カカシ視点
波の国、タズナの家。
朝から庭先では、四人の下忍が修行に励んでいた。
うずまきナルトは何度も木登りに挑戦し、うちはサスケは黙々とチャクラの調整を繰り返している。春野サクラは持ち前の優れたチャクラコントロールを活かし、安定して木の幹を登れるようになっていた。
そして、その様子を見守っているのが、枢流陀心だ。
「ナルト、今のは足の裏にチャクラを流しすぎだ。成功した時の感覚を思い出してみろ」
「分かってるってばよ! もう一回!」
「サスケは、かなり安定してきたな。あとは途中で焦らないことだ」
「……分かっている」
「サクラはもう十分にできている。何度繰り返しても同じように登れるか、確かめておいてくれ」
「はい!」
四人の様子を少し離れた場所から眺めながら、はたけカカシは内心で唸っていた。
――さて、心には何を教えたものかな。
ナルトたちの修行方針は決まっている。
ナルトはチャクラコントロールの精度を高める必要がある。サスケも基礎をさらに磨けば、実戦での安定性が増すだろう。サクラはすでに木登りを成功させているため、反復練習で精度を高めればいい。
問題は、心だった。
カカシは昨日の戦いを思い返す。
心は再不斬の奇襲に素早く反応し、タズナたちを守りながら、ナルトとサスケがカカシを救出するための時間を稼いでいた。
あの判断力と反応速度は、単に身体能力が高いというだけでは説明しきれない。
さらに、心のチャクラコントロールは異常なほど精密だった。
ナルトやサスケに木登りを教える様子を見ても、相手の失敗した原因をすぐに見抜き、的確な助言を与えている。
教えるためには、自分自身が技術を深く理解していなければならない。
しかも心は、木登りも水面歩行も、すでに完璧に習得しているという。
「……本当に十二歳なのか、あいつは」
思わず呟いた。
もちろん、下忍の中にも優秀な者はいる。カカシ自身も幼い頃から才能を発揮していたし、うちはサスケも同年代では相当に優秀だ。
だが、心の場合は少し違う。
強いだけではなく、技術の精度が高い。状況判断にも優れ、仲間を指導する余裕まである。
そんな少年に、今の自分は何を教えられるだろうか。
本来なら、忍術の種類を増やすことも、体術を磨くことも、実戦経験を積ませることもできる。
しかし、カカシは心のチャクラコントロールを見て、安易に基礎訓練を課すのは時間の無駄になりかねないと感じていた。
――短期間で、あいつをさらに成長させる修行か。
考えれば考えるほど、答えが出なかった。
その時だった。
「カカシ先生。少し相談してもいいですか?」
心がナルトたちから離れ、こちらへ歩いてきた。
「ん? どうした?」
「先生が知っている水遁の忍術を、いくつか教えてもらえませんか。それと、チャクラの性質変化についても教えてほしいんです」
カカシは目を瞬かせた。
水遁の忍術。
そして、性質変化。
確かに、心が次の段階へ進むための選択肢としては悪くない。
しかし――。
「水遁の術を教えるのは構わないが、性質変化の修行となると話は別だぞ」
カカシは慎重に言葉を選んだ。
「チャクラの性質変化は、簡単に身につくものじゃない。自分のチャクラがどの性質に適しているのかを調べ、その性質を理解し、自在に変化させられるようにする。相応の時間が必要になる」
「はい。分かっています」
「今は再不斬が生きている可能性もある。俺もまだ本調子じゃない。そんな状況で、成果が出るまで時間のかかる修行に取り組むのは、効率がいいとは言い切れないな」
心は反論しなかった。
ただ、真っ直ぐにカカシを見つめていた。
その眼差しには、強くなりたいという意思があった。
自分のためだけではない。
仲間を守るために、今できることを増やしたい。
カカシは、その視線を受け止めながら考えを変えた。
――まあ、教えるだけなら損はないか。
性質変化の修行にどこまで時間を割くかは、本人の進み具合を見て判断すればいい。
それに、心がここまで真剣に頼んでいるのだ。
「……分かった。まずはチャクラの性質変化について教えよう。ただし、すぐに術が使えるようになるとは思うなよ」
