1.山中いのとの約束
ミズキの事件から数日後。
木ノ葉隠れの里には、いつもと変わらない日常が戻っていた。
忍者学校を卒業した生徒たちは、正式な下忍として任務に就くため、担当上忍の発表を待つことになっている。
そんな中、心には一つ、気がかりな約束があった。
「心くん!」
アカデミーを出たところで、明るい声に呼び止められた。
振り返ると、金色の髪を揺らしながら、山中いのが駆け寄ってきた。
「いの。どうした?」
「どうした、じゃないでしょ! 前に約束したじゃない!」
いのは頬を膨らませた。
「アカデミーを卒業したら、一緒に出かけてくれるって!」
「ああ、そうだったな」
心は素直にうなずいた。
以前、いのから何度も誘われた際、卒業したら時間を作ると約束していたのだ。
いのはその約束を忘れていなかったらしい。
「それで、今日は時間ある?」
「あるよ。明日の予定もまだ分からないし、今日なら大丈夫だ」
「本当!? やった!」
いのの表情が一瞬で明るくなった。
その喜びように、心は思わず微笑んだ。
「じゃあ、行こうか」
「うん!」
いのは心の隣に並ぶと、嬉しそうに歩き始めた。
その姿は、普段アカデミーで見せている積極的な態度とは少し違っていた。
心と二人きりになった途端、どこか落ち着かない様子で、何度も彼の顔を見上げている。
「……どうかした?」
「な、何でもないわよ!」
「そうか?」
「そうよ!」
いのは顔をそらした。
(心くんと二人きりで出かけるなんて……!)
心にとっては友達との約束を果たすだけのつもりだったが、いのにとっては違った。
ずっと憧れていた男の子と、二人きりで過ごす時間。
それは、彼女にとって特別なものだった。
二人はまず、里の商店街を歩いた。
いのが気になっていた店を巡り、花屋にも立ち寄る。山中家の店とは違う品ぞろえを見て、いのは楽しそうに花の説明をしてくれた。
「この花、きれいでしょ? 色も形もいいし、香りも好きなの」
「確かにきれいだな。いのは花に詳しいんだな」
「うちは花屋だもん。これくらい当然よ!」
胸を張るいの。
その様子に、心は微笑んだ。
「でも、詳しいだけじゃなくて、本当に花が好きなんだな」
「……え?」
「説明してるとき、すごく楽しそうだったから」
いのは一瞬、言葉を失った。
自分が花を好きなことを知っている人は多い。
けれど、好きだという気持ちそのものを見てくれる人は、思ったほど多くなかった。
「……うん。大好き」
いのは小さく笑った。
「いつか、もっとたくさんの人に花の魅力を知ってもらいたいの」
「いい夢だと思うよ」
心はそう言って、花を一輪買った。
そして、店を出たところで、いのに差し出す。
「はい」
「えっ……!? こ、これって……!」
「今日、案内してくれたお礼。いのが好きな花なんだろ?」
いのは花を受け取り、頬を赤くした。
「……ありがとう、心くん」
「どういたしまして」
心は特別な意味を込めたつもりはなかった。
しかし、いのにとっては十分すぎるほど嬉しい贈り物だった。
その後も二人は甘味処に寄り、里の中を散歩した。
話題はアカデミー時代の思い出から、これから始まる忍としての生活へと移っていく。
「心くんは、どんな忍になりたいの?」
いのが尋ねた。
「そうだな……強くなりたいとは思ってる。でも、強さそのものが目的じゃない」
心は少し考えてから答えた。
「大切な人を守れる忍になりたいんだ」
「……そっか」
いのは心を見つめた。
彼がそういうことを本気で考えているのは、普段の振る舞いからも分かっていた。
ナルトをかばうときも、困っている人を助けるときも、心は迷わない。
だからこそ、いのは彼に惹かれたのだろう。
「じゃあ、私も頑張らなくちゃね!」
「いのなら大丈夫だよ」
「もう! そういうところよ!」
「え?」
「何でもない!」
いのはそっぽを向いた。
その耳が赤くなっていることに、心は気づかなかった。
夕方。
二人は別れ道までやって来た。
「今日は楽しかったわ!」
「ああ、俺も楽しかったよ。また出かけよう」
心が自然にそう言うと、いのは目を輝かせた。
「本当? 約束だからね!」
「うん、約束」
いのは満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、また明日ね!」
手を振りながら去っていく彼女を見送り、心も帰路についた。
その背中を、少し離れた場所から見ている少女がいたことには、最後まで気づかなかった。
いのは家へ帰る途中、買ってもらった花を胸元に抱きしめていた。
(絶対に、いつか心くんの隣に立てるようになるんだから!)
