森の中に、張り詰めた空気が流れていた。
巨大な断刀を肩に担いだ桃地再不斬。その視線は、木ノ葉の上忍、はたけカカシを真っすぐに捉えている。
「木ノ葉の写輪眼のカカシ……噂は聞いているぜ」
再不斬が口元を歪めた。
「だが、今日はお前の首をもらう」
「そう簡単にはいかないさ」
カカシは気だるげに答えた。だが、その目はすでに戦闘態勢に入っている。
心は再不斬の動きから目を離さなかった。
――霧隠れの鬼人、桃地再不斬。経験も実力も、俺たちとは桁が違う。
自分がすべきことは明確だった。
カカシが戦いやすいように再不斬の不意打ちを警戒し、タズナと仲間たちを絶対に守る。
「ナルト、サスケ。タズナさんのそばを離れるな。サクラも、三人でタズナさんを守ってくれ」
「分かったってばよ!」
「言われなくても分かっている」
「うん、任せて!」
心は三人の返事を聞くと、タズナの前方へ移動した。
緋の眼が、再不斬のわずかな動きを捉えていく。
再不斬が地面を蹴った。
断刀が横薙ぎに振るわれ、カカシは身をかがめてかわす。刃が背後の木に食い込み、幹を大きく削った。
カカシは懐へ踏み込もうとするが、再不斬は柄を利用して距離を作り、鋭い蹴りを放った。
カカシは腕で受け流し、後方へ跳ぶ。
互いに一歩も譲らない。
再不斬が印を結んだ。
「水遁・水龍弾の術!」
大量の水がうねり、龍の形を取ってカカシへ襲いかかる。
カカシも素早く印を結び、同じ術を放った。
二体の水龍が激突し、轟音とともに大量の水が森へ降り注いだ。
その隙に、再不斬の姿が水煙へ紛れる。
心は周囲を警戒した。
――来るぞ。
「カカシ先生、背後です!」
心が叫んだ直後、カカシの背後に再不斬が現れた。
だが、カカシはすでに動いていた。身をひねって刃をかわし、反撃を仕掛ける。
再不斬は素早く後退した。
「ちっ……よく気づくじゃねえか」
再不斬は心にも目を向けた。
「お前、ただのガキじゃねえな」
「あなたに構っている暇はないんでね」
心は静かに返した。
自分が前に出すぎれば、カカシの間合いを乱してしまう。だからこそ、再不斬の不意打ちを警戒しながら、タズナたちへの攻撃を確実に防げる位置を保っていた。
再不斬は正面からの攻防だけでは勝てないと判断したのか、印を結んだ。
「水遁・霧隠れの術!」
濃い霧が森を包み込んだ。
「全員、動くな!」
カカシの声が響く。
「再不斬は暗殺術の使い手だ。音や気配を消して接近してくる。勝手に動けば、命を落とすぞ!」
心は緋の眼に意識を集中させた。霧の中でも、わずかな変化を見逃さない。
再不斬は巧みに気配を消し、カカシへ迫った。
次の瞬間、水がカカシの周囲を包み込む。
「水遁・水牢の術!」
巨大な水球が形成され、カカシの体を閉じ込めた。
「しまった……!」
心は即座に動こうとした。
しかし、水牢を維持する再不斬の本体がカカシを捕らえたまま、もう一体の水分身がこちらへ向き直る。
「動くな。少しでも妙な真似をすれば、こいつを殺す」
再不斬は水牢を維持しながら、分身にこちらの妨害を任せていた。
「お前たち、依頼人を連れて逃げろ!」
水牢の中から、カカシが叫んだ。
「先生を置いていけるわけないだろ!」
ナルトが声を張り上げる。
「落ち着け、ナルト」
心はナルトの前に腕を伸ばし、制した。
「全員で突っ込んでも、再不斬の思うつぼだ。タズナさんを守りながら、先生を助ける方法を考える」
サスケは再不斬の水分身を見据えた。
「水牢を維持するために、本体は片手を水の中に入れている。自由に動けるのは分身の方だけだ」
「そうだ。あの分身を引き離す必要がある」
心は小声で告げた。
「俺がタズナさんたちを守る。二人は先生を助ける方法を考えてくれ。サクラはタズナさんから離れるな」
「分かったわ!」
ナルトとサスケは視線を交わした。
「ナルト。俺の手裏剣に合わせろ」
「おう!」
二人は作戦を確認した。
サスケが手裏剣を投げる。水分身がそれを避けようとした瞬間、ナルトが影分身を出現させた。
複数のナルトが別々の方向から迫る。
その動きに紛れ、手裏剣の一つが軌道を変えた。
「何っ!」
手裏剣が変化を解き、ナルトの姿になる。
「先生を返せってばよ!」
ナルトが水牢を維持する再不斬の腕へ飛びかかった。
再不斬は水牢を維持している手を動かせない。
ナルトの攻撃が決まり、水牢が砕け散った。
「今だ、先生!」
カカシが水の中から飛び出し、再不斬へと迫る。
「よくやった、ナルト!」
カカシは写輪眼を鋭く輝かせ、再不斬の動きを見切っていく。
「お前の術は、もう見切った」
「まさか……俺の印を読んだのか!?」
「そういうことだ」
カカシは再不斬の動きを先読みし、反撃に転じた。
再不斬が防御しようとするが、カカシの動きが一枚上手だった。
ついに、カカシが再不斬を追い詰める。
その時だった。
ヒュッ!
鋭い風切り音が森を走った。
数本の千本が再不斬の首に突き刺さる。
再不斬の体が、力を失ったように崩れ落ちた。
「何だ!?」
ナルトが目を見開く。
木の上に、仮面をつけた忍が立っていた。
「お見事です、写輪眼のカカシさん」
仮面の忍は落ち着いた声で告げる。
「その男は霧隠れの抜け忍です。私たち追い忍は、抜け忍の秘密が漏れないよう、死体を回収する任務を負っています」
カカシは目を細めた。
「追い忍か……」
心は仮面の忍を見上げた。
――白……。
前世の記憶が警告を発する。
しかし、心は何も口にしなかった。
「それでは、私は任務に戻ります」
仮面の忍は再不斬の体を担ぎ上げ、木々の間へ消えていった。
森に静寂が戻る。
「……終わった、のか?」
ナルトが呆然とつぶやいた。
「一応はな」
カカシは額当てを戻そうとした。
しかし、その手が止まった。
「……っ」
カカシの体が大きく傾く。
「カカシ先生!」
心は即座に駆け寄り、倒れかけたカカシを支えた。
「大丈夫ですか!?」
サクラが駆け寄る。
「大丈夫……と言いたいところだけどね。写輪眼を長時間使いすぎた。チャクラもかなり消耗している」
カカシは苦笑した。
「少し休ませてもらうよ……」
そう言い終えると、カカシは意識を失った。
「先生!」
ナルトが慌てて声を上げる。
「落ち着け。呼吸はある」
心はカカシの状態を確かめた。
「今は休ませるのが先だ。サスケ、周囲を警戒してくれ。ナルトはタズナさんのそばに。サクラは先生の荷物を確認してくれ」
「分かった」
「おう!」
「分かったわ!」
心はカカシを背負い、仲間たちとタズナを守りながら歩き出した。
* * *
タズナの家に到着してからも、カカシはしばらく目を覚まさなかった。
心は定期的に呼吸や顔色を確認し、仲間たちにも交代で周囲を警戒させた。