「ありがとうございます、先生」
心の表情が、わずかに明るくなった。
「礼は成果が出てからでいい。まずは、俺が知っている水遁の術もいくつか教える。お前の得意な術だけにこだわる必要はないからな」
「はい!」
カカシは頷きながら、ふと別のことが気になった。
これほどのチャクラコントロールを持つ心が、今まで見せた技だけで全てなのだろうか。
昨日の戦いでも、心は驚くほど落ち着いていた。
まだ何か隠している技術があっても、不思議ではない。
カカシは少しだけ声の調子を変えた。
「ところで、心」
「はい?」
「お前、まだ俺たちに見せていない技があるんじゃないか?」
心の表情が、ほんの一瞬だけ固まった。
カカシはその反応を見逃さなかった。
「……やっぱりあるんだな」
「いえ、その……」
「隠すなとは言わない。ただ、俺はお前の担当上忍だ。お前がどんな技を使えるのか把握しておく必要がある。危険な技なら、なおさらだ」
普段の気の抜けた態度とは違う、上忍としての圧があった。
心は困ったように視線を逸らした。
――まいったな。やっぱり気づかれたか。
彼は、チャクラを使った独自の技術を長い間研究してきた。
それを、ここで全て話すつもりはなかった。
だが、カカシの言うことにも一理ある。
これから一緒に任務をこなす以上、最低限の情報を共有しておくべきだろう。
「……分かりました。ただ、まだ完成していない技もあります」
「それで構わない。見せてくれ」
心は小さく息を吐いた。
「では、少し離れていてください」
カカシは言われた通り、数歩後ろへ下がった。
心は静かに目を閉じる。
そして、自分の身体を包むように、チャクラを薄く広げた。
目立った印も、複雑な術式もない。
ただ、身体の表面に沿って、チャクラが途切れることなく維持されている。
カカシの目つきが変わった。
「……これは?」
心は目を開けた。
「俺が考えた、チャクラを身体の周囲にまとわせる技術です。名前をつけるなら……纏、でしょうか」
カカシは思わず心の身体を凝視した。
チャクラを身体にまとわせる術そのものは、忍の世界に存在する。
千鳥のようにチャクラを集中させる技術もあれば、忍術によって身体や武器にチャクラをまとわせることもできる。
しかし、心が今見せているものは、それらとは違った。
印を結んで術を発動しているわけではない。
特定の性質変化を使っている様子もない。
ただ、純粋なチャクラコントロールだけで、自分の身体の周囲にチャクラを維持しているのだ。
しかも、チャクラの流れが乱れていない。
「……お前、これをどうやって?」
「長い間、試行錯誤してきました。まだ完全に理論化できたわけじゃありませんが、チャクラを身体から放出するだけでなく、身体の周囲に維持することはできるんじゃないかと思ったんです」
カカシの額に、冷や汗が浮かんだ。
――待て。これを十二歳で?
忍術としてチャクラをまとわせるのとはわけが違う。
術の仕組みを使わず、チャクラコントロールだけで身体の周囲にチャクラを維持する。
それも、これほど自然に。
並の忍なら、発想することすら難しい。
「……ほかにもあるのか?」
カカシが尋ねると、心は少しだけ気まずそうな顔をした。
「もう一つあります。ただ、こちらはまだ安定していません」
「見せてくれ」
心は再び集中した。
今度は、身体の周囲に維持するチャクラの量を増やしていく。
先ほどよりも明らかに濃いチャクラが、心の身体を包み込む。
しかし、その流れは一定ではなかった。
一瞬、強くなったかと思えば、次の瞬間には薄くなる。心はそれを修正しながら、なんとか維持しようとしていた。
数秒後、チャクラの流れが乱れ、周囲にまとわせていたチャクラが散る。
心は息を吐いた。
「……これが、練です。纏で維持するチャクラの量を増やし、さらに強く保とうとしています。ただ、まだ安定して維持することができません」
カカシは、すぐには言葉を返せなかった。
目の前にいるのは、木ノ葉隠れの里に所属してからまだ日が浅い、十二歳の下忍だ。
