中忍試験会場の前にたどり着いた心たち四人は、目の前にそびえる大きな門を見上げた。
「よーし! 行くってばよ!」
ナルトが勢いよく門を開ける。
その先に広がっていた光景に、ナルトは思わず足を止めた。
「……うわっ!」
そこには、大勢の忍たちが集まっていた。
額当ての意匠はさまざま。木ノ葉の忍だけではない。砂隠れ、音隠れ、雨隠れなど、各国から集まった下忍たちが、互いに牽制し合うように広場を埋め尽くしている。
殺気を隠そうともしない者。
仲間と談笑している者。
壁にもたれかかり、周囲を観察している者。
その誰もが、これから始まる試験を突破するために集まった忍たちだった。
「す、すげえ数だってばよ……」
ナルトは一瞬、圧倒されたように口を開けていた。
周囲の忍たちから向けられる視線。その中には、明らかに値踏みするようなものも混じっている。
しかし、次の瞬間。
ナルトはぐっと拳を握りしめた。
「お、おい! よく聞けってばよ!」
そして、会場中に響き渡る声で叫んだ。
「オレはうずまきナルトだ! この中の誰よりも強くなって、絶対に火影になってやるからな!」
――静寂。
あまりにも堂々とした宣言に、周囲の忍たちが一斉にナルトへ視線を向けた。
心は額に手を当てた。
(始まった……)
サスケは呆れたように目を細め、サクラは恥ずかしそうに顔を覆う。
「ちょっとナルト! こんなところで大声を出さないでよ!」
「なんだよ! 火影になるって宣言して何が悪いんだってばよ!」
「そういう問題じゃないの!」
そんな二人のやり取りを見て、心は小さくため息をついた。
「……おい。大きい声出すんじゃねぇよ。めんどくせえ」
横から、気の抜けた声が飛んできた。
振り向くと、両手を頭の後ろで組み、いかにも面倒そうな顔をした少年が立っていた。
奈良シカマルだ。
「なんだとぉ!?」
ナルトが噛みつこうとする。
しかし、シカマルはまったく気にしていなかった。
「こんだけ人がいるんだぞ。わざわざ全員に自分の名前を知らせる必要なんてねえだろ」
「オレは火影になる男だ! 名前くらい覚えてもらわなくちゃ困るってばよ!」
「はいはい。すごいすごい」
「お前、絶対バカにしてるだろ!」
「めんどくせえ……」
シカマルは深いため息をついた。
その隣から、犬を連れた少年が顔を出す。
「おい、ナルト! 相変わらずうるせえな!」
「キバ!」
犬塚キバだった。
足元には相棒の赤丸がいる。
「お前、試験前から目立ちすぎだろ!」
「うるせえ! お前だって声がでけえじゃねえか!」
「なんだと!」
「やんのか!」
「はいはい、二人ともそこまで」
明るい声で割って入ったのは、山中いのだった。
そして、いのはナルトたちを一瞥した直後、心の姿を見つける。
「心!」
ぱっと顔を輝かせたかと思うと、迷いなく駆け寄ってきた。
「会いたかった!」
「うわっ」
心が反応するよりも早く、いのは背後からぎゅっと抱きついた。
「ちょ、いの……!」
「えへへ。やっと会えたんだから、これくらいいいでしょ?」
いのは心の背中に頬を寄せ、満面の笑みを浮かべている。
その様子を見たシカマルは、露骨に呆れた顔をした。
「お前も相変わらずだな、いの……」
「何か言った?」
「いや。別に」
シカマルは即座に視線を逸らした。
心は困ったように笑う。
「いの、みんな見てるから……」
「いいじゃない。見せつけてるんだから」
「堂々と言うなよ……」
「だって、心は格好いいんだもん」
いのは悪びれもせずに言い切った。
心は、どう反応すればいいのかわからなくなった。
そんな二人を見ていたサクラが、じとっとした目を向ける。
「……相変わらずね、いの」
「何よ、サクラ。羨ましいの?」
「誰が羨ましがるのよ!」
「はいはい。そういうことにしておいてあげる」
「いのぉ!」
いつもの言い合いが始まりそうになったところで、別の少年が静かに口を開いた。
「……騒がしい」
油女シノだった。
シノの隣には、控えめに立つ少女がいる。
日向ヒナタである。
そして、いのの班のもう一人、秋道チョウジも、袋から取り出した菓子を食べながら周囲の様子を眺めていた。
