「待って……! 待って……! パパ! ママ!」
パッと、目が覚めた。
嫌な夢を見た。喉がカラカラで、身体も熱い。
六時三十六分。約束は八時からで、もう少し眠っていたかったが、起きてしまったものは仕方がない。
「んっ」
身体を伸ばして、ベッドから出る。顔を洗う前に窓を開けよう。今年は珍しく秋があり──去年とか一日も無かったけど─、朝は特に涼しい。
パンっ、ガラガラガラ。
しっかりと網戸まで。蚊に入られたら人と蚊の戦争が始まってしまうため。大火災で火傷の跡を色濃く残す私は、痒いところがあっても搔けずに我慢するしかない。全身の二割の火傷跡。それが生き残りの代償だった。手とお腹と背中と足、それだけなら隠し通すことができたが、よりにもよって顔にもある。不便極まりない。
ジャーと、水を流し顔を洗う。そのまま口を濯いでから水を飲んで、歯ブラシを手に取った。起きてすぐ歯磨きする人は珍しいらしい。家族がやっていたのでそういうもの、だと思っていたが「じゃあ一日に四回も歯を磨くの?」と言われた。磨いてる。や、私の数少ない友人がそうというだけで皆が皆、そうだと思うのは良くないか。
チン。
電子レンジの音が響く。冷凍ご飯──もちろん白米のこと──の解凍が済んだ。茶碗に入れて、お茶漬けの素を入れて、お湯を注いで、完成。ついでにしじみ汁の素にもお湯を入れて、こっちも完成。
はむ。美味しい。
落ち着くとやるべきことが一つ一つ頭に浮かんできた。友達と遊ぶ予定──今日の八時からの約束──だったり、大学の課題だったり……両親の七回忌の準備だったり……。
スマホの画面には友達からのメールがある。メール上では事務的で温度を感じさせない。それをなんとかしようとしていた時期もあったが空回りしすぎなので止めてもらった。送信時間を見ると深夜二時。起きてるわけだろ。遅刻したら怒るぞ。
大学の課題は……明日までか。進捗は七割。遊んでからでも十分間に合う。いや、友達と一緒にやるのもありかな。
両親の七回忌。祖父母と私だけで行う小規模なものを予定しているが、一応祖父母の兄弟だったりと、親戚には案内状を送った。祖父母に手伝ってもらいながらの準備だ。
私を呼ぶ声が聞こえる。幻聴だ。そうわかっていても耳を塞げない。だってこの声は、父さんと母さんの声だから。
でも、ごめん。まだそっちには行けない。「わたしも……! 一緒に連れて行って欲しかった!」とか、泣き言を言う私はもう居ない。それからゆっくりと支度を済ませ、外に出る。
「行ってきます」
誰も返事をしない家だけど、やっぱり言わないと落ち着かない。
そんな、七時二十五分。
こんなに暖かい朝の陽射しも、少し肌寒い風も、土と草木から香る匂いも、最近になってやっと気付いた。
昔の私がやんちゃだったことも、一緒に遊ぶ友達、幼馴染が居たことも、父さんと母さんがそれを見て笑っていたことも、同時に。
父さんと母さん以外にも、私を大切してくれる人がいることを、今の私はちゃんと知っている。
「おはよう」
「ん、おはよう」
挨拶をすると挨拶が返ってくる。そういえば、そんなことも最近まで忘れてた。
「ちゃんと寝れたの?」
「それがまったく! 四時になってからだったわ。楽しみすぎて」
「はあ……。私も楽しみなんだから、途中で倒れないでよね」
腐れ縁。友達。幼馴染。十年以上の付き合い。色々あった私たちだけど、こうして今、良い関係を築けている。
「じゃあ行こうか」
「はいはい」
ああ。今日も、良い一日になりそうだ。
昔抱いていた夢も、希望も、あの夜に炎に包まれてそれっきり。
悪夢に苛まされる夜があって、叫びたいほどの夜があった。
あの夜の燃え滓に過ぎなかった私は、それでも一つずつ一つずつ、人生を積み重ねている。
私は、生きている。
優しい人たちと、今を生きている。
私を大切にしてくれる人と、私が大切にしたい人と、共に生きている。
いつか、いつか、お父さんとお母さんに言うのだ。何年後か、何十年後かわからないけど。
「私は幸せだったよ」って。
「今までこんなことがあったんだよ」って。
あの夜を越えて────。
サークルで書いたものの転載です
こちらにも投稿しておきます