クルタ族転生   作:ryyonn

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上忍を追い詰めた少年たち

 

 

1.緋の眼と、上忍の実力

 

第七演習場。

 

緋の眼を解放した心と、はたけカカシが向かい合っていた。

 

先ほどの一撃を受け止めた腕には、まだ痺れが残っている。

 

(……なるほど。噂以上かもしれないな)

 

カカシは心を観察した。

 

身体能力の向上だけではない。踏み込みの速さ、攻撃を繰り出す角度、相手の反応を見極める判断力。そのどれもが、年齢に見合わないほど洗練されている。

 

それでいて、無闇に攻め続けることはしない。

 

こちらの出方を窺い、確実に隙を突こうとしている。

 

(アカデミーで、いったいどんな修行をしてきたんだ?)

 

カカシが思考を巡らせている間にも、心は動いていた。

 

地面を蹴り、正面から接近する。

 

右拳を繰り出すと見せかけ、直前で軌道を変えた。

 

カカシは腕で受け流す。

 

しかし、心はその動きを予測していたかのように身体をひねり、反対側から蹴りを放った。

 

「っ!」

 

カカシは身を引いてかわす。

 

だが、蹴りの風圧がマスクの端を揺らした。

 

心は着地と同時に、さらに踏み込む。

 

拳、肘、蹴り。

 

一つ一つの攻撃が連携し、カカシに反撃の隙を与えない。

 

カカシは防御と回避を繰り返しながら、徐々に後退していった。

 

「ずいぶん積極的だね」

 

「時間を稼ぐと言いましたから」

 

心は攻撃の手を緩めない。

 

「それに、俺も先生の実力を知りたいんです」

 

「なるほど。そういうことか」

 

カカシは心の拳を受け流し、ようやく反撃に転じた。

 

手首をつかみ、足を払う。

 

通常なら、それだけで相手の体勢を崩せる。

 

しかし、心は地面に倒れる寸前、空いた手を地面につき、身体を跳ね上げた。

 

そのまま後方へ回転して着地する。

 

「おっと……」

 

カカシの目が細くなった。

 

(反応もいい。緋の眼による感覚強化か、それとも本人の鍛錬の成果か)

 

おそらく、その両方だろう。

 

心は構えを取り直すと、両手で印を結び始めた。

 

「水遁・渦流弾!」

 

口元から放たれた水が、球状の奔流となってカカシへ襲いかかる。

 

「水遁か!」

 

カカシは横へ跳んだ。

 

だが、水流弾は地面にぶつかる直前で複数の流れに分かれた。

 

「なっ……!」

 

一本の水流が地面を這うように追い、もう一本が横から回り込む。さらに、中央の流れが回転を強め、カカシの逃げ道を塞ぐように広がった。

 

ただの水流弾ではない。

 

流れを分岐させ、回転と圧力を組み合わせた、心独自の応用術だった。

 

カカシは咄嗟に印を結ぶ。

 

「土遁・土流壁!」

 

地面がせり上がり、厚い土壁が立ち上がった。

 

直後、水流が激突する。

 

轟音とともに土壁が削られ、水しぶきが周囲へ飛び散った。

 

カカシは壁の陰から横へ飛び出したが、心はすでに次の印を結んでいた。

 

「まだです!」

 

別方向から伸びた水流が、カカシの足元へ絡みつくように迫る。

 

カカシは跳び上がった。

 

しかし、心はその着地点を読んでいた。

 

空中のカカシへ向け、拳を構えて踏み込む。

 

「そこまで読んでいたか!」

 

カカシは空中で身体をひねり、心の拳を紙一重でかわした。

 

それでも、完全には避けきれない。

 

心の拳が、カカシの肩をかすめた。

 

着地したカカシは、すぐさま距離を取った。

 

(これは……本気で相手をしないと、こちらが鈴を守りきれないな)

 

もちろん、カカシにはまだ余力がある。

 

忍術の種類も、経験も、戦術の引き出しも、上忍として積み上げてきたものがある。

 