これで、今年アカデミーを卒業した木ノ葉の新人下忍たちが、次々と顔を揃えたことになる。
心は周囲を見回した。
奈良シカマル、山中いの、秋道チョウジ。
犬塚キバ、油女シノ、日向ヒナタ。
そして、自分たち第七班の四人。
(同期は全員参加したんだな)
心は内心で頷いた。
原作通りなら、今年の新人下忍たちは全員が中忍試験を受ける。
こうして全員が集まっている姿を見ると、改めて感慨深いものがあった。
この中には、将来、木ノ葉を支える忍になる者もいる。
そして、これから起こる大きな事件に巻き込まれる者たちもいる。
心は、ふとヒナタへ目を向けた。
彼女は先ほどから、ちらちらとナルトの方を見ていた。
「あ、あの……ナ、ナルト君……」
小さな声で呟く。
ナルトはキバと口喧嘩をしていて、まったく気づいていない。
「えっと……その……」
ヒナタは両手を胸の前で握りしめ、顔を真っ赤にしていた。
一歩踏み出そうとしては止まり、何かを言おうとしては俯く。
どう見ても、ナルトに声をかけようとしている。
だが、なかなか勇気が出ないようだった。
その様子を見ていたいのは、ふと動きを止めた。
ヒナタの視線の先。
そこにいるのは、うずまきナルト。
いのは一瞬目を丸くし、それから何かに気づいたように口元を緩めた。
(あれ……もしかして、ヒナタの好きな人って……)
ヒナタがナルトを見るたびに顔を赤くしていること。
話しかけようとして、何度も躊躇していること。
そして、ナルト本人はそんな気持ちにまったく気づいていないこと。
いのには、それだけで十分だった。
(へえ……そういうこと)
いのは少しだけ微笑ましそうにヒナタを見つめた。
その時だった。
「みんな、ちょっといいかな?」
聞き慣れない声がした。
振り向くと、眼鏡をかけた少年が立っていた。
穏やかな顔立ちで、柔らかな笑みを浮かべている。
額当てを身につけた彼は、周囲の新人下忍たちを見回した。
「僕は薬師カブト。よろしくね」
心は内心で目を細めた。
(来たか、カブト)
表向きは木ノ葉の先輩下忍。
だが、その正体は大蛇丸の配下であり、長年にわたって情報収集を行ってきた忍だ。
もちろん、心はそれを知っている。
しかし、ナルトたちは違う。
「カブト? 誰だ、お前?」
ナルトが率直に尋ねた。
「僕は木ノ葉の下忍だよ。今回の試験には何度か参加しているんだ」
「何度も!?」
ナルトが驚く。
カブトは苦笑した。
「うん。今回で七回目かな」
「な、七回目!? そんなに受けてんのかよ!」
「まあ、いろいろあってね」
カブトは肩をすくめた。
「でも、何度か受けているから、君たちに教えられることもあると思うよ」
彼は忍具入れから何枚かのカードを取り出した。
「僕は忍びカードを集めていてね。各国の忍の情報を、ある程度まとめているんだ。知りたい相手がいるなら、わかる範囲で教えられるよ」
「忍びカード?」
ナルトが首を傾げた。
「そう。僕が知っている忍の情報を、チャクラを使って確認できるんだ。名前や所属、過去の任務など、わかる範囲で調べられる」
カブトはカードを指先で軽く弾いた。
「中忍試験には、実力のある忍が大勢参加している。相手を知っておくのは、悪いことじゃない」
シカマルが感心したように顎へ手を当てた。
「へえ。そりゃ便利だな」
「ただし、万能じゃないよ。僕が知らない情報までは出てこないからね」
カブトはそう言って、いくつかのカードを見せた。
ナルトは興味津々で覗き込み、キバも隣から顔を出す。
サスケは腕を組み、あまり関心がなさそうにしていた。
心は穏やかな表情で、カブトの説明を聞いていた。
「そういえば、君たちの中には、砂隠れの我愛羅君を見かけた人もいるんじゃないかな?」
カブトがカードを一枚取り出した。
「彼はかなり危険な忍だよ。過去の任務記録を見ても、普通の下忍とは思えないほどの実績がある」
サスケの目がわずかに細くなる。
心はカブトの説明を聞きながら、頭の中で原作の記憶を整理していた。
この場面の後、カブトは音隠れの忍たちに絡まれる。
そして――。
「おい、眼鏡」
低い声が響いた。
