クルタ族転生   作:ryyonn

33 / 62
逃れられない熱血青春

 

 

 ――暑い青春からは、逃れることができなかった。

 

 心は、目の前の光景を見て深く後悔していた。

 

 中忍試験の会場へ向かう途中、心たち第七班の四人は、訓練場のような広場を横切っていた。

 

 周囲には試験を受けに来た忍たちがちらほらと見える。あまり長居する必要もない。さっさと試験会場へ向かおう。

 

 心がそう考えていた、その時だった。

 

「待ってましたよぉぉぉっ!」

 

 聞き覚えのある、やたらと熱のこもった声が響き渡った。

 

 四人が振り向く。

 

 そこにいたのは、黒いボディスーツにオレンジ色のゲートル、そして特徴的なおかっぱ頭の少年だった。

 

 ロック・リー。

 

 心は思わず天を仰ぎたくなった。

 

(マジかよ……。あの場面を避けたと思ったら、結局こっちで捕まるのかよ)

 

 先ほどの建物の入口では、幻術を見破ってさっさと立ち去った。リーに見つかっていたことには気づいていたが、まさか広場で待ち伏せされているとは思わなかった。

 

 いや、原作を知っているなら、むしろ予想すべきだったのかもしれない。

 

 心が内心で盛大にため息をついていると、リーはまっすぐサスケの前へ進み出た。

 

「うちはサスケ君! そして、心君!」

 

 二人を交互に見つめ、リーは目を輝かせた。

 

「お二人のことは、以前からよく知っています! サスケ君の写輪眼、そして心君の優れた実力! ぜひとも、この目で確かめたいと思っていたのです!」

 

「……なんだ、お前」

 

 サスケは露骨に面倒そうな顔をした。

 

 リーはそんな反応など気にも留めず、さらに熱弁を続ける。

 

「あなた方二人には、並々ならぬものを感じます! 特にサスケ君、あなたの実力をぜひこの場で確かめさせていただきたい!」

 

「うるさい。興味ない」

 

「そうですか! では、ぜひ興味を持っていただけるよう、全力でお相手しましょう!」

 

「人の話を聞け」

 

 心は二人のやり取りを眺めながら、内心でため息をついた。

 

(できれば、ここで関わらずに通り過ぎたかったんだけどな……)

 

 リーの熱意は本物だ。努力家であることも知っている。忍術や幻術の才能に恵まれなかった分、体術をひたすら鍛え上げた男。

 

 そこは素直に尊敬できる。

 

 ただし、今は関わりたくなかった。

 

 心がそんなことを考えていると、リーの視線がふいにサクラへと移った。

 

 そして――。

 

「……!」

 

 リーの動きが止まった。

 

 目を見開き、頬を赤く染める。

 

「な、なんということでしょう……!」

 

「え?」

 

 サクラが怪訝そうに首を傾げた。

 

 リーは胸の前で両手を握りしめ、感極まった様子で叫んだ。

 

「あなたのように美しい方が、この世にいらっしゃったとは! まさに運命! これこそ青春の奇跡です!」

 

「……は?」

 

 サクラの顔から表情が消えた。

 

 リーは構わず一歩踏み出す。

 

「サクラさん! どうか、僕とお付き合いしてください!」

 

「お断りよ」

 

 即答だった。

 

 だが、リーは折れない。

 

「その凛としたお返事も素晴らしい! しかし、僕は諦めません! あなたが振り向いてくださるまで、この熱い思いを――」

 

「だから、嫌だって言ってるでしょ!」

 

 サクラは明らかに嫌そうな顔をしていた。

 

 ナルトはぽかんと口を開け、サスケは興味を失ったように視線を逸らしている。

 

 心はというと、すでに精神的な疲労を感じ始めていた。

 

(サスケに勝負を挑むだけならまだいい。なんでサクラまで巻き込むんだよ……)

 

 しかも、ここから先の展開まで覚えている。

 

 嫌な予感しかしなかった。

 

「サクラさん! 僕の気持ちを受け取ってください!」

 

 リーは両手を広げ、爽やかな笑顔を浮かべた。

 

 そして、唇をすぼめる。

 

「ん~~~~っ、チュッ!」

 

 投げキッスが飛んだ。

 

「ひぃっ!?」

 

 サクラは戦慄に凍りついた表情で身をよじり、紙一重でそれを避けた。

 

「な、何すんのよ、この変な人ぉぉぉっ!」

 

「おおっ! 見事な反応速度! さすがです、サクラさん!」

 

