民間人が悉く相次いで蒸発し、そのまま行方不明になるという奇怪な事件が勃発するなか、何時しか地球防衛軍内においてもパトロール中の防衛隊員二名が自動車ごと消失するという事態が発生してしまう。
それ故に、本格的に事件の調査に介入する事となったウルトラ警備隊の一同は、さっそく犯人の手掛かり及び足取りを掴むべく、大きく二手に分かれてから捜査を開始し、一班はソガとフルハシの二人によるコンビでV地点から西へ50km離れた所にある消失現場へと向かう。
「目的地までは、後どのくらいだ?」
「もう少しだ」
数々の特殊装備を内蔵している他、最高時速となる365km/hで走る際には自動操縦に切り替えられるといった優れた機能が搭載されている専用車両……“ポインター”を運転するフルハシの答えに頷いた後、ソガがふと窓の外の景色を眺める。
緑溢れる平原が見渡す限りに広がっており、長閑な風景とでも言うべきか。
空一面が青く染まっているのも相まって、実に優雅なひと時を過ごす。
「山道に入るぞ」
「おぅ。分かった」
開けた窓から車内に入り込んでくる風を助手席でのんびりと受けながら寛いでいると、徐々に道が険しくなる。
といっても舗装されていないという点を除けば、さほど気にするほどのものではなかったのだが、如何せん揺れが少々あるせいか。
微かに気分が悪くなり始める。
「この先が目的地のはずだが……ん?」
「どうした?」
「いや、あれ……」
運転手となるフルハシの戸惑いに首を傾げながら前方へと眼を向ける。
すると、その先に居たのは自分達が進むべき先に堂々と立ち憚るかの如く、何者かが道のど真ん中に突っ立っていたというべきか。
おかげで否が応でも停車しなければならず、仕方なくフルハシがブレーキを踏みながら少しずつ速度を落としていき、最終的には件の人物の手前で車を停車させる。
「こらっ!!どいた、どいた!ヒッチハイクの相手をしている暇なんか無いんだ!」
「そうだ!道を開けろ!」
二人そろって窓から顔を乗り出すなり、早く退けとの野次を投げかける。
ところが、肝心の相手は全く聞く耳持たずとでも言うべきか。
彼らの呼びかけに応じることなく、依然として仁王立ちの如く佇んでいた。
「早く退かんか!こいつ……」
一向に退く気配がないのを察してか、段々と苛立ちを募らせる。
見た目からして年齢は自分達とほぼ同じくらいだと思われるが、目の前にいる相手はというと相も変わらず通せんぼを貫いており、段々とふざけた野郎だと思い始める。
高身長かつ足長で無地の灰色のシャツに紺色のジーンズの他、黒色のミリタリーコートなどを身に纏っている一人の男性。
男前とも言える整った顔立ちに加え、黒味が掛かっている茶髪に少々の顎髭を生やしているその人物に等々しびれを切らしたのか。
フルハシが助手席に居るソガにポインターのフロントから煙幕を噴射させるよう頼もうとすると……。
「そんなに怒らなくても良いじゃないですか。フルハシ隊員」
「ッ……な、何だと?」
突然、名前を呼ばれてしまったことにより、思わず動揺してしまう。
自身の記憶に間違いがなければ、一度も会ったことのない初対面のはず。
それが何故、自分の名を知っているのかと困惑が隠せない中、対する謎の人物はというと続けざまに話しかけてくる。
「お二方に大事な話があるから、だいぶ前からずっと此処で待っていたんですよ……だから其方に居るソガ隊員も、とりあえず一旦出てきてくれませんか?」
「ぼ、僕の名前まで……」
自分達の名を知っているだけでなく、大事な話があるから此処でずっと待っていたと口にする彼に対し、訝し気に眉を顰めるも一先ず言う通りに従うことにしたのか。
車のエンジンを掛けたままの状態でそれぞれ扉を開けて降車するなり、行く手を阻んだ人物との距離を縮めてから面と向かい合う。
「で?我々に何か用でもあるのか?」
「えぇ、勿論。というのも、此処から先に進むのは非常に危険なので……今すぐ引き返された方が良いと思いまして」
「なに?」
此処から先へ進むのは非常に危険なので止めた方が良い。
そう発言した彼に対し、いったい何を根拠にそう断言できるのかと困惑した二人が、揃って道の先を目視で確認し始めたものの、土砂崩れといった災害が起きているわけでもなく、ましてや道に関しても至って平常で特に危険性があるようには到底思えない。
にも拘らず、行ってはならないと断言した彼の言葉に対し、増々疑問符を浮かばせる。