彼女の恋心は、ますます強くなっていった。
2.組み分け発表
翌日。
忍者学校の教室には、卒業したばかりの生徒たちが集まっていた。
これから彼らは三人一組の班に分けられ、それぞれに担当上忍がつく。
つまり、ここからが本当の忍としての始まりだった。
「いよいよだってばよ!」
ナルトは自分の席で落ち着きなく足を動かしていた。
「どんな先生が担当になるんだろうな! 強い奴がいいってばよ!」
「担当が強いかどうかだけで決まるわけじゃないだろ」
隣の心が苦笑する。
「分かってるってばよ! でも、強い先生なら修行もすげえだろ?」
「まあ、それは否定しないけど」
心は窓の外へ視線を向けた。
(ついに来たか……班分け)
前世の知識が正しければ、ナルト、サスケ、サクラの三人が同じ班になる。
そして、担当上忍は、はたけカカシ。
ただし、自分が加わったことで、班の構成は変わるはずだった。
(俺がいる以上、原作と同じ班になるとは限らない。いのたちと組む可能性だってある)
そう考えていると、教室の扉が開いた。
イルカが名簿を持って入ってくる。
「全員、席につけ。これから班分けを発表する」
ざわついていた教室が静まった。
イルカは生徒たちを見渡し、順番に名前を読み上げていく。
「第十班。山中いの、奈良シカマル、秋道チョウジ」
「よっしゃ! シカマルと一緒じゃん!」
チョウジが喜び、シカマルは面倒くさそうに頭をかいた。
「めんどくせぇ……まあ、いつもの三人ってことか」
その声を聞いたいのは、わずかに表情を曇らせた。
(心くんとは……別の班なんだ)
一緒になれたらいいなと、昨夜から何度も願っていた。
しかし、決まったものは仕方がない。
いのは小さく息を吐き、心のほうを見た。
彼女の視線に気づいた心が、軽く手を振る。
いのは少しだけ笑顔を取り戻した。
(班が別でも、心くんとは会えるもんね)
そして、イルカが次の班を発表する。
「第七班。うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケ……そして、枢流陀心」
「……え?」
心は一瞬、耳を疑った。
ナルトが勢いよく立ち上がる。
「やったってばよ! 心と一緒だ!」
「ちょっと、ナルト! うるさいわよ!」
サクラはナルトを注意したものの、すぐにサスケのほうへ身体を向けた。
「サスケくんと一緒の班……! よろしくね、サスケくん!」
「……ああ」
サスケは短く答えた。
サクラはそれだけで嬉しそうに頬を染めている。
一方、心は内心で頭を抱えていた。
(まさか、俺まで第七班に入るのか……)
原作の三人に自分が加わる。
人数は四人。通常の三人班とは違うが、優秀な生徒がいる場合など、編成に調整が入ること自体はあり得る。
しかし、問題はそこではなかった。
(これで、いのとは別の班か……)
教室の反対側では、いのが心を見つめていた。
一緒の班になれるように願っていたのに、結果は望んだものとは違った。
けれど、いのはすぐに顔を上げる。
「……別に、同じ班じゃなくてもいいもん」
小さくつぶやき、気持ちを切り替えようとする。
「心くんは心くんだし、私は私。これからだって、会えるんだから」
そう自分に言い聞かせた。
イルカはその後も班分けを続け、全員の所属が決まったことを告げた。
「これから、それぞれの担当上忍が迎えに来る。呼ばれた班は、指示に従って行動するように」
教室に再びざわめきが戻る。
ナルトは興奮した様子で心の肩を叩いた。
「なあ、心! これからも一緒だってばよ!」
「そうだな。よろしく、ナルト」
「おう!」
心は笑顔で応じた。
その一方で、サクラはサスケの隣に座ろうとし、ナルトはそれを気にする様子もなく、心とこれからの任務について話し始めた。
(……あれ?)
