「
自分の身体の半分ほどもあるモスグリーンのリュックを背負った女の子が、リュックと同色のキャスケットからはみ出たツインテールのおさげ髪を元気に揺らしながら、玄武の渓谷の川淵で待っている鴉天狗のもとへと走ってくるのが見えました。
取り引き場所にたどり着いた女の子はひと息ついたあと、スパナやら計算機やらの商売道具がいっぱいに詰まって牛蛙の腹のようにパンパンに膨らんだ巨大なリュックの底から、ごそごそと探り出したテニスボールほどの大きさの玉を二個、意気揚々として依頼主の文に手渡しました。
「ほぉー、これはすごい。思った以上の出来栄えですね」
女の子から受け取った「
「さすがは、幻想郷の天才エンジニアの誉高い、にとりですね。それで、お代はいかほどかしら?」
「ほいほーい」にとりと呼ばれた小柄な女の子は陽気に応えると、髪の毛と同じ水色のワンピースのスカートの裾にいくつも並んで縫い付けられたポケットのひとつから、
『納品書』
河童技術工房『河城エンジニアリング』
河城にとり
と書かれた茶封筒を取り出しました。
「ちょっとお高いんじゃない?」
封を開いた文は、納品書に目を通しながら不満げに親指の腹を
「これでも破格だよ? 原料の調査やら調達やら加工やらで、いろいろとコストが嵩んだんだから。それにオリジナルの通信機能に加えて、クライアントの注文どおりに通話の録音・再生機能もばっちし付けてるんだよ?」
「おっけー、わかったわ。まあお金の出どころは私じゃないし。ありがとう、はいこれ」
文は納品書をしまうと、
「まいどありぃ〜」にとりは嬉々として、受け取った報酬を懐のガマ口財布にすばやくしまい込みました。
「博麗神社の巫女は素直に買収……、いえ、お願いを聞いてくれましたか?」
「うん。文ちゃんにもらった札束を、言われたとおりにぜーんぶ賽銭箱に放り込んだら、あの守銭奴貧乏巫女、泣き喜んで陰陽玉を貸してくれたよ。神社の大事な御神体なのにね」
にとりは、涙と笑顔が入り混じってくしゃくしゃになった巫女の顔を思い出して、無邪気に笑いました。
「で、さっそく工房に持ち帰って成分を解析してみたんだ。そしたら、オリジナルの陰陽玉は、二酸化ケイ素で組成された酸化鉱物の石英種であることがわかったんだよ。つまり、『
にとりは、得意げに人差し指を立てて話を続けました。
「それから、鉱石探知機を使って幻想郷のあちこちを調べてるうちに、妖怪の山に瑪瑙の鉱脈があるのを発見してねー。急いで掘削機を作って原石を掘り出して、3Dプリンタで本物同様にレプリカの陰陽玉を出力したってわけさ」
「お山の鉱脈って、もしかして
文は驚いて、にとりと玉に交互に目をやりました。
「あの洞窟には
文は、手にした瑪瑙の玉を感慨深く見つました。
「にとりは明日、
そう言って文は、赤と白の勾玉が結合した陰陽玉のひとつを半分に割ると、そのうちの「白いほう」をにとりに託しました。
「へえ、それって分割できたんだ。うん、わかったよ。……そういえば、二個目の陰陽玉はなんに使うんだい?」
「ああ、これはですねー」文は、手元に残ったもうひとつの陰陽玉を愛しげに頬に擦り付けました。
「なんでも陰陽玉には、『甘い物をいくら食べても太らない』とか、『どんな香りでも自在に出せる』っていう効能があるみたいなの。博麗の巫女の身体からいつも桜のいい匂いがするのは、きっとそのせいよ」
淡い桃色の紅の塗られた艶やかな唇で、文は冷たい玉の表面にそっと口づけしました。
「巫女よりもずっと長生きの
「ふーん。そうやって人里の男を『勧誘』してるのか」
河童のにとりは、千年以上も生きている割にはシミひとつない鴉天狗の瑞々しい肌をじろじろと眺めました。
「人聞きの悪いことを言わないでくれます? ネタと読者は自分の『脚』で見つけるものなのです。……それではにとり、椛のこと頼みましたよ」
天狗はそう言って、