転生したらオデッサだった~死んで坊ちゃんにリーダーを託す運命なんですが、死にたくないので何とかしたいです~   作:もめんどうふ

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後編

 何だか色々あったけど、イベントはこなさないといけない。

 坊ちゃんをリーダーにするために重要なイベントは夜だ。

 全員寝たのを見計らって、音を立てないように部屋から抜け出しバルコニーへと向かう。

 外に出た瞬間、ひやっとした空気に包まれた。冷たさは気持ち良かった。

 

 ここで待っていれば坊ちゃんが来てくれるはず。オデッサと坊ちゃんで二人きりで話すことができる最初で最後の機会だ。絶対に失敗は許されない。

 ――と、ゆっくりとした足取りで人影がバルコニーへとやってきた。

 

「あなたも眠れないの?」

 

 予定どおりバルコニーに現れた坊ちゃんに問えば、彼は躊躇うようなそぶりを見せたがすぐに素直に頷いた。

 

「わたしもね(死にたくないけど、死ななきゃいけないせいで思い悩んで)眠れない夜があるの。こうして夜の風にあたっていると、心が癒される?ような気がする?よね?」

 

 この辺正直うろ覚えだわ。多分こんな感じだったはず。

 細かいニュアンスが違っていても多分大丈夫、ここで、この子にリーダーの道を歩ませる決心につながるようなセリフを言えば問題ないはず。

 

「プレッシャーよね。あなたも、大将軍の息子だもんね」 

 

 こんな感じ、だったかな?

 

「帝国に戻れば平穏無事な暮らしに戻れるかもしれないけど」

 

 あれれ?? なんかおかしい方向に行ってしまったような……?

 めっちゃ坊ちゃん困惑してない?

 

 あ、そうだ、オデッサの決め台詞、まだ言ってなかった。

 ゆっくり息を吸って、頭の中に言うべき台詞を並べた。

 大事な言葉だから着実に、冷静に。

 

「あなたは あなたの見たものから、あなたの感じたものから、目を背けることはできないのよ。

それをするのは、あまりにも罪深いことだから」

 

 よし!決まった!

 坊ちゃんも神妙な顔つきになってくれた。

 で、更に叩きこんで、っと。

 

「あなたの目を見ていると落ち付く気がする。優しい目をしているって言われない? あ、ごめん怯えないで。別に他意はないわ」

 

 なんで? なんかおかしい……のはわかるけど。

 慌てて弁解するが、ぶち壊れた空気は修正、無理くない?

 

「だからその、ビクトールがあなたを連れてきたのは、だから、かしら? 待って、ビクトールにも他意はないはず! はず!!」

 

 うわああ! なんでこういう感じになっちゃうの!?

 

「あ、ありがとう……ございます?」

 

 ほら、坊ちゃん困惑しまくって語尾が疑問形なのよ!

 

「解放軍にも、人はたくさんいるけど、あなたのような目をした人はいないのよ。だからその、褒めてるの!」

「はあ」

「あなたにならついて行きたいってみんな思うかも……?」

「……そう、ですかね……」

 

 いやあ、もうこの雰囲気何とかしてほしい! って思った瞬間、目の前にやってきた。忍びの恰好をした――カゲだっけ?

 

「モースの使者ね! これが設計図よ! 受け取って!!」

 

 

 投げ付けるように渡してから、本当にモースの関係者なのか試さなきゃいかんかったんだ、って気づいた。

 でもまあ、うん、ちゃんと使者ってわかってるから、いいや。もう早くいって。

 頷くと、カゲも頷いて暗がりに消えて行ってしまった。とりあえず終わった。

 

「寝ましょう」

「あ、はい」

 

 何か坊ちゃんと距離が出来ちゃった気がするけど……、気にしても仕方ない。早く寝て、次は自分の死に備えなければ。

 

 

 

 一歩一歩足を進めるために、死にたくないという気持ちが強くなっていく。

 死にたくない。でも、バルバロッサは倒したい。

 でも、みんなを死なせたくない。

 バルバロッサを倒して、みんなを死なせないのは坊ちゃんなら確実にやることができる。

 そうして、共和国を作ることができるんだったら――私は退場すべき、なのだろう。

 でも、死にたくない。

 

 

 ……死なずに退場、できるかしら?

 生きていれば坊ちゃんと私との間のいさかいは避けられない。いさかいを越えてそれで坊ちゃんがリーダーと認められれば結束は強まるけれど、私と坊ちゃんが対立しているところを帝国軍に叩かれたら? ……そんな危ない賭けはできない。

 

 やっぱり死んで、地下水道に流されるのが正解――ってちょっと待って! 地下水道に流されるなら、生死は問わないんじゃない?

