「嫌いなスケート選手をぶっ跳ばせる」と誘われた 作:高島智明
2030年が明けた。
その日、フランスで開催される冬季オリンピック「アルプス2030」へと向けて、日本代表選手団の結団式が挙行された。
葛城由麻は、兄の弾馬と共に式典に出席していた。
とはいっても、兄と並んでいた訳でも無ければ、観客として見守っていた訳でも無い。
弾馬はスピードスケート代表の1人として、そして由麻はアイスホッケー代表チームの1員としてチームメイトの中に居た。
式典は粛々として進行し、団長に団旗が委ねられた。
それを由麻も弾馬も、代表の1選手として其々の席で見守っていた。
だがしかし、式典の後で設けられた記者会見の席では、由麻は弾馬の隣に並ばされた。
やはり兄妹揃っての、そして両親の代からの代表というのは注目されていた。
「ご両親が目指したメダルをプレゼントされますか?」
等と質問して来る者は、やはり居たが、弾馬は答えた。
「力の限りに滑ります。走ります。それだけです」
綺麗ごと等とツッコむ誰かは居なかった。
由麻も、
「全力でゴールを守ります。それだけです」
兄に習った訳でも無いが、他に何の言い様が在っただろうか………。
……。
…出発の日。
1家で自宅を出発し、空港へと向かう。
見送る両親と別れて、兄に手を引かれて集合場所へと向かう。
やがて兄妹も分かれて、それぞれのチームメイトに合流した。
お揃いの選手団の制服に身を包んで飛行機の搭乗口へと向かう選手団を、ファンが日の丸を振って見送った。
その端に由麻は両親と、そして自分をスカウトしてくれた元キャプテンの篠崎飛鳥を見付けていた。
(行って来ます。そして、全力でゴールを守ります。そして…
有り難う、キャプテン。私をアイスホッケーに誘ってくれて)
やがて、由麻や弾馬たちを乗せた飛行機はフランスへと離陸した………。
……。
…美しいフランスアルプスの山々。
だがしかし、由麻たち選手団には観光の余裕は無い。
日本との時差ボケを解消する間も無く、最後のトレーニングが待っていた………。
……。
…そして、由麻たちアイスホッケー代表「スマイルジャパン」がリンクに立つ日が来た。
由麻は氷の上、ゴールの前に立っていた。
顔面を保護する防具の下で、唇を噛み締める。
そんな心を、僅かに緩めるものを見付けた。
観客席に並ぶ、日本から応援に駆け付けた両親、自分の競技の合間を縫って駆け付けた兄、そして自分をアイスホッケーに誘ってくれた元キャプテンの飛鳥。
(見ていて。私は守る)
冬季競技の盛んな北の国の、大柄な敵選手は恐ろしい。
だがしかし、由麻の闘志は、もう怯まなかった。
もう由麻は、白鳥の家族の中でコンプレックスに取り付かれていた「醜い家鴨の子」では無かった………。
……。
…戦い終わって帰国した由麻たち「スマイルジャパン」には、新たなトレーニングの日々が待っていた。
次なる目標は2034年、アメリカ合衆国はユタ州「ユタ2034」だった。
『「嫌いなスケート選手をぶっ飛ばせる」と誘われた』(オリジナル小説)完結
ここまで読み続けて頂いた皆様方には、改めて厚くお礼を申し上げます。 作者:高島智明