ハリー・ポッターと魔法使いの嫁 作:ナメクジ食らえ!!
「あの、エリアス」
「なんだい、チセ」
「今はどこに向かっているんですか?家ってここから近いんですか?」
「そうだね、ここら辺でいいか」
エリアスは足を止め、チセの手を握った。
「姿くらましでもいいけどね、せっかくだからチセに僕の魔法をみせよう。しっかり手を握っているんだよ?」
チセはエリアスの手をしっかりと握りこんだ。エリアスはそれを確認すると、言葉を紡いだ。
「影にイラクサ ヒイラギの輪 十重に二重に 蜘蛛の巣糸をかの枝に紡げ」
チセが再び目を開けると、そこは暗い路地裏ではなく一般的な民家の目の前に変わっていた。
「どうだい、これが僕の言う魔法さ。さぁ、夜も更けていることだ色々説明したいこともあるけどとりあえずそれは明日にしよう」
翌日
チセは久しぶりに感じた快適な睡眠に別れを告げながら1階のリビングに降りてきた。すぐ隣のキッチンに向かうと料理をしている女性がひとり。チセが慌てて挨拶をするも、女性はこちらを見つめてくるだけ。何をしたらいいかわからず混乱するチセにエリアスが後ろから声をかけた。
「おはよう、チセ」
「お、おはようございます、エリアス。あ、あのこの人何をいっても見つめても来るだけなんですけど、何か失礼なことをしてしまったのでしょうか?」
「あぁ、この子はね銀の君と言ってこの家に住み着いている妖精なんだよ。この子は喋ることはないから気にしないで。チセのことは歓迎していると思うよ。その証拠にほら」
銀の君と呼ばれる妖精の手元を見るとおいしそうに焼けたベーコンエッグが二人分。おそらく、チセとエリアスの分だろう。これは言葉がしゃべれない銀の君なりの歓迎なのだろう。
「ささ、立ってないで食卓に行って朝食を食べよう。朝食を食べ終わったら魔法について、この世界について色々理解してもらうからね」
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チセは朝食をエリアスと共に食べ終え、適当な椅子に座った。エリアスも適当な椅子を身繕い座ると、コホンと咳ばらいをして話し始めた。
「まず、色々と説明することがあるのだが整理して説明しよう。とりあえず、魔法についてから。昨日、僕の魔法を見せた手前言いづらいんだけど僕の魔法は普通の魔法とは違うんだ。ややこしくてごめんね。まあ仮に僕の魔法は今妖精魔法と呼ぶことにしよう。」
「まず、色々と説明することがあるのだが整理して説明しよう。とりあえず、魔法についてから。昨日、僕の魔法を見せた手前言いづらいんだけど、僕の魔法は普通の魔法とは違うんだ。ややこしくてごめんね。まあ、仮に僕の魔法は今、妖精魔法と呼ぶことにしよう」
「妖精魔法……ですか?」
「そう。まずは普通の魔法について説明しようか。チセは魔法というものについて、どの
くらい知っているんだい?」
「えっと……魔法使いが杖を振って、不思議なことを起こすもの、でしょうか」
「ふむ、間違いではないね。では、少し詳しく説明しよう」
エリアスはそう言うと、テーブルの上に置かれていたカップを手に取った。
「この世界における魔法というのは、簡単に言えば、魔法使いが自身の魔力を使って、自然の法則に反するような現象を引き起こす技術のことだ。例えば、物を浮かせたり、姿を変えたり、炎を生み出したりね。そういった現象を、自分自身の魔力を使って実現するんだ」
「自分自身の魔力……」
「そう。魔法使いは生まれながらに魔力を持っている。そして、その魔力を意志によって制御し、特定の現象を引き起こす。もっとも、ただ魔力を持っているだけでは何もできない。魔法にはそれぞれ決まった理論や手順があって、それを理解し、正しく扱う必要があるんだ」
「それが呪文、ということですか?」
