トレーナー試験合格の発表から2週間。
俺が転校するからと、クラス全員が送別会を開いてくれた。
特に俺と熱くレースに夢中になった友人達とはお互い号泣して文字通り涙の別れになってしまった。
中学に上がり、シービーや少数の友達以外で初めて本当の友達が出来た事もあったので俺達は暫く涙が止まらなかった。
担任の先生からは、クラスの皆んなでお金を出して作ってもらったらしい全員の名前が書かれた大きめの蹄鉄をプレゼントされて涙腺が無事決壊。
最後の集合写真では、目の周りを赤くした少し格好悪い写り映えになってしまったりもしたが一生忘れられない良い思い出になった。
こうして短い中学校生活が一旦終わり、
明日から早速トレセン学園での新生活が始まる。
向こうでは基本寮での生活になると母さんが教えてくれたので、
着替えや必要な道具に教科書など用意がそこそこ大変だった。
隣に住むシービーの両親からもお祝いしてもらい、
向こうに着いたらうちの子をよろしくと、言われたので感謝しつつ、
任せなさい、と胸を張って言っておいた。
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翌朝になると黒塗りのリムジンが家の前に止まり、
運転席から燕尾服を身に纏った動きに一切の無駄がない老人が登場。
「お嬢様から遥様をお迎えする様にお申しつけられ参りました。 メジロ家執事長を務めます、ウォルターと申します。」
ウォルターさんは軽く自己紹介をすると、
これまた無駄の無い動きでテキパキと荷物を運び入れ俺をリムジンの中へと招き入れた。
「遥様は私めが責任を持ってトレセン学園へとお送りいたしますので御安心を。」
家族との涙の別れに・・・とはならなかった。
理由は、
家族一同このリムジンへの驚きと挨拶から出発までの以上な速さに着いていけなかったのが一つ。
そして、
「ウォルターさんがメジロと名乗っていたから予想はしてたけど。 何でここに居るの?」
そこには俺の正面に座り優雅ににんじんジュースをワイングラスで飲むラモーヌと、薄水色の髪色をした女の子が並んで座っていた。
「あら、何でとはつれないわね。 あんなに2人で熱くなったと言うのに。」
「誤解する様な言葉を使うなよ。 確かに熱くなりはしたけどあれはレースで、そして皆んなでだろ。」
俺がそう言うと、ラモーヌはくすくすと微笑みながらグラスを揺らし、
隣の子は俺達の会話を聞いて段々と顔を赤くさせていた。
本当に誤解しないでね?
この人が変な事を言ってるだけだから!
「・・・アルダン。ご挨拶なさい。」
恥ずかしそうにラモーヌのスカートを掴みもじもじしていたアルダンと言う名だろう少女が、ラモーヌに催促されて漸く口を開いた。
「わっわたくしはラモーヌ姉様の妹の、メジロアルダンと申します。」
緊張しながら頑張って自己紹介をしてくれた。
どうやらアルダンはラモーヌの1つ下の妹らしい。
ごめん、
似てねぇーーーーー。
中1とは思えない優雅な雰囲気の姉のラモーヌと
年相応な見てて眩しさすら感じる妹のアルダン。
しかし何で2人が?
それに何でメジロ家が俺を送ってくれてるの?
そうラモーヌに問いただすと。
「こう言うのは先手を取っておくものなのよ。」
と返事が返ってきた。
うむ、分からん!
まあ別に嫌いだとかそんなのがあるわけでも無いので学園に着くまで3人で暫く過去の名レースについて語り合った。
これが2人とも意外と話が分かるらしく時間を忘れてしまい気づいたら学園に到着間近まで来ていた。
学園に入り本校舎の入り口でリムジンが止まり、ウォルターさんが再び流れる様に俺の荷物を取り出し台車に乗せ纏めてくれた。
メジロ家の執事長は伊達では無いらしい。
俺たちが車から降りると、
アルダンが俺とラモーヌに一礼をし、リムジンへ乗り込みそのまま何処かへ走り去ってしまった。
嵐の様な出来事だったが終わってみればなんて事はない。
「行くわよ、着いてきなさい。」
ラモーヌに言われ俺は台車を引っ張りながら本校舎に足を踏み入れた。
今の時間、他の学生は当然授業中らしく何処かへ向かっている教職員や学園スタッフなどしかすれ違わなかった。
終始会話もせずただラモーヌの後に着いていくこと数分。
「ここよ。」
左右に一才荷物が置かれていない教室の真ん中に挟まれる形で存在する一室。
母さんは寮だと言っていたがこれは明らかに違う。
本校舎で降りた地点から何かおかしいと思っていたが、もしかして倉庫か何処かが割り振られたか?
