問題だらけのアイドルグループを武道館に連れていく 作:AK999
あれから引き継ぎをしたり、転職の手続きをしたりしているとあっという間に1ヶ月が経った。
プルルルルルルル
社長からの電話だ。間髪入れずに電話に出る。
「はい、男画七です」
「あ、男画七くん〜。前に話してたプロデューサーの件だけどあれ正式に決まったから〜。今から高宮区の事務所に向かってもらえる〜?オーディションがあるんだって〜」
「分かりました。今から向かいます。」
「ありがとね〜。じゃあ頑張ってね〜」
「はい、では失礼します」
そう言って俺は電話を切り、会社の駐車場に停めてあった車に乗り込む。
いよいよこの時が来た。長いようで短い1ヶ月だった。これから俺はプロデューサーとして、幸せになるぞ!そんなことを考えながら、車を走らせて15分ほど、社長から教えてもらった事務所に着いた。
え〜っとここで合ってるよな?ちょっとボロいような気もするけどまだ始まったばかりの事務所だしな。よし、行くか。
俺は事務所の入口で気合いを入れると、受付に向かう。
「すみません、NeON株式会社から来ました、男画七宇佐です。本日からこのNew Periodでお世話になります。」
「あ、男画七さんですね。社長から話は聞いています。部屋まで案内しますね」
「ありがとうございます」
俺は受付の人に連れられ、部屋まで案内される。
「ここが、今回のオーディション室になります。中で社長が待ってますのでお入りください」
「分かりました。ありがとうございます」
そう言って俺は、部屋に入る。そこには、30代ほどで小綺麗なスーツに身を包んだ人当たりのよさそうな男がたっていた。
「やあやあ来てくれたね。君が男画七君だね。僕はこの事務所New Periodの社長、日比野正(ひびのただし)だ。気軽にひっびーって呼んでくれていいよ。君、思ったより、若いね。アイツからは聞いてるよ。とっても優秀な新人がいるって。事務仕事に営業、新人教育なんでもござれだって。アイツが褒めるなんて珍しいからさ。君には期待してるよ。目指すは武道館!夢があるよね。そう言えば好きな食べ物ある?交流も兼ねてご飯でも食べに行かないかい?実は美味しい中華料理屋が近くにあってね。あ、もしかして中華苦手?大丈夫大丈夫、美味しいフレンチの店も知ってるから。あそこのフレンチトーストは絶品でね。ぜひ男画七君にも食べて欲しいな。あ、でも和食って手もあるか。やっぱりここは伝統にのっとって、、、、」
「あ、あのすみません。日比野社長、今日はオーディションに参加させて貰えるって聞いてきたんですけど」
あまりにも話が続きそうなので少し、強引に話を遮りながら、質問をする。
「そうだったそうだった。じゃ早速オーディショーンしていこうか。今日は最後の1人を君に選んでもらうから。あ、あと今日は5人来るからね。ビビッと来た人を1人選んでね。これでも結構応募来たんだよ。書類の時点で57人だったかな?いっぱい広告をうったかいがあるというものだよ。あ、それとねもうメンバーは4人決まってるよ。僕が選んだんだけどね、なかなか個性のある子達で面白そうだよ。今度、、」
「わ、分かりました」
は、話が長いし、展開がはやい。というかもう4人も決まってるのか。どうなる事やら。
そこから、日比野社長とオーディションの仕方などを教えて貰っているとあっという間に1人目のオーディションの時間となった。
コンコンコン、ドアがノックされる。
「どうぞー」
隣の日比野社長が入ってくるよう伝えると、ショートヘアに緑のメッシュが入った女の子が入ってくる。
「失礼します。田中美久です。よろしくお願いします」
そういいながら田中さんはぺこりとお辞儀をする。服は動きやすさとかっこよさを兼ね備えたパンクな黒シャツにスカート風のパンツを着ている。ショートヘアに緑のメッシュが服と彼女の泣きぼくろに合っている。
彼女が椅子に座ると同時に隣に座っている日比野社長が耳打ちしてくる。
「さっき伝えた通り、気になることがあったらどんどん聞くんだよ。あ、それとね、、」
「分かりました」長くなりそうなので途中で遮りながら小声で返事をする。日比野社長は喋り足りなかったのか少ししょんぼりしているが放っておこう。というか、あまり構っている余裕がない。なにぶん初めてのことなので緊張するし、このアイドルグループがどれだけ売れるかで俺の待遇も良くなれば悪くなる可能性もあるからだ。けれど、面接担当になったことはあるため、それを思い出しながら質問を交えて挨拶をする。
「田中さん本日オーディションの担当をさせていただきます男画七です。まずは、New Periodに応募していただきありがとうございます。では、早速で悪いのですが、少し質問をさせていただきます。どうして田中さんはアイドルになろうと思われたのですか?」
面接では定番の志望動機から手始めに聞いてみる。
「はい、昔からアイドルに憧れがあり、AMB42や出雲崖などのようなみんなに元気を与えるアイドルになりたいと思い、今回のオーディションに参加しました」
彼女は目を合わせながらそう答えた。
「なるほど、昔からアイドルに憧れがあったんですね。アイドルになるとダンスや歌を歌う必要がありますが、経験等はありますか?」
アイドルにとってダンスと歌は必ず必要になってくる要素である。この1ヶ月間で調べたアイドルの必要要素を思い浮かべながら俺は質問を続ける。
「はい、私は小学生の頃からピアノを習っており、そこでは歌の練習もしていました。歌には少し自信があります。ダンスに関しては趣味で踊る程度ですね」
「なるほど、歌には自信があるんですね。少し歌ってみてもらってもいいですか?曲はなんでも構いませんので」
少し、歌ってみるように指示をする。すると、彼女は戸惑いながらも「分かりました」と言い、歌を披露してくれた。
