数刻後。
姿なき襲撃者からの魔の手から逃れ、何とか地球防衛軍の極東基地まで辿り着いた三人は、其処で自分達を出迎えてくれたウルトラ警備隊の面々に事の顛末を余すことなく語った所、隊長となるキリヤマが想像した以上に此度の案件は只事ではないと感じ取ったのか。
至急、長官並びに参謀たちが集っている一室に駆け込むなり、彼らから得た証言を報告する。
「姿なき宇宙船か……彼らは、いったい何のために人間を消しているのだろうか」
極東基地の最高責任者となるヤマオカ長官の発言をきっかけに、同席していた者達が様々な憶測を立て始める。
もし仮に殺害が目的となれば、奴らの能力から考えて、大量にそして一気に行ってもおかしくはない。
しかしながら、これまでの事件を振り返ってみると一人ずつ人間を消している時点で、その可能性は低いと思われる。
であれば、一体何のために……と考えあぐねた所で、キリヤマがある事を告げる。
「そういえば……フルハシとソガを救ってくれた例の風来坊によると、姿なき宇宙船の目的は人間標本を集めているんだと言っておりました」
「人間標本?」
「つまり人類の体力、頭脳、心理などの研究のために」
相手を知り尽くすことは何時いかなる時でも大事なものとされている。
それぞれ異なる職業に就いている市民たちを攫ったうえで人類の研究を進める。
卑劣なやり方ではあるが、理にかなっている方法でもある。
そう考えれば、今回の事件も頷ける……のだが。
「成程……しかし、キリヤマ隊長」
「はっ」
「敵がポインターを襲撃したとなると、この地下要塞も安全とは言えない。以降、超高感度レーダーで監視を続けてほしい」
「はい!」
此度の襲撃を機に、極東基地の居場所が敵に知れ渡ったかもしれない。
故に何時でも対処できるよう、引き続き超高感度レーダーで監視をする方針を掲げた瞬間―――
「長官!失礼します!」
途端に部屋の出入り口となる自動ドアが開くなり、ウルトラ警備隊の隊員となるアマギが血相した表情で入室する。
「いったい何事かね?」
「その……とにかく、こちらに来てください!隊長も!」
説明するよりも見た方が早いと判断したのか。
兎にも角にも、一刻も早く付いてきてほしいと断言する彼の慌てぶりに只ならぬ事態が起きたと把握した一同は、挙って彼の後を付いていく。
―――
アマギの案内によって連れてこられた場所。
其処は、普段出入りしている作戦指令室となっていたが、何処か異様な雰囲気に包まれていた。
職員数名とウルトラ警備隊の隊員たちが揃って壁際にある映像モニターに視線を送っている。
従って連れてこられた彼らもまた、同様にモニターの前まで足を運ぶと……。
「なっ!?」
「こ、こいつは……?」
其処に映し出されていたものは、何とも奇妙な生命体とでも言うべきか。
明らかに地球上の生物とは異なる存在が、鮮明に映し出されていた。
まるでシラミを逆立ちさせたような黒い風貌に加え、六本の腕に二つの眼球。
続けて下半身は長い尾となっており、常に浮遊している状態となっているその未知なる相手を前にして、誰もが言葉を失う。
《地球防衛軍ノ諸君ニ告グ。即座ニ武装ヲ解除シテ、我々“クール星人”ニ全面降伏セヨ》
片言な日本語を発する謎の宇宙人。
自らを“クール星人”と名乗ったその者は、我々に対し全面降伏せよとの要求を口にする。
当然ながら、そう易々と受け入れる訳にはいかないと感じたのか。
参謀の一人が対抗するかの如く、反論する。
「全面降伏?地球防衛軍はこの極東基地だけではないぞ。地球の各地に我々の仲間が居るんだ。人類がそう容易く地球を見捨てたりはしない!」
《人類ナンテ、我々カラ見レバ昆虫ノヨウナモンダ。コレヲ見ルガヨイ》
すると、突如として映像が切り替わるなり、あるものが映し出される。
其処に映し出されていたのは、恐らく此度の人間消失事件における被害者達なのであろうか。
行方不明者と思われる者達が、狭い密室の中でそれぞれ宙に浮かんだまま助けを求め続けていた。
《助けてくれ~!!》
《誰かぁ、誰かぁ!!》
無重力空間となっているのか、床に足が着くことなく右往左往している。
手足を動かしながら必死に何とかしようと試みている者もいたが、結果はけんもほろろとも言うべきか。
逆に疲労感が蓄積し、息絶え絶えと化してしまう。
無論、そんな彼らの姿を目の当たりにした地球防衛軍は人質が居ると把握するなり、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべてしまう。
《ドウダネ?彼ラノ運命ハ、君ラノ返事ニヨッテ決マル。サァ、スグニ答エルンダ。全面降伏ニ応ジルカ?》
刹那、再び映像が切り替わり、首謀者となるクール星人の姿が映し出される。
その上、勝ち誇ったかのような声質で今すぐ答えろとの催促をかける。
反対に選択肢を迫られてしまった地球防衛軍はというと、次第にこの場に居る最高責任者に向けて視線を送り始める。
皆が如何に回答するのかと心配そうに見守る中、判断を委ねられてしまった長官が、暫し俯いてから面を上げるなり……。
