クルタ族転生   作:ryyonn

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鍋を囲む夜、そして三人の秘密の修行

 

 

木ノ葉隠れの里で、第七班が下忍として活動を始めてから数日が経った。

 

彼らに与えられる任務は、相変わらず簡単なものばかりだった。

 

荷物の運搬、里の清掃、畑仕事の手伝い、迷子になった動物の捜索。

 

ナルトはそのたびに「もっと忍者らしい任務をやらせてくれ!」と文句を言っていたが、任務そのものを放り出すことはなかった。

 

サスケは黙々と仕事をこなし、サクラは周囲への気配りを忘れない。そして心は、四人が効率よく動けるように自然と役割を調整していた。

 

ただし、任務が終われば、それで一日が終わるわけではない。

 

心には、欠かさず続けている日課があった。

 

修行だ。

 

* * *

 

夕暮れ時。

 

里の外れにある修行場で、心は一人、木々の間を駆け抜けていた。

 

足音は小さく、動きに無駄がない。

 

木の幹を蹴って方向を変え、枝を足場にして跳躍する。着地と同時に地面を蹴り、次の目標へと向かった。

 

その瞳は、鮮やかな緋色に染まっている。

 

「……よし」

 

心は走るのを止め、呼吸を整えた。

 

緋の眼を発動した状態では、身体能力だけでなく、知覚能力や反応速度も大きく向上する。

 

そして、何より重要なのはチャクラ量の変化だった。

 

通常時の心のチャクラ量は、ナルトよりも少し少ない。

 

もちろん、同年代の下忍と比べれば決して少なくはない。だが、ナルトの内側には九尾という巨大な存在が封印されている。その影響もあってか、ナルトのチャクラ量は同年代としては異常なほど多かった。

 

一方、心のチャクラは通常時こそナルトにわずかに及ばないものの、緋の眼を発動すると、その総量が大幅に増大する。

 

単に普段のチャクラが強化されるという程度ではない。

 

感情とともに高まる身体能力に比例するように、チャクラそのものが膨れ上がるのだ。

 

「この増え方……やっぱり普通じゃないよな」

 

心は自分の掌を見つめた。

 

今のところ、緋の眼を発動した際のチャクラ量は、通常時とは比較にならない。

 

正確な測定方法がないため断言はできないが、感覚だけで言えば、通常の下忍や中忍が持つチャクラ量とは明らかに次元が違う。

 

人柱力や尾獣そのものには及ばない。

 

しかし、今後さらに制御と鍛錬を重ねていけば、少なくとも準尾獣クラスと呼べるほどのチャクラ量に達する可能性はある。

 

もちろん、それはあくまで心自身の推測にすぎない。

 

チャクラ量が多いからといって、すぐに尾獣のような力を扱えるわけではないのだから。

 

「量に頼りすぎるのも危険だな。緋の眼を使っていないときの戦い方も、もっと磨かないと」

 

心は緋の眼を解除した。

 

身体に残るわずかな疲労を感じながら、もう一度、基礎訓練を始める。

 

体術。

 

チャクラコントロール。

 

瞬発力。

 

そして、術の精度。

 

一つひとつを確実に積み重ねる。

 

それが、心のやり方だった。

 

* * *

 

それから数日後。

 

第七班の担当上忍であるはたけカカシは、里の通りを歩いている途中、ある光景を目にした。

 

「いらっしゃいませー!」

 

「ラーメン大盛り! あと、替え玉も頼むってばよ!」

 

ラーメン屋の店先で、ナルトが元気よく注文していた。

 

カカシは足を止めた。

 

「……またか」

 

思い返してみれば、任務の合間にナルトを見かけると、ほとんどの場合、ラーメンを食べている。

 

昨日もラーメン。

 

一昨日もラーメン。

 

その前もラーメンだった気がする。

 

「成長期なんだろうけど……さすがに偏りすぎじゃないかな」

 

