エロトラップダンジョンマスターは教育に悪すぎる 作:蛍光ペン
異世界転生したらインキュバスだった件。
なんじゃそら、とは当初の僕も思ったことだ。後から知ったけど、インキュバスというのはサキュバスの男性版みたいなものらしい。
現代日本ではサキュバスの名を聞いたことがない人の方が珍しいくらい有名だと思う。知らない人の為に説明するなら、寝込みを襲って精気を吸い取るえっちな悪魔だ。
気が付いたら暗い洞窟の中に一人。頭から触角が生えてるし背中から翼が生えてるし何故か全裸だし。僕の精神は余裕でファンブルだったしSAN値チェックしたら全然ピンチだったと思う。
『種族名 インキュバス・E
個体名 なし
ダンジョンをカスタムしてください』
こんな感じの文章が空飛ぶ液晶みたいなウインドウに映し出されていて、パニックだった僕は逆に冷静になった。
だってウインドウを操作するくらいしかやることが無さそうだったし。黙々とそれを弄っていると、どうやらこの洞窟が僕のダンジョンであることが分かった。
異世界転生したらインキュバスでダンジョンマスターだった件。
「ダンジョンマスターは『Pt』を消費してダンジョンをカスタムする。モンスターの召喚、トラップの設置、ステージのギミック配備、ダンジョンのマップ改変…スキルロールも買えるみたいだ」
ブラックフライデーには買い物をしないのに割引商品を冷かしていた僕は、いつものように『Pt』を消費せずカタログを眺め続けていた。
これが案外楽しくて、時間の流れも忘れて熱中していた。頭のてっぺんから足のつま先まで網羅した中で、ある法則を見出す。
「特定の商品だけ格安な商品がある…『種族割引』みたいな感じかな」
原価に斜線が引かれて『○○%オフ!』と赤字で書かれている。
『服だけ溶かすスライム』『ゴブリン(媚薬付き)』『催淫ガストラップ』『オーク(媚薬付き)』『絶頂光線トラップ』『触手(媚薬付き)』などなど。
うん、あのこれさ。いや言いたいこと色々あるけど、一言にまとめるならこうだ。
「異世界転生したらインキュバスだったせいでダンジョンマスターなのにエロトラップダンジョンしか作れない件!!!」
床パンした後もウインドウと睨めっこを続けて、面白いギミックを見つけた。
それは『攻撃不可領域』をダンジョンに設定するというもの。それってダンジョンとしてどうなの?とは僕も思ったけど、よく考えたらこれはエロトラップダンジョンとの相性は良いのだと気付いた。
『攻撃不可領域』の詳細を注意深く見てみると、生命維持を脅かす行動又は肉体を傷付ける動作を封じるらしいのだ。要は剣や弓での攻撃や毒を盛る、挙句の果てには呼吸すら酸素欠乏による窒息に繋がる行動として意図的である場合のみ制限される。
僕はこれを自分のダンジョン領域全てに設定した。
そもそもの話、僕自身に戦う力はこれっぽっちもない。身を守る為のモンスターとして『種族割引』が適用される一番高額なモンスターでも高位のサキュバスだった。これは強いのかどうかも分からないしそもそも初期『Pt』ではどうあがいても購入できない。
どうやらカタログにはレートのようなものまであるらしく、僕の種族名が『インキュバス・E』だったことから他にも同じようなダンジョンマスターがいて、各々が自分のダンジョンをカスタムしているのだと思われる。多分。
その他のダンジョンマスターが見向きもしていないのがこの『攻撃不可領域』。お買い得な内に買っておいた。
「はぁ…♡ぁ…ハァ……ッ♡」
あれこれとダンジョンをカスタムしている間に、人間がやってきた。
最初はマジで焦った。『攻撃不可領域』しか設定していないのに侵入者乱入イベントとか無理ゲーにも程がある。
しかしこれが案外、無理ゲーではなかった。
