「嫌いなスケート選手をぶっ跳ばせる」と誘われた 作:高島智明
葛城由麻はまるで革の鎧の様な防具に身を固められ、アイスホッケー・リンクのゴールの前に立たされた。
元々、アイスホッケーの選手は、全身に厳重な防具を装着することを義務付けられているが、ゴールキーパーは更に分厚い防具を身に付ける。
プレイヤーと同様に、手袋(グローブ)肩周り(ショルダー)や腰周り(パンツ)やひじ(エルボー)のパッド、喉・首を守るネックガード、脛を守るシンガード、マウスガード等そしてGKだけの顔面を保護する機能のあるヘルメットを被り、手の甲や足に特殊なパッドを装着し、スティックを持たない方の手にはパックをキャッチするためのグローブを嵌める(野球で用いられるファーストミットに似ているが、サイズはこれよりも大きい)。
基本的に防具も靴もGK用のほうが頑丈に作られているが、背中を見せることの無いGKの性質上、後部はプレイヤー用のほうが強固に作られている。
そのことも、如何に前面からの攻撃に晒されるかを意味していた。
その姿で、他のグラウント球技に比較すれば意外な程に小さなゴールの前に立ち塞がると、スティックを手にしたプレイヤーがパックを追う様に突っ込んで来る。
激しい。
元々、アイスホッケーと言えば「パックが絡めば、多少のラフプレーは反則に成らない」などと噂れる程の激しいプレーだ。
それに、氷の上を滑る選手は早い。
スピードスケート代表の兄を持つ由麻は知っている。スピードスケートは陸上競技よりも早い。
その勢いを乗せて撃ち込まれるパックも早く強い。
アイスホッケーからゴルフに転向した選手がショットするとグリーンを遥かにオーバーした、などと噂される位だ。
キャプテンの篠崎飛鳥が、格闘技からGKをスカウトしようとする訳だった。
だがしかし、由麻は恐れない。
格闘技で鍛えた勇気と自分の格闘技への自信、そして此処に来て実感させられた、
「貴女の嫌いなスケート選手を、ぶっ跳ばせるわよ」
という飛鳥のスカウトしたときのセリフが闘志を掻き立てていた………。
……。
…その日の練習は終わった。
当然ながら、何度もパックや体当たりの直撃を受けていた。
女の子の身としては、酷な位な打ち身を作っていた。
防具に守られていなければ其れで済まなかったかも知れないが。
だがしかし、それでも由麻は爽快だった。
両親や兄へのコンプレックスすら、終わってから思い出した位だ。
格闘技を選んでからの爽快さを思い出す気分だった。
「やれる。私でも氷の上で戦えるかも知れない」
由麻は今や、スカウトしてくれた飛鳥に感謝すらしていた………。
……。
…練習の日々は、みるみる過ぎ去り、そして由麻のGKとしての最初の対外試合に臨む日が来た。
闘志も満々に試合会場に向かう由麻だったが、1つ「うっかり」が在った。
同居している家族に隠し通せることでも無く、そして極普通に由麻を可愛がっている家族だった。
当然に、由麻の初陣を応援する積もりだったのだ。