心は、ふと違和感を覚えた。
前世の記憶では、ナルトはサクラに惚れていたはずだ。
サクラがサスケに夢中になるたびに、ナルトは気を引こうとしていた。
しかし、今のナルトはどうだろう。
サクラがサスケに熱い視線を送っていても、特に気にしていない。
それどころか、心と同じ班になれたことを純粋に喜んでいる。
(俺がナルトとずっと一緒にいたからか? それとも、そもそも恋愛面の流れが原作と違っているのか……?)
思い返してみれば、アカデミー時代のナルトはサクラにしつこく言い寄ることが少なかった。
もちろん、サクラに話しかけることはあったが、彼女の気を引こうと躍起になる姿はほとんど見ていない。
心と一緒にいる時間が長かったせいで、ナルトの人間関係も変わっているのかもしれない。
(考えても答えは出ないな……)
心は小さく息を吐いた。
この世界は、原作をなぞっているようで、少しずつ違う方向へ進んでいる。
自分が行動した結果なのか。
それとも、自分が知らないところでも変化が起きているのか。
今の心には、まだ判断できなかった。
「心? どうしたってばよ?」
ナルトが不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「いや、何でもない。これからよろしくなって考えてたんだ」
「おう! 任せとけってばよ!」
ナルトは胸を張った。
心はそれ以上考えるのをやめ、笑顔を返した。
3.第七班の担当上忍
それからしばらくして。
第七班の四人は、教室に残って担当上忍が迎えに来るのを待っていた。
サクラは相変わらずサスケのほうを気にしている。
ナルトは椅子を後ろに傾けながら、落ち着きなく辺りを見回していた。
「なあ、先生っていつ来るんだ?」
「さあな」
心は窓の外を眺めた。
(原作通りなら、かなり遅れて来るはずだ)
そして、予想は当たった。
しばらくして教室の扉が開き、一人の男が顔を出した。
銀色の髪。
額当てで左目を隠し、口元には黒いマスク。
その目はどこか気だるげで、手には小さな本が握られていた。
「やあ」
男は、まるで散歩の途中で立ち寄ったかのような調子で言った。
「君たちが第七班?」
ナルトが勢いよく立ち上がった。
「遅いってばよ! 先生、今まで何してたんだ!」
「いやあ、ちょっと道で迷っちゃってね」
「嘘つけ!」
ナルトが即座に突っ込む。
心は思わず苦笑した。
(出たな、はたけカカシ)
伝説のコピー忍者。
数々の任務をこなし、写輪眼を持つ上忍。
そして、これから自分たちを担当する忍者だ。
「じゃあ、みんな。屋上に行こうか」
カカシはそう言うと、先に教室を出ていった。
「……何なの?あの先生」
サクラが呆れたように言う。
「まあ、面白そうな人じゃないか」
心が答えると、ナルトは腕を組んだ。
「絶対、遅刻した言い訳だってばよ!」
「それは同感だな」
心がうなずくと、ナルトは満足そうに笑った。
四人はカカシの後を追い、校舎の屋上へ向かった。
4.屋上での自己紹介
屋上に到着すると、カカシは手すりに寄りかかり、四人を見渡した。
「じゃあ、まずは自己紹介からかな」
「自己紹介って、何を話せばいいんだってばよ?」
「好きなものとか、嫌いなものとか。将来の夢とか、趣味とか……まあ、そんなところ」
カカシは気楽に答えた。
「先生がまず見本を見せてくださいよ!」
ナルトが言う。
「俺?」
カカシは少し考えた。
「俺は、はたけカカシ。好き嫌いを君たちに話すつもりはない。将来の夢も、まあ秘密かな。趣味はいろいろ」
「全然分かんねえってばよ!」
「そう?」
カカシは目を細めた。
「じゃあ、君たちの番だ」
「それじゃ、私から!」
サクラが勢いよく手を挙げた。
「私は春野サクラです! 好きなものは……えっと……」
彼女の視線が、ちらりとサスケへ向く。
「好きな人は……」
サクラは頬を赤くし、両手を合わせた。
