武田家が近江に立つ少し前の事。
京ではとある噂が立っていた。
何でも夜になると何処からともなく黒い影のようなものが現れ老若男女関係なく攫って行くと言う。
実際夜のうちに行方不明となるものが続出し、京都守護を任されている三好長治は夜間の警備を強化するも京を見まわる兵たちも行方不明となってしまい悪化する一方であった。
行方不明になった人数は大凡500人。旅人も含まれているので実際はもっといる可能性があった。
しかし武田家が近江に来る数日前にこの現象は収まり京の人々は安心するのであった。
「ついに来ましたな義継様」
「ああ、武田どころか織田に浅井、あれは・・・松平か」
「4家連合軍ですか。数は大凡8万位ですかな?」
「おそらくな。対するこちらは三好軍5万と近江や周辺諸国のにゃんこう宗1万、合計6万か」
「数では不利ですな」
「ああ、にゃんこう宗のおかげで思ったより少ないのが幸いだな」
観音寺城の天主より敵の軍勢を見ていた三好義継と岩成友通は互いに話す。
4家連合軍が観音寺城付近に布陣してからすでに三日が立った。しかし相手は動かない。
「我らの軍勢を恐れているのかそれとも連合軍の総大将を決めかねているのか」
「おそらく後者でしょうな。松平と浅井はともかく、武田と織田のどちらが総大将になるかでもめている所でしょうな」
「なら今が攻め時か」
「かも知れませんな。連合軍とはいえ連携はほぼ不可能でしょう」
「だな。恐らく武田が勝つために3家を集めた感じだし」
「では出陣の準備をさせて来ます」
「ああ頼む」
友通は出陣の準備をするために天主を後にした。
一人になった義継は目をつぶり呟いた。
「・・・長逸。お前に何があったんだ?」
休暇を貰い京で羽根休めしていた三好長逸は京で起きた連続行方不明の被害者の一人であった。
いなくなった日長逸はいつも通りに過ごしていたそうだが、朝になると部屋にいなかったと言う。
それから何日たっても戻らないと長治より連絡を受けた時は驚いたものだ。
「・・・無事でいるといいんだが」
長逸の他にも家臣で行方不明になったものはいた。
京に滞在していた香川之景、信景兄弟に香西佳清などの讃岐衆なども行方不明となっていた。その為讃岐は有力者の喪失により一時期混乱するが三好康長を讃岐に置くことで混乱は収まった。
他にも京にはいなかったが海部城城主の海部友光や一門衆では三好為三が行方不明となっており三好家はかなりの将を失っていた。
しかしこのことは三好家にとどまらず他家でも起きていた。
同盟関係にある長宗我部家では元親の弟である吉良親貞、香宗我部親泰、家臣では谷忠澄が行方不明となっていた。これらは各地で起きているらしく将の減少が理由なのか、出兵する家が少なくなった。
出兵しているのは三好家や三好に反対する家のみだろう。
「・・・ここで考えても仕方がないか」
義継は考えをやめて天主を後にした。
所変わって観音寺城付近に布陣する連合軍は武田家の本陣では義継の予想通り総大将を誰にするのかでもめていた。
別々に攻撃してもいいのだが相手は天下人の三好家、しかも当主三好義継が自ら率いているのだ。運が悪ければ各個撃破される可能性があった。
故に連携して戦おうとなっているのだが、織田、松平はともかく今迄味方同士力を合わせてので戦などしていないので指揮の上手い物が総大将となるべきなのだがここで問題が起きたのだ。
武田家当主武田信玄が強引に総大将となろうとしたのだが織田家当主織田信奈が反発。既に味方同士で争いが行われていた。
「織田信奈よ、貴様の気持ちは分かるが貴様にあたしの騎馬隊の指揮をとれるのか?総大将となるべきはやはりこのあたししかいない」
織田信奈と向き合う形で座って居た赤い髪の女性が言う。
この者こそ「風林火山」の文字を旗頭に「甲斐の虎」と恐れられている姫武将・武田信玄である。
20になるかならないかの年頃の姫大名であるがその人生はすでに一生分の経験を積んでいた。
幼い時に実の父を追放して当主となってからは他国を攻めて攻めて攻めまくり他国の武将たちを恐怖へと追い込み、宿敵・上杉謙信とは4度の戦を経験していた。特に最後の戦は総大将同士の戦いになるほどの激戦を極め、両軍ともに多大なる犠牲が出ていた。
そんな経験から彼女からはとてつもない覇気が溢れており天下不武を掲げる織田信奈ですら押されるものがあった。
「確かにそうだけどあなたこそ私の鉄砲隊を上手く扱えるの?それに騎馬隊は私の所にもあるし扱いは慣れているわ」
対する織田信奈も反論する。信奈のいう通り武田家には鉄砲はあっても隊は存在しなかった。単純に東国にまで鉄砲が出回らないからである。故にさすがの信玄も鉄砲隊の扱いは皆無であった。
「ふん、確かにあたしは鉄砲についてはよく知らん。しかしそれはお前にも言えるぞ。我が騎馬隊はそこら辺の騎馬隊より精強だ」
「そんなもの、普通に扱えるわ」
「第一どちらが強いと言われればあたしの方だろう。自ら軍神と称している上杉謙信と何度も戦っているしな」
「・・・っ!」
「それに比べ貴様は大した経験を積んでいないだろう?桶狭間は確かに驚いたがあれは単純に義元が油断していたからだ。あれがあたしや謙信だったら織田に勝ち目はない」
「・・・」
「そう言うわけだ。何、今は味方同士なんだ。酷い扱いはしないよ。負ければ責任もすべてあたしが持つ。それでいいだろ?」
「・・・」
信奈は俯きながらも確かに頷いた。
「浅井、松平も文句はないな?」
信玄は今迄黙って聞いていた二人にも確認する。
「問題ない。信玄殿には期待している」
「わ、私も問題ないです~」
浅井長政、松平元康も了承の返事をする。
それを見た信玄は満足そうに頷き声高らかに宣言する。
「よし、ではこれより連合軍の総指揮はこのあたし、武田信玄がとる!必ずや観音寺城を落とし、三好家を滅ぼすと誓おう!」
ここに武田信玄が総大将となる事で表面上は連合軍は一つになるのであった。
次回から戦となります。
これからも「三好義継の野望」をよろしくお願いいたします。