俺はトレーナー試験を終えた後、新しく出来た友人達と夏休みを謳歌中だった。
彼等彼女等もウマ娘のレースに興味があるらしく、皆んなで競争したりレース映像を見て盛り上がったり。
挙げ句の果てに親達を説得して友人一同で小倉や函館のレース場に旅行もしたりした。
小倉ではたまたまイベントに顔を出していたシンザン会長と鉢合わせし、友人達に紹介。
サインを書いたり一緒に写真を撮ってもらったり手厚いファンサを頂き俺も含めた全員が大盛り上がりの大満足で東京へ帰宅し、楽しい中1の夏休みが終わった。
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[1年生の若本君、至急職員室まで来なさい。]
始業式が終わり早めに学校から帰れる事になった全校生徒が雪崩の様に帰宅する中。
俺は先生の呼び出しを受けて1人だけ残り職員室へと向かった。
職員室に到着すると、
校長と担任が部屋の前で俺を待っており、すぐさま校長室に通された。
「元気そうだな若本。 前よりも背が伸びたんじゃないか?」
入るとそこには約2ヶ月ぶりに会う六平さんが、校長室の椅子に座り出迎えてくれた。
「お久しぶりです六平さん。 タイヤ引きではお世話になりました。」
「あの事まだ根に持ってるのか? 悪いとは思っちゃいるが、だが実際お前の為にもなっただろう?」
「ええそれは確かに。」
六平さんの言う通り、
あのタイヤ引きはプラス面で俺に影響を与えてくれた。
帰ってから改めてタイムを測ったりしたが、
最後の全開スパート時は当人の根性に左右されると言う個人的な結論が導き出された。
実際記録を更新した際、
今まではゴール前付近で急激に速度が落ちていたが、その時はゴールするまでトップスピードが続き確かな成長を実感できた。
3人が椅子に座ると改めて六平さんは姿勢を正し俺達に本題を切り出した。
「結果だけで言うと、若本遥君はトレーナー試験を合格しました。」
その言葉を聞いた途端、校長と担任は泣きそうな顔で俺の肩を持って揺さぶり祝福してくれた。
面接だけが心配だった俺は一気に安堵してしまい力が抜け無事脳が揺れた。
「本当におめでとう。 しかし私が今日来たのは単に合否だけを伝える為ではありません。」
俺が脳を左右にシェイクされている中、ここで六平さんの口から思いもよらない言葉が飛び出した。
「それは、本校の若本君を我がトレセン学園へ編入させたくお願いに参りました。」
トレセン学園へ編入!?
あそこって女子校じゃないの!?
俺達の顔があまりにも驚いていたのか、六平さんは説明を続けた。
「お気持ちは分かります。 あの学園はウマ娘が競争やそれに携わる勉強や特訓をするために入学する学校ですから。 一般の、しかもヒトミミとあっては入学など以ての外でしょう。」
六平さんの言う通りヒトミミの学生があの学園のお世話になるなんて聞いた事がない。
幾らトレーナー資格を手に入れたとは言え、そんな話が本当に通るのか疑問しか浮かばない。
「お恥ずかしながら、これはトレセン学園が持つある問題が大きく影響をしています。」
「我が学園は深刻なトレーナー不足の問題を抱えており、見ての通り私の様な老人ばかりが多く勤務しています。 故に若本君の様な若手の数があまりおらず我々もかなり手一杯な状況にあります。」
「そこで1人でも多くの人員を確保するべく、我が学園の理事長はこの夏制度を改革し中高大学生に至るまで、トレーナー資格を持つ者のみ我が学園への編入を可能にしました。」
「若本君には才能がある。それは走る事だけではなく、他者を、ウマ娘を導く才能が。 トレーナーとしての素質は十分過ぎるほどあります。 自分で言うのも何ですがベテランとしてこの名に賭けても構わない程に。」
先生達は俺を挟んで2人、目を合わせ慌てている。
当然だ。
普通の学生なら分からないかもしれないが、大人でウマ娘のレースを見た事がある人ならば六平さんを知らない人は居ない。
そんな人が目の前で、直接俺をトレセン学園へスカウトしているのだから。
「君はどうしたい? 若本君。」
俺は
「皆んなが君を待っている。 人やウマ娘だけじゃなく。 大袈裟に言ってしまえば時代が、だ。」
こんなの、
迷う筈もない。
「お願いします。 是非僕をトレセン学園で学ばさせて下さい。」
それを聞いて六平さんは、テレビでも試験中でも見た事のない笑顔で。
「よろしく、先達者として出来る限りの助力は約束しよう。」
同時に校長と担任が歓喜の雄叫びを上げ軽く一礼をし職員室へかけ込んで行った。
その後2人だけになった部屋で、六平さんは軽く笑いながら口調をいつもの感じに戻して続きを語り始めた。
「正直面接の地点で俺以外の奴はお前さんをトレセンに引き込む決心をしていたらしい。 俺はお前さんがここを卒業してからの話かと思っていたんだが、やはり女ってのは怖いな。」
どうやら上層部は俺の事を逃がす気は無いらしい。
試験が終わってたったの2ヶ月で制度を改定するほどだから相当なのだろう。
「手続きはお互いの学園や両親に丸投げしとけ。 お前さんは大船に乗る気持ちで待てば良い。」
シービーとの約束から半年が経った。
こんなに短い期間で、早くも彼女との約束が現実味を帯びてきた。
「ところで六平さん。 何で六平さんがこの話を直接言いに来てくれたんですか? こう言うのって責任者が来るものじゃないんですか?」
「そりゃそうだが。 こんな普通の学校に理事長やシンザンが来てみろ。 それだけでここら辺が一大事になるぞ。」
それもそうか。
2人ともテレビで良く出ているから知名度が高い。
会長何てそれこそ大スターだからここに近づけすらしないかも。
「それに比べて俺はどうだ? 下校中の学生に道を聞いても、何の疑いもなく引き返して案内さえしてくれたぞ。 俺だと気づいたのはここに来て先生方に会ってからだ。」
ガハハと大笑いをしながら事の顛末を六平さんは自慢げに話す。
最後の方では、
「テレビに出てなくて良かったぜ。」
とすら言っていた。
どうやら本人はそこまで目立ちたく無いらしく。
テレビの取材も自分の代わりに、サブトレーナーや研修生にいつも丸投げして逃げているそうだ。
レース界隈でさえ大人の事情で面倒事がついて回るのに、巷で有名になって仕舞えば今以上に面倒な状況になって敵わないと愚痴をこぼした。
その後六平さんは細かな説明を終えた後、トレセンで待つ、と言い残し学校を去ってしまい、
俺は先生達と別れすぐさま家に帰りこの事を家族に伝えた。
案の定両親は喜んで編入に賛成してくれ、
従姉妹も入学したら自分達のトレーナーになってくれと言うので冗談混じりに返事をしておいた。
夕方になると、2ヶ月前LINOに追加したトレセン関係者達から一斉にお祝いのメッセージが届きその返信に夜遅くまで時間がかかってしまった。