拝啓
盛夏の候、ご両親におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。
こちらは突然始まった何処から持って来たのかも分からないクソデカタイヤを無理やり引かされ心身ともに限界を迎えつつあります。
事前の説明も十分になく、容赦なく課されるトレーニング体験と言う名の試験(拷問)。
炎天下の中、汗を流し、己の体力と精神力の限界に挑む1日を送っております。
まさかこのような試練が待ち受けているとは夢にも思いませんでした。
どうか皆様におかれましては、涼しい場所で健やかにお過ごしください。
敬具
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「どうした若本! お前はカタツムリか⁉︎ グラウンドを一周するのにどれだけ時間をかけるつもりだ!」
「その前に何で俺だけこれをやらされてるのか教えてくださいよぉぉおお‼︎」
「喋る余裕が有るな。 おいタマモ! 休憩だ! お前もタイヤの上に乗ってやれ!」
「はいよ。 遥、堪忍な。 これも六平トレーナーの指示やねん。」
「おのれええぇぇぇぇえええ!!」
俺は炎天下の中、試験期間中の筈なのに何故かトレセン学園のグラウンドでクソでかいタイヤを引かされていた。
そもそも朝、朝食を食べている時からおかしかった。
他の受験者からは頑張れと肩を叩かれ励まされるし、知り合いのウマ娘からは「一緒に頑張ろうぜ!」と言われるし。
いざ試験時間になると、俺だけグラウンドに案内され六平さんと奈瀬さんが仁王立ちしていた。
2人はトレーナーが何たるかを一通り説明した後、学生が用意したこれを指差して、
「「試験開始」」
現在に至る。
というか何で俺だけタイヤ引き?
他の子は坂路とかなのに俺だけやたら高レベルのことをやらされてない?
いやそれよりも、
「まじで乗り過ぎだろ‼︎ 誰でも良いから頼む降りてくれ‼︎」
「頑張れあと1/4だ。ちょうど良い。クリーク、君も乗ってあげなさい。」
「はぁ〜い。 ごめんなさい遥くん。 私も上から応援してますから。」
「奈瀬さん!?」
「ほら早くしないと上に乗ってる奴らの練習時間が無くなるぞ!」
「やってやるよちきしょぉぉ!!!」
何かしらある度タイヤの上に1人また1人と練習中の学生が追加されていく。
俺のノルマはこのタイヤ引きをグラウンド一周するまで。
そして追加された学生は、俺がノルマをクリアするまでタイヤの上で休憩が出来る。
なので申し訳なく謝りながら乗る子はあれど、遠慮して乗らなかった子は1人もいなかった。
「頑張れ遥。 トレーナーになりたいんだろ? これぐらい出来なきゃここではやってけないぜ?」
シリウスの声が背後から聞こえる。
決めたよ。
お前にはいつか俺と同じ目に遭ってもらおうじゃないか。
「流石に可哀想だしあたしは先に降りるよ。 遥! ゴールで飲み物用意しといてやるから頑張れよ!」
神かな?
女神エースが俺的好感度ランキングトップに躍り出た。
1人分軽くなったのは大きい。
それにノルマはこの一周だけ。
残りは50mぐらい。
希望の光が見えた、その時だった。
シービーがタイヤから飛び降り俺の目の前に着地した。
「遥、勝負しない?」
この期に及んで何を言ってる?
今は君に構ってる余裕なんか無いんだよおわかり?
「アタシが走ってこのグラウンドを一周してくるのが先か、キミがあの白線を越えるのが先か。」
そんなもの勝手にやればいいだろ。
今、
俺は、
喋ると、
やばいの。
「そうだな。 キミが勝てば、アタシは、キミが満足するまで走るのに付き合うよ。 アタシが勝ったら・・・、キミの昔話をクラスの皆んな教えてあげよっかな。」
はぁ?
こいつ今なんて言った?
