エロトラップダンジョンマスターは教育に悪すぎる 作:蛍光ペン
この世界には、迷宮都市と呼ばれる街がある。
その都市はダンジョンを中心に色んな人達───冒険者や商人などの住人が快適にダンジョン攻略を進められるよう発展していくものである。
ダンジョンマスター目線で考えると、人の出入りが増えると収入が増えることに繋がるのでありがたい話だ。その分、殺されるリスクも高くなっているとは思うけど。
『鎮魂の迷宮』の周辺でも迷宮都市が築かれそうになった時代があった。
このダンジョンを攻略するのは自分だと息巻いた冒険者が押し寄せていた、五十年目くらいの頃だったかな。
僕も詳しくは知らないんだけど、迷宮都市は冒険者が拠点にしやすい環境と発掘した財源を売り捌く流通があれば成り立つのだと思われる。
ならば帰還者の現れないダンジョンで迷宮都市が発展しないのは道理であった。
「この近辺には迷宮都市とは到底呼べないほどではあるけど、そうなる予定だった村はあるみたいだからそこを目的地にしようかと思う」
「…あなたの眷属、まだ手を振ってるけど」
旅立つまで滅茶苦茶心配されていたからね。名残惜しいのかな。
森の中まで入り『鎮魂の迷宮』の洞窟が見えなくなった頃、僕は同行者であるリリとクルルに向かって声を掛ける。
「僕は基本的にぬいぐるみの振りをしておくけど、何かあったらすぐにリリちゃんに『憑依』してリリちゃんを守るからね。リリちゃんはどうやって僕を運ぶんだっけ?」
「はい!紐で背中に結んで、私が背負って運びます!」
「よろしい。…本当はその役割、クルルさんの方がいいんだけど」
「やだ!ティディは私が運ぶの!」
「ってことだからしょうがないね」
心なしかクルルが疲れたような表情を浮かべている。僕のダンジョンで身綺麗になり、奴隷であった頃の面影など微塵もない筈なんだけど。当時の哀愁を感じさせる佇まいだ。
きっとクルルが説得を重ねてはみたものの、聞く耳を持たなかったんだろう。
しかし子供のやることだ…許してやろうじゃないか。
「装備とか急ごしらえで申し訳ないけど、問題なさそう?」
「大丈夫よ。と言うか、昔使ってたものよりも上等で驚いてるくらい」
クルルは昔そうだったという話を元に、腰に短剣と背中に矢筒と弓。胴体には革鎧を身に着けている。ちなみに下半身はハーフパンツで太腿を大きく露出している。趣味なのかな。
リリは本人希望で可愛さ全振りの衣装になった。上下共にフリルがふんだんに誂えられ、胸元にはこれでもかと存在を主張するピンクのリボン。自然な塩梅を眷属と相談しながら調整した為、胸を張って誰にでも自慢できる抜群の出来映えとなった。
身の安全?そんなの僕がいれば傷一つ付くことないから何も心配いらないのである。
「ティディ。抱っこしててもいい?」
「なんでよ。疲れるからこのままにしておきなよ」
「身体から離さなければいいんでしょ?」
僕の意見なんて最初から求められていなかったようで、あっという間に抱えられてしまった。可愛いだけのこの身では抵抗することも儘ならぬ。
「クルルさんや。お宅の娘さん、我が儘に拍車が掛かってないかな?教育上これは良くない傾向なのでは?」
「私は元気なリリが見れるだけで感極まってしまうの。慣れるまではしばらくこのままだから我慢して頂戴」
「そう言われちゃうと僕としても黙る他ないんですけど」
聞いたところによると、リリは数か月間の奴隷生活で身体の自由が利かなくなっていたようなのだ。今ではすっかり元気であることから、過度なストレスで自己防衛本能でも働いていたんじゃないかと思われる。
そんな時代のリリに常に寄り添っていたクルルの言葉を誰が責められようか。
「改めて言っておくけど、僕の『催眠』で生まれた猶予は一年だ。この長いようで短い時間で各地に散らばった奴隷エルフを解放していく、ってのが二人の願いを叶える為に僕が考えた方法だ」
「それは分かったけど、その…記憶は消さなくて良かったの?」
「僕が近くにいる限りはどうとでもなるから別にいいよ。ぬいぐるみを手放して別行動、ってなったら考えるけど、そうでない時はこのままでも問題ないかな」
「私はティディのことを忘れるなんてやだからね」
頭の上でむすっとしてるであろうリリの言葉には反応しない。
