クルタ族転生   作:ryyonn

10 / 37
緋の眼と、水遁の禁術

 

 

「どうしてナルトに、こんなことをさせた?」

 

森の中に、心の静かな声が響いた。

 

サングラスの奥で、心の瞳が鮮やかな緋色に輝いている。

 

その正面に立つミズキは、心と、その背後にいるナルトを交互に見た。

 

「……へえ。まさか、お前もいたとはな。枢流陀心」

 

 

 

ミズキは口元を歪めた。

 

「だが、今日はお前に用はない。俺が欲しいのは、その巻物だけだ」

 

「なら、ナルトをそそのかす必要はなかったはずだ」

 

「黙れ!」

 

ミズキが地面を蹴った。

 

巨体に似合わない速さで距離を詰め、手にした苦無を心の首へと突き出す。

 

心は半歩だけ身体をずらした。

 

苦無が頬の横を通り過ぎる。

 

そのまま相手の手首をつかみ、体勢を崩そうとした瞬間、ミズキの膝が飛んできた。

 

「っ!」

 

心は腕を交差させて受け止め、後方へ跳ぶ。

 

着地と同時に、地面を蹴った。

 

一瞬で間合いを詰め、ミズキの脇腹へ拳を叩き込む。

 

鈍い音が森に響いた。

 

「ぐっ……!」

 

ミズキがよろめく。

 

しかし、倒れない。

 

「ガキのくせに……!」

 

「それなりに鍛えているからな」

 

心は冷静に答えた。

 

ミズキの動きは、アカデミーの教師らしく基礎ができている。力もある。真正面から力比べをすれば、子供の身体である心には不利な面もあった。

 

だが、心には緋色の瞳がある。

 

感覚が鋭くなり、相手の動きがよく見える。筋肉のわずかな動きから、次の攻撃を予測することもできた。

 

それでも――。

 

(こいつ、最初から本気で殺すつもりだ)

 

ミズキの目に、教師としての穏やかさは欠片もなかった。

 

その視線が、心の後ろにある巻物へ向く。

 

「邪魔をするなら、お前から殺してやる!」

 

ミズキが懐から手裏剣を取り出した。

 

心が身構えた、そのとき。

 

「心! ナルト!」

 

森の奥から、声が響いた。

 

駆けつけたのは、うみのイルカだった。

 

「イルカ先生!」

 

ナルトが振り返る。

 

イルカはナルトの姿と、地面に広げられた巻物を見て、すぐに状況を察したようだった。

 

「ミズキ……! やっぱり、お前が!」

 

「来たか、イルカ!」

 

ミズキは舌打ちした。

 

「ちょうどいい。まとめて始末してやる!」

 

「ナルト、巻物から離れろ! 心も下がるんだ!」

 

イルカが叫ぶ。

 

だが、ミズキはその隙を見逃さなかった。

 

右手を大きく振りかぶる。

 

巨大な手裏剣が、イルカへ向かって飛んだ。

 

「危ない!」

 

ナルトが叫ぶ。

 

イルカはナルトをかばうように前へ出た。

 

次の瞬間。

 

ドスッ!

 

巨大な手裏剣が、イルカの背中に突き刺さった。

 

「イルカ先生!」

 

ナルトの顔から血の気が引いた。

 

イルカは苦痛に顔を歪めながらも、ナルトの前に立ち続けていた。

 

「……大丈夫だ、ナルト」

 

「何やってんだよ! なんで、俺なんかをかばったんだよ!」

 

「なんか、じゃない」

 

イルカは振り返り、ナルトを見た。

 

「お前は……俺の大切な教え子だ」

 

「でも……俺は……」

 

ミズキが、愉快そうに笑った。

 

「はっ! まだそんなことを言っているのか、イルカ!」

 

その声には、隠しようのない悪意があった。

 

「そいつが何者なのか、忘れたのか? そいつの中には、十二年前に木ノ葉を襲った九尾の妖狐が封印されているんだぞ!」

 

森の空気が凍りついた。

 

「……え?」

 

ナルトの声が震える。

 

「九尾……?」

 

「そうだ! お前のせいで大勢の人間が死んだ! 里の人間がお前を嫌っている理由が分かったか? お前は化け物なんだよ!」

 

ミズキの嘲笑が、夜の森に響く。

 

ナルトは動かなかった。

 

いや、動けなかった。

 

ずっと感じていた。

 

大人たちの冷たい視線。

 

自分が何かをすれば、必要以上に警戒する人々。

 

理由も分からず向けられる嫌悪。

 

それらの意味が、一つにつながってしまった。

 

「……俺が、九尾?」

 

ナルトの手が震える。

 

「だから……みんな、俺のこと……」

 

心は奥歯をかみしめた。

 

(やっぱり、ここは原作と同じ展開になるのか……!)