最近流行りのアイドルの曲だ。上手いな。ピアノを習っているということもあり、音が正確だ。初っ端からレベルが高いな。
「ありがとうございます。素敵な歌声ですね」
俺は素直にそう称賛する。
「ありがとうございます。喜んで貰えて良かったです」
彼女は少し恥ずかしがりながらも、そう答えた。
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そこからまた3つほど質問をして、田中さんのオーディションは終わりをむかえた。
「田中さん、本日はオーディションにご参加いただきありがとうございます。結果に関しましては、後日メールの方でお伝えさせていただきます」
「分かりました。本日はありがとうございました」
そう言って田中さんは部屋を出ていった。
彼女が部屋から完全に離れたのを確認するやいなや、日比野社長がどうだった?と言うふうにこちらに顔を向けてくる。
「すごくいいですね、歌に関しては文句なしでビジュアルに関しても平均点以上あります。ダンスに関しては、アラはありますが、練習していけばそのアラもなくなると思います。いきなり、合格候補です」
俺は思ったことを伝える。
「だね、僕もそう思っていたところだ。もう少し個性があれば僕は合格にしていたところなんだけどね。ちなみになん、、、」
「そうですね」
日比野社長も同じ意見みたいだ。けれど確かにもう少し個性が強くてもいいかもしれない。普段の面接なら1発で合格だが、これはアイドルオーディション。やはり強烈な個性も必要な要素であると言えるだろう。まあ、まだ1人目だ。あと4人オーディションしてからでも遅くは無い。俺は手元にあったバインダーに挟まっている彼女の履歴書に歌唱技術〇、歌声〇、個性△など情報をまとめて記録する。まとめ終えた頃と2人目がノックをしてきたのはほぼ同時だった。さあ、次はどんな子が来るんだろう。
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3人のオーディションが順調に終わり、あっという間に最後の1人のオーディションとなった。そして正直4人とも合格候補である。実力もそれほど変わらないため、どうしようかと考えていると、最後の1人が部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞー」
5人目にもなれば慣れたもので、日比野社長のかわりに俺が入室を促す。
「失礼します、藤崎舞(ふじさきまい)です。本日はよろしくお願いします」
彼女は入ってくるとか細い声で自己紹介をした。
驚きだ。まずビジュアルだが、今回のオーディションに来た人達の中では飛び抜けている。薄紫色のブラウスに黒のチュールスカートが少し、線の細い身体とナチュラルメイクを施した顔に似合っている。そして、俺の驚きはそれだけじゃない。なぜなら彼女は俺の小学校と中学校の後輩なのだ。
「藤崎さんですね。私は日比野正。この会社の社長をしています。隣は男画七宇佐。今回のアイドル企画のプロデューサーにあたる人です。」
少し、面食らっている俺の代わりに日比野社長が自己紹介をする。
「はい、よろしくお願いします」
彼女はこれまた弱々しい声で返事をする。若干俺の名前を聞いた時に目を見開いていた気がするが彼女はそのことをスルーすることにしたようだ。
「えっとどうしてアイドルになろうと思ったんですか?」
俺は戸惑いながらも質問をする。
彼女は平然を装いながら「働かないとダメだから。アイドルは昔からの夢だったし」と消え去りそうな声で答える。
「なるほど」
彼女が部屋に入ってきた時から感じていた違和感が形をなしていく。彼女はもっと明るかったはずでは?
小学校、中学校の彼女は底抜けに明るく周りを引っ張っていくタイプの女の子だったはずだ。習っていたダンスでも周りの子たちを引っ張っていっていた気がする。
そうだ。彼女はダンスが得意なんだった。俺はダンスを見せてもらおうと質問をする。
すると、彼女は一瞬下を向いたかと思うと「分かりました、、、少しだけなら」と答えた。
そして、彼女は座っていた椅子から降りるとスマホから音源を流し踊ってみせる。
圧巻だった。軽く踊っているだけなのに魅せられる。隣の日比野社長も釘付けになっている。今までの4人にもダンスを踊って貰ったがレベルが違う。彼女の世界に強制的に惹き込まれる感覚。動きのキレ、表情の管理の仕方、音感があるのだろう。曲とダンスが完全に一体化しているような感覚。そう思わされるほどの圧倒的なまでのダンスだった。
「あ、ありがどうございます。大変お上手なんですね。ビックリしました」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
ダンスに圧倒された俺は完全に上の空で適当に質問していく。そして、あっという間に時間が来てしまった。
「本日は、お忙しい中弊社のオーディションに参加していただきありがとうございました。結果に関しましては後日メールにて送らせていただきます。」
そう彼女に告げると、彼女はぺこりと一礼をして、部屋から出ていく。
決定だな。
「彼女を最後のメンバーにします」
彼女が出ていき、少し経ってから日比野社長にそう伝える。
「うん、僕も文句なしだ。じゃあ、また1週間後ここに来てくれ。メンバー同士の顔合わせをしよう。あ、それとこの後なんだけ、、、」
「分かりました。あとこれからよろしくお願いします」
「そうだね、こちらこそよろしく頼むよ。目指すは武道館だ。目標はデカイ方がいい。あ、それとこ、、、」
「そうですね」
そんなこんなで1日目の業務は終了した。次回は1週間後。どんなメンバーが揃っているのか。どんなアイドルグループになるのか楽しみで仕方ないな。そして何より、次の給料が楽しみだ。俺は来たる良い未来に心を踊らせながら帰路に着いたのだった。