それなのに、通常の忍術とは異なる方法でチャクラを制御し、独自の技術体系を組み立てようとしている。
しかも、完成していないとはいえ、チャクラの量を増やす段階にまで進んでいる。
「……心」
「はい」
「お前、自分がどれだけとんでもないことをしているのか、分かっているか?」
「……そこまでですか?」
「そこまでだ」
カカシは即答した。
「忍術によってチャクラをまとわせるのと、チャクラコントロールだけで身体の周囲に維持するのは、まったく別の話だ。お前がやっていることは、相当に難しい」
心は少し考え込んだ。
「俺は、チャクラの使い方を工夫すれば、できるんじゃないかと思っただけなんですが……」
「その『できるんじゃないか』を実際に形にできる忍が、どれだけいると思っているんだ」
カカシは思わず額を押さえた。
――参ったな。
心の修行について悩んでいたはずなのに、むしろ新しい悩みが増えてしまった。
この少年には、何を教えればいいのだろう。
いや、それ以前に、これから先、どこまで成長するつもりなのか。
カカシは心を見つめながら、深く息を吐いた。
「……分かった。水遁と性質変化の修行は、予定通り教えよう。ただし、纏と練については無理をするな。特に練は、チャクラの流れが乱れたらすぐに中断しろ」
「分かりました」
「それと、今後も新しい技を研究するなら、危険があるものは事前に相談してくれ。いいな?」
「はい、先生」
心が素直に頷いたので、カカシはようやく少しだけ安心した。
もっとも、これで心の実力を把握できたとは、とても言えなかったのだが。
水遁の修行と、チャクラの性質変化
「さて、話を戻そう。まずは水遁の術からだ」
カカシは気を取り直し、心を庭の少し開けた場所へ連れていった。
「お前が使っている水遁は、昨日の戦いで見せた術だけか?」
「ほかにもありますが、まだ使える水遁の種類を増やしたいと思っています。特に、攻撃だけでなく、防御や拘束に使える術も覚えたいです」
「なるほど。自分の戦い方を考えているわけか」
カカシは頷いた。
心が使用した水遁・渦流弾は、通常の水遁とは異なり、複数の水流を別々の軌道で動かす独自の術だった。攻撃にも、相手の進路を塞ぐことにも使える。
すでに独自の術を完成させている少年に、単純な攻撃術ばかり教えても意味は薄い。
「なら、まずは水遁・水陣壁だ。水を壁状に展開して、相手の攻撃を防ぐ術だな。水遁・水乱波のように、水を放出して相手を押し流す術も覚えておくといい」
カカシはそれぞれの術について、必要な印、チャクラの流し方、発動時の注意点を説明した。
「水遁・水陣壁は、ただ水を大量に出せばいいわけじゃない。攻撃が来る方向を見極めて、必要な位置に壁を作る。水乱波は水の勢いと方向が重要になる。威力ばかりを求めると、チャクラを無駄に消費するぞ」
「分かりました」
心は説明を聞きながら、細かな点まで頭に入れていく。
カカシは実際に術を披露し、心にも試させた。
最初の一度こそ、教わったばかりの術ということもあり、印の組み方や水の制御を確認しながらの発動だった。しかし、二度目、三度目と繰り返すうちに、心の動きは目に見えて洗練されていった。
――やっぱり、吸収が異常に早い。
カカシは内心で舌を巻いた。
単純に術の形を真似ているのではない。水の動きとチャクラの流れを観察し、仕組みを理解しようとしている。
もっとも、一度成功したからといって、すぐに実戦で自在に扱えるわけではない。カカシは、状況に応じて使い分けられるまで反復するよう念を押した。
「よし。水遁については、今教えた術を繰り返し練習しろ。次は本題の性質変化だ」
カカシは忍具袋から、一枚の薄い紙を取り出した。
「これはチャクラ感応紙だ。特殊な紙でな。チャクラを流し込むと、その性質に応じて変化する」
心は興味深そうに紙を見つめた。
「火の性質なら燃え、風なら切れ、雷ならしわが寄る。土なら崩れ、水なら濡れる。まずはこれで、お前のチャクラがどの性質に適しているのかを調べる」
カカシは五つの変化を説明した後、紙を心へ渡した。