「うちはサスケくんです!」
「……はあ」
ナルトは特に反応せず、あくびをした。
心はその様子を横目で見た。
(やっぱり、気にしていない……)
サクラはナルトの反応など気にも留めず、サスケを見つめている。
カカシは小さく咳払いした。
「はいはい。じゃあ、次」
「うちはサスケ」
サスケは短く名乗った。
「好きなものは……特にない。嫌いなものはたくさんある。夢は、ある人物を殺し、うちは一族を再興することだ」
その言葉には、冷たい決意がにじんでいた。
心はサスケの横顔を見た。
(イタチ……)
サスケの憎しみは、まだ深い。
彼がこれから何を選び、どんな道を歩むのか。
それを知っているからこそ、心は簡単に言葉をかけられなかった。
「じゃあ、次は俺だってばよ!」
ナルトが元気よく前に出る。
「うずまきナルト! 好きなものはラーメン! 特に一楽のラーメンだってばよ! 嫌いなものは待たされること! 将来の夢は、火影になって里の全員に認められることだ!」
カカシは少しだけ目を細めた。
「なるほどね」
ナルトの声には、強い意志があった。
「それで、最後は君かな」
カカシが心へ視線を向けた。
心は一歩前に出た。
「枢流陀心です。好きなものは、修行と読書、それから気の合う仲間と過ごす時間。嫌いなものは、理由もなく誰かを傷つけることです」
カカシは黙って聞いていた。
「将来の夢は……自分の力を正しく使える忍になることです。強さを手に入れるだけじゃなく、必要なときに誰かを守れるようになりたい」
心はまっすぐカカシを見た。
「よろしくお願いします」
「……うん」
カカシは軽くうなずいた。
「みんな、それぞれ考えていることがあるみたいだね」
彼は手に持っていた本を閉じた。
「じゃあ、明日の予定を話そうか」
ナルトが身を乗り出す。
「いよいよ任務か!?」
「いや、明日は演習をする」
「演習?」
「そう。下忍としてやっていけるかどうかを判断するための試験だ」
カカシの声が、ほんの少しだけ低くなった。
「明日の朝、演習場に来てもらう。持ち物は忍具一式。朝食は抜いてきてね」
「えっ、朝飯抜き!?」
ナルトが叫んだ。
「そう。吐くと困るから」
「何をするつもりだってばよ……?」
「それは明日のお楽しみ」
カカシは再び本を開いた。
「じゃあ、今日は解散。遅刻しないようにね」
「それ、先生が言うことかよ!」
ナルトの叫びが屋上に響いた。
心は笑いをこらえながら、カカシの様子を観察していた。
(明日の鈴取り演習……)
原作では、三人のうち二人しか合格できないという厳しい条件が課される。
しかし、今は四人班だ。
試験の内容も、条件も変わる可能性がある。
(カカシがどう判断するか、見ておかないとな)
心は気を引き締めた。
5.はたけカカシの視点――三代目との会話
その日の夕方。
火影執務室には、はたけカカシの姿があった。
机の向こうでは、三代目火影・猿飛ヒルゼンが煙管を手に、報告書へ目を通している。
「第七班の様子はどうじゃった、カカシ?」
「そうですね。個性的な子たちでしたよ」
カカシはいつもの気だるげな口調で答えた。
「うずまきナルトは、元気があり余っている。春野サクラは、うちはサスケに夢中。サスケは……まあ、言うまでもないでしょう」
「そして、枢流陀心か」
ヒルゼンが顔を上げた。
カカシの目がわずかに細くなる。
「ええ。あの子については、少し気になっています」
「何が気になる?」
「まず、実力です。アカデミーの成績は優秀。体術も、チャクラ操作も、年齢を考えればかなり高い水準にあります。それに、戦闘中の判断が妙に落ち着いている」
カカシは今日の自己紹介を思い出した。
心の言葉は、子供らしくないほど整理されていた。
強さを求める理由も、明確だった。
「ただ強くなりたいというだけではない。自分の力をどう使うべきか、すでに考えているようです」
