「今日から、このトレセン学園で皆さんと一緒に学ばせていただきます、若本 遥です。 よろしくお願いします。」
おはようございます、遥です。
編入1日目、全校集会で朝から約2〜3000人の前で自己紹介をさせられてます。
・・・・・うん。
こうなるのは大体予想してました。
案の定かなりの人数がざわついているし、睨んでくる子すらいてかなり気まずい。
俺を事を知らない人からすれば、
ヒトミミでしかも男の俺がトレセン学園へ入学するのを気に入らない筈だろう。
俺は挨拶が終わると、そそくさと壇上から降りてトレーナーや教員達の整列する列に並んだ。
生徒として編入したがどちらかと言えば俺はトレーナー扱いらしく、生徒達と並ぶ事はまず無いらしい。
授業なども、
俺は特定の教室で学び続けるのではなく、受けるべき必要な授業が有る教室に毎回移動しながら学習していくそう。
効率が悪いかもしれないがこれも仕方ない。
学園側も今後の為に色々と模索中なのだ。
ここで裏話だが、
上層部と俺の知人間で一悶着あったらしく。
自分達のクラスに入ると思っていたシービー達が、
俺がそうならないと知るや否や生徒会に乗り込んで抗議デモを決行。
シンザン会長の胃に大きなダメージを与えたそうな。
ラモーヌが俺を迎えに来たのもその抗議の延長線故らしい。
正直俺も彼女達のクラスに入りたかったが大人しく我慢しよう。
競走の練習時間は学年全体で合同で行うそうなのでそこで楽しむことにする。
俺は、今日は何の練習をしようか考えながら足早に初めて授業を受ける教室に向かった。
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遥です。
今緊急で動画を回してます。
いくつかの授業が終わり、午後から行われる待望の学年競走練習の時間が始まったのですが。
何と俺はトレーナー側だから皆んなとは基本走れないと言われてしまいました。
別に少しぐらい我儘言っても良くないですか!?
良いぞシービー!
その調子でお前も抗議しろ!
あっ六平さん、・・・やっぱりダメですか?
助け舟を期待し振り返ると、シービーはどこにもおらず遠くの方でルドルフ達と坂路の練習に混ざっていた。
切り替え早いなこの野郎。
まあ本来の目的はトレーナー業務の方なので仕方ないと言えばそこまで。
それにやり方次第で俺もどさくさに紛れて走れん事もない。
全ては計画通り。
冗談はさて置き。
俺は練習風景のレポートを書いていると、シリウスが自分の走り方を見て欲しいとお願いして来た。
初のトレーナー業務の始まりである。
その為に俺はシリウスのフォームを確認する為動画を回していた。
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「どうだ遥? 何か気づいた事はあるか?」
「そだね。 取り敢えず力み過ぎかな。」
「そうか? 私は別にそこまで力を入れてるつもりは無いが。」
「上半身は、ね。 前見た時よりフォームが綺麗で無駄が少なくなってると思うよ。 問題は足の方。 地面を蹴る時、足首で必要以上に力が入ってる。」
シリウスの走り方は、簡単に例えると力強いイメージ。
シービーの走り方にとても良く似ている。
これは脚質が似ている部分も関係していると思うが、
俺の考えは少し違った。
「まあパワー自体は悪く無いと思うよ? 同世代と比べるとかなりある方だと思うし、もしかすればシービーと張り合えるんじゃ無いかな?」
「私はあいつの下だと?」
シリウスの雰囲気が少し悪くなった。
気にしてたのかな?
