パキパキ…と木の割れる音がする。炎が緩やかに風を生み出し、燃料となる木材を食らう声が聞こえた。
炎の色はどの世界でもぼんやりとして美しいんやな…とワテは獣ながらに感慨に浸る。
ここは地下洞窟。
ゲームの大社跡には存在しないマップである。
「グ…グギギ……」
「ダメ、動かない…で!!」
傍らにはムース。
怪しい色のキノコを小さな擂り鉢に入れ、ゴロゴロと音を立てて粉にしていた。
「絶対に…助ける…!」
ムースが連れてきたナルガクルガのお陰でリオレウスからの逃走に成功した。
それは良かったんやが、山中を走ってたら唐突に地面が崩落しちまってな〜?
レッ○ブル飲んでたら翼で回避出来たんやが、この世界にコンビニは無いですし?
まぁ最悪体調さえ万全だったらロック○ンよろしく壁ジャンで回避余裕(嘘です)やったんやが、流石に地獄の訓練から始まって空腹の逃走劇からの連戦連戦でヘロヘロになってた上に背中の火傷も完治には遠い状態での唐突! 落とし穴ドカーン…だったもんで。
『ピギャー!』つって可愛い悲鳴を上げながらこの地下洞窟に落っこちて、気が付いたのが今・現在・ナウ。
「グギギ…グギギギギ…!!」
浮上する意識と同時に生存本能先生が復活してきて理性がヤバイ。全身痛いけど強いて言えば強烈に脚が痛い。
【俺は死にたくねぇンだヨぉ!!】
生存本能先生の雄叫びが口から零れそうになる。
けど、それを叫んでしまえばその瞬間にワテの意識は消え去りガウガウと涎を撒き散らして泣き叫ぶただの手負いの
なので我慢。
グッと堪えて牙が欠けるほど歯を食い縛るが。
あ…やっべ。
これ本気で死ぬほど痛てぇ…!!
全身が心臓になったみたいにドックドック(イズチなのにドックとは…これイカに)してて熱いのに身体の中心は凍えてる。ドクッと心臓が鼓動がする度に目がチカチカする程のトンデモネー痛みが脚から脊髄を駆け抜けて脳ミソのド真ん中で【たーまやー!!】つってスパークするんよ。
(スパーキングギ○ボルトー!! なんつってw)
「ギァ……ギァグググゥ…!」
アホな思考を飛ばしてないと保たない。
痛い。
永遠にイタイ。
姿勢変えても変えなくても何をしてもしなくてもイタイ…イタイイタイイタイイタイイタイ…ぐげげげげげ。
なんか無いんか!?
回復ミツムシとか、回復薬とか、さっきのカタツムリでもヤバメのドングリでも何でも良いからなんか…なんかさぁ!!
ヨダレは垂れるし身体は震えるし視界はグルグル魔法陣。もぅ流石に今度こそ死んだぞ…と思ったんやが。
「出来た…!!」
叫んだムースが「ふぅ…」と白い粉をワテに吹きかけた。なんやねんこれ、ワテを粉塵爆発で○す気か!
ファミ○キにする気なんか!? ブッ殺すぞ!!
本能先生の暴走もあって怒り心頭のワテではあったのですが。
「グ………ゥゥ??」
痛みが和らぐ。
後々になって考えた所、たぶんアレは生命の粉塵に近いナニカだったんだと思う。
団子屋のよろず料理屋にドキドキノコを渡すと追加品として生命の粉塵が支給される事がある。
たぶんその繋がりか何かで微小の回復と麻酔効果のある粉を生成したんじゃねーかな…てのが名探偵イッ君たるワテの名推理なのだよワトソン君。
発狂しそうな痛みが和らぎ、心にゆとりが出来たワテ。
そんなワテのちょっとした意識の隙を縫うようにして接近していたムースちゃんがピトっとワテの脚に手を添えて。
「ゴメン…!!」
そう囁いて、ワテの折れ曲がって反対方向に向いてる脚を強引に…………あ、ギァァァぃァァああぉぁヴァァァァぉ絵がぉァァあがァァァぇおあぁキィダニ革ぉァァァァしああああ!!
