今日で何日目だろうか?日が塞がってからというもの数える事が出来なくなりやめたのだったか。
あの日から幾度も自滅を繰り返したが再生を繰り返すだけだった。精神も何度も崩壊したが完全に崩壊した矢先に体と同様に元に戻ってしまう。それまでの記憶をなくし最初から始められればどれだけ楽であったか。
幻覚も幻聴も全て覚えている。恐らく精神的負荷を和らげるために脳が作り出したのだろう。幻だと頭では分かっていても体も心も気づけば藁にもすがる思いで動いていた。
ーードン!ドンドン!!
そう、触手を殴りつけるのもまた日課となっている。私ほどの力で洞窟の壁を殴り続けていれば簡単に崩壊させてしまうからな。痛みで現実に引き戻されちょうど良いのだ。
「かぐやっほ〜」
ドン!……
……幻聴か?いや、このような声のする鬼も人間もいなかった。脳が勝手に作り出したのか?
「どうせやる事もない。見るだけはしておくか」
そうだ。これがまた幻聴だったとしてもーーもはやどうでもいい。
もう私に生きる理由などないのだから…
洞窟内の壁や天井は無惨の血で隙間なく赤く染まっていた。どれほどの年月を過ごしていたのかは無惨すら知らないーー
◇
「おい…早く言えウミウシ?貴様はどこから来た?何故そのなりで喋れる?」
「ウミウシじゃなくて私かぐやって名前があるのー!ねぇ!?」
「……早く答えろウミウシ、私はそうとう気が短いらしくてな。つい手が出てしまうかもしれない」
「いーやーだぁ!?絶対に諦めないから!?名前で呼んでくれるまで絶対に答えないもん!」
洞窟の前で問答が繰り返される。方やパワハラ体質の鬼の王、方や我儘な悪童である。ひと昔であれば早々に無惨がキレて命共々終わっていただろうが今はいちいち怒る気力すらそこまで湧かない。
「……かぐやと言ったか?では聞こう、どこから来た?何故人語を喋れる?」
「やっと呼んでくれた!?もう照れ屋さんなんだから〜。あっそうだ!あなたの名前は?教えて〜?」
「鬼舞辻無惨だ!いいからさっさと答えろ!?」
「へー無惨て名前なんだ?かぐや2ヶ月くらいしかいなかったから詳しくないけどなんか物騒な名前だねー」
……ピキッ
まだ…多少は気力が残っていたようだ。
「貴様は人を煽りに来たのか?用が無いなら帰るぞ…時間の無駄だった」
「えー嘘嘘!待って!?物騒だけどカッコいい名前だって思ってるよ!話すから行っちゃイヤァ!」
久しぶりのまともな会話でかぐやもテンションが上がってしまい慌てて無惨を止める。そんな2人を見てモジャはあまり状況が分からず首を傾ける。神様同士の高次元なやり取りなのだろうととりあえず様子を見守ることにした。
◇
久しぶりの人間らしい会話ができて私はテンションが上がってしまい無惨を怒らせてしまった。戻ろうとする無惨を何とか止めて私がこの時代に来てしまった経緯を話した。地球に来た2ヶ月間の出来事、お迎え、月人、タイムスリップ…。普通だったらおかしな話だけど無惨は終始表情を変えずに聞いてくれた。
「タイムスリップか…。いくらこの星以外の優れた技術力を持った生命体だとしても時間を越えるなんぞ神の技ではないのか?」
「仕事に追われながら作ったんだ!すごい??」
おバカなように見えて実はかぐやは天才なのですよ「ドヤァ!」と胸を躍らせる。
「確かにな、ふざけた態度とは裏腹なようだ。だが…そのなりではすごさの欠片も伝わらん」
「仕方ないじゃん!来る途中ででっかい石にあたっちゃってボロボロなんだもん!?」
あと一歩のところで…あれさえなければ彩葉にも逢えたのにどじっちゃった。
ーーけど。
「私はどじってやらかしたけど、無惨も私とは違ったやり方でこの時代に来たんじゃ無いの?一生のお願い!無惨が帰る時でいいから私も連れて行って」
8000年も待ってなんかいられない。かぐやのために曲の続きを作ってくれた彩葉の元に帰るんだ。ハッピーエンドにするために……。
「何か勘違いしているようだが私は意図してこの時代に来たわけでも…ましてや時を超える手段は持っていない」
え……嘘。やっと帰れると思ったのに。
勝手に1人で舞い上がっていた私の心は希望から絶望へと叩き落とされる。じゃあ何で無惨はこの時代には合わない服を着て日本語も話せるの…どうして?
