第一話
地球は今、狙われている。
宇宙に漂う幾千の星に住む侵略者達からの魔の手によって……。
人類が宇宙に進出し始めた時代。
人々が何気ない平穏な日常生活を満喫する中、緑溢れる大地と青き海が広がるその惑星を我が物にしようと企む輩が、人知れずひっそりと活動し始めていた。
―――
漆黒の闇が広がる夜空の下。
とある地方都市では、街灯及び道路を行き交う自動車のライトによる明かりのおかげで一種の幻想的な風景が生み出されており、大概は会社勤めのサラリーマンが家に帰宅するためにハンドルを握りしめながら自家用車を走らせていたのだが、それとは別に交通規制の取り締まりなのか。
赤色灯を点けたままの状態でパトカーを路肩に駐車させているほか、道路上で懐中電灯を手にしている複数の警官たちが、一台また一台とやって来る一般車を脇道へ誘導させてからの事情聴取を執り行っていた。
「………」
ひとりの警官が新たに通りかかった車を脇道へ誘導させたのちに、停車するよう無言で指図をする。
当然のことながら誘導に従った運転手はというと指定された場所に車を動かしてから停車させるなり、自ずと運転席の窓を開ける。
「免許証をお願いします」
目の前にいる警官から免許証の提示を求められてしまったことにより、若干面倒臭そうな態度を取りつつも、素直に上着の内側のポケットから免許証を取り出す。
「どうも」
対する警官はというと車内から差し出された物を受け取るなり、すぐさま懐中電灯の光を当てながら身分証明の確認を取り始める。
「ふむ……」
一通り確認した所、特にこれといった不審点は見当たらなかった。
が、念のため次なる質問を投げかける。
「因みにどちらまで?できれば車検証もお願いします」
やたらとしつこくせがんでくるためか。
運転手の男性が溜息を吐きながらも渋々警官の言う通りに従い、収容スペースに保管している車検証を手にしてからそのまま渡そうとする。
が、次の瞬間。
突如として全身から謎の発光現象が発生したかと思いきや、先程まで運転席にいたはずの男性が忽然と姿をくらませてしまう。
「う、うわぁ~!?」
「な、なんだ!?」
「どうしたんだ?!」
叫び声が上がったことにより、近くに居た他の警官達が何かあったのかと焦りながら急いで現場へと駆け付ける。
すると、ついさっき声を上げた張本人たる同僚がまるでお化けでも見たかのような驚きぶりを披露していたため、一体何があったのかと問いかけると……。
「き………消えたんだ………」
「消えたって……なにが?」
「に、人間が!!」
―――
富士山麓の一部にて建造されている秘密の要塞。
それは宇宙のあらゆる脅威から地球を守るために生みだされた地球防衛軍の極東基地とされており、普段は地形や自然物などを上手く活用し、厳重にカモフラージュされている他、地下数十メートル深くには科学の推移を集めた最高の設備が整えられており、尚且つ最新鋭の武器や兵器などが大量に保管されている。
そして防衛軍屈指の精鋭部隊とされる“ウルトラ警備隊”を始めとし、約300人もの隊員が昼夜を徹して鋭い監視の目を光らせながら基地内の勤務に携わっている様子が、本日もまた所狭しと広がっていたのだが……。
「………」
地下通路を歩く一人の壮年の男性。
隊歴16年というベテランであるが故にそれなりの風格を持つほか、冷静沈着かつ謹厳実直だが情に厚い人物ともされているその人物は、ウルトラ警備隊の隊長としての職務を任されているためか、常日頃から気の抜けない日常を送っている。
「………」
と、そうこうしている内に漸く目的地に辿り着いたのか。
ひとつの大きな扉の前に立つや否や、たちまち扉が自動的に開いたと共に間を置くことなく入室する。
彼が訪れた場所……それは、基地の最高責任者やその他の重役が集う一室となっており、自らその場所まで足を運ばせていた点から察するに、恐らく上層部からの呼び出しを受けたのであろう。
「キリヤマ、参りました」
既に室内には長官を中心とした複数の参謀たちが集結しており、只ならぬ雰囲気と化していた。
それ故に、自然と気を引き締め直した途端、極東基地の最高責任者となるヤマオカ長官が一歩前へと足を踏み出すなり、徐に口を開かせる。
「キリヤマ隊長。よく来てくれた」
「何かあったのですか?」
