「嫌いなスケート選手をぶっ跳ばせる」と誘われた 作:高島智明
「スケート競技のサラブレッド、遂に”氷上の格闘技”にデビュー!」
そう仰々しく題された記事は、結局は出た。
尤(もっと)も、インタビューに応えたのは、専ら本人の両親と兄だった。
例によって、読者を引き付けそうに切り取られていた。
「娘が選んだ道を応援している」
「妹が格闘技をしていたことが役立った」
そんな処だけが強調されていた。
チームのキャプテンが言い切った台詞などは、ひと言も掲載されなかった………。
……。
…その記事は、結局はチームの皆も読んだ。
チームの先輩たちの前で小さくなる葛城由麻に対してチームメイトたちは、
「貴女、期待されているわね」
としか言わなかった。
先輩たちの軽い調子の声の奥に、由麻を気遣う温度が確かにあった。
両親と兄の言葉だけが切り取られた記事を見て、胸の奥が少しだけ冷たくなった由麻だったが、その温度を暖めてくれる感触が確かに在った。
「さあ、練習、練習!」
キャプテンの篠崎飛鳥は、そう纏めた。
(…このチームに入って好かった…)
由麻には、そう思えた………。
……。
…疑いの心で見れば、見えない筈の幽霊を見る。
次の対戦相手は何故かゴールキーパーの由麻を警戒しているかの様に、由麻には思えた。
そうで無くても激しい、格闘技の経験者をGKにスカウトしようとする様なアイスホッケーという競技である。
由麻は身の危険すら感じた。
それでも、勇気を振り絞り、身体を張ってゴールを死守した………。
……。
…1戦、又1戦と勝ち上がって行く由麻や飛鳥のチーム。
遂に、代表候補と噂される強豪チームとぶつかる時が来た。
激しい戦い。
由麻や飛鳥だけでは無い。
チームメイトが死力を振り絞った戦いも、結果は無残だった。
戦い終わって、リンクにパックをキャッチする為だったグローブついた瞬間、胸の奥がじわりと熱くなった。
これが「負ける」という感覚なのだと由麻は知った。
戦い終わって無念の涙を流すチームメイトたちだったが、飛鳥は由麻にもチームメイトたちにも言った。
「泣け、そして忘れるな。泣いた分だけ強く成ろうよ」
けれども、由麻には其れだけでは無かった。
由麻の存在は注目されていた。
初めての挫折感を乗り越える様にトレーニングを再開したチームだったが、試合結果は大きく報道されていた。
相手が代表候補だっただけでは、明らかに無かった。
由麻の存在が注目されていた。
あからさまなバッシングこそ無かったが、ジャーナリズムは由麻の未熟を指摘した。
その記事を知った時、由麻には、あの感情が呼び覚まされた。
まるでスケートから逃げる様に格闘技を選んだ過去が。
そんな由真に、飛鳥やチームメイトたちは只こう言った。
「負けて泣いた分だけ、強く成ろうよ」