艶っぽい息を吐き項垂れた状態で『触手(媚薬付き)』に拘束されている盗賊っぽい見た目の少女。まぁダンジョンなんてものがあるんだから、そりゃその世界の住人もファンタジーですよねと一人納得。
侵入されてからの経緯を簡単にまとめると、盗賊っ子が短剣を構えたと思ったら静止したのでその隙に『触手(媚薬付き)』を召喚、そのまま拘束するよう指示しただけ。混乱している盗賊っ子が抵抗しようとするがまたもや静止。後はぬるぬるぐちょぐちょともみくちゃにして終わりだった(健全)。
「これ、凄く良いな…ダンジョンの中が絶対安全になるのか。それを知らない侵入者は動きが止まるから隙を突けるし、怪我をさせないレベルの行動なら制限されないからこっちはノーリスクで拘束できる」
つまりこちらの攻撃は攻撃と認識されない。何故ならエロトラップダンジョンは相手を殺し傷付けるのではなく、無力化して苗床にするのが目的だからだ。
完全なる初見殺し。感動の余り背筋を言いようのない快楽が走り抜けた。
「まずはマップを弄るか。通路を伸ばして天井に『服だけ溶かすスライム』を配置しよう。落とし穴の下に埋め込むのもアリだな…装備を剥がすだけなら攻撃じゃないだろ。『催淫ガストラップ』はそこら中に配置してどんどんデバフを振り撒いて───」
片っ端から侵入者を苗床にしていたら、一人も帰還者が現れない最悪の迷宮…人の生の終着点という意味で『鎮魂の迷宮』と呼ばれるようになってしまった。
▽
どうやらダンジョンマスターは一年に一度、集会の場が設けられているらしい。
大人しく席に着いて周囲を伺うと、思った通りダンジョンマスターはアルファベット順にAからZまでの二十六人…二十六体?いるみたいだ。僕はEなので巨大な円卓の五番目に座っている。
隣に骨格だけの肉無しモンスターであるスケルトンが着席した。何となく会釈する。
「どもども。自分、スケルトンD4っス。個体名は無し、お隣さんとして今後ともよろしくっス」
「これはどうもご丁寧に。僕はインキュバスEです。その、どうしてスケルトンさんの名前はD4なんですか?僕には数字がついてないみたいなんですが」
「デスカウントっスよ。これまで何度命を落としたか、こうして名前に刻まれるみたいっス。自分はヘマばかりしてしまったんで、一年でこのざまっス」
そういうのもあるのか。
改めて見渡してみると多種多様なモンスターがダンジョンマスターであるようだった。しかもどうやら同じ種族はいない。
全ての席が埋まった頃、上座に座っていた美少年がおもむろに立ち上がった。
「やぁ、子供たち。みんなこの状況に順応してくれているようで何よりだ」
金髪に白装束、背中には大きな翼が生えている。僕らを子供たちと呼んだからには神、もしくはその使いの天使みたいな存在なのかな。正体は分からないけど造物主ではありそうだ。
ふと、その彼と目が合った。意味深に柔らかな微笑を浮かべるものだから僕は思わず首を傾げてしまう。
「まだ一度も死んでいない子は九人。中でも『Pt』を多く稼いでいる子が三人いるみたいだね」
思ったより皆死んでた。…と思ったが、僕もよく考えれば初日の早い段階で盗賊っ子に侵入されていた。『攻撃不可領域』がなかったら普通に殺されてたと思う。
それからも侵入者(苗床になっている子から聞いた話だと冒険者)である彼ら彼女らは矢継ぎ早にやって来た。下手したら毎日、半年が過ぎた頃には一日に数十人といった規模でやってくるようにまでなった。
なんでもダンジョンを攻略するとギルドから高額の報酬が支払われるらしいのだ。
「ドラゴンA、インキュバスE、ヴァンパイアS。君たちの活躍は目にしているよ。これからも人類の敵として彼らを脅かし続けて欲しい」
「質問、いいだろうか?」
スッと挙げられた手の方を見ると、燃えるような赤髪から立派な角を、背中から赤鱗に覆われた翼を生やした少女がいた。これはどう見てもドラゴンです。人型なのはどうして?
