俺が余命宣告をされた翌日、俺達【冬桜】は冒険者ギルドに向かっていた。
俺の病を知ってまだ1日しか経っていないパーティの空気は最悪だ、昨日まで明るく楽しく4人で話しながら何度も通った道、4人で話していた時はあっという間に通り過ぎていたのに今では永遠に続く様に思える。
けれど世の中に無限なんて物は存在しない、それは地球でもこの世界でも同じ事でやがて冒険者ギルドに辿り着く。
まだ早い時間なのでそれほど混んでいないが後2〜3時間もすれば依頼を受ける冒険者と依頼しに来た依頼人で溢れ返る。
そして昼頃にその混雑は解消されまた夕方に依頼を終えた冒険者でいっぱいになるのだ。
「それじゃあ俺は依頼完了の報告と新しい依頼が無いか聞いてくるから皆待っててくれ」
「じゃあ私達はアイテムの補充と朝食を買っておくわ」
「頼んだ」
スフリの言葉に俺はそう返し1度仲間と分かれる、冒険者ギルドには様々な規則がありその中の1つに【依頼の受注及び達成報告はパーティリーダーが行う事】というのがある。
これはどのパーティがどう依頼を完了したか或いは失敗したかを記録しやすくする為だ。
「よぉスノウ、お前が来たって事は依頼は達成したな?」
そう声を掛けて来たのはギルドの制服に身を包んだ妖精人の女性、名をシュンと言う。俺達がこの街を拠点にし始めた頃から世話になっているギルド職員だ。
「依頼完了だ、春熊が飢饉に陥った村を1つ食い荒らした、生き残りは依頼人だけ、死体が判別出来る状態じゃなかった為数は不明、疫病や不死者の発生抑止の為村ごと焼き払った」
「モンスターじゃなくて魔生物だったか」
「ああ」
俺の言葉にシュンは眉を潜めながらもつらつらと用紙に内容を書いていく。
今回俺達が受けた依頼は【村に現れたモンスターの討伐】だった、しかし行った先に居たのは春熊と言う魔生物、モンスターと魔生物では大きく異なる。
モンスターとは魔力で肉体を形成した仮初にして純粋な怪物、故に力も狡猾さも何もかもが桁違い、代表例を挙げるなら小鬼や悪魔、不死者に吸血鬼等まぁ、誰もがモンスターと思う様な奴らだが余程の異常事態が起こらない限り強さはそのモンスター種の枠を逸脱することは無い、つまり同じ種なら強さにそこまで差は無いと言う事だ。
それに対し魔生物は熊や猪、狼や兎等既存の生物が何らかの理由で長時間魔力に晒された末に生まれる存在で今回の春熊や夏狼など変化した場所の季節や受けた魔力量等によって強さが千差万別になり冒険者の駆け出しで殺せる奴がいたと思えばベテランでも大苦戦、下手を打てば敗北する様な奴が生まれる事もある。
「まぁ、冒険者や騎士以外の人間はその辺の違いが分からんからな、やっぱりお前達に頼んで良かった」
「そうか、これでAランク昇格か?」
「上が審査するから確実な事は言えないが多分するんじゃないか?実績は十分、素行も問題無い、これで見送りになったら逆に何が足りないのか聞きたい位だな、これで良し」
そう言うとシュンは羽ペンを置き依頼完了の箱の中に用紙を入れる。
「そうか、それで、新しい依頼はあるか?」
「指名が1件、【春の神殿】から…………」
「じゃあな」
俺はその名前を聞き即座にその場を後にし3人の元に向かう。受付からギャーギャー騒いでいるシュンを無視して。
「懲りない奴らだ」
【春の神殿】この世界に存在する【五季宗教】と呼ばれる物の1つだ。
そもそもこの世界クアトリアは季節が変動する事がある。それも地球の様に1年かけてゆっくり変わるのではなくある日突然何の前触れもなく春が冬になったり冬が夏になったりする。それも決まったエリアでそうなるのではなく毎回何処がどう変わるのか完全にランダムなのだ。
何故そうなるのか誰も知らないが神話によればクアトリアを生み出した4人の神がどの季節にするかで争いになりその血がクアトリアに落ちる事で季節が変動するらしい。
そしてこの争いをしている4人の神を信じる者達こそ【五季宗教】、それぞれ【春の神殿】【夏の神殿】【秋の神殿】【冬の神殿】そして【四季の神殿】が存在する。
【春の神殿】は命の芽吹きと温もりを齎す春の女神【フラーテル】こそ至高であると主張している。何より命の誕生を祝福し死を逃れようとする。そして【命は全て女性から誕生する】と言う考えから女尊男卑の傾向が強く、教皇は歴代通して一切の例外無く女性だ。
【夏の神殿】は成長と熱さを齎す夏の男神【イグニ】こそ至高だと言う。何より成長を優先し実力さえあれば男も女も大人も子供も関係ないと言う考えで今の教皇は確か12〜3程の子供だという。
【秋の神殿】は豊穣と自然を齎す男神【スロウタス】こそ至高だと言う。日々の恵みに感謝し与えられた環境で生活する事こそ素晴らしいことだと謳う。故に教皇も代々初代教皇の血筋である。
【冬の神殿】は死と寒さを齎す女神【ディーン】こそ至高だと言う。生に差別はあれど死に差別は無いと謳い死は生命に与えられた限り無い贅沢なのだとか、当然だが命の誕生を尊ぶ【春の神殿】とは仲が悪い、教皇も死に最も近いと言う意味で高齢な者や病弱な者が選ばれ最も教皇の代替わりが激しい。
最後に【四季の神殿】は季節を司る神々に優劣は無く全て等しく最上の神だと言う、4つの神殿の元信徒達が集まりここ100年程で生まれた信教だ。教皇も毎回話し合いで決まり互いが互いを尊重する一番平和な宗教だが、新設故に他4つの神殿に影響力ではやや劣る。
そんな【五季宗教】の一つ【春の神殿】から3年程前から指名依頼が来ているのだが俺はそれを断り続けている。
理由は以前スフリの治療魔法に目を付け彼女の意思を無視して神殿所属の治療師にしようとしたからだ。
それ以来奴らからの依頼は全て断っている。スフリ自身はそろそろ許しても良いかな?と言うが謝罪の1つもない奴らに手を貸す理由は無い。そんな事をしていると奴ら報酬額を次々増額しているが例え幾ら積まれても依頼を受けるつもりは無い。
「お帰り、どうだった?」
そんな事を考えていると3人の方から声を掛けられ俺は素直に説明する。
「指名依頼は【春の神殿】からしか無かった、後は掲示板から良い依頼を見付けるしか無いな、そっちはどうだ?」
「問題無い、全部補給し終えた」
「なら飯食った後何か依頼が無いか見てみるか」
俺の言葉に3人も同意し俺は一先ず朝食を口にした。