これからどうなるんだろう。
俺は案内された自室のベットで横になっていた。
理事長曰くルドルフが来るからとのことだったが果たしてその末路はどうなるやら。
時間は2時間前に遡り、
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
始まりました手に汗握る筆記試験。
いざどんな試験を繰り出してくるのだろうかと武者震いをしつつ身構えている。
こう言う時は手に指で人と書いて飲み込むと良いらしい。
・・・・・・・人って左から書くんだっけ?、それとも右から?分からなくなった。
終わりだ。
オレンジ髪の代行君みたいに絶望している最中に、試験開始の合図が鳴り模擬レースとは打って変わって最悪の筆記試験のスタートを決めてしまった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・・・・・なんか。
あっさり終わった。
別に何かを間違えたとかそう言う事ではなく。
あっさりと試験問題を解き終わってしまい15分程余裕があるぐらいだった。
確かに、内容の1/3は中学に上がって必死に勉強したレース知識だったのでそこまで苦戦する事は無かった。
だが肝心なのはそれ以外の問題だ。
何せその殆どがウマ娘の人体構造や怪我に関する知識にウマ娘の歴史などで、それらは父さんや母さんから惚気話のついででほぼ毎日聞かされていたので頭に染み込んでしまっており自然と問題が解けていた。
寧ろ見直しの方が体感時間が長く感じたぐらいだ。
筆記試験終了後に改めて予定を言い渡されたが、
1日目はこの後面接。
2日目は学園のウマ娘の練習及び模擬レースの評価などのレポート提出。
3〜4日目は本来の日程と変わらずよ◯こよろしく無人島生活らしい。
だが俺だけはかなり日程が違うらしく自室待機を言い渡され現在に至る。
待機し始めてくわえて2時間が経過した頃、
廊下から他の受験者達の足跡がバタバタと聞こえ出し俺は焦りが募った。
俺だけ呼ばれて無いんだけどこれ本当に大丈夫?
もしかしてシービーが何かやらかしてその対応に追われているとか?
あいつならやりかねないなと、くだらない妄想に耽っているとそれは突然訪れた。
コンコンッ、とノックの音の後。
先ほど聞いた声がドアの向こうから響いた。
「私だ、ルドルフだ。遥はいるか?」
「いますよ。 ずっと待ってました。」
ドアを開けると、模擬レールの時とは違いきちんと学生服を着たルドルフが立っていた。
「会ってもらいたい人たちがいてね。ついて来てほしい。」
案内されるがまま、俺はルドルフの後について行った。
途中で俺が、
今から俺の面接をするのか?、と尋ねると。
少し笑いながら、そうなるなとルドルフは答えた。
なぜ笑っているのか理解出来なかったがあまり深く考えずに足を進めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ここだ。」
ルドルフはやっと立ち止まった。
それも俺が1番止まってほしくない場所でだ。
ここで面接をするぐらいなら学園の職員室ででもやった方がまだましである。
他より少しだけ豪華な両扉。
その中央の上部についている名前。
[生徒会室]
(終わったぁぁぁぁぁあ。 生徒会って事は今の生徒会長いるって事だよね? テレビで見たしなんならイベントで間近で見た事ある目つきの怖いあの人と対面するの⁉︎)
脳内でイ◯ンの閉店BGNが流れる中、
入るぞ、と言いルドルフが生徒会室の扉を開けてくれた。
そうかそうか君は、わしに◯ね と言うのか。
「失礼します。」
良いぜ。 やってやろうじゃねぇかこの野郎。
左でも右でもどっちでも打ってやるよ。
俺はそんな意気込みを心の中で固め入室したが、その意思が早くも崩れ落ちる。
何処にでもある応接室のような高級そうな椅子が並べられており、
例のあの人が1番奥正面の椅子に座りその左右にこれまたテレビで見たことのある二人組が立ち、
左の椅子にはグラサンを掛け両手で杖を持ったおじいちゃんと若いお姉さん。
右側には理事長とシービーが座り背後にたづなさんが立っていた。
取り敢えず俺は練習した通り自分の名前と挨拶はしようと声を上げた。
「若本遥です! 本日はよろしくお願いします!」
「うむっ、座りたまえ。」
その人の許可を経て、
「しっ失礼します。」
俺は声が裏返りながら精一杯返事を返した。
視界の右側でシービーが笑いを堪えているのを確認した俺は、次に会ったら泣かす事を心に決め前方のあの人へと意識を集中させる。
しかし数十秒が過ぎてもその人は名前すら言わないしなんなら声すら出さない。
もしかして俺、何か言い忘れてる事あったか⁉︎
1人脳内ダメコンをしていると後ろのルドルフが口火を切ってくれた。
「シンザン会長。 何か言って下さい。遥を含め我々もそう黙りこまれると困ります。」
「うっうん。分かってる。」
あれ?