「我らは誰の為に、何をしたらいいのか。何故ダンジョンマスターというものを突然やることになったのか、それをいつまで続ければいいのか。いくつか聞きたいことがあるのだが」
「いいよ。なら一度も死んでいない子の数だけ、質問を受け付けようか」
その後、質問は九回行われた。
質問権はデスカウントが加算されていない九名それぞれに与えられ、各々が思いついた質問を口にしていく。
「あなたは何者か」「この世界の神、みたいなものかな」
「私たちは何をしたらいいのか」「ダンジョンを育ててくれればいいよ」
「何故」「私が見たいから」
「あなたを楽しませるためにダンジョンを育てろと」「そうだよ」
「人を殺すことに思うことはありますか」「ないよ。好きにしていい」
「いつまでダンジョンマスターでいればいいのか」「終わりまで」
「終わりとは」「世界の終幕。私が死ぬときかな」
「ダンジョンマスターに寿命はないのか」「生命じゃないからないよ」
「何かご褒美とかありませんか?」
「───え?あはは!いいよご褒美!あげるあげる!じゃあその年一度も死ななかった子には私からプレゼントをあげるよ!何が貰えるかはその時のお楽しみだけど、神からの贈り物だからきっと豪華だと思うよ?」
僕の質問を聞いてからテンション爆上がりなんだけど。
要はダンジョンを運営する装置として必要だから僕らが生まれたってことで、目的は特にないんだ。この少年───神様の暇つぶしの為に作られた存在ということ。
装置に寿命なんていらない。自分が死ぬまで一緒に遊びましょうってことだ。
ご褒美の一つでもないと付き合っていられないと思っただけなのに。
「私は創造神。この世の全ての起源を辿れば私に至るくらいの凄い神なんだ。次のお茶会はまた一年後!それまでにデスカウントを増やさなかった者にはご褒美を用意しておくよ!だからみんな、頑張って難攻不落のダンジョンを創造してね!」
言を終えると文字通りの瞬く間に、僕は僕のダンジョンへと戻っていた。行きと同じく、場面が切り替わるみたいに一瞬で景色が変わってだ。
そうか、僕の上には神様がいるのか。
人の死に思うところは無いみたいだけど、僕はこれまで通りに運営していこう。わざわざ殺さなくても利益が出ている現状を維持するって方向で。
神様も見てるって言ってたことだしね。
「…僕のとこ、エロトラップダンジョンだけど…見てるんだ、神様」
ちょっと見る目変わるんですけど。
▽
「E。話がある」
第三十三回目になるダンジョンマスターお茶会の開催で、僕はドラゴンAに声を掛けられた。とても穏やかじゃない雰囲気で。
「…えっと、はい。何でしょうか」
「別に敬語でなくてもいい。お前は我と同じファーストクラスだろ」
「いやぁ、そういうわけにもいかないんですよね…」
「なんなのだ」
真っ当にダンジョンマスターをしているであろうドラゴンAに比べて、僕の方はエロトラップダンジョンだから何となく下手に出てしまう。
ドラゴンAはスケルトンDの席にドカッと座ると、縦線の入った爬虫類の瞳をじろりとこちらに向けてくる。
「お前は何もかもが歪だ。肉体は貧弱なのに未だにファーストクラスであり続けている。我のように力で叩き潰す性質では無さそうだな。故に、その秘密を知りたい」
「嫌ですよ。僕のダンジョンは一度入ったら最後、二度と帰還することが叶わないのが売りなんです。Aを疑っているわけではないですけど、この世界には魔法だってある。情報を吐かせるスキルだって存在するかもしれない。どこから情報が漏洩するか分からない以上、身内以外に秘密を共有するつもりはありません」
なんて言ってるけど、エロトラップダンジョンなんですと言いたくないだけだったりする。インキュバスになって感性はそれなりに変化している自覚はあるが、それでも日本人としての僕が教えることを拒んでいる。
感性の変化。人間を苗床にすることに抵抗がなかったり、悦んでいる姿を見て異様に昂揚したりする辺りが分かりやすいかな。
「ふむ。───力尽くで聞き出す、と言ったら?」
「もちろん、抵抗しますよ。どうなっても知りませんから」
「…止めておこう。得体の知れないお前から何が飛び出してくるのか想像もつかない。無礼な真似をしたな。謝罪する」
思わず「あれ?」と口に出してしまう。意外と素直なのね。
ぐちょぐちょ(意味深)にせずに済んで良かった。何十年経っても相変わらず僕の得意分野はエロ方面だから、上澄みの実力者への対抗手段が限られてくる。いや、ほんとに悲惨なことにならなそうで安心した。
「そもそもこちらから何も提示しないまま一方的に聞くのもおかしな話であるな。我のダンジョンでは、全てのリソースを我自身の強化と有利な環境を配置することに捧げていてな。階層も一つしかない」