カカシはしばらく考えた後、あることを思いついた。

 

そして、その日の夕方。

 

「ナルト」

 

「ん? なんだってばよ、カカシ先生?」

 

呼び止められたナルトは、いつものように明るい顔を向けた。

 

カカシは手に持っていた大きな袋を差し出した。

 

「これ、あげるよ」

 

「……なんだこれ?」

 

袋の中を覗いたナルトは、目を丸くした。

 

中に入っていたのは、大量の野菜だった。

 

キャベツ、白菜、長ネギ、ニンジン、大根、キノコ類。

 

どれも新鮮そうだが、問題はその量である。

 

一人で食べきるには、明らかに多すぎた。

 

「や、野菜!? なんでこんなにあるんだってばよ!?」

 

「最近、ラーメンばっかり食べているようだからね。たまには野菜も食べなさい」

 

「ええええっ!? オレ、野菜そんなに好きじゃねーぞ!」

 

「好き嫌いはよくないよ。ちゃんと食べること」

 

「そんなぁ……!」

 

カカシは袋をナルトに押しつけると、ひらひらと手を振って去っていった。

 

残されたナルトは、両手いっぱいの野菜を見つめた。

 

「……どうすんだよ、これ」

 

自分で料理をした経験はほとんどない。

 

野菜を切るくらいなら、なんとかなるかもしれない。

 

しかし、この量をどうやって食べればいいのか。

 

焼くのか。

 

煮るのか。

 

それとも、生で食べるのか。

 

「うーん……」

 

しばらく悩んだ末、ナルトの頭に一人の友人の顔が浮かんだ。

 

「そうだ! 心に相談してみよう!」

 

ナルトは野菜の袋を抱え、勢いよく走り出した。

 

* * *

 

「……なるほど。カカシ先生から野菜をもらったのか」

 

心の家。

 

玄関先に大量の野菜を置いたナルトは、困り果てた顔で頷いた。

 

「そうなんだってばよ! こんなにたくさん、どうすりゃいいんだよ!」

 

心は野菜を一つずつ確認しながら、少し考えた。

 

「これなら、鍋がいいんじゃないか?」

 

「鍋?」

 

「そう。野菜を切って、肉も入れて煮るんだ。簡単だし、一度にたくさん食べられる」

 

「おおっ! それならオレにもできそうだってばよ!」

 

「……ナルト。料理をするのは俺の家だからな」

 

「えっ?」

 

「野菜をもらったのはナルトだろ。だったら、切る作業くらいは手伝ってもらうぞ」

 

「も、もちろんだってばよ!」

 

ナルトは勢いよく頷いた。

 

そのとき、家の前を通りかかった人物がいた。

 

うちはサスケだ。

 

「……何を騒いでいる」

 

「おっ、サスケ!」

 

ナルトが顔を輝かせた。

 

「ちょうどいいところに来たってばよ! 今日、心の家で鍋をするんだ! お前も来いよ!」

 

「は?」

 

サスケは露骨に眉をひそめた。

 

「なぜ俺が、お前たちと鍋を食べなければならない」

 

「いいじゃないか。野菜がかなり多いから、三人で食べたほうがちょうどいいと思う」

 

心も誘いを加えた。

 

「もちろん、無理にとは言わないけど」

 

「…………」

 

サスケはしばらく黙っていた。

 

本来なら断るつもりだった。

 

他人の家で食事をすることにも、誰かと一緒に過ごすことにも、あまり興味はない。

 

だが、心の家には以前から少し興味があった。

 

同じ班になってから、心の実力や考え方を知る機会は増えた。

 

それでも、任務以外で彼がどんな生活をしているのかは、ほとんど知らない。

 

それに――。

 

心の誘いには、妙な押しつけがましさがなかった。

 

来いと強制するわけでもなく、断ったからといって態度を変えるわけでもない。

 

