死の森に、激しい戦闘音が響き渡っていた。
水流が木々を薙ぎ払い、火球が地面を焦がす。
その中心で、心、サスケ、サクラの三人が大蛇丸と戦っていた。
「水遁・渦流弾!」
心が放った水流が、螺旋を描きながら大蛇丸へと迫る。
大蛇丸は身体を捻って回避しようとした。
だが、その逃げ道へ、サスケの手裏剣が飛び込んでくる。
「そっちは通さない!」
手裏剣を避ければ、水流の直撃を受ける。
大蛇丸は舌打ちする代わりに、地面を蹴って大きく跳躍した。
「ふふっ!」
楽しそうな笑い声が響く。
空中で身体を捻り、木の幹へと着地する大蛇丸。
その瞬間、足元から水が噴き上がった。
「水遁・水乱波!」
心が放った水流が、木の幹ごと大蛇丸を飲み込もうとする。
大蛇丸は木を蹴って逃れたが、着地した先にはサスケが待ち構えていた。
「火遁・豪火球の術!」
燃え盛る火球が、大蛇丸の進路を塞ぐ。
大蛇丸は身体を反らし、炎を紙一重でかわした。
その隙に、心が距離を詰める。
纏によって底上げされた身体能力を生かし、拳を叩き込む。
大蛇丸は腕で受け流そうとした。
だが、心の拳は途中で軌道を変え、脇腹へと迫る。
「おっと」
大蛇丸は後方へ跳び、直撃を避けた。
それでも、拳が衣服をかすめる。
ほんのわずかな接触。
しかし、三人の連携によって生まれた、確かな攻めの機会だった。
「今よ!」
サクラが声を上げる。
彼女はあらかじめ、周囲の地形と大蛇丸の移動経路を確認していた。
心とサスケが攻撃を仕掛けるたび、サクラは相手の逃げ道を見極め、手裏剣やクナイを放つ。
無理に前へ出て攻撃するのではない。
二人が動きやすいように、相手の選択肢を狭める。
そして、必要なときには声をかけ、攻撃のタイミングを合わせる。
心が正面から攻める。
サスケが側面や背後から隙を突く。
サクラが二人の動きを支え、戦場を整える。
三人の役割は、自然とかみ合っていた。
誰かが指示を出さなくても、次に誰が動くのか、どこに攻撃を合わせればいいのかが分かる。
それは、これまで積み重ねてきた修行と、共に過ごしてきた時間が生み出した連携だった。
「いいわねぇ……!」
大蛇丸は、三人の攻撃を受け流しながら歓喜の声を上げた。
「とてもいいわ! まさか、ここまで息の合った連携を見せてくれるなんて!」
その視線が、心からサスケへ、そしてサクラへと移る。
「元々、私の目的はサスケ君だけだったのだけれど……」
大蛇丸は心を見つめ、舌先で唇を舐めた。
「枢流陀一族の生き残りであるあなたも、実に興味深いわ。あの年齢で、これほどのチャクラコントロールと戦闘技術を身につけているなんてねぇ」
心は答えず、次の攻撃に備える。
大蛇丸は、さらにサクラへと視線を向けた。
「そして……あなたもいいわねぇ」
「……っ!」
長い舌が、ゆっくりと唇をなぞる。
「二人の動きをよく見ている。自分が前に出るべき場面と、支えるべき場面をきちんと理解しているわ。チャクラコントロールも優れているようね」
サクラの背筋に悪寒が走った。
褒められているはずなのに、まったく嬉しくない。
むしろ、獲物を品定めするような視線が、たまらなく不気味だった。
「ふふふ……ああ、本当に素晴らしいわ!」
大蛇丸の笑みが深まる。
「もっと見せてちょうだい! あなたたちの才能を、もっと!」
その瞬間、大蛇丸の動きが変わった。
「――っ!?」
心が咄嗟に身を捻る。
先ほどまでとは比べものにならない速度で、大蛇丸の腕が迫っていた。
心は紙一重で回避したが、頬に鋭い痛みが走る。
血が一筋、流れ落ちた。
「心!」
サスケが叫ぶ。
「大丈夫だ!」
心はすぐさま体勢を立て直した。
しかし、間髪入れずに大蛇丸が追撃を仕掛けてくる。
心が攻撃を受け流す。
その隙にサスケが横からクナイを突き出した。
大蛇丸は身体を反らしてかわし、逆にサスケの腕を狙う。
「させない!」
サクラが投げたクナイが、大蛇丸の攻撃をわずかに逸らした。
サスケはその隙に飛び退く。
「助かった、サクラ!」
「お礼はあと!」
サクラは叫びながら、次の手裏剣を構えた。
だが、大蛇丸の攻撃は止まらない。
心が水遁で牽制する。
サスケが遊撃として攻め込む。
サクラが援護し、二人の退路を確保する。
三人は必死に連携を維持した。
それでも、徐々に均衡が崩れ始めていた。
◇
最初に限界が見え始めたのは、サクラだった。
攻撃を避けるたびに、足が重くなる。
手裏剣を投げる腕が、少しずつ思うように動かなくなっていた。
チャクラの消耗も激しい。
優れたチャクラコントロールは、無駄な消費を抑える助けにはなる。
だが、どれだけ制御が上手くても、使えるチャクラが無限にあるわけではない。
(まだ……!)
