「嫌いなスケート選手をぶっ跳ばせる」と誘われた 作:高島智明
あの強豪チームに対する、テンプレートの様な奇蹟の勝利から又、季節は巡った。
葛城由麻は、今はゴールキーパーとして、チームの中堅選手に成長していた。
あれから、チームには新たに優秀な新人も加わり、チーム力は着実に向上していた。
遂に、国民スポーツ大会に在籍する地方の代表として参加する機会を目前にした。
その代表権をかけた試合の相手は、あの強豪チームだった。
試合会場へと向かう道中。
由麻たちチームメイトは、キャプテンの篠崎飛鳥が、これまでに無い感情の中に居ることに気付いた。
今シーズンでチームを卒業する飛鳥ら先輩たちは、もし此処で敗れれば此れが最後の試合に成るだろう。
その事実が、飛鳥たちを緊張させていた。
(勝ちたい。キャプテンの為にも、ここまで成長した自分を見せる為にも)
そんな想いで会場に向かう由麻たちだった………。
……。
…リンクを前にして、飛鳥はその場で足を止め、ゆっくりと深呼吸をした。
由麻は、その背中に言葉にできない重さを感じた。
「……ここで終わるか、続くか。どちらでも、悔いは残さないようにしよう」
飛鳥の声は静かだったが、由麻にはその一言が胸に深く響いた。
勝てば、先輩たちの物語はもう1章続く。敗れれば、今日が最後のページになる。
由麻はスティックとグローブを握り合わせた。
「キャプテン……私、守ります」
飛鳥は振り返らずに只、小さく頷いた。
会場の扉が開く音がした。その向こうに、強豪チームの影が揺れていた………。
……。
…1進1退…第1ピリオド…第2ピリオドそして最終ピリオド…決着は着かない。
オーバータイム(延長戦)は基本的に5分間、先に得点を入れたほうが勝ちとなるサドンデスだ。
その1点を求めて、相手チームが由麻の守るゴールに迫る。
「負けない!このゴールは許さない!」
……遂に、勝敗の1点が決まった。
(…勝った…)
由麻は氷に膝を着いた。由麻だけでは無い。
飛鳥を始め、チームの誰もが力尽きたかの様だった。
その由麻や飛鳥たちを、戦い終わった敵チームが讃えていた………。
……。
…国民スポーツ大会の開会式。
飛鳥や由真たちが他競技の選手たちに交じって行進していた………。
……。
…流石に全国だった。
由麻たちのチームは、激戦区を勝ち抜いた北国の代表に敗れたものの、最後まで全力を尽くし戦った。
試合後、敗戦チームとは思えない取材を受けた。
その理由は明らかだったが、今の由麻は逃げない。”あの”家族の1人として注目されても。
そんな由麻は、応援に来ていた両親や自分の競技に参加していた兄に、素直に応援の礼を返すことが出来た………。
……。
…拠点に戻った由麻たちチームから、飛鳥たち先輩たちのが卒業する日が来た。
由麻は飛鳥と抱き合って泣いた。
決して悲しいだけの涙では無かった。
そこには、万感の想いが在った………。
……。
…飛鳥たち、先輩たちの卒業を見送った由麻たちには、又トレーニングの日々が待っていた。
その由麻に或る日、思いもかけ無かった知らせが届いた。