ただ、自然に仲間として誘っている。

 

「……わかった」

 

「えっ!?」

 

ナルトが驚いた声を上げた。

 

「サスケ、お前、来るのか!?」

 

「お前が何度も誘うからだ。うるさい」

 

「なんだとー!」

 

「はいはい。喧嘩は後にして、さっさと準備しよう」

 

心は苦笑しながら二人を家の中へ招き入れた。

 

こうして、心の家で三人の鍋が始まることになった。

 

* * *

 

「ナルト、白菜はもう少し小さく切ってくれ」

 

「こうか?」

 

「……それだと、ちょっと大きいな」

 

「む、難しいってばよ!」

 

「貸せ。俺がやる」

 

サスケが横から包丁を受け取ろうとする。

 

「おい! オレがやってるんだぞ!」

 

「見ていられないだけだ」

 

「なんだとー!」

 

「だから、喧嘩するなって」

 

心は二人をなだめながら、鍋の準備を進めていった。

 

サスケは料理に慣れているわけではなかったが、手先が器用で、包丁の扱いもすぐに覚えた。

 

ナルトは何度か野菜の大きさを間違えたものの、途中からは真剣に作業に取り組んでいた。

 

やがて、鍋から湯気が立ち上る。

 

白菜や長ネギ、ニンジン、キノコ。

 

そこに肉を加え、だしの香りが部屋いっぱいに広がった。

 

「うわぁ……うまそうだってばよ!」

 

ナルトの目が輝く。

 

「まだ煮えてないから、少し待て」

 

「あとどれくらいだ!?」

 

「もう少し」

 

「もう少しってどれくらいだってばよ!」

 

「ナルト、落ち着け」

 

サスケが呆れたように言う。

 

やがて具材に火が通り、心がそれぞれの器によそった。

 

「じゃあ、食べようか」

 

「いただきまーす!」

 

ナルトは勢いよく箸を伸ばし、白菜と肉を口に運んだ。

 

「うっめええええっ!!」

 

大げさなほどの声が上がる。

 

「おい、熱いから気をつけろ」

 

「んぐっ……! あっつ! でも、うめえ!」

 

サスケはそんなナルトを横目で見ながら、静かに鍋を口に運んだ。

 

「……悪くないな」

 

その言葉に、心は微笑んだ。

 

「それならよかった」

 

三人で食卓を囲む。

 

任務の話。

 

忍者学校での思い出。

 

これからどんな忍者になりたいか。

 

ナルトは火影になる夢を何度も語り、サスケは必要以上に口を開かなかったが、二人の話を聞いていた。

 

心は二人の言葉に耳を傾けながら、時折、自分の考えも話した。

 

いつの間にか、鍋の中身はずいぶん減っていた。

 

ナルトは腹をさすり、満足そうに息を吐いた。

 

「いやー、食った食った! やっぱり、みんなで食べるとおいしいな!」

 

「そうだな」

 

心も頷いた。

 

サスケは空になった器を見下ろした。

 

誰かと一緒に食事をする。

 

そんな当たり前のことが、自分にとってはいつ以来なのだろう。

 

一族を失ってからは、食事も生活も、ただ一人で済ませることが多かった。

 

もちろん、寂しいなどと思ったことはない。

 

そう思わないようにしてきた。

 

それでも今夜は、思いのほか居心地がよかった。

 

「サスケ、どうしたんだ?」

 

ナルトの声に、サスケは顔を上げる。

 

「……何でもない」

 

「そうか? もっと食べるか?」

 

「もういい」

 

「遠慮すんなってばよ!」

 

「遠慮していない!」

 

また言い合いが始まり、心は小さく笑った。

 

食事を終え、後片づけを済ませるころには、外はすっかり暗くなっていた。

 

ナルトが窓の外を見て、驚いた声を上げる。

 

「うわっ、もうこんな時間かよ!」

 

