夕ぐれは雲のはたてに物ぞ思ふ
天つ空なる人を恋ふとて
詠み人しらず『古今和歌集』巻十一、恋一。四八四。
「天狗攫い(てんぐさらい)」
江戸時代において、子供が消息を絶つ原因は天狗とされていた。天狗が子供をさらい、数ヶ月から数年の後に元の家へ帰しておくのである。
天狗攫いから戻って来た子供は、天狗と一緒に空を飛んで日本各地の名所を見物させてもらった、などと話す。また、天狗から様々な知識や術を教わったとする子供もいたという。
『Wikipedia』より
*
天から舞い降りた一陣の風が、晩秋の夕闇に濡れた楓の枝を寒々と震わせました。
ちぎり絵のように地面に貼られた
風の中から現れた細い手が、枯れ葉の合間に紛れていた一匹の玉虫の亡骸を、そっと掬い上げました。
「あれから八百年。……ですか」
闇に生まれた命の
これほど愛おしく、尊いものがあるだろうか。
あと幾ばくの
風が去ったあと、東の空から昇ってきた錆鉄色の
*
……忘れられたように里山の竹藪に残されている古びた東屋の中で、ひとりの天狗がぶつぶつと呟きながら、古めかしい手帖に何やら書き記していました。
椿の香油を馴染ませた艶やかな黒髪は肩のあたりまで散切りに伸び、おかっぱ頭のてっぺんには、ふさふさの
「うーん。どうも
天狗は言うと、手帖に綴られた高価な
天狗は、もうずいぶんと永い
「やっぱり無理に飾って書くのはね。ちゃんと自分の言葉で語らないと」
天狗はほうと息を吐くと、フリルのついた短いスカートから覗かせた華奢な脚を組み替えて、上質な絹糸で編まれた真珠色のブラウスの胸ポケットに、愛用の万年筆をしまいました。
それから手帖を静かに閉じて、
椛の意匠の上級な