「…大胆ですね。言われてみれば確かにスキルも『Pt』で買うことが出来るんだから、一点特化するのは実際のところ有効な策ではあるんですね」
「それでも勝てぬかもしれん、と思わせるお前のことが気になって仕方ないのだ」
「なら、ダンジョンではなく僕自身の持っている能力についてなら教えてもいいですよ。こちらから聞いたわけではないですけど、Aの秘密を知ってしまった代わりに」
「なに?いいのか?」
『鎮魂の迷宮』は未だに難攻不落。盤石な環境が整っている反面、最初期のように僕自身が直接何かをするといったことは殆ど無くなってしまった。きっと、今後この能力が活かされることも無いだろう。
「僕はインキュバスですから、相手の認識を上書きする『催眠』や臭いで相手を発情させる『催淫』、後は相手のみを対象にした『時間停止』とか…あ、『触手』なんかを生やしたりも出来ますね」
「ちょ、ちょっと待て。とんでもない単語が聞こえたのだが…」
「『触手』ですか?良いですよこれ。モンスター扱いじゃないから実質タダなんですよ」
「いやいや!『時間停止』とはなんだ!?」
「…」
「黙るな!」
だってこれ、AVとかでたまに見るあれだもの。時間停止中に受けた責め苦は解除後にまとめて解放されるやつ。ちなみに意識ありなしの切り替え可。
これリアルで考えると無抵抗でダメージだけ蓄積していくのほんと無法だと思う。いつか神様に弱体化されるんじゃないかなとソシャゲ運営のバランス調整を見守る気持ちでいる。
「くっ!これ以上の詮索は無意味か…しかし聞いた後だと尚更敵に回したくなくなる男だなお前は」
「いやぁ、ははは」
僕も僕みたいな尖ったステータスの敵と絶対に戦いたくない。尊厳的な意味で。
と言うか、そろそろDが所在なさげにもじもじしてるのが可哀そうだからどけてあげなよ。休み時間に席取られた奴みたいになってるから。
▽
ダンジョンマスターになってから百年と少し。
僕は『鎮魂の迷宮』を攻略しに来た冒険者を例外なく返り討ちにしているけど、苗床になった彼ら彼女らをその後どうするかは結構深刻な問題だった。
人一人の一生分を生きたから分かったけど、神様の言う通り僕には老化という概念が存在しない。しかし、苗床の人間たちは当然そうではない。
「だったら眷属にしちゃえばいいんじゃない?そうすれば種族が変わるし君ってば特別なインキュバスだから、多分眷属も老化しなくなると思うよ」
とは神様の談。これはお茶会のご褒美で個人的に相談をしたときの話だ。
結局、神様のご褒美は望みを言えば可能な限り叶えてくれるといった形に落ち着いた。他のダンジョンマスターは『Pt』のボーナスをねだったり特別なスキルを要求してるけど、僕はこのご褒美をお願いすることが多かった。
収益は常にあるから『Pt』は別にいらないし、欲しいモンスターやスキルはカタログで買える。だから世間話したいですと言ったら笑って許された。Aは僕を信じられないものを見る目で見ていた。
「あれから眷属の数が大分増えてきたんですよ。今は人間の数が百人を下回らない範囲を調整しながら繰り上がり方式で希望者のみを眷属にしてるんですけど、如何せん冒険者の母数が大きいですし希望者が意外と多いから管理が大変で」
「君のダンジョン、五千人くらいが暮らす居住スペースあるもんね。と言うかあの家って何なの?この世界の生活水準を軽く上回ってるんだけど」
「あれ、カタログにあったんですよ」
前世の建造物が『Pt』で買えたのだから驚いたものだ。
家だけではない。見覚えのあるものなら日本製のものでも購入出来るようだった。前世の記憶持ちってそもそも僕だけみたいだけど、当初は他のダンジョンマスターにも当たり前にあるのかと思ってた。
「前世なんてものがあるなんて信じられないけどね。初めて聞いた時は驚いたよ」
「なんか僕だけずるしてるみたいで嫌なんですよねこれ。僕の知らないこの世界のものでも普通に買えるみたいだから、本人の認識に依存してるわけじゃないんですよね?」
「生まれたてで何も買えないって子が出ないように最低限組んであるからね。そこに本人の知識次第でカタログに追加されていくシステムなんだよ。本当なら、鍛造した武器とかを複製するとき用の仕様なんだけどね」
「へへ。旦那ぁ。欲しいものあったら言って下さいよ。あ、ケーキ食べます?」
「何それ。食べる食べる」
閑話休題。
眷属は自給自足、ってのも酷な話だからカタログの権限を与えて『Pt』を自由に使っていいと伝えてある。だからその階層は集落とかじゃなく街と呼べるほどに発展しているし、生活水準も既に日本レベルにまで向上している。