 

知識として知っていた出来事。

 

しかし、目の前で友人が傷つけられ、心を折られようとしている光景は、記憶の中の物語とはまったく違っていた。

 

心が一歩踏み出そうとしたとき、イルカが声を張り上げた。

 

「違う!」

 

その声に、ナルトが顔を上げる。

 

「ナルト! お前は九尾じゃない! うずまきナルトだ!」

 

イルカは背中の傷を押さえながら、必死に言葉を続けた。

 

「確かに、お前は悪戯ばかりするし、授業中に騒ぐし、手のかかる生徒だ! 何度叱っても懲りないし、いつも余計なことをする!」

 

「イルカ先生……」

 

「だがな!」

 

イルカは、まっすぐナルトを見つめた。

 

「お前が誰よりも努力していることを、俺は知っている! 失敗しても何度だって立ち上がることも、いつか火影になるって本気で思っていることも、全部知っている!」

 

イルカの声が、少しだけ震えた。

 

「俺にとってお前は、化け物なんかじゃない。大切な教え子だ!」

 

ナルトの瞳が揺れた。

 

「……イルカ、先生……」

 

心は、ナルトの横顔を見つめた。

 

そして、小さく息を吐く。

 

(大丈夫だ。こいつは、こんなことで折れる奴じゃない)

 

ミズキは不快そうに顔を歪めた。

 

「くだらん! そんな言葉で何が変わる!」

 

彼は再び苦無を構えた。

 

「ナルトを始末して、巻物を持ち帰る! それだけだ!」

 

「させるか!」

 

心が前へ出る。

 

ミズキの苦無を受け流し、反撃の蹴りを放った。

 

ミズキは腕で防いだものの、衝撃で数歩後退した。

 

「くそっ! ガキが!」

 

「ナルトには手を出させない」

 

心の瞳が、眼鏡の奥で赤く輝く。

 

だが、ミズキは距離を取ると、印を結び始めた。

 

「水遁・水乱波!」

 

口から放たれた水が、激しい奔流となって心に襲いかかる。

 

心は横へ跳んだ。

 

水が地面をえぐり、木々の根元を激しく叩く。

 

(威力が高い……!)

 

着地した心の前に、さらに水の刃が迫る。

 

「水遁・水刃!」

 

心は身をひねって回避したが、袖が切り裂かれた。

 

「心!」

 

ナルトが叫ぶ。

 

「下がってろ、ナルト!」

 

心は声を返した。

 

しかし、ミズキは攻撃を止めなかった。

 

次々と水遁を放ち、心の逃げ道を狭めていく。

 

(このままじゃ、ナルトを守りながら戦うのは厳しい……!)

 

緋の眼によって反応速度は上がっている。

 

それでも、相手の攻撃をすべて避け続けることはできない。

 

まして、イルカは負傷している。ナルトもまだ動揺から抜け出せていない。

 

そのとき、ナルトの視線が地面に置かれた巻物へ落ちた。

 

巻物には、まだ習得できていない術が記されている。

 

その中の一つ。

 

自分が先ほど挑戦していた、多重影分身の術。

 

ナルトは拳を握った。

 

「……俺は」

 

声は、まだ震えていた。

 

「俺は、化け物なんかじゃねえ!」

 

ミズキが振り返る。

 

「何だと?」

 

「俺はうずまきナルトだ! いつか火影になる男だってばよ!」

 

ナルトは巻物の前に立った。

 

心が一瞬だけナルトを見る。

 

その表情には、先ほどまでの怯えが残っていた。

 

それでも、瞳には強い光が戻り始めている。

 

「心!」

 

ナルトが叫んだ。

 

「そいつは俺が倒す!」

 

心は、わずかに目を見開いた。

 

「……分かった」

 

心は一歩だけ横へ移動した。

 

「なら、見せてみろ。お前が努力してきたことを」

 

ナルトは大きく息を吸い込んだ。

 

そして、印を結ぶ。

 

「多重影分身の術!」

 

ボンッ!