今この瞬間は僕自身のエゴで一緒に行動しているけど、結局第一に優先するのは僕自身の命だ。最悪、二人は切り捨てて僕の意識はダンジョンに帰ると伝えてある。
そんなことになるのは本当に最悪な時、そうならないよう最善を尽くすつもりである。
「世界中をしらみ潰しに探し回るってのは無謀も良いとこだから、僕のスキルを総動員して探していくよ。と言っても、一番初めに助けるのは君らを連れていた奴隷商人に捕まっている子達なんだけどね」
「…」
「うぅ…」
既に様々なスキルを用いて発見した奴隷商人が、目的地の村で休息しているようだからまずはそこを狙う。
…なんだけど、嫌なことを思い出しているのか二人の気分が落ち込んでしまった。
クルルは拳を握り締めているし、リリは僕を抱く腕が小刻みに震えている。
きっと不安なんだろう。それとも恐怖?またこれまでのように捕まって、同じような仕打ちを受けるなんて想像をしているのかもしれない。
「何も心配することないさ。僕がいる限り、君らの安全は保障する」
「…ティディ」
「僕はこれでも悪魔なんだ。交わした約束は何が何でも守る。エルフは全員無事に里へ帰れるし、君らの家族も取り戻すよ」
破ったらペナルティがあるとかインキュバスがそういう習性だとかは全くそんなことは無いんだけども、そのくらいの意気込みであるとハッキリ伝えておく。
「リリちゃんの願いで『精霊』さんと一緒に掛けた『催眠』、『エルフに危害を加えたくなくなる』は君らにも働いてるんだからそんな身構えなくてもいいんだよ?これは身内に接しているような親近感を相手に与えるっていう…強制力はないんだけど効力は確かなものだからさ」
ここまで言っても浮かない顔が晴れることはなかった。
実感が湧かないのかな?この世界で僕とまともに戦えそうなのはドラゴンAとヴァンパイアSくらいのもんだと思うけど。神様は天井だから横に置いとくとして。
しかも、負けないしね。僕が勝てるかどうかは相手次第だから。
「困ったなぁ」
せっかくの異世界旅。どうせなら楽しい旅路にしたいんだけど。
▽
到着した村は閑散の二文字が相応しい場所だった。
遠目に見ると家屋がちらほら建っているみたいだけど、人の通りは多くない。放牧されている家畜や畑で栽培されている野菜なんかが目に付くことから、自給自足で成り立っている村だと思われる。
人と自然が入り混じった環境、僕は日本でもダンジョンでも見たことのない光景に密かに感動していた。
「まずは宿を探そうか。無かったら僕がどうにかするから」
「分かったわ」
手製感満載の門をくぐって立ち並んだ家屋の間を進んでいく。
店のような建物が見当たらない。この辺りには『鎮魂の迷宮』くらいしか名所がないし観光客がわざわざ赴いてくることもない。精々が国を跨いで移動してくる商人の休息の場程度なんだろう。
僕はそれでも数百年振りだから、年甲斐もなくキョロキョロしてしまう。
「失礼。村長はいるかしら?」
僕が夢中になっている間に、クルルが通りすがりの老婆に声を掛けたみたいだ。
習わしとか分からないから驚いたけど、もしかしてこういう村って滞在する場合は村長に声を掛けておかないといけないのだろうか。そういった所に配慮出来ている辺り、クルルは内向的なエルフの中でも社交的なタイプなのかも。
「おや、エルフとは珍しいね。お前さんも冒険者かい?」
「いいえ。私は隣国からやって来た旅の者よ。今日はこの村でお世話になろうと思って」
「なら、安心だね。若い命をみすみす手放すもんじゃないさ。村長の家ならこの道を真っ直ぐ行った先にあるこの村で一番大きな家だよ」
指を差された方向へ目を向けると、一際目立つ屋敷があった。こんな寂れた村でも、立派な暮らしをしている人はいるらしい。
住めば都とは言うけど、僕には限りなく日本に近いダンジョンでの生活があるから羨ましいとも思わない。
「ありがとう。ついでに聞いておきたいのだけど、最近ここに商人は来たかしら?」
「いたよ。村のはずれにある小屋で昨日から泊まっているらしいね」
「…そう」
一瞬クルルは暗い顔を見せたが、すぐに取り繕って老婆に別れを告げた。
僕は声を掛けようかとも思ったけど、今は何を言ってもその不安を拭ってやることは出来ないだろうと、さっきの会話を思い出し飲み込んだ。
