中央暦1639年 四月十一日 午前 クワ・トイネ公国西部ギム ギム基地司令部
「やはりロウリア王国軍は通信を無視しているのか」
「ええ、通信が届いているのは確実なのですが……」
魔力通信士の報告を聞いて、クワ・トイネ公国軍西部方面騎士団長のモイジはやはり戦うしかないのかと覚悟を決める。ギムに進軍中のロウリア王国軍は三万、対して此方の兵力は3500弱であるため兵の数だけ見れば圧倒的に不利であった。
ロウリア王国軍が本格的に大軍を動かし、ロウリア王国軍の先遣隊がギムに向けて進軍している情報が入ってからは、モイジはギムが最前線になると理解して市民達にギムから避難する様に呼びかけており、そしてクワ・トイネ公国政府もギム含めたロウリア王国軍との最前線になる可能性が高い町に避難勧告を通知していた。
「それより、総司令部からの増援要請はどうなっている」
「はい、司令部からアカツキ帝国軍が5000の兵力をギムに派遣してくれるそうで、夕方には到着するとの事です」
「そうか」
クワ・トイネ公国政府の要請で派遣されたアカツキ帝国陸軍から山崎少将率いる第五師団は歩兵5000、61式戦車、64式自走榴弾砲、62式自走対空砲を含めた戦闘車両30、多数の地対空誘導弾、82式戦闘ヘリコプター12機、多数の無人戦闘ドローンが予定通り夕方にギムに到着した。
アカツキ帝国軍の援軍の数は敵兵力三万に対してクワ・トイネ公国の軍事常識からすれば圧倒的に少ないが、アカツキ帝国軍の実力を知るモイジはアカツキ帝国軍の援軍は頼もしかった。
モイジはクワ・トイネ公国防衛の最前線であるギムの防衛を任されてる西部方面軍最高指揮官の騎士団長であり、そのためクワ・トイネ公国政府がアカツキ帝国から購入した32式小銃をはじめとしたアカツキ帝国製兵器を優先的に手にすると同時にアカツキ帝国軍から派遣された軍事顧問からアカツキ帝国製兵器の扱いや、アカツキ製兵器を最大限に活用する戦術の講義を受けてモイジは、今までの軍事常識が破壊され、アカツキ帝国の軍事力の真の恐ろしさも理解したのだ。
モイジからすれば、32式小銃だけでも革命的であった。実際に32式小銃だけでも今までの野戦の常識である密集隊形で突撃すれば歩兵や騎兵はタダの的であり、ならば重装備で身を固めている重装歩兵なら問題はないかといえばそんな事はなく、重装歩兵が装備している甲冑や盾も32式小銃の前では無意味であった。アカツキ帝国軍からすれば旧式の兵器だが、32式小銃を含めたアカツキ帝国産の兵器で侵略者であるロウリア王国軍を倒してやろうと考えていたが、クワ・トイネ公国総司令部からアカツキ帝国軍の邪魔はするな、アカツキ帝国軍の補佐に徹しろとの命令を受けている為にモイジ率いる西部方面騎士団はまだギムから避難が完了してない市民の避難誘導に集中していた。
中央暦1639年 四月十二日 早朝 ギム
「ロウリア王国軍のワイバーンが多数ギムに向けて侵攻。それと同時に歩兵数万が国境を超えて侵攻中です。繰り返す……」
偵察ドローンを操作していた偵察兵からロウリア王国軍がギムに向けて侵攻中である事を師団長である山崎少将に報告した。報告を聞いた山崎少将は戦闘ヘリ部隊にロウリア王国軍のワイバーン部隊に攻撃命令を出した。
ロウリア王国のワイバーン75騎を指揮する飛龍部隊隊長であるアルデバランはギムから見慣れたワイバーンではなく、見たことない鉄竜が飛んでいる事に不思議に思ったが、数では此方の方が圧倒的に上の為に恐れる事はないと判断して謎の鉄竜を撃ち落とす為に火炎弾を撃つ様に指示を出す。
今回のギム攻略は上から被害を最小限に抑えて攻略したなら報酬の上乗せを約束されただけでなく、ギムの略奪に関しては何の制約もない為に好きにして良いという命令を受けてる為にアルデバランを含めた第一陣飛龍部隊の面々にとっては報酬上乗せのチャンスだけでなく、思いがけない臨時収入を得る事も出来た為に士気は最高潮に高まっていた。敵の鉄竜をたたき落とそうと飛龍部隊長のアルデバランの命令を受けた飛龍部隊は火炎弾を撃とうとしたが彼等が火炎弾を撃つ事はなかった。
それは先頭にいたワイバーンが突如として爆発し、竜騎士は爆散して肉片となり、原型を辛うじて保っているワイバーンは翼がもがれた鳥の様に無惨に落ちていったからだ。
「な、なんだ。ぐわぁー!」
「相棒ー!うわぁ!」
他の飛龍部隊の面々も何が起こったのか理解出来ずパニックになった瞬間に先程の竜騎士やワイバーン同様に次々と爆発していなくなっていく。
次々と部下達が爆散していなくなっていく様子にアルデバランはいったい何が起こっていると、思った瞬間に高速で飛んでくる鉄の矢が自分の目の前に飛んでくる事を理解したが、それが彼が見た最後の光景となって意識を失った。
ーーー。