 

 生きたまま流されて、死んだことにすれば――偽装すればいいのよ!

 私は死んだことにして、坊ちゃんがリーダーになる。

 これよ!!

 

 

「オデッサさん、ご機嫌ですね」

「予定通り設計図を渡せたからじゃないのかい?」

 

 グレミオとクレオがそんな会話をしていたけど、そういうことじゃないのよね!

 ようやく悩んでいたことの答えが出たからに他ならない。

 そりゃ足取りも軽くなるってもんよ。

 

 

 

 レナンカンプの町につき、宿屋へと足早に戻る。

 扉を開ければ、宿の店主が倒れている。だが、これは予想通りだ。

 

 店主は無視して地下のアジトへとダッシュ。

 予想通り、子どもが帝国兵たちに囲まれていた。

 

「そこまでよ!」

 

 声をかけると兵たちの視線がこちらへと向いた。

 剣を抜いて一気に間合いを詰め、兵の一人に思いきり突き立てた。

 

「オデッサ様!」

「こっちにきなさい!」

 

 駆け寄ってくる子どもを背中に庇い、残った兵士たちと対峙する。

 ……思ったより、数、多いなぁ?

 ちょっと誤算だったかも。ゲームだとそんなに人いなかったような……いや、どっちにしろここを勝ち抜かないと私の未来はないわけで。

 

 

「……ごめんなさい……オデッサ様……!」

 

 背後にいる子どもが涙声で縋りついてくるけど、この子を見捨てるつもりなんてないから気にしないでほしいわけで、できれば縋りつくのもやめてほしいけど、動けないと斬られちゃうわけで……

 

「大丈夫よ」

 

 安心させるように微笑んで、私の腕を掴む子どもの手をそっとはずす。

 うん、……ちょっと無理かもしれない。どうしよう?

 とりま、早めに坊ちゃんたちに助けに来てもらおうかなぁっと。

 

 すううううう。

 大きく息を吸って――思いきり声を張る。

 

「きゃー---っ!」

 

 思っていた以上に悲鳴は辺りに響き渡った。

 よし、これで駆けつけてくれる。よね?坊ちゃん!

 

 いきなり上がった悲鳴に意表をつかれたのか棒立ちになる兵士の一人に斬りかかり、倒す。

 我に返った兵の一撃を剣で受け止めはじき返す。同時に横からの一撃への反応が遅れてしまった。

 痛ったあああ! 致命傷じゃないけど……と斬られた腕を庇いつつ、子どもを後方へと押しやった。

 坊ちゃん早く来て! 私、死んじゃうっ!

 

 願いが通じたのか、坊ちゃんご一行はすぐに駆け寄って来て兵士たちをさくっと倒してくれた。

 脱力してその場にしゃがみこむと、彼らは大慌てで駆け寄ってきた。

 ああ、もう何か、終わった感あるけど、ここから本番だ。気合を入れていかなくては!

 

「早く・・・・早く逃げなさい・・・・」

 

 とりあえず隠していた子に逃げるように促すと、はっとした様子で、子どもは足早に立ち去って行ってくれた。

 ……よし、私がほぼ無傷であることを明かさずに行ってくれたのグッジョブ!

 

 そしたら、次。

 行かなきゃ。地下水道に!

 

 膝をついたままの姿勢で坊ちゃんたち一同を見回す。

 

「オデッサ、なんでこんなことをした! お前がいなくなったら解放軍は」

 

 責め立てるビクトールに、原作のオデッサは謝ってた記憶がある。

『どうやらわたしは、革命軍のリーダーとしての自分より、一人の女としての自分を選んでしまったようね』

とか、

『あの子を見殺しにできなかったからリーダーとしては、失格だ』

とか。

 

 でも、それだけは違う。だから絶対に言ってやらない。

 リーダーとして失格なんて、絶対にない。

 子どもを見殺しにしたら、少なくとも私は私を許せない。

 自分を許せないリーダーは、きっとどこかでほころびがでるわ。

 だから何も言わずに逝ってやることにする。

 

 

 だって、何か、この水路――やばいわ。

 何か濁ってるし、死体を流しても見つからないって……どこに繋がってんの?

 うっかり飲みこんだら病気になりそうだし、目も空けられなさそうだし……どこに辿り着くかもわからないから、耐久レース? ……マジか。

 

 でも、やらなきゃ!

 ここで死んだことにしなければ! 歴史が変わってしまう。

 帝国は倒せなくなってしまうかもしれない。

 

 そんなのは嫌だ!

 

 

 だから、行くしかない!!

