第二次試験、四日目の朝。
死の森に朝日が差し込む中、四人の下忍は出発の準備を整えていた。
「よし! そろそろ行こうぜ!」
ナルトが拳を握り、元気よく声を上げた。
「声が大きいわよ、ナルト。敵に見つかったらどうするの?」
「い、いいだろ別に! もう十分休んだんだからよ!」
「休んだのはいいけど、怪我が完全に治ったわけじゃないからね」
サクラの言葉に、ナルトは不満そうに頬を膨らませた。
サスケは首筋に触れ、封印の状態を確かめている。
呪印による痛みは、心が試みを成功させてから落ち着いていた。カカシの封印術も施され、今のところ目立った異常はない。
「サスケ、少しでも異常を感じたらすぐに言えよ」
「わかってる。お前こそ、無茶をするな」
「ああ」
短く言葉を交わし、四人は森の奥へと進み始めた。
目的は、地の書を手に入れて中央の塔へ到達すること。
天の書は二つ持っているが、地の書はまだ一つもない。
「心、どっちへ向かうんだ?」
ナルトに尋ねられ、心は進行方向を見ながら答えた。
「まずは塔を目指そうと思う」
「塔? 地の書を探さなくていいのか?」
「塔へ向かう途中で、ほかの受験者と遭遇する可能性がある。それに、試験も四日目だ。まだ巻物を揃えられていない班の中には、塔へ向かう受験者を待ち伏せしている連中もいるはずだ」
サスケが口元をわずかに上げた。
「つまり、向こうから来るのを待つわけか」
「そういうこと。わざわざ森中を探し回るより、塔へ向かう班を狙っている連中を返り討ちにした方が効率がいい」
「確かに、それなら無駄な時間を使わずに済むわね」
サクラも納得したように頷いた。
「よーし! 待ち伏せしてる奴らをぶっ飛ばして、地の書を手に入れるってばよ!」
「敵がいると決まったわけじゃない。油断するなよ、ナルト」
「わかってるってばよ!」
四人は互いの距離を保ちながら、塔へ向かって進んでいった。
◇
しばらく進んだところで、心が足を止めた。
「……いた」
視線を右手の茂みへ向ける。
サスケもすぐに気づき、音を立てずに身構えた。
「何人いる?」
「少なくとも三人。ほかにも潜んでいる可能性がある」
心はチャクラの気配を探りながら、敵の位置を確認した。
塔へ続く道の脇。木々と茂みを利用して、こちらが通るのを待ち構えている。
予想どおりだった。
「俺が正面から注意を引く。サスケは右、サクラは左から回り込んで。ナルトは俺の合図で動いてくれ」
「おう!」
「わかったわ」
四人は目配せを交わすと、それぞれの位置へ散った。
心はあえて敵の視界に入るように歩き出した。
「おい、そこに隠れている奴ら。いるのはわかってるぞ」
茂みの向こうで、気配が揺れた。
「……気づかれていたか」
三人の下忍が姿を現す。
「ちょうどいい。天の書か地の書、どちらかを持っているなら置いていけ」
先頭の男が薄笑いを浮かべた。
「それはこちらの台詞だよ。俺たちは地の書が欲しい。持っているなら渡してもらおうか」
「はっ! たった一人で何を言ってやがる!」
男が合図をすると、残る二人が左右から飛び出した。
だが、その瞬間。
「遅い」
心の姿がかき消えた。
一人の背後へ回り込んだ心が、首筋へ手刀を叩き込む。男は声を上げる間もなく、その場に崩れ落ちた。
「くそっ!」
もう一人がクナイを振るう。
心は身体をわずかに傾けて攻撃をかわし、相手の手首を掴んだ。そのまま体勢を崩し、地面へ叩きつける。
残る一人が印を結ぼうとした。
「火遁――!」
「させるかってばよ!」
横からナルトが飛び出し、相手の腕を蹴り上げた。
印が崩れ、術は不発に終わる。
「おらぁ!」
続けざまにナルトの拳が相手の腹へめり込んだ。