ロウリア王国ギム攻略の先遣隊を任された副将アデムは、制空権確保の為に第一陣として飛ばしたワイバーン75騎からなる飛龍部隊の返信が一向に来ない事に不思議に思い、魔力通信士に魔力通信を飛ばして戦況の報告を聞こうとしたがそれでも返信が来ない為に第一陣の飛龍部隊は全滅した事を理解して、その瞬間にアデムは薄汚い亜人や農民の集まりでしかない連中の分際でと近くに部下がいるにも関わらず怒りを隠さず怒鳴り散らすと、残りの飛龍部隊も投入し、全軍を持ってギム攻略を通達し、伝令兵はアデムの怒りに恐怖に怯えながら命令を伝える為に動き出すのであった。
そんなロウリア王国軍を迎え撃つ為にギム近辺に配置された61式戦車、64式自走砲、62式自走対空砲で固めた機甲戦力と12.7mm重機関銃と17式小銃と70式軽機関銃で固めた機関銃陣地が構築されていた。
「全軍戦闘開始!」
アカツキ帝国軍が定めた戦闘エリアに侵入したロウリア王国軍を迎え撃つ為に第五師団長山崎少将は全軍に攻撃命令を出して、それに呼応する様に第五師団はロウリア王国軍に対して攻撃を開始する。
前哨戦でロウリア王国軍のワイバーンを空対空ミサイルで一方的に殲滅した82式戦闘ヘリコプター隊と、82式戦闘ヘリコプターをベースに開発された無人戦闘ヘリコプターがロウリアのワイバーンを一方的に撃墜していく。82式戦闘ヘリコプターとワイバーンの速度差はそこまで差がなく、若干82式戦闘ヘリコプターの方が速いが、旋回性能はワイバーンの方が高い為に82式戦闘ヘリコプターとワイバーンがドックファイトを繰り広げると、ワイバーンの方が有利に思えるが、82式戦闘ヘリコプターや無人ヘリコプターは空対空ミサイルや30ミリチェーンガンといったワイバーンの射程外からアウトレンジで攻撃できる手段が豊富な為にワイバーンを次々と落としていき、更に戦闘ヘリコプター部隊の猛攻を潜り抜けても地上では62式自走対空砲の30ミリ機関砲や歩兵が装備している携帯型地対空ミサイルの攻撃もある為に、アカツキ帝国軍の空や地上からの波状攻撃にロウリア王国軍のワイバーン残り75騎はあっという間に全滅した。
制空権を確保出来ないなら圧倒的な数の有利を活かして白兵戦で決着をつけようとアデムは前軍に突撃を命令する。
アデムの命令に従いロウリア王国軍はアカツキ帝国が構築した陣地に向けて突撃してきた。たが、それはアカツキ帝国軍の様な近代化した軍隊に悪手でしかなかった。ロウリア王国軍はワイバーンや魔道通信を除けば基本的に産業革命前の中世時代の軍隊と然程変わらなかった。中世時代の戦術は機動力に長ける騎兵を除けばどの兵科も密集陣形が基本的な戦術であった。
しかし、産業革命により火器は比類なき進化を遂げて、進化した火器の前では密集陣形を敷いた歩兵はただの的でしかなくなり、転生前の中田がいた地球で始まった近代国家で初となる世界規模による本格的な戦争な世界大戦では、戦争序盤に実行した集団による突撃戦法は、数丁の機関銃と有刺鉄線による機関銃陣地に阻まれ多くの犠牲者を出す結果となった。
当然の様に新世界でも例外はなく……。
「撃てえ!」
12.7mm弾と7.7mm弾による銃弾の雨と、61式戦車から発射される連装式155mm滑腔砲と64式自走砲による175mm榴弾砲による砲弾が火を吹き、ロウリア王国軍を次々と消し飛ばしていき、騎士や平民も例外なく原型を留めないでミンチになっていく……。
ーーー。
「神の企てか、悪魔の意志か……これがアカツキ帝国の……いや、異世界の戦闘なのか」
モイジはアカツキ帝国軍の力に呆気に囚われていた。
モイジは確かにアカツキ帝国の圧倒的な技術力ならロウリア王国を圧倒する事は出来ると思っていたが、しかしその実力は想像以上で改めてクワ・トイネ公国がアカツキ帝国と友好関係を構築出来た奇跡に感謝した。もし敵対していたら、あの圧倒的な力で蹂躙されてクワ・トイネ公国が滅ぼされていただろうと確信した。
こうしてギムでの戦闘はアカツキ帝国軍の援軍を得た事により、クワ・トイネ公国の勝利に終わった。後の歴史にこの戦いは『ギムの戦い』呼ばれる様になり、新世界で初めてアカツキ帝国軍が本格的な武力を行使した戦いとして知られる事になる。
そしてこの戦いでクワ・トイネ公国西部方面騎士団長を勤めて『ギムの戦い』に参加したモイジは後に……。
「もう英雄譚や絵物語に語られる様な英雄は二度と現れる事はない。アカツキ帝国軍が証明して見せた様に、これからは高性能な鉄砲や大砲、そしてアカツキ帝国軍が保有する鉄竜を大量に購入して圧倒的な火力を保持した国が戦争に勝利する事が絶対条件となるだろう。今までの様に勇者の様な実力を備えた英雄譚や絵物語の様な竜騎士や騎兵が登場しても戦場では必要とされず、これからの戦場で英雄達が活躍する事は二度とないだろう」
と、この様にモイジは二度と戦場に英雄が登場する事はないと語る。後にモイジは『ギムの戦い』の後にアカツキ帝国軍の士官学校に留学し、アカツキ帝国軍の士官学校で習った知識を活かしてクワ・トイネ公国軍の近代化に貢献した軍人としてクワ・トイネ公国の軍事史にその名を刻む事になる。