 

 

「私……いくわ」

「え……」

「私はもう、無理みたい、自分がよくわかってる。だけど、私が死んだことが伝わってしまったら、解放軍はバラバラになってしまうから」

「……え?」

「……オデッサ……?」

「……だから、私の亡骸があってはいけない。このまま水路に流されてなくなれば、……そうすれば、まだ、希望は消えない。だから、みんなの心に灯ったわずかなその光を、私の死で消すことがないようにどうか、お願い!」

 

 正直言えば、滅茶苦茶怖い。

 でも自分で飛び込まないと、何度も「できない」って言ってたらビクトールに強制的に投げ込まれてしまう。

 

 だから行く!

 勢いをつけて立ち上がり、止まることなく水路に向かってダッシュ。

 振り返ることなく、水路に飛び込んだ。

 

 

 どぼん、と鈍い音が鳴って、体が水へと沈んでいく。

 怖い怖い怖い!!!

 

 

 でも死にたくない!

 

 もはやデッドオアアライブ、RTA!

 地下水道から抜け出せ! 生きていればクリア!!

 

 ……絶対に死んでたまるかアアアア!!!!

 

 

 決意を固めた瞬間、力がみなぎって来て、私はとにかく水をかき分けて進んだ。

 どこに進むかなんてわからないけど、アイテムも経験値も取りこぼしてもいい。

 とにかく生きるのだ。今は。

 

 

 

 

 必死で泳ぎ切って、地面に上がった瞬間に、思いきりむせ返った。飲んではいないけれど、幾分か鼻から水が体内に侵入していた。

 

 げほげほと激しい咳を繰り返して、何とか仰向けに転がる。

 思ったよりは水は水だった。ちょっと生臭いけど。ヘドロとか漂っていたら多分途中で諦めて力尽きていたかもしれない。

 

 

 でも、私は生きている。

 目を開ければ、夕暮れに染まった空が見えた。

 生きてる、と喜んでいいんだろうか。

 

 これで、坊ちゃんが解放軍のリーダーになって、たくさん仲間を集めて、バルバロッサを倒すのだろう。

 私は――。

 

「そう言えば……フリックへの伝言、伝え忘れちゃった……」

 

 "あなたの優しさは、いつもわたしをなぐさめてくれた。"

 

 

 そんな簡単な一言だったのに。

 ごめんねフリック。

 わたし、前世ではビクトール派だったの。

 

 もう会えないのに、飛び込まなきゃって気持ちで焦ってしまってて……。ああ、もう、何だか胸が痛い。

 死んだ人にはもう会えない。私が死んだほうだけど、もう会うことはできない、そう思ったら、ぽろぽろと涙がこぼれてしまうのは、仕方がないことなんだろうか。

 

「ごめんなさい、フリック……」

 

 さっきは謝れなかったのに、今は謝りたくて仕方ない。

 リーダーでいられなくてごめんなさい。

 イレギュラーを恐れなかったら、私はフリックとずっといられたのかしら?

 ……ううん、もしオデッサが生きていたら、フリックがオデッサを庇って死んでしまったかもしれない。それは絶対に見たくないから。

 だから、多分これが正解……な、はず。正解だと、思いたい。

 

 

 ごろんっと横に転がって、深くため息を吐く。

 生臭い。早く着替えたい。そんな欲求が湧いて、自分が生きていることを再び確認してしまった。

 

 地面と耳の間に何かが挟まっていて耳に圧迫されるような痛みがある。

 なんだろ?と思って耳に触れればイヤリングをしたままであったことに気づいた。

 水の中でなくならなかったのは何気にスゴイ。

 感心しつつ、もう片方のイヤリングをはずし二つを手で包み込んで―――って。

 

 渡 す の 忘 れ て た !!!!

 

 

 

 え、ちょ、ヤバくない?

 イヤリング渡さないと、兄――マッシュは多分力を貸してくれないし、っていうか、マッシュの存在、坊ちゃんに伝えてないし!

 

 いや、詰んでる!!

 飛び込まなきゃってことに必死で、すっかり色々抜け落ちていたけど、次の場面に進むアイテムを渡し忘れてたとか……どうしよう。

 

「このイヤリングをセイカの村にいる、マッシュという人に届けてください」

 

 声に出して見ればそんな簡単な内容なのに。

 死人に口無しなんてよくも言ったもので。

 

 ならば、手紙、か。

 メモ書き程度でいいのよね、それだけ書いてイヤリングと一緒に坊ちゃんに渡す。それで次に進めるはず、よね? うん大丈夫!

 

 

 問題はどうやって坊ちゃんに渡すか、ってことで。

 

 

「……忍びこむ、か」

 

 多分アジトの上にある宿にいるはず。

 今ならまだ間に合うはず。

 

 だったら行くしかない!!