医療行為にも厳罰を。
哀れなイズチは天にそう訴えつつも、痛みによるショック死を回避するために己の意識を遮断したのであった。
◆
『イッ君』
妻は俺の事をそう呼んだ。
イチローだからイッ君。
安直だが、妻から呼ばれるその響きは心地よかった。
俺は妻が好きだった。
いや、妻が早逝してからも変わらずに好きなので、好きだった…と過去形にするのは間違いなのだろう。
好きと言うよりは執着と言う方がよほどしっくり来る程度には、俺は妻を溺愛し、妻に依存していた。
大好きな妻が子を欲しがったから作った。
子が出来れば俺の性根も変わるかな…と思っていたが、病弱な娘の介護に妻と過ごすための時間が削られる度に妻への激重感情は増して行った。
そんな俺を残して妻はアッサリと他界した。
残されたのは俺と娘の二人だけ。
妻が世界で一番大切にしていた子供だから、それを引き継いで俺が世話をした。
不慣れな介護に、毎月の医療費。
娘の事は嫌いでは無かったが、コイツが居なければ妻は生きられたかも知れない…とか、コイツがいなければ妻ともっと自由に過ごせたのに…とか。
そんな黒い感情を腹の奥底でグツグツグツグツ煮込みながら、表面上は誠実なパパのフリをして灰色の毎日に血反吐を吐きながら神を呪って生きていた。
そんなある日、娘が俺を呼んだ。
「お父さん」ではなく「イッ君」…と。
何を思ってそうしたのかはわからない。
妻の代わりを努めようとしたのか、思春期特有の背伸びなのか、ちょっとした気まぐれだったか。
それは結局わからなかったが、1つだけ確定した過去はある。
「やめろよ気色悪い」
俺はそうやって娘の言葉を斬り捨てた。
タイミング悪く疲れていたとか、俺に似た顔の娘が妻に似た声で俺を呼ぶのが嫌だったとか、突然で混乱していたとか、本気で嫌な訳では無かったとか。
色々と心中に渦巻く物はあったが、その過去だけは変えられやしない。
何と言うか…俺と娘は上手く噛み合わなかった。歯車の凸と凹が噛み合わされば会話だって弾むけど、俺が凸の時には娘も凸だし、俺が凹の時には娘も凹んでて残念なくらい馬が合わなかった。
真ん中に妻がいて。
そのお陰で俺達は家族で居られた。
それを嫌ってほど思い知らされたクソみたいな娘との思い出。
けど、だからこそ娘の気持ちはわかる。
歩み寄りたい。
俺もそれは思ってた。
たぶん、思ってたんだ。
『ゴメンね…お父さん』
だから。
『今まで、迷惑…かけて…』
だから…!
『あと…は、自由…に………』
だから!!
───俺を置いて行く。
みんな、俺を、置いて…先に死ぬ。
嫌だった。
寂しかった。
苦しかった。
何もかもどうでも良かった。
だからアホみたいに働いた。
心が壊れている事を認めない為だけに。
娘は生きている。
俺は娘の治療費の為に働いている。
そうでなきゃ。
あんまりにも。
この世界は──────。
『イッ君』
妻の声が聞こえた気がした。
娘の声だったのかも知れない。
どちらでも良い。
二人に会いたい。
ただ会いたい。
声を聞きたい。
もう二度と酷い言は言わない。
どんなに苦しくてもお前が生きてれば良い。
生きてて欲しい。
笑っていて欲しい。
夢を見て欲しい。
未来を描いて欲しい。
一緒に過ごしてくれたら嬉しい。
俺が生きてきた事。
それが間違いじゃなかったんだって。
お前だけが教えてくれるんだ。
だから俺は…ワテは……声の聞こえる方へと。
◆
「イッ君!!」
娘の声で目が覚めた。
心臓がドックンドックンいってるけど、痛いよりはパニックで暴れてる感じで。
「……!?」
なんか…声が!?