この人本当にあのシンザン会長?
俺の思ってたイメージと全然違うけど?
ルドルフに言われてようやく口を開いたシンザン会長だったが、
それでも変わらず俺を見たまま険しい表情で微動だにしない。
この人本当にシンザン会長?
再び数十秒が過ぎた頃、
左に座っていたおじいちゃんが声を荒げて吠えた。
「良い加減にしろシンザン! お前それでもセントライト以来の三冠バか⁉︎ 本当に見てくれだけは一丁前に生徒会長だなおい!」
「だっ、だって。私とルドルフとシービーで話すと聞いていたのに。理事長はともかく六平さんや奈瀬さんまで来るなんて・・・、それに。」
「私達がいないとシンザンて、絶対言わないといけない事も言えないだろうし当然じゃない。」
「そうだぞ。トウショウか私のどちらかが見てないとウジウジして話にならんからな。 まあ今回は理事長のお願いなのもありこうやって生徒会が揃っているのだが。」
両肘を机につき手を口の前で組む超絶有名なポーズを維持したまま、シンザン会長は各方向から総口撃を受けている。
会長がちょっと震えて目が涙目になってきたのを見て、俺は緊張が解けたと同時に彼女が可哀想に思えて来た。
「あー面白い。アタシもう満足したんだけど、話は別にもう良いんじゃない?」
「そんなわけないだろ。これで良いなら私達は何のために呼ばれたんだ。」
シービーがいつも通りケタケタ笑いながら席を立とうとした所を背後からルドルフに押さえつけられ正面に座っている奈瀬さん?に言い止められた。
「静粛!、すまない遥君。恥ずかしい所を見せしまったね。」
理事長はそう言いつつ扇子を開けると、謝罪、と書かれていた。
まじでそれどうやってるん?後で教えて。
「遥、そんなに緊張する事はない。 今回は面接と言う建前なだけで我々は君がここでトレーナーになり、その後どうしたいのかを聞きたくて集まったんだ。」
改めてルドルフが、俺が現在置かれている状況を説明してくれた。
その話を聞くと俺だけ特別にこの場を設けたらしく他の人は通常通り学園スタッフが面接を行なったそうだ。
「コホンッ、改めて遥君。私が現トレセン学園生徒会長のシンザンだ。 左はテンポイント。右にいるのがトウショウボーイ。」
背後の2人が軽く手を振ってくれたので俺も会釈を返す。
次に、流れるようにおじいちゃんとお姉さんも挨拶をし始めた。
「俺はここでトレーナーをやってる六平銀次郎。気軽に六平と呼んでくれ。堅苦しいのは嫌いだから遠慮しなくて良いぞ。」
「私もトレセン学園でトレーナーをしている、奈瀬文乃です。 奈瀬で良い。 よろしく。」
そちらにも同じように会釈をした後一通り自己紹介が終わり、会長が本題を切り出した。
「筆記試験は見事だった。その歳であれだけの理解度はたいしたものだとグラスも褒めていたよ。」
「模擬レースも素晴らしかった。あのメンバーの中であれだけやれたのなら体力面すら議論するまでもなく合格だ。 寧ろトレーナーより競争者を目指した方が良いと思える程にね。」
少し嬉しかった。 不安だったので軽くでも褒めてもらえると気持ちが昂った。
しかし、
それも会長の次の言葉で、忘れていた心の闇に蹴落とされた感覚を覚えた。
「だが君はどんなに走れたとしてもヒトだ。 私達ウマ娘と同じ目線で走る事は絶対に出来ない。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
走ることが好きだ。
これはいつまで経っても変わらない。
病院の先生からは生存本能がヒトよりもウマ娘に近いとまで言われる程に。