「褒めてないでやめなさいよ!」

 

 再び飛んでくる投げキッス。

 

 サクラは必死の形相で避ける。

 

 右へ、左へ、時には身を屈めて。

 

 その姿は、もはや忍の修行というより、奇妙な攻撃を回避する訓練だった。

 

 心は片手で顔を覆った。

 

(勘弁してくれ……)

 

 原作通り。

 

 あまりにも原作通りだった。

 

 いや、サクラの体術が以前より成長している分、投げキッスを避ける動きだけは妙に洗練されている気がする。

 

 そんなことに気づいてしまった自分が嫌だった。

 

「おい、リーとか言ったな!」

 

 とうとうナルトが我慢できなくなった。

 

「サクラちゃんが嫌がってるだろ! いい加減にしろってばよ!」

 

 ナルトが前へ出ようとする。

 

 だが、その肩をサスケが押さえた。

 

「お前は下がってろ」

 

「なっ、なんだよ、サスケ!」

 

「俺がやる」

 

 サスケがリーを睨みつけた。

 

 その瞳には、明確な対抗心が宿っている。

 

 リーは投げキッスをやめ、サスケへと向き直った。

 

「どうやら、ようやく相手をしていただけるようですね」

 

「さっさとかかってこい」

 

「いいでしょう!」

 

 リーは構えを取った。

 

 次の瞬間、二人の姿が動いた。

 

 最初に仕掛けたのはサスケだった。

 

 踏み込みからの鋭い蹴り。

 

 リーは腕で受け流す。サスケはその動きを読んで、続けざまに拳を繰り出した。

 

 リーは半歩退いて回避し、反撃の蹴りを放つ。

 

 サスケは身を捻ってかわし、地面を蹴って距離を詰めた。

 

 速い。

 

 以前のサスケなら、ここまで滑らかに攻撃を繋げることはできなかっただろう。

 

 波の国での戦いを経て、サスケの体術は大きく成長していた。

 

 水面歩行や木登りで培った精密なチャクラコントロール。それを戦闘中の足運びや瞬発力に応用し、さらに瞬身の術まで身につけたことで、動きの鋭さが増している。

 

 ハクとの死闘で写輪眼を開眼したことも、相手の動きを捉える力を底上げしていた。

 

 もっとも、写輪眼はまだ一つ巴。

 

 すべての動きを見切れるわけではない。

 

「やるじゃないか、サスケ!」

 

 ナルトが興奮した声を上げる。

 

 サクラも投げキッスの脅威から解放されたこともあって、二人の戦いに目を向けていた。

 

 心は黙って観察していた。

 

(サスケ、かなり伸びたな)

 

 体術の基礎だけなら、すでに同年代の忍の中でも相当な水準に達している。

 

 だが、相手はロック・リーだ。

 

 忍術や幻術に頼らず、体術だけを徹底的に磨き上げた少年。

 

 その差は、戦いが進むにつれて明らかになっていった。

 

 サスケの拳がリーの頬をかすめる。

 

 リーは頭をわずかに傾けてかわし、そのままサスケの懐へ潜り込んだ。

 

「なっ……!」

 

 サスケが反応するよりも早く、リーの足が地面を蹴る。

 

 低い位置からの蹴りがサスケの体勢を崩し、続く攻撃がその隙を狙った。

 

 サスケは腕を交差して防御するが、衝撃で数歩後退する。

 

 リーは追撃を止めなかった。

 

 拳、蹴り、踏み込み。

 

 無駄のない連撃がサスケを追い詰めていく。

 

「くっ……!」

 

 サスケは歯を食いしばり、攻撃を受け流しながら反撃の機会を探す。

 

 それでも、リーの動きは速かった。

 

 やがて、リーの蹴りがサスケを捉え、彼の体が宙へと浮いた。

 

「サスケ!」

 

 ナルトが叫ぶ。

 

 リーはそのまま跳躍し、サスケの背後へ回り込む。

 

 サスケの体を捕らえ、地面へ叩きつけようとした――その瞬間。

 

「そこまでだ!」

 

 鋭い声が響き渡った。

 

 リーの動きが止まる。

 

 サスケの体を地面へ叩きつける寸前、リーは苦しげに歯を食いしばりながら、攻撃を中断した。

 

 心は小さく息を吐いた。

 

(危なかったな)

 

 リーが使おうとしていたのは、表蓮華。

 

 相手を空中で拘束し、回転しながら地面へ叩きつける高威力の体術だ。

 