疑心暗鬼になりつつラモーヌに鍵を渡され扉を開けると、
「タイム」
すぐさま扉を閉め、両手でT字を作りラモーヌにタイムと審議を要求する。
「何? 何か不満があって?」
「不満も何もあり得ないだろ‼︎ 何で俺の自宅の部屋と
そう、同じなのだ。
似ているとかそう言う次元の話ではなく、パッと見ただけで分かるそっくりそのまま俺の使ってた部屋。
唯一の違いといえば、今日俺が持ってきた小物などが無いだけ。
いつも使ってる机の灯りの角度も、2段ベッドの梯子の位置も三分違わず皆同じ。
「いつだ! 一体いつ俺の部屋に入った⁉︎」
こんな事俺の両親が許すはずがない。
俺はラモーヌの両肩を掴み勢いよく問いただした。
「逆に聞くけど。 一体いつ、私達があなたの部屋に入ったと言ったかしら?」
「何!?」
「入ってはいないわ。あなたのご両親にもこの事は伝えてない。 だけど自由に入れる人物ならあなたも心当たりが有るのではなくて?」
ラモーヌの言葉に、俺電流走る。
有る。
俺の家に自由に出入りでき、あまつさえ俺の部屋に堂々と侵入出来る2人組を。
「ジャーニーさんにオルフェさん。良い取引だったわ。彼女達の全面的な協力が無ければこの事業の成功はあり得なかった。 彼女達がトレセン学園へ入学する日が待ち遠しいわね。」
やりやがった!!あの2人ついにやりやがった!!!
トレーナー試験が終わってからやたらと俺の家に来ると思ったらそれが理由か!!
可愛い従姉妹だと油断していた俺が愚かだった。
良いだろう。
次に会うときはターフの上だ。
今日は意見が合うなラモーヌ、
俺も来年と再来年が待ち遠しいよ。
その後ラモーヌに家具の再配置を依頼した。
この学園で学ぶなら、なるべくここの生徒が使う部屋と同じ仕様にして欲しいと。
ラモーヌは俺の頼みを二つ返事で了承してくれ、
俺が学園の細かな案内を受け返ってきた時には既に何もかもが終わっていた。
しかし部屋の形が変わっている事には触れないでおこう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「やっ、遥。 久しぶりだね。」
「シービーか、こんな時間に何しにきたんだよ。」
夜遅く自室のドアをノックされ扉を開けると、寝巻き姿のシービーが枕を抱き抱え立っていた。
「早速お邪魔するよ。 うん、新品の匂いだ。 良いね。」
猫の様にするりと俺の懐をすり抜け勝手に部屋に入ってきたシービーは、当然の様に俺とは反対の誰も使う筈のないベットに潜り込んだ。
「おいもう9時だぞ。 この時間は寮からの外出禁止の筈だろ?」
「そうだね。 でもそれって見つかればの話でしょ?」
「そりゃそうだけど。 ・・・お前もしかして。」
「気づいたみたいだね。アタシ、今日はここで眠らせてもらうから。」
エーーース!!
今すぐこいつを摘み出してくれーーー!!
「寮生活苦手でさ。相部屋の子に色々と気を使っちゃうんだよね。」
「なら俺にも気を使ってくれよ。」
「・・・遥ならなんか良いかなと思って。」
言いわけないだろ!
どんな思考でその結論に至るのか考えていると頭が痛くなってきた。
しかしこのままだとシービーが居ない事が寮長にバレて連鎖的に俺まで痛い目を見るのは目に見えてる。
編入まだ0日目で問題を起こすわけにはいかない俺はエースに焦りの電話をかけまくり。
数十分してから眠そうな女神エースと付き添いのルドルフが登場しシービーの首根っこを掴んで夜の学校に消えていった。
シービーは1人部屋か1人暮らしを希望しているらしいが、デビューもしていない中等部1年生がそんなわがままを通せるはずもなく渋々同期の子がいる自室で寝たらしい。