「その通り。一般的には杖を使い、呪文を唱えることで魔力を制御して魔法を発動させる。杖は魔力を導き、魔法の方向性を定めるための道具だね。もちろん、熟練した魔法使いなら無言で呪文を唱えたり、杖を使わずに魔法を扱ったりすることもできる。ただ、基本的には杖を使うものだと思っていい」
「なるほど……」
「さて、ここまでが普通の魔法の話だ。では、僕の妖精魔法はどう違うのか。実は、魔法を使う仕組みそのものが違うんだよ」
エリアスは手にしていたカップを置き、チセの方へと向き直った。
「普通の魔法は、魔法使い自身が魔力を使って現象を引き起こす。対して妖精魔法は、僕
自身が直接魔法を使うわけではない」
「えっ? それじゃあ、誰が魔法を使っているんですか?」
「妖精さ。僕は妖精たちに魔力を与え、その対価として彼らに働いてもらう。つまり、魔力を支払って妖精に現象を引き起こしてもらうんだ」
「妖精に……?」
「そう。例えば、昨日の魔法もそうだね。僕が直接空間に干渉して移動したわけじゃない。妖精たちに魔力を渡し、彼らの力を借りてあの場所まで移動したんだ」
「じゃあ、妖精さんたちが魔法を使っているんですか?」
「正確には、魔法とは少し違うけどね。人間の魔法使いが魔力を使って現象を引き起こすのに対して、妖精たちは自身の性質や能力によって、それに相当する現象を起こす。僕はその力を借りているに過ぎないんだ」
エリアスはそこで一度言葉を切り、チセの反応を窺った。
「それと、もう一つ大きな違いがある。妖精魔法には杖が必要ないんだ」
「杖が……いらない?」
「うん。そもそも杖というのは、人間が自分の魔力を制御するために使う道具だからね。妖精魔法では魔力を妖精たちに渡すことが目的だから、杖を介する必要がないんだ。もちろん、魔力を渡す方法や妖精たちとの意思疎通には、ある程度の決まりがあるけれどね」
「そうなんですね……」
「もっとも、妖精魔法だからといって何でもできるわけじゃない。妖精にはそれぞれ得意
なことがあるし、彼らにも意思がある。こちらが望んだからといって、必ずしも力を貸してくれるとは限らないんだよ」
「でも、それならどうしてほかの魔法使いは妖精魔法を使わないんですか?」
チセの疑問にエリアスは満足そうに答えた。
「いい質問だね。理由はいくつかあるんだけど、一番大きいのは、人間と妖精の関係が昔とは大きく変わってしまったことにある」
「人間と妖精の関係……?」
「そう。今でこそ妖精は人間から距離を置いているけれど、昔はそうじゃなかった。人間と妖精はもっと身近な存在で、互いに関わり合いながら暮らしていたんだ。人間が妖精に魔力を与え、妖精がその対価として力を貸す。妖精魔法も、そうした関係の中で生まれたものなんだよ」
エリアスはそこで一度言葉を切った。
「けれど、長い年月の中でその関係は変わってしまった。人間は妖精を利用し、時には彼らの意思を無視して力を引き出そうとした。妖精を使役しようとしたり、対価を支払わずに力を求めたりね。そういった出来事が積み重なって、妖精たちは次第に人間を信用しなくなっていった」
「そんなことが……」
「人間の側も変わったよ。妖精との交流が減るにつれて、妖精魔法の知識は少しずつ失われていった。妖精に魔力を渡す方法も、彼らと意思を通わせる方法も、正しく伝える者がいなくなってしまったんだ」
「それじゃあ、今はもう妖精魔法を使える人はいないんですか?」
「少なくとも、一般的な魔法使いには難しいだろうね。今の妖精たちは人間から差し出された魔力に、ほとんど反応しなくなってしまったから」
「でも、エリアスは使えていますよね?」
「僕は少し特殊だからね。それに、チセ。君もおそらく妖精魔法を扱えると思うよ」
「えっ、私がですか?」
エリアスは頷いた。
「君の持つスレイベガという体質が関係しているんだ。スレイベガは普通の魔法使いとは少し違う。君が生み出す魔力は、一般的な魔法使いのものとは性質が異なっていてね。より純粋で、妖精たちにとっては非常に好ましいものなんだ」