 

白い煙が、森の中に広がった。

 

一人。

 

二人。

 

十人。

 

二十人。

 

さらに、数が増えていく。

 

煙が晴れたとき、ミズキの前には数え切れないほどのナルトが並んでいた。

 

「なっ……!」

 

ミズキの顔が引きつる。

 

「ば、馬鹿な! こんな数の影分身を……!」

 

それは、実体を持たない通常の分身ではない。

 

チャクラによって生み出された、実体のある影分身。

 

それぞれが独立して動き、攻撃することができる。

 

そして何より――。

 

ナルトのチャクラ量は、アカデミーの生徒としては異常なほど多かった。

 

「へへっ……」

 

大勢のナルトが、一斉に笑った。

 

「今度はこっちの番だってばよ!」

 

「や、やめろ! 来るな!」

 

ミズキは水遁の印を結ぼうとした。

 

だが、遅かった。

 

「うおおおおおっ!」

 

ナルトたちが一斉に駆け出した。

 

前方から飛びかかる者。

 

左右に回り込む者。

 

背後へ回って足を狙う者。

 

ミズキが一人を殴り飛ばしても、影分身は消えずに次々と襲いかかってくる。

 

「ぐあっ!」

 

拳が頬にめり込む。

 

「がっ!」

 

蹴りが腹部に突き刺さる。

 

「このガキどもがぁっ!」

 

ミズキは必死に抵抗した。

 

水遁で数人を吹き飛ばし、苦無を振るって攻撃をしのぐ。

 

しかし、影分身の数は圧倒的だった。

 

一人を倒しても、別のナルトが襲いかかる。

 

防御すれば、反対側から殴られる。

 

距離を取ろうとすれば、足にしがみつかれる。

 

「これで……終わりだってばよ!」

 

大勢のナルトが、一斉に跳び上がった。

 

「うおおおおおおっ!」

 

拳と蹴りが、ミズキに降り注ぐ。

 

最後の一撃を受けたミズキは、地面に叩きつけられた。

 

「ぐ……っ!」

 

そのまま、動かなくなった。

 

森に静寂が戻る。

 

やがて、影分身たちが次々と消えていった。

 

最後に残ったナルトは、荒い息を吐きながらミズキを見下ろした。

 

「……やった、のか?」

 

「やったな、ナルト」

 

心が近づき、ナルトの肩を軽く叩いた。

 

「お前の勝ちだ」

 

「へへっ……だってばよ!」

 

ナルトは笑った。

 

しかし、その笑顔は少しだけぎこちなかった。

 

先ほど聞かされた言葉が、まだ胸に残っているのだろう。

 

心は何も言わず、ナルトの隣に立った。

 

すると、背後からイルカの声が聞こえた。

 

「ナルト……」

 

二人が振り返る。

 

イルカは苦痛に顔をしかめながらも、ゆっくりと立ち上がっていた。

 

「お前は……本当に、よく頑張ったな」

 

「イルカ先生……」

 

ナルトの顔がくしゃりと歪んだ。

 

「俺……本当に、ここにいていいのかな?」

 

小さな声だった。

 

いつもの騒がしさはない。

 

ただ、長い間抱えてきた不安が、ぽつりとこぼれ落ちた。

 

「みんな、俺のこと嫌ってるんだろ? 俺の中に九尾がいるから……」

 

イルカは首を横に振った。

 

「少なくとも、俺はお前を嫌っていない」

 

「……でも」

 

「お前が何者であろうと、お前がこれまで努力してきたことは変わらない。お前が友達を大切にしていることも、火影を目指していることもな」

 

イルカは、ナルトの頭に手を置いた。

 

「俺はお前を信じている。これからも、お前の先生でいるつもりだ」

 

ナルトの目から、涙がこぼれた。

 

「……うっ……イルカ先生ぇ……!」

 

ナルトはイルカに抱きついた。

 

イルカは痛みに顔をしかめながらも、しっかりとナルトを抱きしめ返した。

 

「馬鹿野郎……泣くな。お前は立派にやり遂げたんだ」

 