男が膝をついたところへ、サスケが回り込み、クナイを突きつける。
「動くな」
反対側では、サクラが逃走経路を塞いでいた。
戦闘が始まってから、ほんのわずかな時間。
三人の下忍は、あっという間に制圧された。
「周囲にほかの仲間がいないか確認しよう」
心の指示に従い、四人は周辺を調べた。
追加の敵はいない。
そして、倒した三人の荷物を確認すると――。
「あった!」
ナルトが巻物を掲げた。
そこに記されていたのは、求めていた文字だった。
「地の書だってばよ!」
「よし。これで巻物は揃ったな」
心は安堵の息をついた。
もっとも、まだ油断はできない。
中央の塔へたどり着き、巻物を正しく開くまでが試験だ。
「急ごう。ここに長居する理由はない」
四人は巻物をしまい、再び塔を目指した。
◇
塔へ向かう道を進んでいると、前方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「はぁ……面倒くせぇな。」
「シカマル、文句ばっかり言ってないで探しなさいよ!」
「うるせぇな。探してるだろ、ちゃんと」
「お腹すいた……」
心は思わず足を止めた。
「……あれは」
木々の向こうから姿を現したのは、奈良シカマル、山中いの、秋道チョウジの三人だった。
「あっ、心!」
いち早く心を見つけたいのが、ぱっと顔を輝かせた。
「心ーっ!」
次の瞬間、いのが勢いよく飛びついてきた。
「うわっ!?」
心は倒れないように踏ん張り、慌てて彼女を受け止める。
「だって、心に会えたんだもの!」
いのは嬉しそうに心の腕へ抱きついた。
「心は大丈夫? 怪我してない? ちゃんと休めてる? 変な奴に襲われたりしてない?」
「質問が多いな……。俺は大丈夫だよ」
「本当? どこか痛くない?」
「本当に大丈夫だから」
心が苦笑すると、いのはようやく少し落ち着いた。
ただし、腕を離すつもりはないらしい。
「……相変わらずだな、お前ら」
シカマルが呆れたように呟いた。
「まあまあ。心たちも無事みたいでよかったじゃないか」
チョウジはポテトチップスを食べながら、穏やかに笑った。
「お前たちも無事そうでよかったよ」
心がそう言うと、シカマルは面倒くさそうに頭を掻いた。
「こっちは何とかやってるところだ。けど、まだ天の書が手に入ってなくてな」
「天の書を探しているのか?」
「ああ。俺たちには、試験開始時に渡された地の書がある。だから、あとは天の書さえ手に入ればいいんだが……なかなか持っている奴が見つからねぇ」
シカマルがため息をつく。
「あと二日もないってのに、面倒な話だぜ」
それを聞いた心は、荷物から巻物を一つ取り出した。
「だったら、これを使うか?」
「……天の書?」
シカマルが目を見開いた。
「俺たちは天の書を二つ持っているんだ。一つは自分たちの分で、もう一つは予備だよ」
予備の天の書。
それは、第二次試験が始まって間もない頃、ナルトが一人になった隙を狙って襲いかかってきた、ガスマスク姿の下忍から奪ったものだった。
あのとき、相手が持っていたのは天の書。
心たちは自分たちの巻物を守るために相手を制圧し、奪った巻物を予備として保管していたのだ。
「俺たちはもう地の書を手に入れたから、こっちは必要ない。よかったら使ってくれ」
「……いいのか?」
「もちろん。お互いに試験を突破できた方がいいだろ?」
シカマルは少し考えた後、巻物を受け取った。
「……助かる。正直、もう一班を探して戦うのは面倒だと思ってたんだ」
「シカマルらしいわね」
サクラが苦笑する。
「うるせぇな。無駄な戦いを避けるのは、忍者として正しい判断だろ」
「それはそうだけどさ」