しかしこれは事実なので受け止めてもらう他ない。
「残念ながらね。 それに想像してよ。 シービーが絶好調だとして、2人並んで東京レース場の最後の直線で同時にラストスパート。 追い越せるイメージ湧く?」
シリウスは唇を噛み拳を握り露骨に嫌そうな顔をする。
やはり気にしていたか。
「ごめんね。でもこれ以上に分かりやすく伝えられる例えが思いつかなかった。」
シービーはパワーだけで言えば同世代と比べると抜きん出ている。
小さい頃から坂道を走り回ってない限りこうはならない。
まぁそれに加担していたのは俺なのだがね。
「でもシリウスは彼女に並べるぐらいの素質は絶対あるよ。 今はまだ成長途中だから焦らず鍛えよう。 話を戻すけど力の入れ具合の話しだけど。」
「小さな動きが積み重なって結果的に知らず知らず足を使ってしまったりもするから、使うべき場所で必要な力を出せる様心掛けよう。」
その後しばらく間、シリウスと2人で足元を重点的に問題点を洗った。
今まで無意識に走り自然と身に染みてしまった癖なのでそう簡単にはいかないが、若干の改善の傾向が見られたらので良しとしよう。
休憩時間が迫った時、俺はシリウスに気になっていた事を聞いてみた。
「シリウス。 力の入れ具合の件だけど、君はどこかここじゃない場所を考えながら走ってる様に感じたけど?」
俺の質問にシリウスは少し驚いた表情をしたが、
振り返り去りながら「知るかよ」と悪態をついて行ってしまった。
途中感じた機嫌の悪さは無い気がしたので多分大丈夫だろう。
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休憩が終わり、
「お待たせ。」
「おう、やるか。」
あれから約半年経った。
俺はシービーとの約束通り、ついにここまでやって来た。
これからは彼女の隣で一緒に走り、
いつでも彼女の背中を支えてあげられるトレーナーになると誓おう。
その前に一旦走ろうぜ?
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六平さんや他の教員の方々に許可を貰い、
俺とシービーは2人だけで1800mの芝コースを走ることになった。
勿論お互い手加減無しの全力。
まさにあの日の再現だ。
しかしこれだけのことをやる為説得するのに苦労した。
誰かと言うと、
六平さんや奈瀬さんと言った面識のあるトレーナー教員ではなく、
主に俺のことを知らない学園関係者達。
俺のことを知らない人からすれば、俺は理事長が権限を使って無理やり入学させた素性の知れない若手トレーナーの認識が大多数らしく、
そんなヒトミミが学年でもトップクラスの有望株であるシービーと何故か併走しようとしているのだから不満もそれなりに出てくるのだと。
そこでそれらの教員や、まだ俺のことをよく分かっていない学生達に俺が何者なのか知ってもらう為に皆んなの前で走るのだ。
六平さんからアドバイスとして、
「全員の度肝を抜いてやれ。」
と言われた。
分かってますよ先生、
元よりそのつもりでしたから。
「2人ともずるいわ!私も混ざって走りたかったのに!」
「ごめんねマルゼン。でもこれだけは譲れないよ。」
「仕方ない、今回だけは沈思黙考。 君達の実力を改めてこの目に焼き付けさせてもらおう。」
「その時は絶対にあたしも混ぜてくれよな!」
「悪いね皆んな。 だけどシービーの言う通り、これだけは俺も譲れないんだ。」
スタートは、生まれて初めて本格的なスターティングゲートで行う。
スタートに限って言えば経験者のシービーに少し分があるが仕方ない。
逆に俺は当然経験など無いので、学生達が練習していたのを思い出しつつスタートの合図を待つ。
係員が旗を振り、俺たちはゲートがいつ開くのかその動きに集中する。
ガシャンッ
ゲートが開いた。
俺は勢い良く飛び出して行く・・・つもりだった。
心配していた通り、俺はしっかり出遅れ出鼻を挫かれ、
見ていた学生達から笑い声が溢れる。
出遅れにかなり焦ってしまったが、その感情も一瞬で落ち着いた。
何故なら内枠側にいた筈のシービーがまだ俺の視界に現れないからだ。
「えへっ。」
何とシービーも同様にやらかしており、2人仲良く遅めのスタートとなってしまっていた。
お互い出遅れたのならもう関係ない。
俺とシービーは改めて横目を合わせ、お互いが出せる本気のスタートを切り戦いが始まった。
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1コーナーを過ぎ早くも2コーナーに入る。
ここまで変わらず、俺たちは並んだままコーナーを曲がって行く。
シービーはコーナーを曲がる練習をしてなかったのか横目で見ても分かるほどフォームは良くなく無駄な力が入っていた。
逆に俺はルドルフ達に多少教えた経験もあったので、意識しながら比較的ロスなく曲がり終え、2人とも向正面の直線に入る。
「飛ばすよ。着いて来れる?」
「どこまでも。」
シービーはペースを上げ、ほぼ同時に俺も足に力を入れて速度をわずかに上げた。
中間を過ぎてもまだ俺とシービーは並んだまま、そのまま3コーナーに突入。
ここでシービーが速度をわずかに下げ俺の視界から完全に消えた。
(もうバテたか? 流石にそれはないよな?)