ヒルゼンは静かにうなずいた。
「心は、幼い頃に多くのものを失っておる。あの子なりに考えることもあったのじゃろう」
「……そうですね」
カカシは、それ以上踏み込まなかった。
枢流陀一族。
その名を知らない忍は少ない。
感情が高まると緋色に変わる瞳。
身体能力や戦闘能力を大きく高める、特異な性質。
そして、一族にまつわる不穏な噂。
だが、カカシが今日会った少年は、噂にあるような戦闘狂には見えなかった。
むしろ、力を持つことの危うさを理解しようとしているように見えた。
「それと、もう一つ」
カカシが続ける。
「ナルトとの関係です。二人はかなり親しいようですね。ナルトが心に対して、強い信頼を寄せているのが分かりました」
「心も、ナルトを大切にしておる」
ヒルゼンは穏やかに答えた。
「ミズキの事件の際も、心はナルトのそばにいたそうじゃ。じゃが、最後にミズキを倒したのはナルト自身。あの子は、自分の力で一歩を踏み出した」
「ええ。ナルトの多重影分身の術についても報告を受けています。チャクラ量はかなりのものですね」
カカシは少し考え込んだ。
ナルトには、九尾という大きな力がある。
しかし、本人がその力を自由に扱えるわけではない。
一方で、心は自分自身の能力を訓練によって制御しようとしている。
同じ班に入る二人は、互いに影響を与え合うことになるだろう。
それが良い方向へ向かうのか、悪い方向へ向かうのか。
それは、まだ分からない。
「三代目。第七班をこの編成にした理由を、聞いてもいいですか?」
カカシは尋ねた。
「通常なら三人一組が基本です。今回は四人。心を加えたのは、やはりナルトとの関係を考慮してのことですか?」
ヒルゼンは煙管を置いた。
「それも理由の一つじゃ。しかし、全てではない」
「というと?」
「サスケは、うちは一族の生き残り。ナルトは、九尾を封印された子。そして心は、枢流陀一族の生き残りじゃ」
ヒルゼンは三人の名を、静かに口にした。
「それぞれに事情がある。じゃが、事情だけを理由に、あの子たちの未来を決めつけてはならん」
カカシは黙って聞いていた。
「心を特別扱いするつもりはない。ナルトも、サスケも、サクラも同じじゃ。あの子たちには、忍として成長する機会が必要なのじゃ」
「……なるほど」
「そして、カカシ」
ヒルゼンの声が少しだけ厳しくなった。
「枢流陀一族に関する噂を、あの子自身の評価と混同してはならん。心がどのような忍になるかは、心自身が決めることじゃ」
カカシは、ゆっくりとうなずいた。
「分かっています。俺は、噂ではなく本人を見ますよ」
「うむ。それでよい」
ヒルゼンは再び報告書へ視線を落とした。
だが、カカシが立ち去ろうとしたとき、ふと思い出したように付け加えた。
「ただし、あの子たちを甘やかす必要もない。明日の試験では、きちんと見極めてやってくれ」
「もちろんです」
カカシは扉へ向かった。
「それじゃあ、明日は少し厳しくやらせてもらいます」
「ほどほどにな」
「善処します」
そう言って、カカシは執務室を後にした。
廊下を歩きながら、彼は明日の試験について考えていた。
ナルトは、仲間を信じることを学ぶ必要がある。
サスケは、一人で戦うことに固執しすぎている。
サクラは、忍としての自分を見つめ直さなければならない。
そして心は――。
(あの子は、どこまで自分の力を隠しているんだろうね)
カカシは、今日見た心の落ち着いた瞳を思い出した。
ただの優等生ではない。
何かを知っているような、何かを警戒しているような、そんな目だった。
しかし、それを理由に疑うつもりはない。
忍として必要なのは、相手を知ろうとすることだ。
「さて……明日はどうなることやら」
カカシは本を取り出し、いつもの調子で歩き続けた。
翌朝。
第七班の四人は、演習場でカカシを待つことになる。
そして、下忍として最初の試練が始まろうとしていた。