◇心視点◇
中忍試験当日。
俺たち第七班の四人は、渡された用紙に記された場所を目指して、木ノ葉の里を歩いていた。
「いよいよ中忍試験だってばよ!」
ナルトは朝から元気いっぱいだった。
「ナルト、まだ会場に着いてもいないんだから、少し静かにしなさいよ」
「なんだよ、サクラちゃん! こういう日は気合いが大事なんだってばよ!」
「気合いだけで合格できるなら、誰も苦労しないわよ」
「なにぃ!?」
いつものように言い合いを始める二人。
その隣では、サスケが呆れた顔をしていた。
俺はそんな三人を眺めながら、ここまでの修行を振り返っていた。
以前の俺は、未来を変えなければならないという焦りから、無理を重ねていた。
だが、カカシ先生や仲間たちと話したことで、少し考え方が変わった。
俺一人ですべてを背負う必要はない。
それに、無理をして倒れてしまえば、守れるものも守れなくなる。
だからこそ、最近は焦って修行の種類を増やすのではなく、一つひとつの技術を確実に完成させることを優先していた。
その成果は、確実に現れている。
まずは水の性質変化。
以前から得意だった水遁だが、今では性質変化そのものを、ほぼ完璧に制御できるようになっていた。
試しに性質変化させた水を大岩にぶつければ、岩を粉々に砕けるほどの威力が出る。
もちろん、普通の水遁がすべて同じ威力になるわけではない。術の規模や水量、形状によって結果は変わる。
それでも、性質変化の精度が上がったことで、水遁の術全般の威力と精度は大きく向上した。
以前から使っていた水遁・渦流弾も、以前とは比べものにならない。
回転する水流の勢いを細かく調整し、軌道を変えながら複数方向から攻撃する。水流を分裂させるタイミングも自在に操れるようになった。
水遁・水陣壁や水乱波も同様だ。
ただ水を生み出して操るのではなく、性質変化によって水そのものの攻撃力を高められるようになったのは、大きな進歩だった。
そして、水の修行に一区切りつけた俺は、雷の性質変化にも本格的に取り組んでいた。
最初は静電気のような小さな火花しか出せなかったが、今では相手の身体を痺れさせ、一時的に動きを止められる程度の雷を生み出せるようになった。
まだ気絶させられるほどではないし、威力も安定していない。
それでも、以前と比べれば大きな前進だ。
練と凝については、すでに完全に習得している。
一方、堅はまだ発展途上だ。練で高めたチャクラを纏で維持し続ける感覚は掴めてきたが、状況に応じて効率よく使い分けるには、もう少し訓練が必要だった。
それでも、以前のように何十体もの影分身を使い、限界まで自分を追い込むような修行はしていない。
必要な休息を取り、仲間との訓練も続ける。
その方が、結果的に成長が早いこともわかってきた。
「心、何をぼーっとしてるんだってばよ?」
ナルトの声で、俺は意識を戻した。
「いや、最近の修行を振り返ってただけだよ」
「ふーん。オレだって、かなり強くなったんだぜ!」
ナルトは自信満々に胸を張った。
実際、ナルトも大きく成長している。
水面歩行は、すでに完璧に習得していた。
以前は水面に立つだけでも苦労していたが、今では水の上を歩きながら体術の訓練を行えるほどだ。
体術も着実に上達している。
さらに、瞬身の術も練習を重ね、まだ少しぎこちなさは残るものの、実戦で使える形になりつつあった。
瞬間的な移動の際に身体の動きが大きくなりやすいのが課題だが、ナルトの持ち前の体力と発想力があれば、今後も伸びていくだろう。
「オレだって、負けてない」
サスケが静かに口を開いた。
サスケも水面歩行を習得し、体術と忍術の両方で成長している。
特に瞬身の術については、驚くほど早く自分のものにしていた。
白との戦いでは、無意識のうちに木登り修行で身につけたチャクラ制御を応用し、瞬間的な移動を行っていた。
あのときは極限状態での反応だったが、今では技術として再現できる。
やはり、天才と呼ばれるだけのことはある。
「サクラも、かなり上達したよね」
俺がそう言うと、サクラは少し照れたように頬を緩めた。
「本当? 自分では、まだまだだと思ってるんだけど……」
「いや、十分成長してるよ」
サクラは元々、チャクラコントロールの才能に恵まれていた。
その長所を活かして体術の基礎を鍛え、必要な部位にチャクラを集中させる身体強化にも取り組んでいる。
今では、ぎこちなさは残るものの、チャクラ制御だけで身体能力を引き上げる動きがかなり様になってきた。
無駄な力を使わず、必要な瞬間に必要な力を出す。
この技術をさらに磨いていけば、いずれは原作で見たような、桁外れの怪力を身につけることも夢ではないだろう。
サクラが怪力女と呼ばれる日も、そう遠くないかもしれない。
ただし、本人にはまだ言わないでおこう。
きっと怒られる。
そして、三人にはもう一つ、教えていることがあった。
それは、チャクラを身体の表面にまとわせ、維持する技術――俺が前世の知識を参考にして、纏と呼んでいるものだ。
もちろん、これは念能力ではない。
この世界のチャクラを使って、身体を覆うように維持する訓練だ。