サクラは歯を食いしばった。
ここで自分が動けなくなれば、二人の負担が増える。
だから、倒れるわけにはいかなかった。
サスケも同じだった。
写輪眼で大蛇丸の動きを捉えようとする。
以前よりも見えるものは増えている。
しかし、見えたからといって、すべてに対応できるわけではない。
大蛇丸の動きは速く、攻撃の変化も予測しづらい。
腕をかすめられ、脚に傷を負い、それでもサスケは攻め続けた。
(くそっ……! まだだ!)
心は二人の状態を気にかけながらも、目の前の敵に集中していた。
自分自身も、すでに限界が近い。
身体のあちこちに傷が増えている。
纏を維持し続ける集中力も、少しずつ削られていた。
大蛇丸の攻撃を一度でもまともに受ければ、戦闘不能になる可能性がある。
それでも、攻撃を止めるわけにはいかなかった。
心が前に出る。
大蛇丸の腕を避け、反撃を仕掛ける。
その瞬間、背後からサスケの手裏剣が飛んだ。
大蛇丸はそれをかわす。
だが、逃げた先にはサクラが投げたクナイが待ち構えていた。
大蛇丸は身体を捻り、どうにか回避する。
「素晴らしいわ……!」
大蛇丸の笑顔は、ますます深まっていた。
「本当に、もっと見ていたくなるわねぇ!」
心は内心で悪態をつく。
(こっちはもう、見せる余裕なんてないんだよ……!)
攻撃をかわす。
反撃する。
連携を組み直す。
それを繰り返すたびに、三人の疲労は蓄積していった。
やがて、サクラの動きがわずかに遅れる。
大蛇丸の腕が、その隙を逃さなかった。
「サクラ!」
心が叫ぶ。
サクラは身を捻ったが、完全には避けきれない。
攻撃が肩をかすめ、彼女の身体が横へと吹き飛ばされた。
「きゃあっ!」
「サクラ!」
サスケが駆け寄ろうとする。
しかし、その進路を大蛇丸が塞いだ。
「よそ見をしていていいのかしら?」
「くっ……!」
サスケはクナイを構え、どうにか攻撃を防いだ。
心が横から割って入り、大蛇丸へと拳を叩き込む。
大蛇丸は後方へ跳び、再び距離を取った。
心はすぐさまサクラのもとへ駆け寄る。
「サクラ、大丈夫か?」
「う、うん……! まだ、戦える……!」
サクラは痛みに顔をしかめながらも、立ち上がった。
その姿を見て、心は唇を噛んだ。
(……限界が近い)
自分も、サスケも、サクラも。
もう長くは持たない。
このままでは、誰かが致命的な攻撃を受ける。
どうすればいい。
何か、手はないのか。
心が必死に考えていた、そのときだった。
大蛇丸が、ふいに攻撃の手を止めた。
「……?」
心は警戒しながら、すぐさま距離を取る。
サスケとサクラのもとへ戻り、二人を背後に庇う位置へ移動した。
大蛇丸は、三人を眺めながら小さく笑った。
「ちょっと、楽しみすぎてしまったわねぇ」
その声には、まだ余裕があった。
「時間もないし……そろそろ終わりにしましょうか」
(……来る!)
心の全身に緊張が走る。
大蛇丸の目的は、サスケに呪印を刻むこと。
それを実行するつもりなのかもしれない。
心はすぐに構えを取り直した。
サスケもクナイを握り締め、サクラも痛む肩を押さえながら身構える。
だが、三人とも疲労が限界に近かった。
この状態で、次の攻撃を防ぎきれるのか。
心がそう考えた瞬間――。
「うおおおおおおおっ!!」
森の奥から、聞き慣れた叫び声が響き渡った。
◇
「ナルト……!?」
心が振り返る。
木々の間から、一人の少年が飛び出してきた。
金色の髪。
オレンジ色の服。
そして、怒りに燃える瞳。
「お前ぇぇぇぇっ!!」
ナルトは、迷うことなく大蛇丸へと突っ込んだ。
「ナルト、待て――!」
心が叫ぶよりも早く、ナルトの拳が大蛇丸の顔面を捉えた。
ドゴッ!!