だが、心は単に速く、力が強いだけの少年ではなかった。

 

攻撃の組み立てが巧みなのだ。

 

相手がどう動くかを読み、逃げ道を塞ぎ、次の一手につなげる。

 

しかも、緋の眼によって、その判断と反応がさらに鋭くなっている。

 

「心くん」

 

カカシは、わずかに声の調子を変えた。

 

「君、普段はどのくらい力を抑えているのかな?」

 

「さあ、どうでしょう」

 

心は微笑んだ。

 

「少なくとも、今日はまだ全力じゃありません」

 

「……それは困ったね」

 

カカシは内心で苦笑した。

 

(本当に、面白い子だ)

 

ただし、ここで心の実力を試すことだけに集中するわけにはいかない。

 

本来の試験は、鈴取り演習だ。

 

心が時間を稼いでいる間に、残る三人がどう動くか。それこそが、今回の試験で最も重要な部分だった。

 

カカシは、わざと心の攻撃を受け流しながら、周囲の気配を探った。

 

(さて。残りの三人は、どうする?)

 

その瞬間、心が再び地面を蹴った。

 

カカシは攻撃をかわし、木々の間へ飛び込んだ。

 

「逃がしません!」

 

心が追う。

 

だが、カカシはただ逃げているわけではなかった。

 

木の幹を蹴り、枝を伝い、視界の悪い場所へと移動していく。

 

心は追跡を続けながら、カカシの動きに合わせて進路を変えた。

 

そして、木々の切れ間へ出た瞬間――。

 

「そこまでだってばよ!」

 

聞き慣れた声が響いた。

 

カカシの目の前に、ナルトが立っていた。

 

その隣にはサスケ。

 

さらに少し離れた場所には、サクラの姿もあった。

 

カカシは足を止めた。

 

「……おや?」

 

心は、わずかに口元を緩めた。

 

「どうやら、説得は成功したみたいですね」

 

ナルトが得意げに胸を張る。

 

「当たり前だってばよ! 俺たちは同じ班なんだからな!」

 

サスケは腕を組み、カカシを鋭く睨んでいた。

 

「勘違いするな。俺はただ、こいつを倒すために協力するだけだ」

 

「はいはい。そういうことにしておこう」

 

心が返すと、サスケは不満そうに顔をしかめた。

 

サクラも、少し緊張した様子ながら、しっかりと前を向いていた。

 

「私も……やるわ。もう、見ているだけなのは嫌だから」

 

心はうなずいた。

 

「よし。じゃあ、作戦通りにいこう」

 

四人の視線が、カカシへと集まった。

 

そして、再び戦いが始まった。

 

2.四人の連携

 

「ナルト、正面から頼む。サスケは右側。サクラは先生の動きを見て、隙ができたら合図してくれ」

 

心が素早く指示を出した。

 

「分かったってばよ!」

 

「言われなくても分かっている」

 

サスケが印を結ぶ。

 

サクラも緊張を押し殺し、カカシの動きを注意深く観察した。

 

カカシは四人を見渡し、感心したようにうなずいた。

 

「へえ。今度はちゃんと作戦を立てたんだね」

 

「先生が相手じゃ、一人ずつ挑んでも勝てないって分かりましたから」

 

心は答えた。

 

「それに、俺たちは同じ班ですから」

 

「……いい答えだね」

 

カカシの声から、先ほどまでの気軽さが消えた。

 

「それじゃあ、君たちの連携を見せてもらおうか」

 

最初に仕掛けたのはナルトだった。

 

「多重影分身の術!」

 

白煙が広がり、複数のナルトが一斉に飛び出す。

 

「うおおおっ! 今度こそ捕まえてやるってばよ!」

 

正面から迫る影分身たち。

 

カカシは冷静に迎撃し、次々と分身を消していく。

 

しかし、それはナルトの狙いだった。

 

分身たちがカカシの視界を遮っている間に、サスケが側面から接近する。

 