少し考え事を挟んだ瞬間、俺の耳は違和感を捉えた。
何処からか聞こえてくるシービーの足跡が変わったのだ。
それも俺が今まで聞いたことのない、例えるなら大地を踏み砕く様な足跡。
その音に注意を割いた時だった。
シービーが俺の視界の右側から、
コーナーを曲がりながら外を突き、ラストスパート並みの勢いで大きく速度を上げかけ上がって行く。
「置いて行くよ。」
言葉は聞こえないが、
彼女の背中は俺にそう言っている様に聞こえた。
舐めんなよ。
パワーだけなら誰にも負ける気がしないんでね。
4コーナーに入ると同時に、俺も最後のスパートをかけシービーに再び並び更に前に出る。
そして4コーナーを曲がりきり最後の直線。
練習用コースは全て平な作りになっているのでレース場の様な坂が無い。
なのでこの最終直線は文字通りスピードは勿論スタミナとパワー、そして根性が物を言う純粋な実力勝負。
ゴールまで残り300m、
「はあぁぁぁぁあ!!」
あの時の様な色のない世界には入れないが、
それでも今の俺が出せる全身全霊の速さ。
シービーの足跡が後ろへ遠のいていく。
コーナーであんな曲がり方をしていた影響だろう足が持たなかったのか。
残り200m、
俺は勝ちを確信した。
150m、
だがその考えは数秒も持たず消え失せる。
100m、
消えた筈のシービーの足跡が再び聞こえ、
あろう事かすぐ隣から聞こえていたのだ。
50m、
「「ああぁぁぁああああ!!!」」
終わりは目の前だと言うのに、
あと少しの所でシービーは俺を抜き去り、
勝負は決した。
あの時同様、
俺は手の届く距離で再びシービーに勝てなかった。
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「最高! 今までで1番の走りが出来た気がする!」
シービーが興奮気味に俺の両肩を持って力強く揺さぶってくる。
俺全力出し切ったし君のこれのせいですごく気分が悪いの、
お願いだから本当にやめて。
「また走ろうよ! 次は皆んなも混ぜてさ!」
「へっ、へうぷ。」
「待て待てシービー! おーい遥!しっかりしろ!」
頭を揺さぶられて口からダメなものが出る寸前でエースが割って入り一命を取り留めた。
レースで走るよりもそちらの方がダメージが大きく、
俺はしばらく日陰で休憩をさせてもらう事になった。
その後休憩をし気分がだいぶ回復した頃、
まだ話したことのない学生達から声をかけられた。
どうやらシービーとの対決は少なからず意味があったようで一先ず安心。
残った時間はレースについてやそのアドバイスをしたりして精一杯トレーナー業務に励み、今日の日程が終わった。
その間シービーはルドルフ達と混ざり、ひたすらスピードトレーニングと言うなの併走に明け暮れ終始六平さんに叱られていた。