鈍い音が響く。
大蛇丸の身体が吹き飛び、木の幹へと叩きつけられた。
「……っ!」
心は目を見開いた。
サスケも、サクラも、突然の出来事に言葉を失う。
ナルトは着地すると、ようやく心たちの方へ振り返った。
「わりぃ! 遅くなったってばよ!」
いつものような笑顔。
しかし、その表情はすぐに変わった。
「……え?」
ナルトの視線が、心へ向く。
傷だらけの身体。
血の滲んだ服。
疲労で荒くなった呼吸。
そして、その隣にいるサスケとサクラも、同じように傷を負っていた。
「……おい」
ナルトの声が低くなる。
「なんだよ……それ」
心は答えようとした。
「ナルト、そいつは――」
「誰が……やったんだ?」
ナルトは、心の言葉を聞いていなかった。
目の前の仲間たち。
自分が戻ってきたとき、傷だらけになっていた仲間たち。
その姿を見た瞬間、ナルトの中で何かが切れた。
怒りが込み上げる。
胸の奥から、熱い何かが湧き上がってくる。
それは、普段のナルトが持つチャクラとは違う。
もっと荒々しく、もっと禍々しい。
封じられていた力が、ナルトの感情に反応するように膨れ上がった。
ナルトの身体から、赤みを帯びたチャクラが立ち昇る。
「……何、あれ?」
サクラが呆然と呟いた。
チャクラはナルトの身体を覆い、揺らめく外套のような形を作り始める。
その瞳にも変化が現れた。
青い瞳の中に、獣のような縦長の瞳孔が浮かび上がる。
空気が震えた。
圧倒的なチャクラの奔流が、周囲へと広がっていく。
(……九尾のチャクラか!)
心はすぐに当たりをつけた。
ナルトの中に封印されている、九尾の狐。
その力が、怒りによって表面へと溢れ出しているのだろう。
ただし、心が知る原作の展開とは、少し様子が違っていた。
ナルトの身体を覆うチャクラは、まるで鎧のように揺らめいている。
心が独自に磨いてきた纏とは、まったく異なる力だ。
制御されているようには見えない。
それなのに、ナルトの身体は強烈なチャクラに包まれ、今までとは比べものにならないほどの圧力を放っていた。
「ナルト……?」
サスケは警戒しながら、その姿を見つめる。
サクラもまた、何が起きているのか理解できずにいた。
心は二人を庇うように、半歩だけ前へ出る。
敵はまだ倒れていない。
そして、ナルト自身も、普段とは明らかに違う状態にある。
喜ぶのはまだ早い。
◇
木の幹に叩きつけられた大蛇丸が、ゆっくりと身体を起こした。
「……まったく」
衣服についた土埃を払いながら、ナルトへと目を向ける。
「九尾のガキ……。今はあなたに興味はないのよ」
大蛇丸は、興味を失ったようにナルトから視線を逸らし、サスケへと向き直ろうとした。
その瞬間だった。
「……あ?」
ナルトの姿が消えた。
大蛇丸が振り返る。
間に合わない。
「オラァァァァッ!!」
ナルトの拳が、再び大蛇丸の顔面へと叩き込まれた。
今度は、先ほどとは明らかに違った。
ドゴォォォォンッ!!
大蛇丸の身体が吹き飛び、木々をなぎ倒しながら地面を転がっていく。
地面に深い溝が刻まれ、土砂が舞い上がった。
大蛇丸の身体が、ようやく停止する。
その周囲には、先ほどまでとは違う衝撃の跡が残っていた。
「……っ!」
心は思わず息を呑んだ。
今の一撃は、明らかに大蛇丸へダメージを与えている。
大蛇丸はすぐには立ち上がらなかった。
やがて、ゆっくりと身体を起こす。
その顔からは、先ほどまでの笑みが消えていた。
「……へぇ」
大蛇丸は口元を拭い、ナルトを見つめた。
「これは……少し、見誤ったかしらね」
ナルトは答えない。
赤いチャクラをまとったまま、拳を握り締めている。
その瞳は、大蛇丸だけを見据えていた。
「お前……」
ナルトの声が、低く響く。
「心たちを……傷つけやがって……!」
その身体から、さらにチャクラが溢れ出す。
森の空気が、再び震えた。
心は、ナルトの背中を見つめながら考えていた。
(……九尾の力が、ここまで表に出ているのか)
だが、ナルトがその力をどこまで制御できているのかは分からない。
このまま力が暴走すれば、敵だけでなく味方まで巻き込む危険がある。
心は警戒を解かず、サスケとサクラへ小さく告げた。
「二人とも、ナルトからも目を離すな。大蛇丸だけじゃない。今のナルトがどう動くかも、注意しておくんだ」
二人は戸惑いながらも頷いた。
大蛇丸は、今度こそ興味深そうにナルトを観察していた。
そして、心、サスケ、サクラ、ナルト。
四人と大蛇丸の間に、張り詰めた空気が流れる。
死の森での戦いは、まだ終わっていなかった。