「ただし、適性があるからといって、いきなりその性質を使った忍術ができるわけじゃない。性質変化には段階がある。まずは自分のチャクラの性質を理解し、変化させる感覚をつかむところからだ」
「具体的には、どういう修行をするんですか?」
「基本は反復練習だ。例えば風の性質なら、葉を使ってチャクラの変化を感じ取る方法がある。だが、今のお前には、まず適性を調べるのが先だな」
心は頷き、チャクラ感応紙を両手で持った。
そして、普段通りにチャクラを流し込む。
すると――。
紙が、じわりと濡れた。
「水……ですね」
「そうだ。お前は水の性質に適性がある」
カカシは頷いた。
「すでに水遁を使いこなしていることを考えれば、納得の結果だな。水の性質変化をさらに磨けば、今使っている術の精度を上げられる可能性もある」
心は濡れた紙を見つめた。
水遁の適性があること自体は予想の範囲内だった。
しかし、ここで彼の頭に、ある考えが浮かんだ。
――そういえば、緋の眼が発動している時は、身体能力もチャクラ量も大きく変化する。
ならば、チャクラの性質に対する適性にも変化が起こるのだろうか。
もちろん、まだ試したことはない。
心は顔を上げた。
「カカシ先生。もう一度、試してもいいですか?」
「構わないが、何をするつもりだ?」
「少し、気になることがあるんです」
カカシは疑問を抱きながらも、予備のチャクラ感応紙を一枚取り出した。
心は紙を受け取ると、静かに呼吸を整えた。
そして、緋の眼を解放する。
青かった瞳が、鮮烈な緋色へと変わった。
その瞬間、心を包む気配が変化した。
カカシは目を細めた。これまで何度か見てきた変化だが、やはり独特の迫力がある。
心は緋の眼を維持したまま、もう一度チャクラ感応紙にチャクラを流し込んだ。
すると――。
紙が燃え上がった。
同時に、紙の一部が鋭く裂け、別の部分には細かな皺が走った。さらに紙は崩れるようにぼろぼろになり、最後には水に濡れたように湿っていく。
一枚の紙に、五つの変化が現れた。
心は目を見開いた。
「……え?」
カカシも、しばらく言葉を失った。
「待て。今のは……」
火、風、雷、土、水。
五大基本性質のすべてに対応する変化が、一度に起きていた。
「心、今のをもう一度説明してくれ。チャクラ感応紙に何をした?」
「特別なことはしていません。緋の眼を発動させた状態で、普段と同じようにチャクラを流し込んだだけです」
「……五つすべてに適性があるというのか?」
カカシの声が低くなる。
通常、忍には生まれ持った得意なチャクラの性質がある。修行によってほかの性質を習得することも可能だが、五つすべてを自在に扱うのは容易ではない。
それが、まだ十二歳の少年に起きている。
しかも、通常時では水の性質しか確認できなかったのに、緋の眼を発動させた途端、五つすべての反応が現れたのだ。
心自身も、予想外の結果に驚いていた。
「……先生。これって、どういうことなんでしょうか?」
カカシはすぐには答えられなかった。
血継限界のように、複数の性質を組み合わせることで特殊な性質を生み出す例は存在する。しかし、五つの性質すべてへの適性が、特定の状態になった時だけ現れるという話は、少なくともカカシの知る限り、一般的なものではなかった。
ましてや、チャクラ感応紙の反応だけで、五つすべての性質変化を完全に使いこなせると判断することはできない。
「……今の結果だけでは、断定できないな」
カカシは慎重に答えた。
「ただ、緋の眼を発動させた時、お前のチャクラに何らかの変化が起きている可能性は高い。これが本当に五つすべての性質変化への適性を示しているのなら、かなり特殊な現象だ」
「やっぱり、そうですよね……」
心は自分の手を見つめた。
緋の眼は、単に身体能力とチャクラ量を増やすだけのものではないのかもしれない。
まだ知らない秘密が隠されている可能性がある。
しかし、今はまだ答えが出ない。
焦って結論を出すより、確かめられることを一つずつ調べるべきだろう。
カカシはチャクラ感応紙の残骸を見ながら、深く息を吐いた。
――この子は、本当に何を秘めているんだ……?