手裏剣が二枚、カカシの逃げ道を塞ぐように飛んだ。

 

「ほう!」

 

カカシは一枚をかわし、もう一枚をクナイで弾く。

 

その隙に、サスケが踏み込んだ。

 

拳が迫る。

 

カカシは受け流そうとしたが、サスケは直前で攻撃を切り替え、足元を狙った。

 

カカシが跳ぶ。

 

そこへ、ナルトの影分身が飛びついた。

 

「捕まえたってばよ!」

 

「おっと!」

 

カカシは分身を振りほどこうとする。

 

だが、その瞬間。

 

「今よ!」

 

サクラの声が響いた。

 

サクラはカカシが着地する位置を見極め、地面に転がっていた丸太を蹴り出した。

 

丸太そのものに大した威力はない。

 

しかし、着地の瞬間に足場を乱されれば、体勢を立て直すためにわずかな時間が必要になる。

 

カカシの足が、丸太に触れた。

 

ほんの一瞬、重心がずれる。

 

「そこだ!」

 

心が動いた。

 

緋の眼が、カカシの動きを捉える。

 

地面を蹴り、最短距離で接近する。

 

狙いは、腰にある鈴。

 

カカシは即座に身体をひねった。

 

心の指先が鈴へ伸びる。

 

あと少し。

 

だが、カカシは心の手首をつかみ、その勢いを利用して身体を入れ替えた。

 

「惜しい!」

 

心の身体が宙を舞う。

 

しかし、心は空中で姿勢を整え、両足で着地した。

 

カカシが距離を取ろうとする。

 

その進路を、サスケが塞いだ。

 

「逃がすか!」

 

「ナルト、今だ!」

 

心が叫ぶ。

 

「おう!」

 

ナルトの影分身たちが、左右から一斉に飛びかかった。

 

カカシは手裏剣を投げて牽制し、身を翻す。

 

しかし、その先にはサクラがいた。

 

サクラは一瞬だけ怯みかけたものの、すぐに踏みとどまった。

 

「こっちよ!」

 

カカシが進路を変える。

 

その隙に、サスケが背後へ回り込む。

 

そして、心は再び水遁の印を結んだ。

 

「水遁・渦流弾!」

 

水流が地面を走り、カカシの周囲へ広がる。

 

一本の流れが正面を塞ぎ、別の流れが横から迫る。さらに、渦を巻く水が足元へ回り込み、動ける範囲を狭めていく。

 

カカシは土遁で防ぐか、一気に跳び越えるかを瞬時に判断した。

 

だが、跳べばナルトたちが待ち構えている。

 

地面に残れば、水流に足を取られる危険がある。

 

(なるほど。俺がどう動いても、誰かが次の手を用意しているわけか)

 

一人ひとりの実力だけなら、まだカカシには及ばない。

 

しかし、四人が互いの動きを理解し始めたことで、攻撃のつながりが生まれていた。

 

心が相手を追い込み、ナルトが数で圧力をかける。

 

サスケが逃げ道を塞ぎ、サクラが全体の動きを見て隙を伝える。

 

完璧な連携とはいえない。

 

それでも、先ほどまでの個別の攻撃とは明らかに違っていた。

 

「いいね……!」

 

カカシは思わず笑みを浮かべた。

 

その瞬間、心が一気に踏み込む。

 

カカシは鈴を守るために腕を引き、心の攻撃をかわそうとした。

 

だが、心の狙いは鈴だけではなかった。

 

カカシが避ける方向を読み、渦流弾の水流をそこへ向ける。

 

「っ!」

 

カカシは跳び上がり、水流をかわした。

 

しかし、空中では動きが限られる。

 

そこへ、サスケの手裏剣が迫った。

 

カカシは身体をひねってかわす。

 

さらに、ナルトの影分身が飛びつこうとした。

 

カカシは空中で分身を蹴り、木の枝へ飛び移る。

 

着地した直後、心が追いついた。

 

「これで――!」

 

心の手が、鈴へ伸びる。

 

カカシはとっさに後方へ飛んだ。

 

そのときだった。

 

カーン、カーン、カーン!