「断る!」
確固たる意志で答えを口にする。
例え、人質が居たとしても全面降伏を受けてしまったら、たちまち全人類は奴らの奴隷と化してしまう。
それ故に、今後を踏まえた上で否定した長官の佇まいに、その場にいた誰もが思わず感嘆とした声を漏らし始めた後……。
《後悔スルゾ……》
映し出されていたクール星人の姿が徐々に消えていき、最終的には映像が切れてしまったのか、画面が真っ暗闇と化してしまう。
去り際に放った意味深な言葉が、後に何を意味するのか。
それは意外にも、すぐに判明する事となる。
―――
数分後。
青空が広がる清々しい天気の下、海岸付近に建造されている京浜工業地帯にて、世にも恐ろしい災いが降りかかる。
というのも空から突然、謎の光弾が工業地帯に向かって次から次へと雨の如く降り注いできたのだ。
光り輝くそれは凄まじき破壊力を兼ね備えており、ガスタンクや工場といった箇所から次々と爆発炎上が相次ぐ事態が勃発し、たちまち甚大なる被害が発生してしまう。
「隊長、大変です!京浜工業地帯に甚大なる被害が出ているもようです!」
「何だと!?」
作戦指令室に留まり、クール星人に対する作戦を練っていたウルトラ警備隊の元に届いた緊急連絡。
爆発の影響で避難していた作業員の何名かが意識不明の重傷を負ってしまった他、火災の広がり具合が凄まじく、もはや火の海と化しているという報告を耳にしたせいか、メンバー全員が次第に深刻な表情へと変えていく。
「……」
そんな彼らの様子を目の当たりにして、何か思い悩んでいるのか。
場違いな服装とも言えるスタイルで只静かに見守っていた風来坊となる彼もまた、自ずと眉を顰めていた。
今こうしている間にも、被害は着実に大きくなりつつある。
下手すれば、他の地域にも及ぶ危険性も考えられる。
だが、それとは別に果たして自分が進言しても良いものかと、心の中で葛藤しているのか。
徐々に苦虫を噛み潰したかのような顔つきと化す。
「隊長!出動しましょう!」
「待て!冷静に作戦を練るんだ。いま下手に動いてしまえば、奴らの思う壺となってしまう」
「……そうだわ。ねぇ、仁!」
と、その時であった。
紅一点となるアンヌが、何か良い案でもないかと考えたのか。
物静かに立ち尽くしている彼の元へと歩み寄る。
「貴方の地球がピンチに立たされているのよ?何か敵を倒す方法は無いの?」
「……一つだけ。一つだけなら思い当たる方法がある」
「なに?それは本当か?」
思いもよらない返答に耳を疑ってしまったのか。
キリヤマがそう問いかけると、彼は毅然とした態度で語り始める。
曰く、敵の宇宙船は恐らく保護色を駆使して姿を隠しているため、特殊噴霧装置を利用してこちら側から色を吹きつけてやれば、相手の宇宙船が姿を現すかもしれないとのこと。
また、科学班の協力があれば今すぐにでも装置は完成するとまで断言する。
「但し、上手くいくかどうかは定かじゃありませんが……」
「おいおい、そんな曖昧な――」
「いや……その手で行ってみよう。長官に申請してみる」
窮地に立たされていることも相まってか、その案で申請してみると口にしたキリヤマが、早速とばかりに退室する。
因みに、京浜工業地帯が壊滅したという連絡が地球防衛軍の元に届いたのは、それから数分後のことであった。
―――
超高感度レーダーが敵の宇宙船を追い求めるなか、遂に特殊噴霧装置が完成し、大型戦闘機となる“ウルトラホーク1号”の下部に搭載された後、ウルトラ警備隊に出撃命令が下される。
その際、上官の判断により臨時隊員の資格を与えられた風来坊たる彼もまた共に出撃させられる事となったが、それはそれとして。
――4th Gate Open !……4th Gate Open !――
全長が40m以上にも及ぶ主力戦闘機が発進口から出撃するためか。
各職員が急ぎ準備を行う。
――Quickly !……Quickly !――
格納庫内にある操作室にて、窓の向こう側に見える景色を時おり確認しながら手元にある操作盤を動かす。
それにより状況に応じてα号、β号、γ号の3機に分離することが可能という優れた機能が備わっている機体が、カタパルトの上で鎮座したままゆっくりと移動されていく。
――Pull the Throttle !……Pull the Throttle !――
所変わって、富士山の麓にある二子山では異様な光景が広がっていた。
山頂の一部が唐突に開かれ、中から発進ゲートらしき人工物が露になるや否や、徐々に下から何かがせり上がってくる。
言わずもがな、ウルトラホーク1号に間違いなかったが、そうこうしている内に漸く準備が整ったのか。
機体が特定の位置に到達するなり、流暢なアナウンスが大自然に轟く。
――Alright !……Let's Go !――
次の瞬間。
機体の後部からジェット噴射が沸き起こるなり、軽やかに飛び立っていく。
白煙をまき散らしながら飛び立つ姿は、まさに天を翔る天馬の如し。
気が付けば、その機体はあっという間に空の彼方へと消え去ってしまい、やがて静寂という名の静けさが辺り一帯を包み込む。