とりあえず目を開き、身体を起こす。
あとやる事といえば…そう!
バッチリお目覚め───か〜ら〜の〜??
「ッ゙………ォゲェッッッ───ポッ!!」
出た〜〜〜〜!!
メッチャ赤黒い血の塊が、出た〜!!
(テッテレ〜♪)
「ギァ………グルルゥ??」
なんか変な夢を見たような…て、それどころじゃなくて、なんか内臓の出血が気管の辺りで固まってたんやね。
死ぬほど酸欠しててゼーハーゼーハーですやん。
「イッ君…!」
泣きそうなツラのムースちゃん。
おー。
貴様が救いの神かぁ!
ムースちゃんの声が無かったらそのまま窒息死待ったなしやったんやで。
死にそうな身体に鞭を打つ。
(打つべし打つべし!)
ムースちゃんを視界に捉え、感謝の意を込めて鼻先で頭をコツンとしてやる…ん? つか、んん? 身体の痛みがずいぶん減ってるんじゃが?
脚はまだ少し痛いが見たところさっき気絶してからそんなに時間は絶ってなさそうなのにほぼ完治まで行ってる。ワテがチートなのかモンハン世界特有の回復力がパネーのかは不明やが、なんにしてもスゲー。
部位欠損は別やけど、大概の怪我は寝たら治るってこと? やべーなコレ。
「良かった…」
とうとう泣いちゃったムースちゃんの頬を舐めてやりながら(血生臭かったらスマンな、ガハハハハw)周囲を見渡す。
天井からは細い光が差していた。
たぶんあの穴から落ちたんやね。
周囲は暗いけどぼんやりと明るい。
暗闇で光る変なコケが壁面にも天井にも…割とびっしり生えてるから明るいらしい。
たぶん、ムースだけなら翔蟲で飛んで穴の壁面まで行って、その後は忍者もビックリのカムラ流壁走りで脱出余裕なんやろうけど…。
「良かった…イッ君…イッ君……!!」
う〜んこの。
謎の激重感情を向けてくるムースちゃんの様子を見るに、ワテを置いて脱出は考えそうに無いんよな……それに。
『ぐ〜〜〜〜〜ぎゅるるる』
うむ………。困った。
ワテの内なる本能先生がお怒りであらせられる。
※意訳︙腹減った。
一応ワテは雑食なんで苔でも食えなくは無いんやろーけど、たぶん消化器系が弱ってるからな〜。
本能先生のオーダーは肉。
生肉食いたい。
麻痺しても毒しても良いから肉が食いたいと仰せであらせられまするぞよ!!
そんな訳で鼻をクンクンしてみるが、動物の香りは感じない。匂うのは苔とキノコとムースの香り───あとは。
「グギァ…!」
微かに感じた香り。
それが本能先生を強く強く刺激して、ワテは誘われるままに洞窟を進んだ。
イッ君イッ君と声をかけながら子猫のように纏わりついてくるムースを引き連れてしばらくテクテク。
辿り着いた場所には───。
「湖…!」
「ギィ…」
水にも200種類匂いがあんねん。
※嘘です。
まぁワテの鼻は高性能って事やな!
ガブガブと水を飲み、たまたま近くにあの居たウリナマコ*1に尻尾の刃を撃ち込んで問答無用で噛り付く。
「ギャオ!?」
何だコレ!?
キュウリ?
キュウリのパキパキ食感なのに鶏肉みたいな味がして…美味い………のか?? マヨネーズがあれば絶対に美味いけど、微妙…微妙な味がして…。
空腹のスパイスがあるから問題ないが、やはりマヨネーズが欲しい。頭ではそんな事を考えてるんやが、口はもう必死やね。足らん栄養を補給するために唸り声をあげて食らってた。
「美味しい…? 良かった」
美味くはないんやで?