「今から帰るのも大変だろう。二人とも、泊まっていくか?」

 

心は自然な調子で提案した。

 

「布団ならあるし、明日の朝に帰ればいい」

 

「えっ、いいのか!?」

 

ナルトはすぐに食いついた。

 

「もちろん」

 

「やったー! じゃあ、泊まるってばよ!」

 

ナルトが即答する。

 

心はサスケへ視線を向けた。

 

「サスケもどうだ?」

 

「…………」

 

サスケは少しだけ迷った。

 

普段なら断っていただろう。

 

しかし、今夜は違った。

 

「……泊まる」

 

「おっ、サスケも泊まるのか!」

 

「だから、うるさい」

 

「へへっ、明日も一緒に行けるな!」

 

サスケは返事をしなかった。

 

だが、帰るとは言わなかった。

 

心は二人のために寝具を用意し、三人はそれぞれ寝る場所についた。

 

やがて部屋は静かになり、ナルトの寝息が聞こえ始めた。

 

サスケも目を閉じる。

 

今日は、不思議な一日だった。

 

そして、その夜。

 

サスケは、思いがけないものを目撃することになる。

 

* * *

 

サスケ視点

 

……眠れない。

 

布団に入ってから、かなりの時間が経った。

 

ナルトは隣ですっかり熟睡している。

 

心も、少し前までは起きていたようだが、今は部屋の中に気配がない。

 

俺は静かに上体を起こした。

 

別に、心の家が落ち着かないわけではない。

 

むしろ、思っていたよりも居心地がよかった。

 

だが、それが少し気に入らなかった。

 

俺は強くならなければならない。

 

兄を倒し、うちは一族の仇を討つ。

 

そのために、余計なことに気を取られている暇はない。

 

……なのに。

 

さっきの鍋を思い出す。

 

ナルトが騒いで、心が笑って、俺が文句を言う。

 

そんな時間が、思いのほか自然だった。

 

「……くだらない」

 

小さく呟き、再び横になろうとした、そのとき。

 

微かな物音が聞こえた。

 

俺は動きを止める。

 

隣の部屋から、衣服を整えるような音。

 

続いて、玄関の戸が静かに開く気配。

 

……心か?

 

俺は布団から出ると、足音を殺して部屋を出た。

 

玄関から外を覗く。

 

月明かりの下、心が一人で歩いていくのが見えた。

 

忍具を身につけ、修行着に近い格好をしている。

 

こんな時間に、どこへ行くつもりだ?

 

俺は少し考えた。

 

そして、気づけば後を追っていた。

 

理由はわからない。

 

ただ、気になった。

 

鈴取り演習で見せた力。

 

あの緋の眼。

 

上忍であるカカシ先生を相手に、あれほど戦えた理由。

 

同じ年齢の下忍でありながら、心は明らかに俺たちとは違う。

 

いったい、どんな修行をしているのか。

 

それを知りたかった。

 

俺は距離を保ちながら、心の後を追った。

 

心が向かったのは、里の外れにある修行場だった。

 

木々に囲まれ、人通りはほとんどない。

 

心は周囲を確認すると、ゆっくりと呼吸を整えた。

 

次の瞬間。

 

その瞳が、鮮烈な緋色へと変わった。

 

「……っ!」

 

俺は思わず息を呑んだ。

 

鈴取り演習でも見た色だ。

 

だが、あのときとは違う。

 

今の心には、戦闘中のような気負いがない。

 

ただ静かに立っているだけなのに、身体から感じる気配が変わっていた。

 

心は両手を構え、修行を始めた。

 

まずは基本的な体術。

 

拳を突き出し、蹴りを放ち、身体を回転させて次の動作へつなげる。

 

一つひとつの動きが正確だった。

 

しかも、ただ速いだけではない。

 

攻撃の軌道、重心の移動、足の運び。

 

どれも無駄がなく、実戦を意識した動きになっている。

 