僕のことを信用してもらうには、その力を目の当たりにした方がよっぽど良い。
「御免くださーい」
「…エルフとは珍しい。何か御用ですか?」
向かった先の村長宅で出迎えてくれたのは初老の穏やかそうな男性。驚いたことに、僕の目はこの村長の『魔力』がそれなりに高いことを示していた。
何故、こんな辺鄙な村に彼ほどの実力者が?と思わなくもないけど、そのことに気が付いていないクルルは何事もなく話を続ける。
「今晩、この村に泊めて欲しいのだけど。宿か、無ければ空き家なんかを融通してはくれないかしら」
「それは困った。この村に宿は無いし、空き家は大勢でいらっしゃった商人の方に全て貸し出しているんだ」
「そうですか…」
これは僕が何とかするしかないかなと手段を考え始めた辺りで、「よろしければ」と村長が切り出した。
「我が家には空き部屋がいくつもありましてね。それを提供する分には何の問題もありませんよ。女性のみ、ましてやお子様もいらっしゃるあなた方では不安もありましょうから」
「それは…」
クルルはチラッと僕の方へ目配せをする。
この会話の流れで娘が抱えるぬいぐるみを見るの意味分からないからやめて欲しいんだけど。僕は反応できないので無反応を貫いておく。
「…えぇ。よければお世話になってもいいかしら?」
「勿論です。きっとうちの子も喜びますよ」
「あら、村長さん子供がいるのね」
「おりますよ。そちらの可愛らしい娘さんより少し大きいくらいでしょうか。きっと、仲良くできると思いますよ」
屋敷を案内してもらっている間、クルルと村長は子供談議に花を咲かせていた。
『大人同士の話は任せちゃおうよ。外にでも行ってみようか?』
リリがそこに混ざれず寂しそうにしていたので、僕が『念話』で提案してみると表情が一転、喜色に変わった。
「まま!私、外で遊んでてもいい?…あ、村長さん。遊んで来てもいいですか?」
「リリちゃんは気配り上手だね。勿論、好きに遊んできていいからね」
「うちの子がすみません」
「いやいや、このくらいの年齢なら当然の———」
と、話を最後まで聞かないままリリは駆け出してしまった。
村長が善意で自宅に宿泊するよう提案してきたのか、はたまた何か狙いでもあるのか。そして彼が何者なのかなど多くの疑問を残しながら、リリに抱えられたまま僕たちは庭へと飛び出したのだった。
▽
村長邸は屋敷なだけあって、庭も中々に豪勢だった。
足元には芝生が生い茂っているし、庭木は丁寧に剪定され隅々まで手入れが行き届いているように見える。花壇には豊富な種類の植物が花開いて、まさに庭園と言って差し支えない出来映えになっている。
「この村は田舎だと思ってたけど、そうとは思えないくらい立派だね」
「ねね。ここでピクニックしよ?」
「…いいね!そうと決まれば早速───」
『異空間収納』のスキルからレジャーシートを引っ張り出し、眷属に渡されていたお弁当が入っている籠を取る。
残念ながら、僕はぬいぐるみの身だと食事が出来ない。だからリリの分だけ、子供が好きであろうたまごサンドとフルーツサンドを眷属が作ってくれたと聞いている。
「夜ごはんまでにお腹を空かせておかないとクルルさんに怒られちゃうからね。今はこれだけで我慢できる?」
「わぁ───!」
僕にとっては軽食でしかないそれらを前にして、リリは目を輝かせている。
毎日似たようなものを食べている僕と違って、生活水準が低めの異世界人…且つ里暮らしのエルフともなれば食文化の違いで感じている温度差がどの程度なんだろうか。奴隷として扱われていた時の食事情なんて考えたくもない。
「ティディ!もう食べてもいい?」
「勿論。僕の眷属が愛情込めて作ってくれた弁当だから、食べてあげられない僕の分まで味わって食べてね」
「うん!」
次々サンドイッチを頬張っていくリリを『魔力感知』で視てみると、『精霊』から供給されている『魔力』が極端に減っていた。今はほぼ自力で身体を動かせるほどまでに快復している。
「リリちゃんはすっかり元気になった?もう辛いところはない?」
「もぐもぐ───大丈夫!」
「それは良かった。本当なら胃に優しい食べ物から摂取すべきだったんだろうけど、向こうでは気付かないでオムライス食べちゃったからさ。具合が悪くなったらすぐに言ってね」