 

演習場に、終了を告げる鐘の音が響いた。

 

四人の動きが止まる。

 

カカシは木の枝に立ったまま、腰の鈴を確認した。

 

二つとも、まだそこにある。

 

心は静かに手を下ろした。

 

「……時間切れ、ですね」

 

「ああ。残念ながら、鈴は取れなかったね」

 

カカシは枝から飛び降り、四人の前に着地した。

 

ナルトが悔しそうに地面を叩く。

 

「くっそー! あとちょっとだったのに!」

 

サスケも唇をかんでいた。

 

「もう少しで……!」

 

サクラは肩で息をしながら、二人と心を見比べた。

 

「でも……さっきより、ずっと戦えていたわ」

 

心はうなずいた。

 

「そうだな。少なくとも、四人で協力すれば、上忍相手でも簡単には崩されないことが分かった」

 

「それに、君たちは最初と比べて見違えるほどよくなった」

 

カカシは鈴をしまいながら言った。

 

「さて。試験の結果を発表しようか」

 

四人が緊張した面持ちで、カカシを見つめた。

 

「今回の試験は――」

 

カカシは一拍置いてから、告げた。

 

「全員合格だ」

 

「……え?」

 

サクラが目を丸くした。

 

「ぜ、全員って……鈴は二つしかないんですよね?」

 

「そうだね」

 

「でも、誰も取れていません!」

 

「うん。取れていないね」

 

カカシは、まるで世間話でもするように答えた。

 

ナルトが勢いよく詰め寄る。

 

「だったら、なんで合格なんだってばよ!?」

 

「それを今から説明するよ」

 

カカシは四人を見渡した。

 

そして、普段の気だるげな態度とは少し違う、真剣な声で話し始めた。

 

「この試験で、本当に見たかったものは、鈴を奪う技術じゃない」

 

「……?」

 

「忍の世界では、規則を守ることも大切だ。命令に従い、任務を成功させることも必要になる」

 

カカシは一度言葉を切った。

 

「でもね。それだけでは、立派な忍にはなれない」

 

四人は黙って聞いていた。

 

「忍は、仲間と一緒に任務をこなす。互いの弱点を補い、危険なときには助け合う。時には、自分の利益を捨ててでも、仲間を守らなければならないこともある」

 

カカシの目が、四人を順番に捉えた。

 

「最初の君たちは、そうじゃなかった」

 

サスケが目を伏せる。

 

ナルトも、言い返さずに聞いていた。

 

「自分一人で勝とうとしたり、自分の力を試すことばかり考えたり、仲間が戦っているのに動けなかったりね」

 

サクラの肩が小さく揺れた。

 

「だけど、途中から変わった。心が協力を提案して、ナルトとサスケがサクラに声をかけた。そして、四人で作戦を立てて戦い始めた」

 

カカシはわずかに笑った。

 

「鈴を取れなかったことは、問題じゃない。大切なのは、君たちが互いを仲間として認め、協力して戦ったことだ」

 

心は静かにカカシを見つめていた。

 

(やっぱり、試験の本当の目的はそこか)

 

原作で知っていたことだった。

 

しかし、自分がその場に立ち、仲間たちと一緒に経験したことで、その言葉の重みが少しだけ分かった気がした。

 

カカシは最後に、はっきりと告げた。

 

「仲間を大切にできない奴は、それ以上のクズだ」

 

その言葉に、ナルトが顔を上げた。

 

サスケも、黙ってカカシを見ている。

 

サクラは胸に手を当て、小さくうなずいた。

 

「君たちは、まだ未熟だ。これから覚えなければならないことも多い」

 

カカシは四人へ背を向け、空を見上げた。

 

「それでも、今日の試験で見せてくれたものがあるなら、俺は君たちを下忍として認めよう」

 

ナルトが拳を握った。

 