「純粋……?」
「その通り。もちろん、魔力を持っているだけで使えるようになるわけじゃない。妖精たちとの関わり方や、魔力の渡し方を覚える必要がある。まあ座学だけでどうにかなるものでもない、実際にやってみたらわかるよ。」
「なるほど」
「さて、魔法についてはひとまずこんなところかな。ほかにも説明しなければならないことは山ほどあるけれど、次はチセのこれからについて話をしよう」
「私の、これからですか?」
「うん。実は君には、二年後にホグワーツ魔法魔術学校へ入学してもらおうと思っているんだ」
「ホグワーツ……?」
聞き慣れない名前に、チセは首を傾げた。
「ホグワーツは魔法使いの子供たちが通う学校さ。魔法の基礎から歴史、薬学、魔法生物についてまで、魔法に関する様々なことを学ぶ場所だよ。イギリスにある古い城を校舎としていてね。全寮制だから、入学すれば基本的にはそこで生活することになる」
「学校……。魔法使いの学校があるんですね」
「そう。魔法使いの子供は通常十一歳になる年に入学する。君は今十歳だから、入学まではあと一年あるね」
「どうして、私がそこに?」
チセにとって、学校というものは決して縁遠い存在ではなかった。しかし、魔法使いの学校となれば話は別だ。そもそも自分がそこに通うことなど、考えたこともなかった。
「理由はいくつかあるんだけどね。まず一つは、君を守るためだよ」
「私を……?」
「さっきも話したけれど、君のスレイベガという体質はとても珍しい。それだけに、君の力を欲しがる者も少なくないだろう。魔力を狙う者もいれば、君自身を利用しようと考える者もいるかもしれない」
エリアスはいつもの調子を崩さないまま、淡々と続けた。
「僕のもとで暮らすのも悪くはないけれど、僕一人で君を守り続けるより、ホグワーツのような場所にいた方が安全なんだ。あそこには強力な魔法使いが何人もいるし、学校そのものにも様々な防護魔法が施されている。何より、魔法使いの社会においても特別な場所だからね」
「そんなにすごい学校なんですか?」
「歴史も長いし、優秀な魔法使いを数多く輩出しているよ。少なくとも、君を守るための場所としては申し分ないだろうね」
「でも、エリアスとは離れて暮らすことになるんですよね……?」
チセの声には、わずかな不安が滲んでいた。
「そうだね。もっとも、休暇の間はここに帰ってくればいい。僕だって、君をずっと学校に預けっぱなしにするつもりはないよ」
「そう、ですか……」
「それに、もう一つ理由があるんだ」
エリアスは少し身を乗り出した。
「君には、妖精魔法だけでなく、現代の魔法についても学んでほしいんだよ」
「現代の魔法……」
「そう。妖精魔法は確かに興味深いものだけれど、それだけを学んでいては視野が狭くなってしまう。魔法使いとして生きていくなら、この世界で一般的に使われている魔法についても知っておくべきだ。ホグワーツなら、そのための知識や技術を一通り学ぶことができる」
「私にも、普通の魔法が使えるようになるんでしょうか?」
「もちろん。君に魔法使いとしての素質があるのは間違いないからね。ただ、どの程度扱えるようになるかは、これからの努力次第かな」
エリアスはそう言うと、椅子の背もたれに身体を預けた。
「というわけで、これから一年間は準備期間だ。文字や数字、それから魔法界の常識も覚えてもらわないといけない。もちろん、妖精魔法についても少しずつ教えていくつもりだよ」
「一年間で、ですか……?」
「そう。なに、焦る必要はないさ。二年もあれば十分に準備できるだろう。君はまだ十歳なんだからね」
エリアスはテーブル越しにチセを見つめた。
「これから一年間、一緒に頑張ろうじゃないか、チセ」
「……はい。よろしくお願いします、エリアス」
チセは少しだけ表情を和らげ、そう答えた。