「あぁ。君は、夕べの人間消失事件を聞いておるか?」
昨晩に起きたとされる不可解な事件。
人間が忽然と消えてしまったという奇怪な出来事は、瞬く間に新聞紙やテレビなどのメディアによって全国各地へと報道されてしまっており、世間一般にその事実が広まりつつある。
無論、呼び出された彼もまたその事に関しては存知していたらしく、今朝のニュースで知ったばかりだと素直に答える。
「そこで一つウルトラ警備隊に骨を折ってもらうことになったんだが……」
「……何か深い事情でも?」
「それについては、タケナカ参謀が教えてくれる。タケナカ参謀、よろしく頼む」
同席していた参謀の一人が入れ替わる形で前に出るなり、説明を行う。
曰く、警察当局の報告によるとこれまでに数件ほど同じ出来事が既に引き起こされており、この一週間の間に夜の公園、ホテルのロビー、大学の研究室といった場所で、あっという間に人間が消えてしまったとのこと。
でもって、いずれも原因に関しては未だに不明とされており、消失した被害者たちの職業を調べた際にも、どれも関連性が一切無く、不特定多数の一般市民が相次いで居なくなってしまっている状況が続いていると語る。
「手掛かりは無いんですか?」
「消失する時、一瞬ではあるがスパークのような白熱を発したくらいで、その他の手掛かりは一切ないとのことだ」
「……白熱を?」
行方不明者の身体から白熱が起きた。
正直な所、常識では考えられない現象であるとしか言いようがなく、加えてこれほどまでに奇怪という二文字が似合う事件も早々ないと言えよう。
「これは明らかに………優秀な科学力を持つ何者かの仕業だ。我々の見解では、犯人を一応宇宙人として、その線で捜査をしてみるのはどうかと考えている」
「えっ?……宇宙人?」
今回の事件は、現在の人類の科学では想像もつかない何かが絡んでいる。
そう考察していく内に、宇宙人でなければ成し得ないとの見解に達したと聞かされる。
その際、話を聞いていたキリヤマの中で半信半疑といった感情が浮かび上がってしまったものの、一先ず受け入れることにしたのか。
若干戸惑いながらも引き続き傾聴する。
「そこで何だが……我が防衛軍のエースとも言うべきウルトラ警備隊に、この事件を担当してもらうことになった。やってくれるかね?」
「はい!分かりました!」
姿勢を正した後に、はっきりとした口調で承知する。
もし仮に宇宙人の仕業だとすれば、生半可な覚悟で挑んでしまうと逆に返り討ちに遭ってしまうか、もしくは命を落としてしまう可能性も十分考えられる。
故に、これまでの教訓や経験などを今一度思い返した後に、任務に取り掛かるための行動を開始させる。
―――
ウルトラ警備隊にはキリヤマ隊長の他にも、優秀な隊員が四名ほど在籍している。
「ッ!」
射撃場にて、訓練に励む男性が一人。
地球防衛軍の制式銃とされる“ウルトラガン”を手にしたまま動く的に狙いを定めつつ、照準を合わせたと同時に引き金を引く。
直後、銃口から一筋の光線が放たれ、的のど真ん中に着弾する。
(よしっ!)
名をソガ隊員。
出身は九州とされ、年齢は25歳。
隊歴は僅か3年ではあるものの、地球防衛軍きっての射撃の名手となっており、毎年行われる射撃大会においては常に優勝を果たしている。
―――
「ほらほらっ!もっとバネを使って!」
所変わって基地内にあるトレーニングルームでは、汗水を垂らしながらも休むことなく体を動かし続ける男性職員たちの姿があった。
なかでもひと際目立っていたのが、仲間と共にトランポリンを駆使しながら足腰を鍛えつつ、合間にアドバイスを投げかけるといった芸当を見せる男性が一人。
ウルトラ警備隊の中でも、類まれなる怪力の持ち主とされている人物……名をフルハシ隊員。
「良いぞ!その調子だ!」
隊歴7年の29歳。
柔道および空手を5段会得しているほどの腕前を持つ北海道出身の彼は、時おりいい加減で荒っぽい一面を見せるものの、使命感に関しては人一倍強く、尚且つ仲間思いであることから人望が非常に厚いとされている。
―――
「………」
電子計算機室にて他の職員との共同作業をしながら黙々と取り掛かる男性が一人。
機器の駆動音が部屋中に響き渡っていたものの、そうした環境に関しては既に慣れているのか。