ナルトとサスケは、まだチャクラを身体の外へ出したあと、その状態を安定して維持することができない。
外へ放出すること自体はできても、すぐに散ってしまったり、制御が乱れたりする。
一方、サクラはぎこちないながらも、身体の表面にチャクラをまとわせることに成功していた。
「サクラは、纏の感覚を掴むのが早いね」
「えへへ。チャクラコントロールなら、二人に負けないもの」
サクラは嬉しそうに笑った。
「くっ……! 次こそオレだって成功させてやるってばよ!」
「俺もだ」
ナルトとサスケが対抗心を燃やす。
俺は苦笑した。
こうして互いに競い合いながら成長できるのは、いいことだ。
「ほら、もうすぐ着くよ」
俺が前方を指すと、三人もそちらへ視線を向けた。
指定された建物が見えてきた。
いよいよ、中忍試験の会場だ。
◇幻術の罠◇
会場のある建物へ近づいた瞬間、俺は足を止めそうになった。
……なるほど。
入口へ続く階段の先に、微かな違和感がある。
周囲の景色そのものではなく、空間の認識に干渉するようなチャクラの流れ。
幻術だ。
正確には、階段の先にある場所を別の階に見せかける類いの幻術だろう。
原作でも、ここでは受験者を試すために幻術が仕掛けられていた。
俺は隣を歩くサクラをちらりと見た。
すると、サクラもこちらに気づき、小さく頷いた。
やはり気づいていたか。
サクラは元々、チャクラコントロールに優れている。その才能に加えて、俺たちとの修行で観察力も磨かれてきた。
幻術を見破るための経験はまだ多くないはずだが、少なくとも、目の前の違和感を見逃さなかった。
「どうしたんだってばよ?」
ナルトが不思議そうに尋ねる。
「何でもないよ」
俺は何気ない調子で答えた。
「ただ、ちょっと気になることがあってね」
そのとき、入口の近くから大きな声が聞こえてきた。
「おい、何のつもりだ!」
見ると、額当てをつけた二人の忍びが、別の三人組と言い争っていた。
……ああ、あの二人か。
確か、受験者を試すために幻術を仕掛けていた中忍だったはずだ。
しかし、名前が出てこない。
原作では何度か登場したはずなのだが、細かい名前までは覚えていなかった。
俺が記憶を探っている間にも、言い争いは続いていた。
「ここは二階だと言っているだろう!」
「何を言っている。ここは三階だ!」
揉めている三人組のうち、額に木ノ葉の額当てをつけた少年が、鋭い目で二人を見据えていた。
濃い緑色の忍装束に、特徴的な髪型。
ロック・リーだ。
その後ろには、テンテンと日向ネジがいる。
リーは二人の中忍を見て、明らかに不審そうな顔をしていた。
「あなたたちは、何か隠しているのではありませんか?」
「な、何だと!?」
二人の中忍が声を荒らげる。
「我々は正しい案内をしているだけだ!」
「そうだ! 文句があるなら、実力で確かめてみるか!?」
……まずい。
この流れは、原作で見た展開そのものだ。
このまま行けば、リーがサスケに勝負を挑み、さらにあの濃すぎる先生まで登場することになる。
漫画で読んでいたときは面白かった。
だが、実際に自分がその場にいるとなると、話は別だ。
正直、面倒くさい。
リーの熱血ぶりは嫌いではない。むしろ、努力を積み重ねる姿勢には好感を持っている。
だが、あの独特の青春の空気に巻き込まれるのは遠慮したい。
しかも、今は中忍試験の初日だ。
余計な騒動を起こす理由はない。
「みんな」
俺は声を潜めた。
「ここは巻き込まれる前に通り過ぎよう」
「え? でも、あの人たち、何か揉めてるみたいだけど……」
サクラが心配そうに言う。
「大丈夫。あれは受験者を試すための幻術だよ。放っておいても問題ない」
サクラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得したように頷いた。
「やっぱり幻術だったのね」
「おい、心。何でそんなことがわかるんだってばよ?」
「あとで説明するよ。今は静かに」
俺は気配を抑えた。
三人も俺の意図を察し、口を閉じる。
「気配を消して、さっさと行こう」
「……わかった」
サスケが小さく答える。
ナルトは少し不満そうだったが、今回は素直に従った。
俺たちは騒ぎの脇を通り抜け、建物の入口へと向かった。
背後では、まだリーたちと二人の中忍が言い争っている。
そして――。
「待ちなさい!」
リーの声が聞こえた。
俺たちは足を止めず、そのまま歩き続けた。
……頼むから、こっちに来ないでくれ。
俺は心の中でそう願った。
しかし、俺たち四人が立ち去る背中を、リーがじっと見つめていたことには気づかなかった。
彼の瞳には、特に俺とサスケの姿が強く焼きついていた。
「……あの二人」
リーは静かに呟いた。
「ただ者ではありませんね」
隣にいたテンテンが、呆れたようにため息をつく。
「ちょっとリー。まさか、また誰かに勝負を挑むつもり?」
「いえ!」
リーは勢いよく顔を上げた。
「今は試験に集中します!」
その言葉が本心なのか、それとも次の勝負を考えているのか。
テンテンには、判断がつかなかった。
一方、俺たち四人は、何事もなかったかのように会場の中へと進んでいった。
少なくとも、この時点では。
中忍試験は、まだ始まったばかりだった。