この世界の『魔力』って、そもそもそこまで融通の利くものじゃない。
あくまで『魔法』のエネルギー源なだけであって、身体強化の『魔法』はあれど衰弱した肉体の補強だとかは出来るものではない。それをここまで万能なものにしてしまうのだから、『精霊』とはとことん不思議な存在である。
「食べながら聞いて欲しいんだけどさ。見たところリリちゃんには魔法の才能があるみたいなんだ。戦う力を身に着けたいならそっち方面で伸ばした方が良いと思うんだよね。無理強いはしないから、近接で格闘したいならそれはそれで考えるけど」
「…ティディが教えてくれるの?」
「そりゃそうだよ。折角こうして一緒になれたんだから、協力できる部分はどんどん力になるさ」
飛び上がって喜ぶかな、なんて思っていたらリリは突然俯いてしまった。パクパクと進めていたサンドイッチを食べる手までもが止まってしまっている。
今の流れで落ち込んでしまう理由が分からず、僕は困惑しながらそれを悟られないよう取り繕ってリリに尋ねる。
「どうしたの?」
「私、こんなにいっぱい貰ってばっかりだと、どうやってティディにお返しすればいいのか分からないよ」
「…なーんだ、そんなことか」
人と人とは助け合い、だとか。困ってる人に手を貸すのは当たり前、だとか。綺麗事を並べることは簡単だ。僕が真っ当な人間であれば、そんな言葉を使っても良かったのかもしれない。
でも、僕は人に害を成すモンスターだから───そんな資格はない。
「リリちゃんがまだ子供だからだよ。大人になって、敵として僕と対峙したその時は…改めて君に危害を加えるモンスターになる」
「ティディ…」
「お返しだなんて、そんなものはいらないんだ。リリちゃんが大人になって、自分の意思で僕のダンジョンを攻略しに来たその時、僕は君の全てを奪い取らなきゃならない。巡り巡って僕のものになる可能性があるから、リリちゃんに与える強さはその先行投資だよ」
人間はゼロから生まれることはない。必ずお腹を痛めて生んでくれる母親がいて、大人になるまでの道を舗装してくれる誰かがいる。どうやっても自力だけで生きることは出来ない。
そうして積み上げられてきた人生を、僕というモンスターは搾取する運命にある。
神によってゼロから生み出された僕は、人間とはかけ離れた存在だ。
他のダンジョンマスターと違うのは、前世。人の生の記憶があるから───行動や感情にバグが生じるんだ。
「私が強くなったら、ティディに勝てるようになるかな?」
「僕に勝つ?───不可能ではないんじゃないかな。限りなく無理ってのは変わらないとは思うけど、未熟な状態で僕のダンジョンを一番攻略して見せたポテンシャルはあるし」
ただ、純粋な強さだけでは『攻撃不可領域』を突破することは出来ない。
どれだけ筋力を上げようが魔法を極めようがスキルを磨こうが、僕のダンジョンの前では無意味だ。いくらリリが強くなったところで、僕にとっての脅威になり得ることは決してない。
「僕に勝つ為に強くなるってのも良いんだけど、自由に生きる為に強くなったらどう?」
「…自由に?」
「うん。この世界は常に身の危険と隣り合わせでしょ?自分や家族、大切な人を守るには脅威を跳ねのけるだけの強さが必要なんだ」
それが足りていなかったエルフの民は蹂躙されてしまった。
勿論、自分の利益の為に里を襲った奴隷商人が悪いっていうのは前提として、好き勝手に蹂躙されてしまったのは彼らが弱かったからだ。
極論だってことは分かっている。それでもこの世界は弱肉強食の文化が根強いから。
「これから先の人生、まだまだ長いんだからさ。やってみたいことやなりたいものをどんどん見つけられると思うんだ。弱いままだと好きなことをするのが難しい場面がきっとある。だけど、強くなればそれだけ取れる選択肢の幅が大きくなる」
リリは首を捻って「うーん」と唸り声を出す。
「難しい話だったかな?」
「うん…よく分かんないや」
「じゃあ、話を戻そうか。リリちゃんは剣でバッサバッサと敵を切り倒していく剣士と火や水の魔法をビュンビュン飛ばして敵を圧倒する魔法使いだったらどっちになりたい?」
「剣は怖いから魔法使いがいい!」
「よし!強い魔法使いになれるよう特訓しよう!」