「……よっしゃあああ! 合格だってばよ!」

 

「うるさいわよ、ナルト!」

 

サクラがすぐに突っ込む。

 

サスケはそっぽを向いていたが、その表情から先ほどまでの苛立ちは少し薄れていた。

 

心は三人を見て、微笑んだ。

 

「これからよろしくな。みんな」

 

「おう!」

 

ナルトが元気よく答えた。

 

サスケは短く「……ああ」と返し、サクラも笑顔でうなずいた。

 

こうして、心たち四人は正式に第七班として認められたのだった。

 

3.明日から任務開始

 

「さて、合格したからには、明日から任務に出てもらうよ」

 

カカシが言った。

 

「任務!? いよいよ忍者らしいことができるんだな!」

 

ナルトが目を輝かせる。

 

「最初は里の中の簡単な任務が中心になるだろうね。荷物運びや掃除、迷子の捜索なんかもある」

 

「ええっ!? そんなのばっかりなのかよ!」

 

ナルトが露骨にがっかりした。

 

「いきなり危険な任務を任せるわけにはいかないからね。まずは経験を積むこと。それが大切だよ」

 

「俺はもっと強い敵と戦いたいってばよ!」

 

「その前に、目の前の仕事をきちんとこなせるようにならないとね」

 

カカシは軽くナルトの額を指で押した。

 

「それに、どんな簡単な任務にも意味はある。忍としての責任を覚えることも、立派な修行だからね」

 

「……分かったってばよ」

 

ナルトは少し不満そうだったが、最後にはうなずいた。

 

サスケは黙って話を聞いている。

 

サクラは明日からの任務に少し緊張している様子だった。

 

心は、これから始まる日々を考えていた。

 

(原作では、しばらくは下忍任務が続く。その後、波の国の任務へ……)

 

ただし、自分が加わったことで、任務の内容や展開が変わる可能性はある。

 

それでも、今は焦る必要はない。

 

まずは第七班として、仲間たちと経験を積むことだ。

 

「じゃあ、今日はこれで解散。明日の朝、火影様のところへ集合すること」

 

カカシが告げた。

 

「遅刻しないようにね」

 

ナルトがすぐに指を突きつける。

 

「それ、先生が言うことじゃないってばよ!」

 

「おや、よく覚えていたね」

 

「先生がいつも遅刻するからだろ!」

 

心は笑った。

 

「ナルト、明日は俺たちが先に着いて待っていよう」

 

「おう! 絶対に先生より早く行くってばよ!」

 

「それは普通のことだと思うけど……」

 

サクラが呆れた声を出す。

 

サスケは小さく息を吐き、先に歩き出した。

 

「俺は帰る」

 

「待ってよ、サスケくん!」

 

サクラが慌てて後を追う。

 

ナルトは心の肩を叩いた。

 

「なあ、心! 明日も一緒に行こうぜ!」

 

「ああ。いつもの場所で待ち合わせよう」

 

「約束だってばよ!」

 

ナルトは笑顔で手を振り、走り去っていった。

 

一人になった心は、空を見上げた。

 

緋の眼は、すでに元の青色へ戻っている。

 

(……いよいよ、忍としての生活が始まるんだな)

 

今までの修行は、すべてこの日のためだった。

 

これからは、ただ自分を鍛えるだけではない。

 

仲間とともに任務をこなし、時には命の危険にも向き合うことになる。

 

心は忍具袋を確かめ、歩き出した。

 

その背中を、演習場に残ったカカシが静かに見送っていた。

 

4.はたけカカシの視点――予想を超えた四人

 

四人が帰った後。

 

第七演習場には、カカシだけが残っていた。

 

彼は近くの丸太に腰を下ろし、先ほどの試験を振り返っていた。

 

(……いやあ、予想以上だったな)

 

最初に心が緋の眼を解放したとき、カカシは正直、驚いていた。

 

噂に聞く枢流陀一族の力。

 

感情が高まると瞳が緋色に変わり、身体能力や感覚が大きく向上する。

 