 サスケを空中へ蹴り上げるために使ったのは、影舞葉。

 

 リーは影舞葉で相手の背後を取り、表蓮華へと繋げようとしていたのだ。

 

 このまま続いていれば、サスケは大きなダメージを負っていた可能性が高い。

 

 もちろん、原作通りの展開だった。

 

 ただし、サスケの成長を考えれば、リーも決して余裕だったわけではない。

 

 サスケは地面に降ろされると、すぐに体勢を立て直した。

 

 悔しそうに唇を噛み、リーを睨みつける。

 

「……まだだ」

 

「サスケ、もういい!」

 

 ナルトが声を上げた。

 

 だが、サスケは納得していない様子だった。

 

「うるさい。まだ終わってない」

 

「お前なぁ!」

 

「そこまでだと言っている!」

 

 再び響いた声に、全員が振り向いた。

 

 そこには、緑色のボディスーツを着た大柄な男が立っていた。

 

 太い眉に、特徴的な髪型。

 

 そして、全身から溢れ出す圧倒的な熱気。

 

「ガイ先生!」

 

 リーが姿勢を正し、勢いよく敬礼した。

 

「申し訳ありません! 僕はつい、青春の炎を燃やしすぎてしまいました!」

 

「リーよ! 若さゆえの情熱は素晴らしい! だが、時には自分を抑えることも必要だ!」

 

「はいっ!」

 

 二人は互いに親指を立て、白い歯を輝かせた。

 

 眩しい。

 

 とにかく眩しい。

 

 心は無言で視線を逸らした。

 

(暑苦しい……。予想していたけど、実物は想像以上だ)

 

 ナルトは目を丸くし、サクラはようやく解放されたとばかりに胸を撫で下ろしている。

 

 サスケは不満そうに顔を背けていた。

 

 ガイはそんな教え子を一瞥した後、ナルトたちへと向き直った。

 

「君たち、うちのリーが迷惑をかけたようだな。すまない!」

 

「い、いえ……」

 

 サクラは引きつった笑顔で答えた。

 

 その顔には、先ほどの投げキッスの恐怖がまだ残っていた。

 

 ガイは豪快に笑い、次の瞬間、拳を握りしめた。

 

「しかし! 君たちもなかなかの実力者のようだ! 特にサスケ君! そして心君!」

 

 ガイの視線が心へ向く。

 

「君のことも、ぜひ覚えておきたい!」

 

 心は曖昧に笑った。

 

「……どうも」

 

 できれば、これ以上目をつけられたくない。

 

 心の本音は、もちろん口には出さなかった。

 

 その時だった。

 

 ガイの姿が消えた。

 

「えっ!?」

 

 ナルトが驚きの声を上げる。

 

 サクラもサスケも、一瞬何が起きたのかわからなかった。

 

 次の瞬間、ガイは四人の背後に立っていた。

 

 まるで、最初からそこにいたかのように。

 

「青春とは、出会いだ!」

 

 ガイは親指を立て、白い歯を輝かせた。

 

「君たちの未来に、熱い青春が訪れることを願っているぞ!」

 

 心以外の三人は、完全に言葉を失っていた。

 

 だが、心だけは違った。

 

 ガイが動き出した瞬間、その姿を目で追っていたのだ。

 

 もちろん、完全に見切れたわけではない。

 

 ただ、動き始めから移動の軌道、そして停止するまでの流れを、かろうじて捉えていた。

 

 ガイは四人の反応を確かめるように笑っていたが、ふと心へ視線を向けた。

 

「……ほう?」

 

 その目が、わずかに細められる。

 

「心君。今の私の動きを、見ていたのか?」

 

「ええ。完全に捉えられたわけではありませんが」

 

 心は正直に答えた。

 

「動き出しと、移動した方向くらいなら」

 

 ガイの表情が変わった。

 

 先ほどまでの豪快な笑顔はそのままに、瞳の奥に鋭い光が宿る。

 

「素晴らしい!」

 

 ガイは心の前へ歩み寄った。

 

「君はまだ若い。それでいて、あの動きを目で追えるとは! 日頃から相当な鍛錬を積んでいるのだろう!」

 

「まあ、それなりには」

 

「それなり、か!」

 

 ガイは大きく頷いた。

 

「謙遜もまた美徳! だが、若者よ! 鍛錬の成果は、決して嘘をつかない!」

 

(いや、謙遜というか、説明するのが面倒なだけなんだけどな……)

 

 心は心の中で呟いた。

 

 写輪眼のように動体視力そのものが強化されているわけではない。

 