その『Pt』は君たちが稼いだものだからね。僕もうあんまり欲しい物ないから、好きに使ってくださいな。
一応ダンジョンの管理権限は譲渡していないから、眷属総出でやってきて階層の拡張を求められることも少なくない。
「いつの間にか国みたいになってるしね。君のダンジョンって今どうなってるのさ?」
「えっと、一階層で初見殺しトラップ置きまくってて、冒険者はそこでダウンすることが大半ですね。骨のある人はたまに二階層まで来るけど、ここには知性モンスターを徘徊させてるんで『攻撃不可領域』と一階層で受けたデバフの影響で抵抗できずにゴブリンとかに捕まってます。ここから先はまだ到達されてないです」
「…誰が攻略できるの、それ」
「無理じゃないですかね」
『鎮魂の迷宮』は命知らずが挑むダンジョンというレベルを超えて、自殺志願者が挑むダンジョンと評されている。
発生以降、誰一人帰還者がいない事以外は一切の情報がない。百年もの間、何一つ情報がないのだ。
まさかかつて冒険者だった眷属たちの居住スペースがあることなんて、誰が想像できるだろうか。
「希望者だけ眷属にしてるって言ってたけど、断った人はどうなったの?」
「そりゃあ死ぬまで苗床ですよ」
「…そこはちゃんとダンジョンマスターなんだね」
眷属から『Pt』を確保することはできない。魔物から『Pt』の獲得はできないという仕様だからだ。
なので苗床希望者は安定した収入源としてうちのダンジョンに貢献してくれている。
生涯をそこで終えるのは悲しいと思う反面、気持ちいい思いをして逝けるのだから感謝して欲しいものだ。
「んむっ!これ、ケーキって凄く美味しいね!次も甘いお菓子が食べたいな」
「これから先、時間ならたっぷりあるんですからいくらでも用意しますよ」
なんだかんだ、神様は付き合いが良い。
▽
最近、めっきり冒険者が来なくなってしまった。
たまに来たと思ったら既に満身創痍だったり目に生気が宿ってなかったりと先の短さを一目で感じ取れるような人種か、もしくは歴戦の雰囲気を感じさせる冒険者。そういう人達はみんな仲良く快楽漬けにしている。
しかしとうとうここまで来てしまったかと。冒険に対する意欲を刈り取ってしまうほどの畏れ。『鎮魂の迷宮』はラストダンジョンになってしまった。
「E様。今日はどのような衣装に致しましょうか?」
「…いや、好きにしていいとは言ったけどさ。ご主人様を着せ替え人形にする眷属ってどうなの?」
「だってE様ってば、顔がとても整ってらっしゃるのに美醜に頓着がないんですもの!勿体ないです!」
図太いなぁ。この子も昔は僕のダンジョンの苗床にされてた筈なのに、そんな過去など無かったかのように僕を慕っているみたいだ。謎である。
外界での暮らしより心地が良いのは間違いないとは思ってたけど、永遠の若さと日本基準に限りなく寄せた生活とそれなりの自由を与えてただけなのに(すっとぼけ)。
「E様E様!今度また日本語の教本を読んでくださいませんか?私、服のバリエーションを増やしたいです!イラストだけだと分かりづらい部分があって…」
「いいよ。時間あるし今からでも───っと、お客様みたいだね」
ダンジョン運営が最優先であると伝えているから、「ぶー」と不満げではあるものの眷属は引き下がった。
ウインドウを開いてどんな冒険者が来たのかを目視で確認してみる。
「E様って意外と賢いですよね。ダンジョンの入り口は如何にもこの大扉ですーって解釈できるよう設置してるのに、本当の入り口はその大扉と地続きに繋がってる洞窟だなんて。だからこうして攻略前に起こった出来事も覗き見できますもんね」
「ダンジョンに繋がっているだけのただの洞窟に見えるけど、実際はもうダンジョンの中だなんて誰も思わないよね。でも、なんだろう?今回は少し様子が違うみたいだ」
先に侵入してきたのはエルフの親子だった。珍しい。その後から怪しげな集団がダンジョンに侵入。追い詰められてここに来た、みたいな感じかな。
親子はどちらも首枷を付けている。お洒落にしては物騒過ぎる。
「あれ、奴隷ですよ。状況からの想像ですけど、輸送中に目を盗んで逃げ出したって感じじゃないですか?」
「やっぱ奴隷なんだ。…いや分かってたってば。そんな目で見ないでよ」
だとしたらあの集団は奴隷商人の雇われなのかな。剣やらナイフやら構えてる辺り穏やかな様子では無さそうだけど。
必死に我が子を抱える母親と、無気力な幼女。前者の目には涙が浮かんでいたが、後者の目には光がなかった。何があったらそうなってしまうのか、想像もできない。
「さて、まずは成り行きを見守るかね」