昔からシービーと、日が暮れるまで走って転んで笑い合った。
シービーはウマ娘だから、
きっとあの大舞台で最高の1番を取るんだなと期待と同時に憧れもした。
小5の頃、2人で一度だけ大人に混ざって特別枠で有名な陸上競技の大会に参加した。
シービーはウマ娘部で芝コースを、
俺はヒトの部として通常の硬いグラウンドで。
予選の後、
準々決勝などする事なく1人だけで走らされ、出したタイムはヒトの世界記録を軽く超えていた。
応援に来ていた同級生はその圧倒的な速さに一周まわって大笑いし、彼等は自分達が帰るまでずっと誉めてくれた。
でも俺は耳がいいから、
遠くの方で呟いた大人の人の会話を聞いてしまった。
「化け物が参加するんじゃねえよ。」
聞き違いだろうと思いその場では笑って誤魔化したけど。
周りの人達はざわついて口々に言っていた。
ここに来るべきじゃない、
自慢しに来たのか?、
何のために来たんだ、
友達は俺のレースが終わったので帰ってしまったから、
俺は持って来ていたヘッドフォンを付けて音楽を聴いて自分の世界に浸る事にした。
別に自分の速さを自慢しに来たわけじゃない。
ただ俺は、
誰でもいいから自分と同じぐらい早く走れるヒトを、
同じ目線に立ってくれる人を探してただけなのに。
泣きそうになっていると、
参加しているシービーがこちらに手を振っていた。
気分じゃなかったから軽く手を振るだけにしたが、
そんな悲しい気分は直ぐに晴れた。
目の前でシービーが、最後の直線で最後方から全員ぶち抜いて1着を取り優勝したのだ。
ゴールした彼女達の笑顔が眩しくて、俺は涙を忘れていた。
シービーは表彰された後、今日走った子たちを集めて何かを話していると思った矢先、いきなりこちらへ飛んできて開口一番。
「走ろ!」
俺は気づいたら彼女の手を取り、何かの熱に突き動かされる感覚に浸りながらターフの上を飽きるまで走っていた。
あまりに帰ってくるのが遅いからと、2人の両親が迎えにきてくれるまでずっと皆んなで。
硬い床じゃない。
あの時様な、青々と整えられたターフの上で感じた熱。
それが何かはまだ確信はない、だけど何となく分かる気がする。
だって走る度にその感覚は今も変わることなく込み上げて来るのだから。
俺の居場所はここなんだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・遥君?」
「・・・あっ」
「泣かせたなシンザン。」
「え⁉︎ ごっごめんなさい! 私はただ台本通りに言っただけで! ルドルフ助けて!」
「1年生に助け舟を出さないで下さいよ。」
会長の言葉で古い思い出に耽ってしまった俺は再び会長の荒げた声で現実に引き戻された。
どれぐらい経っていたのかは分からないがそこそこ泣いていたらしく、
たづなさんがハンカチを手渡してくれた。
「すいません。 悪い記憶を思い出してしまいました。」
「やっぱりシンザンが泣かせたんじゃない。」
「ごっごめぇぇぇぇえんん‼︎」
机の上に力強く頭を擦り付けながら謝罪するシンザン会長をトウショウボーイさんが急いで宥め始めた。
「謝るのはこちらの方です。寧ろありがとうございました。」
「全部が悪い物ではありません。 僕にとって大事な事を思い出せましたから。」
俺の言葉を聞き、暫くしてから六平さんが反応した。
「何だ?昔の楽しい思い出でも思い浮かんだか?。悪いがここはそんな友達とかけっこしてお遊びする場所じゃねえぞ?」
「えっ、違うの?」