おい、何スタートのポーズ決めてんだ。
「じゃあね。」
本番さながらのスタートダッシュとスピードで走り去っていったシービー。
それに気づいたルドルフとラモーヌが横から参戦して勝手に3人の全力の併走が始まった。
「なになに? 遥くんとシービーちゃんの思い出? お姉さんすごく気になっちゃうな♪」
「あいつなんちゃうもんダシにして勝負してんねん。」
まずい。
シービーのことだ、有る事無い事言い回るに違いない。
そしたら絶対に面倒なことになる。
それに、
「負けたくねえよなぁぁあ!!!」
俺は最後の力と言わんばかりに全力で前へ進んだ。
縄を押す腕も、地面を踏み締める足も全て限界に近い。
だが、こと勝負においてあいつだけには負けたくない。
そして、タイヤに乗る者や周りから応援してくれる者達の声が段々と聞こえなくなっていく中。
俺の視界から、世界の色が消えた。
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「・・・い、おーい遥! 大丈夫か?」
気がつくと背中を芝生がくすぐる感覚があった。
正面に集中すると、エースや奈瀬さん達が俺の名を呼びながら上から覗き込んでいた。
さっきまでグラウンドにいたよね?
何で俺ターフの上で転がってるんだ?
訳もわからず体を起こして周りを見ると、先ほど勝負と言って走っていた筈のシービー達も近くで転がっていた。
「大丈夫か遥君? 気分が悪かったりしないかい?」
奈瀬さんがタオルとドリンクを渡しながら心配そうに聞いて来たので受け取りながら何があったのか聞いてみた。
どうやら俺は、
シービー達が最終直線に入った辺りで、急に人が変わったような早さでタイヤを引き始め、彼女達より先にゴールしたらしい。
しかしゴールしても声を掛けても止まらないので、
エースと奈瀬さんが無理やり止めに入ってようやく止まったと。
そして気を失っていた俺を急いで隣の芝コースに運びこんで今この状況らしい。
「正面から見たらすげー顔してたぜ。 歯を食いしばりながら白目だったんだからよ。」
「なんか、お恥ずかしい所をお見せしてしまったみたいで。 すいません。」
「謝らなくていい。 寧ろ謝罪するのはこちらの方だ。 我々もあのトレーニングは少々やり過ぎだと思っていたから。」
思ってたんなら止めろよ!?
やっぱりそうだよね!?
こんなことやる奴早々いないよね!?
「すきなだけ休憩してて構わない。氷も用意してあるから自由に使ってくれ。 一先ず今日の体力試験は合格とする。」
合格の言葉を聞いた俺は全身の力が抜け再び芝生の上に寝転んだ。
確かに足や腕を中心に全身が痛くて動けそうにない。
俺はお言葉に甘えて暫く休憩することにした。
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その後、
回復した俺は六平さんと奈瀬さん指導の元、学生のトレーニングに混ぜてもらった。
公共のコース以外で走るダートは初めてで夢中になってしまい夕暮れまで走り続けた。
終わり頃、
昔よりスタミナが増えたんじゃないかとシービーに指摘され、明日は長距離コースでのトレーニングをやることが決まった。
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[てなことがあったんですよ。]
[かなり大変な目にあったな。 まあこっちもかなり無茶苦茶だぞ。]
[前回と違うんですか?]
[全く違う。 前来た時は本当にただのキャンプと砂浜や山道のランニングぐらいだったが今回は様子がおかしい。]
[知らない施設が建ってるは、変な迷路を歩かされるは、おかしな事ばかりだよ。 それにランニング中、道に迷った奴が森の奥で焚き火を作っている外国人と、森を抜けた先に両手を広げた巨大な黄金の像を見たって言う奴も現れて皆んな混乱してるよ。]
[本当に大変そうですね。]
[ああ、それに明日は一日中とあるエクササイズを全員でするらしい。 この試験いよいよ訳が分からないよ。]
[明日は最終日、お互い頑張りましょう。]
[そうだな。 君は若いんだ、決して今日の君が言っていた様な無茶はするんじゃないぞ。]
[ありがとうございます。 お疲れ様でした。]
[おつかれさん。]
焚き火を作る外国人に黄金の像。
トレセン学園は裏で何をやっているんだ?