それは単なる身体強化ではなかった。

 

心は相手の動きを見極め、攻撃の組み立てを変え、状況に応じて忍術を使い分けていた。

 

とりわけ、あの水遁。

 

通常の水流弾とは異なり、放った水流を複数に分けて軌道を変える術だった。

 

しかも、ただ分岐させているだけではない。

 

カカシが回避する方向を予測し、逃げ道を塞ぐように水流を操っていた。

 

(あの年齢で、あそこまで術を組み立てられるのか……)

 

カカシは腕を組んだ。

 

術の威力だけなら、上忍の水遁と比べて特別に大きいわけではない。

 

だが、実戦での使い方が優れている。

 

体術で相手を追い込み、水遁で逃げ道を狭め、反応を見て次の攻撃につなげる。

 

その一連の流れは、十分に実戦的だった。

 

(少なくとも、普通の下忍として扱うには危険なほどの実力を持っている)

 

もちろん、心が上忍と同等だというわけではない。

 

経験、忍術の幅、判断の引き出し。

 

その点では、まだカカシのほうが大きく上回っている。

 

しかし、身体能力と戦闘技術に限れば、下忍の水準はすでに超えていた。

 

しかも、今日の心は最後まで冷静だった。

 

自分の力を誇示するために戦ったわけではない。

 

仲間たちが協力できるようになるまで、カカシの注意を引きつけていた。

 

(自分の実力を試したい気持ちもあっただろうが……それだけじゃないな)

 

カカシは、心が三人へ声をかけた場面を思い出した。

 

最初、ナルトとサスケは協力を拒んだ。

 

サクラもサスケに同調していた。

 

それでも心は、彼らを責めなかった。

 

まずは各自に挑戦させ、失敗した後に、もう一度協力を提案した。

 

無理に従わせるのではなく、本人たちが必要性を理解するまで待ったのだ。

 

(あの年齢で、よくそこまで考えられるものだ)

 

もっとも、カカシには気になることもあった。

 

心の判断力は、単に頭がいいというだけでは説明しきれない。

 

まるで、忍の実戦を何度も経験してきたかのような動き。

 

相手の攻撃を受ける前に察知するような反応。

 

そして、緋の眼を解放した後も、力に振り回される様子がなかったこと。

 

(あの力を、普段から制御する訓練を積んでいるんだろうな)

 

それは間違いない。

 

しかし、どれほどの訓練を積めば、あそこまで扱えるようになるのか。

 

カカシには想像しきれなかった。

 

そして、心だけではない。

 

ナルトもまた、成長していた。

 

多重影分身の術を使い、数で圧力をかける戦い方。

 

以前のナルトなら、勢いだけで突っ込んでいたかもしれない。

 

だが、今日の後半では心の指示を受け入れ、仲間と連携しようとしていた。

 

サスケも、自分一人で戦うことに固執しながら、最終的には協力を選んだ。

 

サクラは、戦うことを恐れながらも、最後には自分にできる役割を見つけた。

 

四人とも、まだ未熟だ。

 

それでも、今日の試験を通して確かな一歩を踏み出した。

 

カカシは立ち上がり、空を見上げた。

 

「……悪くない班かもしれないな」

 

小さくつぶやく。

 

心という、実力も考え方も独特な少年。

 

ナルトという、底知れない可能性を秘めた少年。

 

サスケという、強い意志と憎しみを抱えた少年。

 

サクラという、これから大きく成長していく少女。

 

この四人が、互いにどのような影響を与え合うのか。

 

まだ分からない。

 

だが、少なくとも今日の試験で、カカシは一つ確信した。

 

彼らは、ただの寄せ集めでは終わらないかもしれない。

 

「さて……明日からは、少し忙しくなりそうだ」

 

カカシはいつもの本を取り出し、演習場を後にした。

 

翌日から、第七班の任務が始まる。

 

そして、彼らの前には、まだ見ぬ試練が待ち受けていた。

 

 

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