先ほど見せられた纏と練。
そして、緋の眼を発動させた時に起きた、五つの性質変化への反応。
心の才能は、カカシが最初に考えていた以上に未知数だった。
多重影分身という選択
一方、心は別のことを考え始めていた。
水遁の術を覚え、性質変化の修行を進める。
どちらも大切だが、問題は時間だった。
タズナの護衛を続けながら、ナルトたちの修行も手伝い、自分自身の訓練まで行うとなれば、一日にできることには限界がある。
――そういえば、原作のナルトは多重影分身を使って修行していたな。
心は前世の記憶を思い出した。
多重影分身の大きな利点は、分身が消えた時に、分身が得た経験や情報が術者に戻ることだ。
分身が修行で得た経験も、本体に反映される。
もちろん、分身の数を増やせば消費するチャクラも増え、解除した時には疲労もまとめて押し寄せる。使い方を誤れば危険な術だ。
しかし、心のチャクラ量なら、ある程度の数を維持できる可能性がある。
「……試してみる価値はあるな」
「何か思いついたのか?」
カカシが尋ねた。
「はい。多重影分身を使って、修行を並行して進めようと思います」
「多重影分身だと?」
カカシは眉を上げた。
「お前はあの術を使えるのか?」
「はい。禁術の巻物を読んだ時に覚えました。ただ、あまり大勢を出して使ったことはありません」
カカシは心の言葉を聞いて、再び額に手を当てた。
――まだ何か出てくるのか……。
だが、今度は止めなかった。
心のチャクラ量が十分にあり、無理をしない範囲で使うのなら、複数の課題を同時に進められる可能性はある。
ただし、分身の数を増やせば増やすほど消費も大きくなる。タズナの護衛を疎かにしたり、本人が倒れたりしては意味がない。
「やるなら、最初は少ない数から試せ。チャクラの消費量と、解除した時の疲労を確認するんだ。多重影分身は便利だが、無制限に使える術じゃない」
「分かっています」
心は頷いた。
「それと、分身に任せる仕事も考えておけ。護衛に必要な判断ができるかどうか、確認せずに任せるわけにはいかないからな」
「はい。そこは慎重にやります」
心は修行場を見渡した。
ナルト、サスケ、サクラは、まだ木登りの練習を続けている。
自分が一人で彼らを指導しながら、同時に水遁や性質変化を修行するのは難しい。だが、影分身を使えば、その問題を解決できるかもしれない。
「では、まずは三人に修行を教える分身と、タズナさんたちの護衛を担当する分身を作ります。残りの分身は、自分の水遁と性質変化の修行に使うつもりです」
「……本当にやる気なんだな」
「せっかく教えてもらえる機会ですから。無駄にはしたくありません」
カカシは苦笑した。
「分かった。ただし、少しでも危険を感じたら中止しろ。修行のために任務を失敗させるわけにはいかないからな」
「はい、先生」
心は一礼すると、修行場の中央へ移動した。
そして、印を結ぶ。
「多重影分身の術!」
煙が次々と立ち上り、心と同じ姿をした分身たちが現れた。
一人、二人、三人……。
最初は十人ほど。
心は自分のチャクラの状態を確かめながら、無理のない範囲で分身を増やしていった。
ナルトたちの指導を担当する分身。
タズナたちの護衛を担当する分身。
そして、水遁の術と性質変化の修行を担当する分身たち。
それぞれが役割を確認すると、すぐに動き始めた。
ナルトたちのもとへ向かった分身は、先ほどまで心がしていたのと同じように、三人の動きを観察して助言を始める。
護衛を担当する分身は、家の周囲を確認し、タズナたちの安全を確保するために動いた。
残りの分身たちは、修行場の別々の場所に散らばり、水遁の術を練習したり、チャクラの性質変化について試行錯誤したりし始めた。
本体である心は、その様子を確認してから、改めてチャクラ感応紙を手に取った。
「まずは、通常時の水の性質変化をもっと理解する。それから、緋の眼を発動させた状態での変化を確かめていこう」
心はそう呟き、修行を始めた。
カカシは、その光景を見つめながら、もはや驚くのにも疲れたという顔をしていた。
「……俺が寝込んでいる間に、どれだけ成長するつもりなんだか」
もっとも、心が何十人もの分身を出して修行を始めたからといって、すべてが一瞬で身につくわけではない。
分身の経験が本体に戻っても、得られた情報を整理し、理解し、実際の技術として定着させる必要がある。
それでも、時間を有効に使えることは間違いなかった。
そして、心自身もまだ知らない。
緋色の瞳が秘める力が、これからの修行を通じて、さらに大きな意味を持つことになるのを。
今はただ、目の前に現れた可能性を確かめるために、彼は一歩ずつ修行を積み重ねていくのだった。