 心が見ていたのは、鍛え上げた反応速度と観察力、そしてチャクラの流れを捉える感覚を総動員した結果だ。

 

 それでも、ガイの動きを完全に追えるほどではなかった。

 

 目の前の男は、体術の専門家だ。

 

 しかも、将来的には忍界でも指折りの体術使いとなる人物である。

 

 今の自分が簡単に勝てる相手ではない。

 

 ――だからこそ、心は余計なことを言わないようにした。

 

「心君!」

 

「はい?」

 

「いつか、ぜひ君とも手合わせを願いたい!」

 

「……機会があれば」

 

 心は笑顔で答えた。

 

 内心では、全力で機会が訪れないことを祈っていた。

 

 しかし、ガイはその返答を前向きに受け取ったらしい。

 

「よし! その日を楽しみにしているぞ!」

 

 再び親指が立てられる。

 

 隣ではリーも、目を輝かせていた。

 

「心君! 僕も、あなたとの手合わせを諦めてはいませんからね!」

 

「……そうか」

 

 心は遠い目をした。

 

 サスケは悔しさを隠そうともせず、拳を握りしめている。

 

 ナルトは、リーとガイの熱血ぶりに若干引きながらも、サスケの戦いを見て何かを感じ取ったようだった。

 

 サクラはというと、リーと目が合わないよう、心の背後へそっと移動していた。

 

「それでは、失礼する!」

 

 ガイはリーの肩を叩き、豪快に笑いながら去っていった。

 

「サクラさぁぁぁん! 僕はいつでもあなたのことを――」

 

「二度と投げキッスしないで!」

 

 サクラの怒声が広場に響く。

 

 リーは少しだけ肩を落としたが、すぐに顔を上げた。

 

「これも青春の試練……! 僕は決して諦めません!」

 

「諦めなさいよ!」

 

 サクラの叫びを背に、リーたちは遠ざかっていった。

 

 心は深く息を吐く。

 

(……やっと終わった)

 

 そう思ったのも束の間だった。

 

「心」

 

 サスケが声をかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「今のガイという男。お前には、どの程度の強さに見えた?」

 

 心は少し考えた。

 

「体術に関しては、相当なものだと思う。少なくとも、さっきのお前が正面から勝つのは難しいだろうな」

 

「……そうか」

 

 サスケは悔しそうに視線を落とした。

 

「だが」

 

 心は続けた。

 

「お前も、十分に強くなっている。今日負けたからといって、今までの努力が無駄になるわけじゃない」

 

「慰めはいらない」

 

「慰めじゃない。事実だよ」

 

 サスケは返事をしなかった。

 

 それでも、拳を握る力が少しだけ緩んだ。

 

 ナルトはそんな二人の会話を聞きながら、むっとした顔をする。

 

「なんだよ、二人とも! オレだって強くなるからな!」

 

「わかってるよ、ナルト」

 

 心は笑った。

 

「だからこそ、これからも鍛錬を続けるんだろ?」

 

「おう! 絶対にサスケにも負けねーってばよ!」

 

「ふん。口だけにならないようにしろ」

 

「なんだとー!」

 

 二人が言い合いを始める。

 

 サクラは呆れたようにため息をついた。

 

 心は三人を眺めながら、気持ちを切り替えた。

 

 リーとの遭遇は、予想していた展開だった。

 

 そして、ガイの動きもまた、今の自分にとって貴重な参考になった。

 

 中忍試験には、各国から優秀な忍が集まっている。

 

 サスケだけでなく、ナルトもサクラも、そして自分も、この試験を通して何かを得ることになるだろう。

 

 だが、心の脳裏には、別の光景も浮かんでいた。

 

 大蛇丸。

 

 我愛羅。

 

 そして、これから起こるはずの数々の事件。

 

 中忍試験は、ただの昇級試験ではない。

 

 木ノ葉の里にとって、極めて危険な転機となる。

 

(……気を引き締めないとな)

 

 心は歩き出した。

 

「ほら、行こう。試験に遅れるぞ」

 

「おう!」

 

「わかってるわよ」

 

「……ああ」

 

 四人は再び試験会場へと向かった。

 

 その背後では、少し離れた場所から、リーが心たちの姿を見つめていた。

 

 特に、心とサスケ。

 

 そして、ガイもまた、先ほどの心の反応を思い返していた。

 

 若い忍たちの中に、興味深い才能がいる。

 

 それも、一人ではない。

 

 中忍試験は、まだ始まったばかりだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。