たづなさんの合図を皮切りに、6人がスタートを決めた。
マルゼンさんがとんでもない好スタートで先頭に立ち、その後ろをエースさんがピタリと付く。
ルドルフさんも少し後方に待機し斜め後ろぐらいにラモーヌさんが。
俺とシービーは並んでその2バ身後方に位置を決め1コーナーを曲がって行く。
「まがれーーーーーー!!」
受験者の方から年末の特番で行われていたハリボテ仮装レースの曲がれコールが聞こえ思わず笑いそうになった。
笑わせてくるのやめてね?全速じゃないけど本気で走ってるから転んだりしたら洒落にならないよ。
だがその余裕も前の4人を改めて確認し消え失せた。
マルゼンさんとエースさんの逃げ勢が速すぎる。
後はルドルフさんを前にしてようやく2コーナーを曲がり始めたのにあちらは向正面の直線に入っている。
それにルドルフさんやラモーヌさんもすごい。
こちらはコーナーの曲がり方が綺麗すぎる。
ぶれたりせずお互い絶妙な距離を保ちつつロスなくコーナーを曲がって行く。
本当に入学したてデビュー前の学生なのか疑ってしまうほどに。
そして隣にいるシービーも。
「すごいね遥。しっかりついてこれてるじゃん。」
当たり前だ。
あの時を境に俺は身長も伸びたが同時にパワーも当然上がっていた。
学校の階段も基本軽く2歩で登れる様になったし、登下校で全体の時間は勿論坂道で毎日タイムを測りスタミナとスピードを意識して走った。
受験勉強ばかりしていたわけじゃない。
「そっちも、眠い走りしてたら置いてくぞ!」
俺は中間地点を超えた辺りでギアを上げた。
理由煽られたからではなく逃げ勢の影響。
彼女等は既に3コーナーに迫っていた。
この練習コースは1800mの平坦ではあるが最後の直線が短い。
その為ここから速度を上げなければ、先頭があの速さで最後まで行かれたら後方組は差しきれないと判断したからだ。
それを分かっていたのか他3人もほぼ同時に速度が上がりスパートとは行かない程度で3コーナーに入った。
やはりあの時よりも体が軽い。
芝も公共のコースより質が良いのか同じ種類だと言うのに手応えが全く違い思い通りに前へ進める。
「・・ッ⁉︎、素晴らしいな!」
「期待通りね。」
ルドルフさんとラモーヌさんに並んだと同時に、2人が一瞬驚愕した顔で俺の方へ目を向けた。
ヒトミミがウマ娘に追いついているのだから当然だろう。
「凄いよね。やっぱりキミと走っている時が1番楽しいや。」
そう聞こえた途端、内ラチ側を走っていたシービーがいつか3人の大外を回す形で抜き去って行く。
それを見た俺達は、シービーに一瞬遅れたものの最後のスパートに入った。
4コーナーを回りきり直線を向くと、4バ身前までマルゼンさんとエースさんに迫っていた。
しかし先程も言ったがここは最終直線が短いので悠長にしている暇はない。
「はぁぁぁぁぁあああ‼︎」
俺たち4人は並んで前方の2人へと差し迫る。
それを受けた2人も最後の力振り絞り再加速。
受験者達の歓声が聞こえるが何を言っているのか入ってこない。
今は考えることは皆同じ、誰よりも速くゴール盤を超える事のみ。
そしてシービーとルドルフさんが少し前を行き、
遂に長い様で短い模擬レースが決着した。
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「皆さん素晴らしい走りでした。 こちらを飲んで休んでください。」
ゴール後直ぐにたづなさんがかけ寄って来てタオルとドリンクを渡してくれた。
「・・・ありがとうございます。 ・・・これは、・・・一体何処から?」
久々に全力で走ったので息が全く整わない俺は、肩で息をしながらたづなさんにお礼を言いつつ質問を投げた。
すると、
「私だよ。 ったく、シービーはともかくラモーヌに皇帝さままで揃って伸びやがって情けねえな。 もう少しこいつを見習えよ。」
たづなさんの後ろから現れたのは、先程までいなかった新しく見るウマ娘だった。
「しかしヒトなのにあいつ等相手によくあれだけ走れたな。 私はシリウスシンボリ、よろしく。」
「よっよろしく。」
多分漫画だったら歯が光るエフェクトが入りそうな挨拶をしてくれたシリウスさんがこれ等のタオルとドリンクを持って来てくれた様だ。
「サンキューシリウス!。 気がきくじゃねえか!。」
「タイミングバッチグーよシリウス。」
「シリウス。らしくないわね。」
「さっきまで仰向けになってたお前が言うなよ。」
見ただけで分かる、シリウスも今走った彼女達と同等のポテンシャルを持っている。
先程レースに参加してないのが非常に残念だ。
「たづなさん。 レースの結果はどうなりましたか?」
「はい。こちらにゴール時の録画があるので見てみましょう。」
そう言ってスマホを集まった7人に向けてくれたたづなさんは録画の再生を始めた。
注意深く見てみると、最後はシービーがルドルフさんより僅かに出て1着を取り結果はこんな感じだ。
1.シービー
2.ルドルフ ハナ
3マルゼン クビ
4.ラモーヌ ハナ
5.俺 クビ
6.エース ハナ
俺たちが息を整えている間、ずっと受験者達が審査をしてくれていたがそれでもそこそこ時間が掛かるぐらいの接戦だったらしい。
走っているこちら側はそんな事を考える余裕など無いので結果を聞いて皆驚いた。
「しかしあんた本当に速いな!。ヒトに抜かされたのは初めてだぞ。」
「全くだ。本当はウマ娘じゃないのかと疑ってしまう程にね。」
「てかコイツなんだろ? 理事長が全校集会で流した映像に映ってたのは。」
全校集会?