 

 

 

 

 レナンカンプの町にこっそり戻り、夜になるのを待って宿屋の壁を登り、窓から忍び込むことに成功。

 窓を開けておいてくれたことに感謝! でも防犯的にはアウトだから気を付けてくださいね、坊ちゃん。

 

 あまりにもご都合主義な展開に何かの罠を疑うが、どうやらそうでもないみたい。みんな泥のように眠っていて私が忍び込んだ気配に気づくこともなく眠りに落ちている。

 

 坊ちゃんは――いない。別室のようだ。

 ドアから廊下へと出て隣の部屋に向かう。ドアには鍵がかかってなかった。

 本当に、防犯ヤバいって坊ちゃん! 私的には助かるけども!

 

 複雑な気持ちのまま部屋に忍び込んで、寝ている坊ちゃんの枕元に立った。

 イヤリングと、サラっと書いたメモを坊ちゃんの枕元に置けばミッションクリアだ。

 地下水道RTAに続き、二つ目のクリア。幸先、よくない?

 

 

「……さて」

「……オ……オデッサ……さん」

 

 去ろうかと踵を返そうとした瞬間、坊ちゃんが目を開けてしまった!

 え……!? や、やばっ!

 

「オデッサさん! 生きてたんですね! 良かった……! 本当に……良かったぁ」

 

 

 心底嬉しそうに、涙まで流してそう言ってくれる坊ちゃんに再び胸が痛んだ。

 ……私はあなたに、重圧を押し付けているだけなのに……と。

 でも、あなただから、やれる。

 そう信じてる。

 

「……わたしは、死した女……、あなたに伝えなければどうしても死にきれず、死の国から戻ってきた。でも、長くは留まることはできない……」

 

 なぜか口からすらすらとそんな言葉が飛び出てきて、言った自分自身でびっくりしてしまった。

 でも、まあ、それっぽいからそういうことにしておこう。

 

「あなたに、お願いがあります。このイヤリングをセイカの村に住むマッシュという男に渡してほしいの」

 

 上半身を起こし、坊ちゃんはうんうんと何度も頷いて、先ほど私が枕元に置いたイヤリングを大事そうに両手で包み込んだ。

 純粋すぎて、マジで胸がずきずきと痛むよー。ちょっとは疑ってもいいんだって……いや、疑われたら私が困るからそれぐらいの純粋さ、大事にしてほしくもある。

 

 うう。

 

 

「わかり……ました……! 必ず、その人に届けます」

「……お願いね」

 

 マッシュの手に渡れば、多分あの兄のことだ、私の思惑は理解してくれるだろう。

 いつも思うけど、軍師って何だろう? 透視能力でも使えるのか? ってぐらいこちらの心すら読んでくれるから便利というか、なんというか。

 まあいいや。

 きっとこの子ならあの兄の頑なさも解いてくれると信じてる。っていうか、実際絆されて主君として扱ってたしね。

 

「眠りの風!」

 

 念のためと身に着けておいた紋章を発動させて、坊ちゃんを眠らせ、ようやく安堵のため息が漏れた。

 最初から寝かせておけばよかった。というのはあまりにも後の祭りなのかも。

 

 

「この子、こんなんで大丈夫なのかしら?」

 

 

 ゲームの中の彼は無口で、さくさく話を進めてくれたけど、とても純粋で、優しくて、心配要素が多すぎる。

 グレミオを失ったら、この子どうなっちゃうんだろう。

 108星を集まればっていう安全策もあるけれど、集められる……?

 

「……ヒント、与えるぐらいはいいかもしれない」

 

 このまま私が黙って何もせずになんていられるわけがない。何らかの形でやれることがあるなら何だってできるって思ってた。

 だから、このゲームの知識チートを、この子がハッピーエンドに行けるように使ってもいいんじゃない?

 

 こうやって、夢枕みたいなので知らせる分には、やれなくもないし。

 

「うん、そうしよう」

 

 

 というわけで、夢枕システムの導入が決まったのであった。

 

 

 あれから少しだけ時間が過ぎて、私が何をしているかというと――。

 たまーに坊ちゃんの枕元に立って、仲間になる108星の情報とかを横流ししてます。

 

 本拠地内では「オデッサの幽霊が出る」って噂がたってるけど、古い建物だから幽霊話の一つや二つ、あってもおかしくないってことにしておこう。

 

 ……そして解放軍は私の夢枕アドバイスのおかげもあってか、段々大きくなっているので、このまま見つかることなく、赤月帝国を倒すことが出来そうで何より。

 

 ただ指をくわえて見ているなんてできなかった――なんて、私らしいといえば私らしいけど、「私、オデッサ、今あなたの枕元にいるの」なんて怪談を実演するなんて誰が予想できた?

 

 ……って、我に返っちゃ駄目。これからどうするんだろうとか考えた瞬間、負けるわ、絶対。

 

 

 

 

 

That's end?

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