「だって……だってよぉ……!」

 

ナルトは泣きながら、何度もイルカの服をつかんだ。

 

心はその光景を、静かに見守っていた。

 

(よかった……)

 

原作で知っていた場面。

 

それでも、実際に目の前で見ると、胸に込み上げるものがあった。

 

ナルトが欲しかったもの。

 

それは、誰より強くなることだけではない。

 

自分を認めてくれる誰か。

 

自分を信じてくれる誰か。

 

そして、自分がここにいてもいいのだと思わせてくれる居場所。

 

イルカは、その最初の一人だった。

 

心は、ふと自分の手を見つめた。

 

自分にも、もう一人、友達がいる。

 

「……ナルト」

 

呼びかけると、ナルトが涙で濡れた顔を向けた。

 

「ん……?」

 

「お前は、お前だろ」

 

心は穏やかに微笑んだ。

 

「九尾が封印されていることと、お前がナルトであることは別の話だ。俺は、お前と一緒にアカデミーで過ごしてきた。お前が努力していることも知っている」

 

ナルトは、じっと心を見つめた。

 

「だから、これからもよろしくな」

 

一瞬の沈黙。

 

そしてナルトは、勢いよく涙をぬぐった。

 

「当たり前だってばよ!」

 

いつもの大きな声が、森に響く。

 

「俺は絶対に火影になる! そしたら、里の全員に認めさせてやるんだ!」

 

「そうか。なら、俺も負けていられないな」

 

「なに言ってんだよ! 火影になるのは俺だってばよ!」

 

「はいはい」

 

「はいは一回だってばよ!」

 

心は思わず笑った。

 

イルカも、痛みに耐えながら小さく笑った。

 

やがて、里から駆けつけた忍たちが森へ到着した。

 

気絶したミズキは拘束され、禁術の巻物も回収されることになった。

 

心が巻物の中で見つけた術。

 

イルカが巻物を確認している間、心はその内容を思い返していた。

 

巻物に記されていた水遁の術。

 

それは、単なる水流弾ではなかった。

 

水遁・水流弾の術――改式。

 

通常の水流弾は、口から水を放ち、敵へぶつける攻撃術だ。

 

しかし、巻物に記されていたのは、水をただ撃ち出すための術ではない。

 

チャクラによって水流の内部に渦を作り、放出した水の塊を複数の流れに分け、対象の動きに合わせて軌道を変える。

 

直線的な攻撃を避けられても、分かれた水流が横や背後から追い込む。

 

さらに、水流の密度と回転を調整することで、打撃にも拘束にも使える。

 

術の名は、こう記されていた。

 

水遁・渦流弾(かりゅうだん)。

 

ただし、巻物の記述は未完成だった。

 

水流を分岐させる制御方法には、まだ改善の余地がある。複数の流れを同時に操るには、繊細なチャクラ操作も必要だった。

 

心が先ほど実際に放った水流弾は、基本の術にすぎない。

 

渦流弾を完全に使いこなすには、さらに研究と修練が必要だろう。

 

(面白い術だな……)

 

心は巻物を見つめた。

 

水の性質を利用して攻撃の軌道を変える。

 

ただ威力を上げるのではなく、相手の回避そのものを攻略する発想だ。

 

自分なら、さらに発展させられるかもしれない。

 

もっとも、今はそれより優先すべきことがある。

 

心はナルトとイルカへ視線を向けた。

 

ナルトはまだ目元を赤くしていたが、先ほどまでの暗い表情は消えていた。

 

イルカはナルトの肩に手を置き、何かを話している。

 

その光景を見ながら、心は胸の中で決意した。

 

(これから先、何が起きても……俺は、こいつの友達でいよう)

 

この世界には、まだ知らないことが多い。

 

自分の一族の真実も。

 

緋の眼に隠された力の正体も。

 

そして、忍の世界でこれから待ち受ける数々の戦いも。

 

だが、少なくとも今は。

 

目の前の友人が笑っている。

 

それだけで、十分だった。

 

その夜、うずまきナルトは多重影分身の術を習得し、ミズキを打ち破った。

 

 

 

物語は原作と少しだけ違う道を進み始めた。

 

けれど、ナルトとイルカの絆は変わらない。

 

それは、どんな力にも代えられないものだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。