「おー!」
「何がおー!なの?」
意気込んだ二人の間に影が差す。
顔を上げればそこには活発そうな見た目の少女がいた。長い茶髪を後ろで一本に束ね、動きやすい服装で腰に長剣を携えていることから戦闘の心得がありそうな出で立ち。
上気した頬は少女が運動後であることを示している。
「はわわ…どうしようティディ。会話を人に聞かれちゃったよ?」
「大丈夫だよ!僕は喋れるだけで害の無いただのぬいぐるみだからね」
「ぬいぐるみが喋ったら十分怖いんだけど」
「ダメみたい。ごめんねリリちゃん…僕たちはここまでみたいだ」
「わーん!ティディー!」
「なにこれ」
僕を決して離すまいとしがみつくリリを前に少女は困惑していた。
実のところ、近付いてくる少女の存在には気付いていた。しかし、少女が迷いなくこの屋敷の中庭に入ってきたことと村長に年頃の子供がいるという話が繋がって、対処する必要はないのではないかと気付いた。
仮に僕が動いてたと村長に伝えたとして、実際に動いているところを目の当たりにせず信じられる大人はいないだろうしね。
「僕はティディ。この子はリリちゃん。今、二人でピクニックをしていたところさ」
「淡々と自己紹介を始めないで貰える?まだ状況が飲み込めてないんだけど」
少女は疲労が溜まっているのか、気だるげにレジャーシートの上に腰を下ろす。
意外と肝が太いな。この状況で普通相席するかね。
「私はこの家で厄介になってるセリーナよ。向こうの裏山で剣の鍛錬をし終わったから戻ってきたところ」
「あ、やっぱり剣士なんだね。見たところ見習いって感じかな?」
「そうよ。少しでも早くこの村を出ていきたいから…って、なんでぬいぐるみの癖に私が見習いだって分かるのよ」
「年の功さ」
じろっと三白眼をこちらに向けるセリーナは物言いたげな風だった。
『鎮魂の迷宮』にどれだけの腕利きが侵入してきたか想像も出来まい。冒険者を始めとして騎士や兵士、その団長に至っては一騎当千の英雄クラスだったりしたから、多くの人材を見てきた僕の目利きはかなり自信がある。
「で、ティディは結局魔物なの?それとも何かの魔法?特殊なスキルで動かしてるとか?」
「部分的にそう、かな」
「なにそれ。真面目に答える気ないでしょ」
「心外だなぁ」
年の頃はリリの少し上くらい。問答に理性的な部分が見え隠れしているから話し過ぎるのも躊躇われた。
それでもヒントを与えているんだから、僕的にはこれでも最大限の譲歩なのに。
「セリーナちゃん!ティディは魔物だけど悪い魔物じゃないの!」
「ふーん。やっぱり魔物ではあるんだ」
「ボロを出すまでが早すぎるよリリちゃん」
「私のこと守ってくれるって言ってたし、私のこと強くしてくれるって言ってたし、私のことが大好きだって言ってたし!」
「うん、最後だけ言った覚えないね」
「それ以外は言ってるのね…とても強そうには見えないけど」
セリーナは僕の脇に手を差し込み抱き上げると観察を始めた。
わざわざ抵抗する理由もないのでされるがままになっているが、その光景をリリは気が気でない様子で見守っている。
ひとしきり観察して満足したのか僕を近くに置いて頭に手をポンと乗せた。
「リリは魔物使いってこと?ティディはその従魔とか?」
「似たような感じかな。僕とリリの間に契約関係はないけどね」
「それって野良の魔物に首輪を付けられてないってことよね。…あのねリリ。魔物ってあなたが思ってるよりも危険な存在なのよ?」
「むぅ。ティディは危険じゃないって『精霊』さんも言ってたもん」
「なにそれ。『精霊』さんって何よ?」
なんかややこしくなってきた。
説明するのも面倒になってきた僕は『異空間収納』から追加の弁当を取り出して目の前にこれでもかと広げて見せる。
「まあまあ!さっきも言ったけど、僕らはピクニックの途中だったんだ!良ければセリーナちゃんも一緒にどう?こんなものを用意してたんだけど…」
「…なにこれ。見たこと無いけど、パンよね?どこから出したのよ」
「食べてごらんよ!オレンジジュースもおまけで出してあげる」
「ん!これ凄くおいしい!」
その後、目を輝かせたセリーナはさっきまでの会話なんて忘れたようにピクニックを楽しんでいた。
子供は丸め込みやすくて助かるぜ…(悪い顔)。