かなり頑張ったとは思う。
ステージは川原から川をそのまま遡り、頭上に馬鹿でかい滝が見える地点にまで移動している。当然ながら、ここに子供達とテンマの姿は無い。
アイコンタクトと鳴き声での指示が通じたらしく、テンマは子供達の避難と安全確保を優先して行動してくれたし、ワテはそれを補佐するために肉の囮として大活躍をしてみせた。
逃げては突き刺し、噛み付いてはまた逃げる。
くそウザい藪蚊のようなヒット&アウェイにリオレウス君のイライラはMAXゲージを大幅に超過。
ブッチギレたレウス君の空中移動ブレスがおもっくそ伸びたんか、避けたハズやったのに気付いたら背中がコゲコゲにされててな〜?
なんかファ○チキっぽい匂いがすると思ったら自分の肉の香りでした定期…みたいなwww
脚はまだ動くが、まぁ血反吐なんかも吐いちゃってる訳でして…普通にこれ、死んだわ。
まー頑張った方だよな?
これでようやく胸を張って
そんな風に思いながら、膝がカクッと折れてイズチのボディーが水の中に───。
「イッ君」
なんか、支えられた。
うぉ…お?
幻…かな??
ワテのムッスーは黒髪なんやが。
ん…あれ?
忍者のこすぷれ…??
………んあ?
「イッ君!!」
ビックリするほどデカイ声に、ワテの消えかけた意識が繋がる…いや、違うな。
なんか回復してる…あ、あん??
アメフリツブリ(回復の霧を出すカタツムリ)か。
回復ミツムシの霧とはまた違って…なんかちょつと甘酸っぱい感じ? 梅の飴玉みたいな味……おん?
なんか、背中の熱が引いて来てる。
ん………あれ?
てか…ムースちゃん?
なんでココに。
「良かった…間に合って…!!」
間に合うっても………あ、ヤバッ!?
意識を離していたリオレウスを見ると、何故か唐突に出現していたナルガクルガと激闘していた。
ギャオンだか
「縄張り争い…してる。今のうちに、逃げよう。子供達は…もう保護された」
テンマは?
「ガルクくんも、無事」
ならばヨシ!
「ギャギャ!」
傷がまだ痛いとかどうのこうの言ってる場合じゃねーんでな! まだ残る痛みを無視してムースを背負い、ワテは全力でカムラの里へとひた走ったのであった。