シービーさんちょっと聞きたい事があるんだけど。
目を逸らすんじゃないこっちを向け。
無理やりこっちに顔を向けさせても目だけは違う方を向いている。
まじかこいつこの状況で誤魔化そうとしてるよ。
「かなり日程とは異なってしまいましたが、皆さんこれにて模擬レースは終了。 受験者の皆さんは試験会場へ向かいますので私の後について来てください。」
レースを見てまだ興奮冷めやらぬ受験者達をたづなさんが改めて取り仕切り、俺とシービー達は自己紹介をして別れる事になった。
最後にターフを去ろうとした俺に猿の玩具みたくシービーがしがみついて離れなくなり、仕方なくシリウスとエースが力尽くで引っ剥がし連れて行った時は腹を抱えて笑ってやった。
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「歓迎‼︎、皆の者よくぞ集まってくれた!」
たづなさんの案内の元試験会場だと思われる建物に到着した途端、突然扇子を持った少女が現れて俺たちに挨拶をしてきた。
「貴女はもしかしてこの学園の?」
恐る恐る俺が尋ねるとその少女はこれまた大声で、
「うむ!、この私がここトレセン学園の理事長を務める、秋川やよいである!」
自慢げに答えながら扇子を一瞬で開き直し、そこには歓迎の文字が書いてあったのに次は正解と書かれていた。
どんな手品なのか想像もつかないがそこそこ強烈な人間性だと言うことは理解出来た。
「この後は.お昼を食べた後、筆記試験を行い15時から順次面接を行います。1人1部屋ずつ部屋分けをしますので各自荷物はそちらに保管して下さい。」
ぞろぞろと試験会場のスタッフに各受験生が案内される中、
俺も後をついて行こうとした矢先、秋川理事長に呼び止められた。
「若本遥君。 君は筆記試験が終わった後自室で待機してほしい。 ルドルフ君が迎えに行くから詳細は彼女から聞いてくれ。」
数分前とは印象が少し変わり真剣な面持ちでそう語る理事長。
俺は少しビビりながら返事をし急いで与えられた部屋へと向かった。
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「理事長! 模擬レースの件、急に言われると困ります。 次からはせめて一言下さい。」
「謝罪!、これはすまなかった。 シービー君達が休み時間に急に私の所へ来て直談判をして来たのだよ。ルドルフ君も一緒にいて彼女の言う事も一理あったので急遽許可したのだ。」
「そう言う事でしたか。」
「しかし良いものが見れただろう? 彼の走りはどうだった?」
「ええ、体質の件は聞いていましたがあれほど本格的だとは思いませんでした。 走り方も彼女達と遜色ないレベルでトレーナー試験を受けに来ているだけあってレース運びもほぼ完璧でした。」
「それは結構!、だが同時に、実に残念でもある。」
「そうですね。 彼がウマ娘であれば、彼女達と同じく新しい時代を築く一員になれたかもしれないのに。」
「いやまだ諦める事は無いさ。 彼次第ではあるが、彼も彼女達の隣で我々と同じ道を辿れるやもしれん。」
「はい、期待しましょう。」
「時にたづな、そうなった場合に備えて例の件を進めておいてくれ。」
「分かりました。 直ぐに取り掛かります。」