ただまー腹減ってるんや。
残したウリナマコの下半身を飲み込んだ瞬間、湖の奥で飛沫が上がった。
「アレは!?」
驚くムースを庇うように前に出る。
見たところエピオス…だったか? 古いモンハン作品に出てた草食海竜っぽいモンスターがガライーバ(コッチはデカナマズ)に襲われてるっぽい。
「ギギ…!」
なんでライズにエピオス…とも思ったが、それを言ったらこの
逃げるエピオス(推定)を追ってガライーバまで上陸した。洞窟の少し奥からまた別のモンスターの声を聞いたワテはムースの襟首を咥えて物陰へ避難。
───ギャオ!
───ギョギョギョギョ…!
───グルオ〜ン!!
現れたのは黄色いトカゲ。
ルドロスちゃん。
(皆さんご存知、メスのポンデリン○ですね〜)
なるほど…コレはよろしく無い雰囲気。
ワテの予想通りナマズとトカゲが獲物を巡って雄叫び合戦…かーらーの〜?
───ギャウゥゥン!!
「イッ君…離して、チョッ!?」
ガライーバに噛み付かれた
「ギャオ!」
間違いなく、
ヤバくなる前にムースを背に乗せ、ワテは洞窟の奥へ走るのであった。
「さっきの…ロアルドロス? リアルで初めて…見た。ちょっと、可愛い…かも??」
謎のセンスと謎の余裕。
ムースちゃん、君は大物になりそうだにぇ…。
そんな事を考えながら洞窟の角を曲がった途端、苔の塊にぶつかる。
「ブヒィ!!」
「何!?」
驚いた事にそれはモス。
昔懐かしの豚型モンスター!!
肉の匂いが無いのは背中の苔か、それとも主食のキノコで消臭されてるのか。
まるで探知できなかった事に驚きながら交戦状態に突入したモスの頭に刃尾を突き刺して絶命させた。
あ〜…っとちょっとグロかったか??
遅まきながらムースちゃんへのR18映像の解禁を反省したワテなんやが。
「お肉!!」
うん。
そーいやこの子はハンターなんよな。
ワテの
大喜びでモスを解体し始めました。
「良かった! これでお腹いっぱいになる…ね!」
キレイに切り出してくれた生肉に噛み付く。
………うん。
えっと…。
豚の臭みは無いんやが、甘みと香草の香りが強くて絶妙にマズい。
「美味しい?」
ニコニコ笑顔のムースちゃん。
「ギャ…ギャウ♪」
食えなくは無いんだ。
腐肉に比べれば全然美味いし。
ただちょ〜〜〜っとワテの舌に合わないってだけで。
「どんどん、食べてね!」
せっせと肉を切り分けるムース。
その頑張りや、ワテへの思いやりの心を無駄にする事は出来んですやろ?
男は黙って、モグモグ。
モス…お前なんで美味しいファーストフードみたいな名前なのに。なんで、こんな…不味いの………??
世界の不条理を(文字通り)噛み締めながら、ワテは密かに涙を流したのであった。
前回、予約投稿+挿絵が初めてだったので絵が上手く表示されるか不安でドキドキだったんですよね。その時間は仕事で埋まってたので手動投稿不可能だったし。
なんにしても上手く行って良かった。
ちな、挿絵を描いてくれたのはマキトト読者なら皆様ご存知、ワテのリアル嫁ちゃんです。
…あの、そこでちょっとしたお願いなのですが。
マキトトの嫁を褒めてくれませんかね?。
小説がカスいのは評価とかブクマとかもぉ理解者してるんですが、絵はグンバツですやろ??
ここまで読んでくれた奇特な読者の貴方にお願い致します。嫁へのファンレター…是非、一筆よろしくお願い致します〜!!
(マキトトが跳ねて喜びます)
───それはそれとして、明日で完結ですね。
乞う…ご期待!!