次に、心は木々の間を駆け始めた。

 

地面を蹴り、幹を踏み、枝から枝へと移動する。

 

俺も体術には自信がある。

 

だが、心の動きは、俺が普段行っている訓練よりも洗練されていた。

 

「……あいつ、どれだけ修行しているんだ」

 

気づけば、俺は目を離せなくなっていた。

 

さらに心は、立ち止まると掌を前に向けた。

 

チャクラが集中していく。

 

その量に、俺は違和感を覚えた。

 

緋の眼を発動する前とは、明らかに違う。

 

空気が震えるような感覚。

 

心の身体から放たれるチャクラが、目に見えない圧力となって周囲に広がっているようだった。

 

「……チャクラが、増えている?」

 

俺は思わず呟いた。

 

単純に集中させているだけではない。

 

心自身のチャクラ量が、緋の眼を発動したことで大きく増えているように感じられた。

 

あれほどのチャクラを、いったい何に使うつもりなのか。

 

心は掌に集めたチャクラを安定させると、今度は足元へ意識を向けた。

 

地面を蹴る。

 

一瞬で姿が遠ざかった。

 

いや、消えたわけではない。

 

目で追えないほどの速度で移動したのだ。

 

心は少し離れた木の前で止まり、すぐに振り返って戻ってくる。

 

それを何度も繰り返した。

 

速さだけを求めているのではない。

 

加速する瞬間。

 

方向を変える瞬間。

 

停止する瞬間。

 

それぞれの動作を細かく確認し、少しでも納得がいかなければ、最初からやり直していた。

 

俺は拳を握りしめた。

 

……悔しい。

 

心が強いことは知っていた。

 

だが、ここまでとは思っていなかった。

 

しかも、あいつは満足していない。

 

もっと速く。

 

もっと正確に。

 

もっと強く。

 

そんな意志が、修行する姿から伝わってくる。

 

「……俺も、負けていられない」

 

そのときだった。

 

「……サスケ?」

 

背後から小さな声が聞こえた。

 

俺は振り返る。

 

そこには、眠そうな顔をしたナルトが立っていた。

 

「お前、何やってんだってばよ……?」

 

「声が大きい」

 

俺は慌ててナルトの口を塞いだ。

 

ナルトは目を丸くしたが、俺の視線を追って、修行場の心に気づいた。

 

「あ……心?」

 

ナルトも声を潜めた。

 

「心、こんな時間に修行してんのか?」

 

「……そうらしい」

 

「すっげえ……」

 

ナルトは驚いた様子で心を見つめた。

 

その顔には、悔しさよりも感心が強く浮かんでいた。

 

「心って、いつもあんな感じなんだぞ」

 

「……何?」

 

俺が聞き返すと、ナルトは小さな声で続けた。

 

「昼間も任務が終わったら修行してるし、朝早くから走ってることもあるんだってばよ。オレ、何度か見かけたことがあるんだ」

 

「毎日……?」

 

「うん。オレも一緒にやろうとしたことがあるけど、心の修行って結構きついんだよな」

 

ナルトは少しだけ笑った。

 

「でも、心は絶対に手を抜かないんだ。オレが疲れて休んでても、無理に続けろとは言わない。でも、自分はずっとやってる」

 

俺は、再び心を見た。

 

あいつは誰かに見せるために修行しているわけではない。

 

誰かに褒めてもらうためでもない。

 

ただ、自分が強くなるために。

 

守りたいものを守れるようになるために。

 

毎日、こうして積み重ねているのだ。

 

「……ナルト」

 

「ん?」

 

「お前は、心から修行を教わったことがあるのか?」

 

「あるってばよ。でも、ちゃんと教えてもらうっていうより、一緒に走ったり、体術を練習したりって感じだな」

 

「そうか……」

 

俺はしばらく黙っていた。

 

そして、心が一連の訓練を終え、緋の眼を解除したところで、決心した。

 

