問題だらけのアイドルグループを武道館に連れていく 作:AK999
「な、なんじゃこりゃああ!!!」
酒寄一歌さんを連れてきたと思ったら、頭からお茶を被ったままうつ伏せに転けている高宮さん。雑巾でこぼれたお茶を拭いている佐々木さん。そして、あのやれやれといった感じで呆れた顔をしている美少女はルナホワイトさんか。
状況から推察するにお茶を入れて運ぼうとした高宮さんがつまづいて転けてしまったのだろう。彼女の周りにつまづくようなものは見当たらないが。とりあえず俺も拭くのを手伝おう。
それから3分ほどで後片付けが終わり、お茶に濡れてしまった高宮さんは日比野社長に電話すると受付の人が来てくれ、事務所内に何故かあるシャワー室へ連れて行ってくれた。
俺は残っている佐々木さんとルナホワイトさんに連れてきた酒寄さんの紹介をする。3人は簡単な自己紹介をして、互いに微妙な空気のまま椅子に座る。
「なんか電話の時と雰囲気違いませんか?」
そう小声で聞いてくるのは実際に俺と酒寄さんの電話を隣で聞いていた佐々木さん。
確かに、車に乗ったあたりから酒寄さんが、電話に出た時のようなテンションではなくなっているのは少し気になるところではあるが、なんだかんだ言って緊張しているのかもしれない。俺はそう小声で佐々木さんに返事をする。
そんな時だった。
デンワダヨッ!デンワダヨッ!デンワガキタヨッ!デンワガキタンダヨッ!
今日何度目かの着信音。相変わらずの変な着信音だが少し癖になってきたな。画面に表示された名前は藤崎舞花(ふじさきまいか)。俺が採用した最後の1人だ。
「”あのクソダサい着信音はなんなの?゛」
「”分かりません。プロデューサーの趣味なのかもしれません”」
「”最悪ね”」
「ウヴ」
俺は聞こえてきたヒソヒソ話と呻き声を無視して、電話に出る。
「はい、New Periodの男画七です。どうされましたか」
・・・返事がない。どうしたんだろうか。かけてきたということは何かしら用がある、おそらく遅刻について話すことがあるのだろうと思ったのだが。一応もう一度こちらから声をかけてみるか。
「藤崎さん、どうされましたか。遅刻に関しては全然大丈夫ですので、今どこにいるか教えていただいてもよろしいでしょうか」
・・・返事がない。ただの屍のようだ。いや、勝手に殺すな。そんなくだらないことを考えていると、ようやく彼女の声が電話から聞こえる。だが、声が小さすぎて聞き取れない。
「す、すみません。今なんとおっしゃいたしたか?もう一度お願いしてもよろしいでしょうか」
「私、アイドル―――――」
ん?アイドルをなんて?やはり声が小さすぎて、最後の方が全然聞こえなかった。
「すみません、最後の方が少し聞き取りづらかったので、もう一度お願いします」
「私、アイドル辞めます」
ようやくはっきり聞こえた。
「あ、そうなんですね」
えーとアイドルを辞めるんだな。そうか、アイドルを辞めるのか。ん?アイドルを辞める?それはつまりアイドルを辞めるということか。裏を返せばアイドルをしない。端的に言えばアイドルを辞める。何度聴いてもアイドルを辞める。
「えええええええええ、や、辞める!?な、なんでですか!!!!」
「私には向いていないと思ったので、ではあとはお願いします」
「ちょっ、ちょっと待ってくださ」ガチャ!
プープープープー
彼女は告げることだけつげ、こちらの返事を聞く前にそうそうに電話を切ってしまった。取り付く島もないとはまさにこの事。
「大きな声出さないでください。ウヴ」
酒寄さんが少し気分の悪そうな顔でそう言ってくる。
「す、すみません。あまりの出来事だったので」
「プロデューサーさん辞めると聞こえましたが、あと1人は来ないんですか」
先程のやり取りを横で見ていた佐々木さんが声をかけてくる。
「ええ、辞めるとだけ告げて電話を切られました」
「どうするんですか?このまま高宮さんが戻ってきたら、4人でアイドルグループ結成という形になりますが」
確かに、今のまま辞めることを了承すれば、そうなるだろう。だが少し引っかかることもある。それが何かと言うとオーディションに彼女が来ていたことだ。普通当日に辞めると伝えて来る人はオーディションにはそもそも来ないはずだ。もしかしたら記念受験のようなものできたら、たまたま受かってしまったとか家族の誰かが病気になってしまったなどの可能性も捨てきれないが、オーディション時の様子からそうではないように思う。つまり、何が言いたいのかと言うと彼女は本当にアイドル辞めたいのだろうかということだ。
それを確かめるすべは現状手元にはない。携帯電話ではダメだろう。かけた先で切られるのが目に見えている。では、どうしようか。家に直談判しに行った方が早いかもしれない。よし、そうと決まれば、早速彼女の家まで車で迎えに行くとしよう。幸い履歴書の住所は昔と変わっていない。
「今から、最後の1人藤崎舞花さんの自宅に向かいます。御三方は、冷凍庫にアイスが入っていますのでそちらを食べたり、話をしたりして待っていてください。できるだけ早く帰ってきますので少しの間だけお願いします」
俺はそう伝えると本日3度目となる車に颯爽と乗り込み、藤崎さんのところに向かうのだった。