「いったい何処が危険なんだ?別に特に変わった様子は無いじゃないか」
「ふざけるのも大概にしろよ」
「ふざけてなんかいませんよ。フルハシ隊員、ソガ隊員。お二方は、いま例の人間消失事件の捜査に出向いておりますよね?」
「ッ、ど、どうしてそんなことまで?!」
「今朝の新聞紙に事件のことが載ってありまして……ん?」
刹那、男性がふと山道の下から此方に向かって上がってくる一台の車を目にする。
車体が白黒で尚且つ屋根に赤色灯が備わっている点からして、瞬く間に警察車両であることが窺えたが同時に嫌な予感を抱いたのか。
自ずと眉を顰めていると、件のパトカーがスピードを少しずつ落としながらウルトラ警備隊の隊員となる二人のすぐ真横にまで近づくなり、そのまま車を停車させる。
「あっ、これはどうも……」
「神奈川県警の者です。いま樹海一帯を巡回しておりますが、現在のところ異常はありません」
どうやら此度の事件に関して県警の方でも捜査が進められているらしく、助手席に乗っている一人の警官が車体の窓を下げるなり、ご丁寧に巡回の報告を二人に告げる。
それに伴い、態々ご苦労様ですとの意味合いを込めた敬礼を彼らが軽く返した所……。
「あの~……お巡りさん。失礼かもしれませんが、この先に行くのは危険ですよ?」
一連のやり取りを目の当たりにした男性が、唐突に彼らの間に割って入るなり、警官達に対して先程と同じ発言を口にするが……。
「何だね、君は?悪いが、あいにくと今忙しくてね。邪魔をしないでもらえるかな?」
「ちょ、ちょっと!」
事もあろうに警官達は、仕事が忙しいからという理由で彼を真面に相手することなく車の窓を閉めたばかりか、運転手となる警官が緩やかにアクセルを踏むなり、徐々にスピードを上げて走り出していく。
そういった行動に対し、彼は慌てて引き留めようとするが、人の脚力では追いつけるはずもなく、次第にパトカーが遠ざかっていく。
「駄目だ!戻れ!!」
再度、危険を知らせるべく必死に追いかけながら声を張り上げる。
が、次の瞬間。
その思いは健闘空しく、叶わぬ結果と化してしまう。
「ッ!?」
何処からともなく何かが射出されたような音が木霊すると共に、空の彼方から突如として白色の発光体らしきものが落下する。
でもって、その発光体が山道を走っているパトカーに着弾するや否や、続けざまにもう一つ同じ発光体が飛来してくるなり、警官達が乗っている車体に二度も直撃してしまう。
すると、たちまち眩いばかりの閃光が車体を覆いつくしたかと思いきや……最終的には先程まで普通に走行していたはずのパトカーが車内に居た警官達もろとも跡形もなく綺麗さっぱりと、その場から居なくなってしまうという事態が発生してしまう。
まるで、最初から何も無かったかのように。
「なっ!?」
「ど、どうなってんだ!?」
目の前で起きた出来事に対し、状況の理解が追い付かずにいるのか。
吃驚するかの如く、その場で呆然と立ち尽くしながら困惑する彼らとは打って異なり、引き留められなかった悔しさからなのか、どことなく沈痛な表情を浮かばせていた男性がゆったりとした歩みで引き返すなり、再び彼らと相対する。
「……アレをご覧になったでしょう?いま、ウルトラ警備隊が相手にしているのは恐るべき宇宙人です。奴らは地球を侵略するために、数年前から実験用の人間の標本を集めていたんです。だが、いま奴らは次の行動に移ろうとしている。何故だか分かりますか?」
「「………」」
謎の人物から投げかけられた問いに答えることなく、お互いを見つめ合う二人。
否、正確に言えば、突然すぎる展開にまだ動揺が収まっていなかったとでも言うべきか。
何も答えられない様子から引き続き彼が口を開く。
「地球防衛軍……いや、貴方達ウルトラ警備隊が行動を取り始めたからです。奴らが次にどんな恐ろしい手段を使ってくるのか………気を付けてください」
「ッ……お前は、いったい何者なんだ!?」
「自分ですか?自分は、只の風来坊ですよ」
「風来坊だって?名前は?」
「……名前?」
名前を問われた際に、途端に顔を俯かせてから悩むような素振りを見せ始める。
が、それも束の間のことで元の状態に戻るなり、しっかりと彼らの目を合わせてから、はっきりとした口調で答える。
「自分は、森崎……“森崎 仁(モリサキ・ジン)”と申します」
「森崎 仁?」
警告を発し、自分達の命を救ってくれた恩人に値する彼の名が知れたその時―――