チョウジも嬉しそうに頷いた。
「これでやっと安心して塔に向かえるね。ありがとう、心」
「どういたしまして」
心が笑顔で答えると、いのは再び彼の腕にぎゅっと抱きついた。
「心って、本当に優しいわよね!」
「いの、近いって……!」
「いいじゃない、別に!」
いのは満面の笑みを浮かべた。
「ねえ、試験が終わったら一緒に出かけない?」
「……またか?」
「また、じゃないわよ! 約束してくれる?」
期待に満ちた目で見上げてくるいのに、心は困ったように笑った。
「試験が終わってからな」
「絶対よ! 約束だからね!」
「はいはい」
シカマルが小さくため息をつく。
「……こりゃ、また面倒なことになりそうだ」
「何か言った?」
「いや、何も」
こうして、木ノ葉の同期たちは一時的に別れることになった。
シカマルたちも天の書を手に入れ、塔へ向かう準備が整ったのだ。
「じゃあ、またな」
「ああ。お互い、最後まで気を抜くなよ」
心たちはシカマルたちと別れ、中央の塔へ向かった。
◇
やがて、塔が見えてきた。
森の木々の向こうにそびえ立つ建物は、第二次試験の終着点だ。
「やっと着いたってばよ!」
ナルトが嬉しそうに声を上げる。
「まだ終わってないわよ。巻物を開いて、試験官の説明を受けるまでが試験なんだから」
サクラが釘を刺した。
「わかってるってばよ!」
四人は塔の入口をくぐった。
内部は静まり返っている。
心は周囲を警戒しながら、中央に設置された台へ近づいた。
「ここで巻物を開けばいいんだな」
「ああ。天の書と地の書、両方を揃えて塔に到達する。それが第二次試験の条件だ」
心は天の書を取り出し、地の書と並べた。
「よし。開くぞ」
四人が二つの巻物を開いた。
次の瞬間――。
ボンッ!
白い煙が立ち上った。
「うわっ!?」
ナルトが驚いて飛び退く。
煙の中から現れたのは、見慣れた顔だった。
「……イルカ先生?」
ナルトが目を丸くする。
そこに立っていたのは、うみのイルカだった。
「よくここまで来たな、みんな!」
イルカは四人を見渡し、嬉しそうに笑った。
「これで第二次試験は突破だ。おめでとう!」
「やったぁーっ! 突破だってばよ!」
ナルトが飛び上がって喜ぶ。
「やったわね、みんな!」
サクラも笑顔を浮かべた。
サスケは大きく息を吐き、心もようやく肩の力を抜いた。
イルカは四人へ向けて説明を始めた。
「第二次試験では、巻物を揃えることだけじゃなく、危険な状況の中で仲間と協力し、判断し、目的を達成できるかどうかも試されていたんだ」
そして、最後にこう告げた。
「ここまで来たお前たちは、第二次試験を突破した忍者として認められた。よく頑張ったな」
その言葉に、ナルトは誇らしげに胸を張った。
「へへっ! オレってば、やっぱりすごいだろ!」
「はいはい、すごいすごい」
サスケが呆れたように返す。
「何だと、サスケ!」
「うるさいぞ、ナルト」
「二人とも、塔に着いたばかりなんだから少しは落ち着きなさいよ!」
三人のやり取りを見て、心は小さく笑った。
大蛇丸との遭遇という想定外の事態が起きた。
サスケには呪印が刻まれ、心も大きな傷を負った。
それでも、四人で協力し、ここまでたどり着いた。
誰一人欠けることなく。
心は仲間たちを見渡した。
「みんな、お疲れさま」
「おう!」
ナルトが笑顔で拳を突き出す。
心はその拳に、自分の拳を軽く合わせた。
サスケとサクラも、それぞれに表情を緩める。
こうして、心たち第七班の四人は、第二次試験を突破した。
だが、中忍試験はまだ終わりではない。
この先には、第三次試験が待っている。
心は仲間たちと共に、最後まで進むため、静かに気を引き締めた。