問題だらけのアイドルグループを武道館に連れていく 作:AK999
プルルルルルルルルル
「はい゛〜。も゛っしも゛〜し。酒寄一歌(さかよりいちか)でぇっ〜す。何用でっすか〜。」
おう、いきなり強烈だな。しかも声が枯れているのか聞こえずらい。俺は酒寄さんのテンションに驚きながらも挨拶をする。
「もしもし、New Periodの男画七宇佐です。本日からプロデューサーとなりました。よろしくお願いします。」
「ああ、はい゛〜、よろしくお願いしまっ〜す!」
声デッカ!酒寄一歌、日比野社長によるとオーディション時に履歴書と一緒に送られてきた歌だけで採用されたらしい。俺も聞かせてもらったが確かに人を魅了する歌声だった。こんなガサガサで聞き取りづらい声では決してなかったはずだが。今のところ声量ぐらいしか同じところがない。まあ今はそんなことより事務所に来てもらうことが先決だ。
「本日、9時に事務所へ来てもらうようメールが送られていたと思うのですがご確認いただけましたでしょうか?」
「ああ゛〜見ました!あれ゛今日だったんですか!忘れてました!」
「そ、そうですか。では、今から事務所に向かっていただいてもよろしいでしょうか」
「わっかりました!全身全霊最高速度でむっかいまーす!」
元気な返事とともに電話が切られる。耳がガンガンする。テンション高すぎだろ。高宮さんも佐々木さんもその声量の大きさに驚いている。まあでも、とりあえず事務所に向かってくれるらしいし、最後の1人に電話をかけるか。そう思い、最後の1人、俺が直接採用した藤崎さんに電話をしようとした時だった。
デンワダヨッ!デンワダヨッ!デンワガキタヨッ!デンワガキタンダヨッ!
突然の着信音。佐々木さんの「なんですかその着信音」とでもいいたげな視線。ホントになんなんでしょうね。
画面に表示された名前は酒寄一歌。今、さっきでなにかあったのだろうか。とりあえず電話に出る。
「はい、男画七です。どうされ、、、」
「すみ゛ま゛せ〜ん!!!私、事務所の場所知りま゛せ〜ん!!!」
告げられる衝撃の事実。破れる俺の鼓膜。佐々木さんと高宮さん耳塞ぐ。これが酒寄最大の声量。直で聞いた俺は緊急搬送!year!
あ、危ない。一瞬意識が飛んでいた。浮かび上がる唐突なflow。フロアは激寒である。
という冗談はさておき、酒寄さんはなんて言った?事務所の場所を知らない?なんで?
その時、男画七に電流はしる。(耳鳴り)
彼女は履歴書段階で合格が決まった。ということは、事務所に来たことがない。なので事務所の場所を知らない。Q.E.D.証明完了。
いや、事務所に履歴書送ってんだから、住所知ってるだろ。まあ、一応伝えるか。
「住所ですね。高宮区の高宮町8-9-3-1です」
「わっかりま゛した〜!ええ〜と、あれ画面がグラグラしま゛す〜!すみま゛せん!文字がうてま゛せん!バァン!!あ゛電柱にぶつかってしま゛いま゛した!アッハハハハハハ!」
なにわろてんねん!怖いわ!というか、画面がグラグラするってどういうことだ?いや、待てよ。このガスガスな声と頭のおかしいテンション、そして画面がグラグラして、文字が打てず、電柱にぶつかる。嫌な予感がする。
「あの〜酒寄さん。もしかしてなんですけど、お酒飲まれてますか?」
願わくばただのハイテンションなだけのうっかりガールであって欲しい。けれどその願い虚しくカシュ!というこ気味いい音が携帯から聞こえる。
「は〜い!飲んでま゛〜す!今、6本目でぇ〜す!」
最悪だ。朝の9時過ぎの時点で6本目、そしてこの出来上がりよう。俺、プロデューサーやめようかな。いや、こんなことで弱気になっていてはいけない。相手が来れないならこちらが迎えにいけばいい。そして、相手が酔っ払っているなら酔いを覚ましてやればいいだけの話だ。さて、そうと決まれば善は急げだ。
「酒寄さん、今から迎えに行きますので今どこにいるか言えますか?」
「はぁ〜い!今は!高町駅のすぐ近くのコンビニにいま゛〜す!迎えに来てくださ〜い!」
「分かりました。10分ほどで着きますので少々お待ちください」
「はぁ〜い!ま゛ってま゛〜す!」
俺は返事を聞くと同時に電話を切る。
「ということなので、迎えに行ってきます」
高宮さんと佐々木さんはまだ耳がキンキンするのか耳を押さえながらおそらく「分かりました」と返事をくれた。
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車を走らせて10分、高町駅の近くのコンビニに着く。えっと酒寄さんはどこにいるかな。履歴書に貼られていた写真を思い出しながら辺りを見回しているとコンビニの裏手側から声が聞こえる。もしやと思いそっと覗いてみると案の定、酒寄さんがコンビニの店員に注意されていた。
「あのね、君。コンビニはお酒を飲む場所でも寝る場所でもないんだよ。わかってる?」
「はぁっ〜い!わかってま゛〜す!」
「わかってないよね!何度も注意したんだよ!いい加減にしないと警察呼ぶよ!」
「はぁっ〜い!もうしませーん!」
まずい、店員さんの怒りの限界点をむかえようとしている。俺は咄嗟に店員と酒寄さんの間に入り、謝罪と彼女を引き取り、注意することを店員さんに伝え、仕事に戻ってもらう。去り際に「ちゃんと注意してくださいね!」と怒鳴られたのもまあ仕方ないだろう。
「助かりま゛した!ありがとうございます!ところであなた誰ですか!」
場の空気を読まない質問を酒寄さんがしてくる。確かにこれはイラつくな。さっきの店員さんはきっととても優しい人だったのだろう。俺はそれなりの時間彼女の対応をしていた店員さんに思いを馳せながらも、酒寄さんの質問に答える。
「ああ゛〜!プロデューサーでしたか!私!酒寄一歌です!年は20!好きな物はビールにハイボール、アルコールの入ったもの全般です!お願いしま゛っ〜す!」
「はぁ、はい、お願いします」
これはなかなかに大変かもしれない。けれどとりあえずこれで4人目だ。さっさと彼女を事務所まで送って最後の1人に連絡をしよう。
「では、事務所に向かいますので車に乗ってください」
「はぁっ〜い!運転は得意ですよ!」
「絶対にやめてください!」
俺は運転席に乗り込もうとした酒寄さんを無理やり助手席に座らせシートベルトを閉める。はあ、ほんとにどうなることやらと思いながら車を事務所まで走らせる。意外だったのは、酒寄さんが車内でとても静かなことだった。