希望で満ちていた頭の中が絶望で急速に冷え込んでいく。そして今更ながら気づく、無惨の目を見るとその目は暗く何も映していないように見える。私なんかよりもずっと…深淵にいるような
「さきほどまでの狂喜乱舞はどうした?まあ、同情はしてやる。貴様を帰す手段を私は持ち合わせていないし、もっとも仮に持っていたところで使ってやる義理もないがな」
そんな余計な一言わざわざ言わなくても良いのに。でも、なおさら聞かなきゃいけないこともできた。
「じゃあなんで無惨はここにいるの?どうして?」
「……教える気はない。勝手に想像してろ」
そう言って洞窟に帰ろうとする無惨。「まだ質問してるのに!」と心の中で愚痴りながらまだまだ聞きたいことが山ほどある私は今日最後となるだろう質問を口にする。
「ちょ!?待って無惨!まだ質問中!ヤチヨって名前に聞き覚えはないの?かぐやが地球にいた時のトップライバーだった人なんだけど自分の事を8000歳ていう設定で活動してたの!本当だったら絶対この時代のどこかにいるはずなんだけど見覚えは?えーと、頭にかんざしつけてて青紫の着物を着てるはずなんだけど」
ヤチヨはいつも適当なようにしか見えなかったけど嘘をつくようには見えない。きっとこの世界のどこかにいるはず…
「ずっとこの洞窟にいた私が知るわけなかろう?私と貴様が例外なだけであって本来この時代に高い知能を持った有象無象共はいない。隣にいる奴を見ろ?全くこれまでの話についていけていないではないか」
ジェスチャーで何となくのやり取りは私もできるようになったけどこの時代にまだ日本語のような共通言語はできてない。私が見た限り発声の音の違いやジェスチャーでお互いにやりとりしているだけだった。村の人達にもヤチヨの絵を描いて知らないか聞いたけど知っている人はいなさそうだった。
そうなんだ…無惨も知らないんだ。今の私じゃできる事に限りはあるし、こんなちっぽけな体一つじゃヤチヨを探す事だってできやしない。
やっぱりハッピーエンドに終わらせるのは無理なのかな……
諦めかけるけど、その度ーー記憶を消されて仕事に没頭していた私に届いた歌を思い出す。彩葉がかぐやのために恐らく何日もかけて考え届けた大切な曲。きっと彩葉だってハッピーエンドを諦めてないから作ったんだ。なら、私が諦めるわけにはやっぱりいかない。
ーーバッドエンドはやだ!やっぱりハッピーなのが良いに決まってる!!良し!決めた!!
「ならさ!一緒に協力して帰れる方法を探そ!!こんな結末かぐやは認めたくないし!ハッピーエンドにしたいの!」
「……はっ?どうしたらそうなる?私を貴様のどうでも良い
そう言って私が瞬きした一瞬で無惨の姿が消える。えっ?何が起きたの、無惨は洞窟に帰っちゃった?
顔を横に向けてモジャの顔を覗いても私と全く同じ感じだ。あの一瞬でどうやって?もしかして無惨って彩葉とは別のタイプの超人?でもやることは決まった。やっぱりハッピーエンドは皆で一緒じゃないとつまらないからね!そんでもって無惨も一緒に連れて行こう!!
「む〜ざーーん!!明日もまた来るから!かぐやから逃げられると思わないでね!無惨の事も絶対聞かせてもらう!!」
オタク?達を一瞬で虜にさせ帝にも結婚を申し込ませた私の力を持ってすれば無惨だってすぐにメロメロになって私に協力するよね。
この時の私はまだ、無惨がボス属性持ちの状態異常無効で傲慢で臆病で卑怯者で口がとっても悪くて…でも私と同じで寂しがりやなのを知らなかった。この先とーっても苦労した。
◇
あのまま居続けると捕まりつづけ離しはしないと判断し、奴が反応できないだろう速さで洞窟内に逃げた。
む〜ざーーん!!明日もまた来るから!かぐやから逃げられると思わないでね!無惨の事も絶対聞かせてもらう!!
洞窟の外からうるさい小娘の声が響く。
嫌な奴に目をつけられてしまった。だが、人間ではないらしいが本当に久々に言葉を聞いた。まともな会話をした。鬱陶しくはあるがそれでも…孤高で過ごすよりはまだマシではないのか?
「どのみち、私と奴では立場が違う。あの雰囲気からして多くのものを魅了し陽に引き込んだのだろうが、私は逆に壊し破滅させてきた側だ。」
これまでしてきたことに反省する気なんぞない。だが、これ以上何かをするつもりもない。だからこそ関わるべきではないだろう。感情と理解は別のものだ、うっかり手がでてしまい傷をつけ有象無象共からまた憎悪をぶつけられたらどうする?面倒でしかない…今更生き方を変える事なんてできるわけなかろう。
「しばらく無視してれば奴の方から飽きて関わらなくなるか…これから見ものだな」
私と同じく諦め無様に引きこもって過ごすか、それとも這いずり回り泥に塗れながらも大願を果たすか…
無惨
人間を食べる必要性は無くなったが生きるためにエネルギーはやはり必要。完全となりもちろん燃費も良くなった影響でエネルギーを過剰に消費しなければ軽く100年以上は生きていける。死にたがっているが心の奥底ではまだ生にしがみついており無惨自身気づいていないが無意識のうちに触手を外まで伸ばして日が再び地球を照らし始めた時、光合成でエネルギー補給をして今日まで生き延びていた。
かぐや
無惨をロックオンした。ハッピーエンドから逃すつもりはない