「シービー、今は黙りなさい。」
「・・・僕は走ることが好きです。 でもウマ娘がターフの上を楽しく走っている姿を見るのも好きです。 皆んな悔しい思いをして泣いたりもするだろうけど走ることを好きでいてほしい。 全てのウマ娘があの上で等しく幸せであってほしい。」
・・・あれ?何か違うな。
そう言うのも言いたかったけど俺が言いたい事の本質はそうじゃなくて。
「えっと、すいません。 自分の言いたい事を上手く表せなくて。 ・・・そうだ!自分ならウマ娘の気持ちを1番よく分かると言いますか。 ターフで感じるあの熱を1番近くで理解できると思います。」
さっき自分の中で決めていた答えが緊張により消し飛んでほぼ脊髄で言葉を紡いでしまい終始どうにでもなれの精神で全てを言い切った。
分かるかなこの感覚、分かってくれると嬉しいなぁ。
だってシービーはずっと頷いてるんだもん分かってくれるでしょ⁉︎
「・・・分かった。 十分君の言いたい事も考えも理解できたよ。 今日はこれぐらいで良いだろう。 テンポイント、自室まで案内してあげてくれ。」
「むっ? そうか。 なら行こうか遥君。」
詰んだな、
明日のレポートは挽回するぐらいの気持ちで取り組まないとシービーに申し訳ない。
「ありがとうございました。 失礼しました。」
こうして時間にして15分にも満たないであろう地獄の面接が終わり1日目が、俺のトレーナー試験が色んな意味で終了した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「まだ奈瀬さんや理事長が何も質問していないのに返して良かったの?」
「問題ないよ。皆さんもそうおもうでしょう?」
「私は大丈夫よ。 シンザンの言う通り十分彼の考えも理解出来たから。」
「うむ!、(激熱)私も同意見だ!」
「俺は少しだけ不満だな。」
「と言うと?」
「まだ子供の考えだ。 実際のレースのかけ引きや勝負事についての考えが何もない。そこら辺だな。」
「それってつまり、それさえ分かれば問題ないって事だよね?」
「さあな。 その辺りは奈瀬にみたいな若いトレーナーの仕事だろ。」
「投げないで下さいよ。」
「投げるに決まってるだろが。引退寸前の老人をこれ以上こき使うなよ。」
「ふふっ、つまり彼は合格。と受け取っても?」
「どうした?、えらく機嫌が良さそうだな。 ルドルフ。」
「ええ、彼とはとても気が合いそうな気がしますから。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あの・・・テンポイントさん。」
「何だ?」
「シンザン会長っていつもあんな感じなんですか? テレビやイベントの時に見た印象と大きく離れてると言いますか。」
「ああ、あいつは普段あれが普通だな。 人前に出る時は私かトウショウのどちらかが睨みを効かせていないとすぐにあの様だ。」
「そうなんですか・・・。」
イメージと違いすぎて面接での後悔と同じぐらいの余韻がまだ残っている。
それにしても、今の生徒会は3人とも寡黙なイメージがあったのだが。
いや、しかし・・・。
無駄な思考にリソースを割いてセルフで不安になって行く遥。
そして更に彼は気づいてしまった。
(テンポイントさんの尻尾、ずっと上下に揺れてるんだよな。・・・もしかして不快だと感じている!?)
(〜♪)
遥は知らなかった。
筆記試験で自身が唯一間違えた箇所が、
ウマ娘の無意識の感情表現の問題だった事を。
そしてそれが今小さな勘違いを起こしている事も彼は知らない。