「ッ、まずい!早くこっちに!」
「なっ、お、おい!?」
飛行機とは異なる滑空音が流れてきたと共に、彼が急ぎ近くの岩場に避難するよう二人を誘導し始める。
当然ながら何が何だか分からない事態に戸惑いつつも、ひとまず言われたとおりに彼の後を付いていくなり、ひと際大きな岩の物陰へと身を潜める。
「どうしたってんだ!?」
「奴らが、今度は自分達を狙い始めてきたんです!」
「何だって!?」
自分達が狙われ始めたという彼の言葉に対し、より一層辺りを警戒する。
敵は、いったい何処に潜んでいるのか。
音はすれど姿が一向に見えないことから、フルハシとソガの両名が思わず歯軋りをする。
「ッ、まずい!!伏せて!!」
と、その直後のこと。
またしても青空から白色の発光体が一直線に降り注がれてくる。
しかも、今度の発光体は先程とは打って変わり、明確な殺意が含まれていたらしく、彼らが身を潜めている岩陰のすぐ近くの地面に着弾するなり、爆発音と共に無数の火花が飛び散っていく。
「うわっ!?」
「動かないでください!いま動いたら死んでしまいますよ!」
「そうは言ってもな!」
断続的に放たれてくる光弾が後を絶たない。
不幸中の幸いなのは、彼らが標的としてのサイズが小さいせいか、敵の照準が上手く定まらずにいる点であろうか。
ギリギリの距離で落下してくる光弾から辛うじて生き永らえていた三人であったが……。
「ッ、ぐわぁ!?」
「いてぇ?!」
発光体の着弾時に飛び散った岩の破片が、哀しいことに身体に直撃してしまったのか。
フルハシとソガの両名が、それぞれ四肢の一部を手で押さえ始める。
「このままじゃあ、まずい!早く車の中に!」
「ッ、運転できるのか?!」
「えぇ!さっ、早く!」
「待て!その前に、ソガを助けてやってくれ!俺の方は大丈夫だから!」
「分かりました!ソガ隊員、俺に掴まってください!」
「あっ、あぁ!」
足を負傷してしまったソガに肩を貸しつつ、急ぎ近くにあるポインターへと連れていく。
攻撃されている最中ではあるものの、発光体が降ってこない合間を狙っての行動が功を制したのか、運よく車両のすぐ傍まで駆け寄ることに成功する。
でもって、負傷してしまった彼らを後部座席に乗せた後、急ぎ運転席へと回った彼がハンドルを握り締めたのだが……。
(ッ、そういえば!)
その前にやるべきことを思い出したかの如く、速度計の横に設置されている操作盤の中から一つのスイッチを押す。
と、次の瞬間。
ポインターの車体の周囲から光り輝く何かが発生すると共に、鉄壁の防御とも言える障壁が完成する。
名を“光波バリヤーシステム”……外部からの攻撃を一切受け付けない優れものとなっており、それを展開させたのちに運転席にあるギアを動かす。
「お、おい!どうしてバリヤーのスイッチが分かったんだ?」
「ん?あぁ……偶々ですよ!それよりも、しっかり捕まっといてくださいよ!」
道幅がやや狭かったものの、何とかして急旋回したのちに山道を下っていく。
適度な速度でカーブを曲がり、直進となればフル加速で現場から必死の思いで逃げ続ける。
そうした運転技術を披露する中、後部座席にいるソガがウルトラ警備隊の隊員として常日頃から携えている腕時計型の通信機となる“ビデオシーバー”のカバーを開かせるなり、通信を作動させる。
「ソガより本部へ!ソガより本部へ!」
《はい。こちら本部》
応答してくれたのは、メンバーの紅一点となるアンヌ隊員。
そんな彼女の姿がビデオシーバーに備われている小さなスクリーンに映し出されるなり、ソガが緊迫とした表情を浮かばせたまま今現在の状況を簡潔に伝える。
「見えない宇宙船からの襲撃を受け、フルハシ隊員と一緒に負傷してしまった!」
《えっ!?大丈夫なの?》
「あぁ、大したことはない。これから本部に戻ると隊長に伝えておいてくれ!」
《だったら迎えに行くから其処で待ってて!》
「とんでもない!頭上には、まだ敵が居るんだ!」
「おい、聞いただろ?道案内してやるから、このまま地球防衛軍の本部まで行ってくれ!」
「分かりました!それじゃあ、もっとスピードを上げますよ!」
ソガが本部との連絡を取り続ける中、フルハシが自分達が所属している地球防衛軍の極東基地までの道筋を案内するという願ってもない申し出に対し、運転席に居る彼が二つ返事で了承する。
絶対に、彼らを基地まで送り届けてみせる。
そう確固たる意志を抱きながら運転に集中する彼……否、風来坊であった。