振り向くと、音隠れの額当てをつけた忍たちが立っていた。
その一人が、カブトを睨みつけている。
「さっきからペラペラと、余計なことを喋ってんじゃねえぞ」
カブトは困ったように笑った。
「おや、何か気に障ることでも言ったかな?」
「黙れ!」
音隠れの忍が一歩踏み込んだ。
次の瞬間、彼の腕が動いた。
鋭い音が響く。
カブトの眼鏡が弾き飛ばされ、彼の体がよろめいた。
「なっ……!」
ナルトが目を見開く。
カブトは顔をしかめ、片手で耳の辺りを押さえた。
「……まいったな。耳をやられたか」
音隠れの忍は鼻を鳴らした。
「次に余計な口を開いたら、今度はもっと痛い目に遭わせてやる」
彼らはそう言い残し、立ち去っていった。
周囲の空気が張り詰める。
ナルトは怒りを露わにしていた。
「なんだよ、あいつら! いきなり殴るなんて、卑怯だってばよ!」
「ナルト、落ち着け」
心が静かに声をかけた。
「ここで騒いでも、状況はよくならない」
「でもよ!」
「カブトさんの怪我を確認するのが先だ」
ナルトは悔しそうに唇を噛んだが、ひとまず口を閉じた。
カブトは眼鏡を拾い上げ、苦笑する。
「ありがとう。大丈夫だよ。少し耳を傷めただけだから」
そう言いながらも、彼の顔色は優れなかった。
心は、その姿を静かに見つめる。
(これも原作通り、か)
カブトは情報を集めるため、試験に何度も参加している。
そして、今回もまた、自分の役割を演じているのだろう。
心は余計なことを言わず、会場の奥へ視線を向けた。
すると、前方から威圧感のある声が響いた。
「――静かにしろ!」
ざわついていた会場が、一瞬で静まり返る。
そこに立っていたのは、鋭い目つきの男だった。
顔には大きな傷があり、額には木ノ葉の額当てを巻いている。
中忍試験第一試験の試験官、森乃イビキだ。
「これより、中忍選抜試験第一試験を開始する!」
イビキの声が、会場全体へ響き渡る。
「受験者は、指定された席に着け!」
忍たちは一斉に動き出した。
心たちも、案内された教室へと向かう。
そこには長机が整然と並び、前方には試験官たちが立っていた。
全員が席に着くと、イビキは受験者たちを見回した。
「第一試験の内容を説明する」
会場が静まり返る。
「今回の試験は、筆記試験だ」
「……筆記?」
ナルトが小さく呟いた。
心は隣の席で、そっと目を閉じた。
(来たな……)
第一試験。
忍としての情報収集能力と、追い詰められた状況での判断力を試す試験だ。
ただし、単純に問題を解けばいいわけではない。
イビキは淡々と説明を続けた。
「問題は全部で十問。制限時間は一時間だ」
受験者たちの間に緊張が走る。
「各問題には配点がある。試験終了時の得点によって、合否を判定する」
イビキはそこで言葉を切った。
「なお、この試験には減点方式を採用する。カンニングが発覚した場合、本人だけでなく、同じ班の受験者にもペナルティが科される」
ナルトの顔が引きつった。
「は……?」
「カンニングが五回発覚した者は、その時点で失格とする」
イビキの声は冷たかった。
「試験は、今から開始する。問題用紙を配れ!」
試験官たちが動き出し、受験者の机に問題用紙が置かれていく。
ナルトの顔から、みるみる血の気が引いていった。
彼は問題用紙を受け取ると、恐る恐る一枚目をめくる。
そして――。
「……な、なんだってばよ、これ……?」
問題を見つめたまま、ナルトの手が震え始めた。
難解な問題が並んでいる。
ナルトにとっては、ほとんど見たこともないような内容ばかりだった。
そして、制限時間は一時間。
カンニングが五回発覚すれば失格。
ナルトの頭の中で、最悪の未来が組み上がっていく。
「う、うそだろ……」
彼は立ち上がりかけた。
「こんなの、解けるわけねえってばよぉぉぉぉぉっ!!」
教室中に、ナルトの絶叫が響き渡った。
心は思わず額を押さえた。
(……頼むから、今だけは静かにしてくれ)
隣ではサスケが呆れた顔をし、サクラは頭を抱えている。
そして、試験官のイビキは、そんなナルトを冷ややかな目で見つめていた。
中忍試験第一試験。
まだ始まったばかりだった。