着実に資料となる書類をまとめ上げていきながら頼まれた仕事を済ませていく。
(これで最後だな)
名古屋出身で年齢は24歳。
隊歴はソガ隊員よりも一つ下の2年という若さでありながら、あらゆる機械の操作をお手の物にしてしまうほどの才力をもつ彼の名は、アマギ隊員。
名プランナーとして主に異星人が使用する兵器の解析を任されている。
―――
「はい。これでもう大丈夫よ」
同時刻、訓練中に怪我を負ってしまった兵士の治療をメディカルセンター内で行う麗しき女性がいた。
ウルトラ警備隊の紋章が左胸に施されている白衣を纏っている彼女もまた、組織のメンバーの一人となる。
「今度から気を付けてね」
友里アンヌ隊員。
東京都出身で隊歴は2年。
年齢は……失礼に値するため省かせていただく。
兎にも角にも、紅一点となる彼女が包帯を巻き終えた直後に……。
《ウルトラ警備隊、全員集合せよ!!》
「ッ!」
館内全域に渡ってけたたましいブザー音が鳴り響くと共に、音響機器からキリヤマ隊長による召集の声が流れ出す。
無論、突然のことに微かに動揺するも、即座に気持ちを切り替えたのか。
出動する際に着用する隊服に着替えるために、急いで更衣室へと足を運ばせていく。
―――
数分後。
呼び出しを受けたメンバーが、集合場所となる作戦指令室に辿り着くなり、開かれた扉を通して次々と一人ずつ中へと入っていく。
すると室内には既に極東基地の通信装置を作動させている数名の職員が在席していた他、ひと足早く入室していたと思われる隊長のキリヤマが何やら神妙な面立ちで佇んでいた等の様子から何かしらの緊急事態が起きたのだと瞬時に把握したのか。
メンバー全員が急ぎ横一列に並び立つなり、状況確認を行う。
「ウルトラ警備隊、ただいま集合致しました!」
「良し。みんな、よく集まってくれた」
「隊長。何か、あったのですか?」
「あぁ。というのも……みんなは昨夜の人間消失事件については既に知っているな?」
問われた内容に対して、全員が頷く。
その反応を目の当たりにしたうえで、キリヤマが続けざまに話を持ち掛ける。
「実は、たった今パトロール中の防衛隊員二名が、自動車ごと消えてしまったという報告が入った」
「えぇ?」
「それは、本当なんですか?」
「あぁ。して、ここからが本題になるんだが……今回の事件の首謀者と思われる敵は、我々地球防衛軍に対して遂に挑戦状を叩きつけてきたと思われる」
「挑戦状……」
肉眼では確認できない何かが、地球防衛軍に対して挑戦状を叩きつけてきた。
また自動車ごと消失してしまった隊員らに関しても、自分達の動きを感知したうえで襲ったに違いないとキリヤマがそう断言する。
加えて被害者が消失した場所はV地点から西へ50km離れた所だと説明すると、ソガ隊員が近くにあるテーブルの上に置かれている地図を手にするなり、その場に広げた後に場所を確認し始める。
「とすると……すぐ近くじゃありませんか!」
「そうだ。だから皆、今後の行動は十分注意するように。それと……フルハシとソガ。すまないが二人は今すぐに現場に向かって、事件の詳しい調査をしてきてくれないか?」
「はっ!」
「分かりました!」
力強く返事をした後に、室内にある防護ヘルメットを手にしてから二人揃って退室する。
その一方で残りの面々はというと、この場で敵の行動を監視することにしたのか。
レーダー探知機や超音波検査装置などを起動させた後に、監視の準備を行い始める。
―――
青空が広がる清々しい天気の下。
太陽の光が降り注ぐ中、人気のない山道を歩き続ける者が一人いた。
「……」
黒味が掛かった茶髪に少々の顎髭を生やし、尚且つ男前とも言える整った顔立ちをもつ男性。
そのうえ高身長かつ足長で無地の灰色のシャツに紺色のジーンズの他、黒色のミリタリーコートなどを身に纏っているその者は、一見すると只の一般人のようにも思えるが……。
「……」
ふと動かしていた足を止めるなり、唐突に何かを確かめるかの如く辺り一帯を見渡し始める。
(……間違いない。ここだな)
そうした行いを暫くした所、何かしらの確信を得たのか。
何時しか彼は近くにあった大きな岩の上に腰を下ろすなり、そのまま優雅に過ごし始める。
これから先、果たして何が待ち受けるのか。
それは、神のみぞ知る。