「……俺も教わりたい」

 

「えっ?」

 

ナルトが目を丸くする。

 

「心に、修行を?」

 

「ああ」

 

「お、お前が!?」

 

「声が大きいと言っただろ」

 

「わ、悪い……!」

 

ナルトは慌てて口を押さえた。

 

それから、少し考え込む。

 

「……そっか。サスケも、もっと強くなりたいんだな」

 

「当たり前だ」

 

俺は心を見つめた。

 

「俺は、あいつに負けたくない」

 

それは本心だった。

 

心の力は認めている。

 

だが、だからこそ追いつきたい。

 

同じ班の仲間だからといって、負けたままでいいとは思わない。

 

ナルトは、そんな俺を見て笑った。

 

「じゃあ、オレも一緒に頼もうぜ!」

 

「……お前もか?」

 

「当たり前だってばよ! 心が強くなるなら、オレだってもっと強くなりたい!」

 

「お前はまず、修行の途中でラーメンのことを考える癖を直せ」

 

「なっ!? な、なんで知ってんだよ!」

 

「見ていればわかる」

 

俺たちは小声で言い合いながら、心がこちらに気づくのを待った。

 

やがて、心が振り返った。

 

「……二人とも、何してるんだ?」

 

俺とナルトは顔を見合わせた。

 

隠れていたことを、どう説明するべきか。

 

少しだけ迷ったが、俺は正直に答えることにした。

 

「お前の修行を見ていた」

 

「俺の?」

 

心は驚いたように目を瞬かせた。

 

ナルトが一歩前に出る。

 

「なあ、心! オレたちにも修行を教えてくれよ!」

 

「……ナルト?」

 

「オレ、もっと強くなりたいんだ! サスケもそうなんだってばよ!」

 

「勝手に俺まで代表するな」

 

「いいだろ、別に!」

 

二人のやり取りを見て、心は小さく笑った。

 

「そうだな……」

 

心は俺たちを交互に見た。

 

「二人とも、本気で強くなりたいんだな?」

 

「当たり前だ!」

 

「……ああ」

 

俺も頷いた。

 

心は少し考えてから、答えた。

 

「わかった。ただし、無理はさせない。二人の体力やチャクラコントロールに合わせて、基礎からやろう」

 

「よっしゃあ!」

 

ナルトが拳を突き上げた。

 

「それと、修行をするなら約束がある」

 

心の表情が少し真剣になる。

 

「疲れたら、ちゃんと言うこと。痛みを我慢して無理をしないこと。それから、毎日少しずつでも続けることだ」

 

「……わかった」

 

俺はすぐに答えた。

 

ナルトも大きく頷く。

 

「もちろんだってばよ!」

 

「じゃあ、明日から一緒にやろう。朝は早いけど、大丈夫か?」

 

「大丈夫だ!」

 

「……問題ない」

 

俺たちの返事を聞き、心は満足そうに頷いた。

 

「よし。今日はもう遅いから帰ろう。明日の朝から始めるぞ」

 

三人で家へ戻る。

 

その道中、俺はふと考えた。

 

心は、俺たちをライバルとして見ているのだろうか。

 

それとも、ただの仲間として見ているのだろうか。

 

……いや。

 

そんなことは、今はどうでもいい。

 

俺は強くなる。

 

心に追いつき、いつか追い越す。

 

そして、俺自身の目的を果たす。

 

そのために必要なものがあるなら、誰からだろうと学んでやる。

 

翌朝から、俺たち三人の修行が始まった。

 

それは単に、強くなるためだけの時間ではなかった。

 

互いの実力を知り、足りないものを補い、時には競い合う。

 

任務のない時間に三人で修行することは、いつしか当たり前の日常になっていく。

 

そして、この夜を境に。

 

サスケとナルトにとって、枢流陀心という少年は、ただの班の仲間ではなくなっていくのだった。

 

 

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