第二次試験を突破した受験者たちは、中央の塔に集められていた。
森での過酷な試験を終えたばかりだというのに、休息の時間はほとんどない。
これから始まるのは、第三次試験へ進む者を選抜するための予選だった。
「全員、よくここまで残ったな」
試験官の声が、広い部屋に響いた。
「だが、ここから先はさらに厳しくなる。これより第三次試験の予選を行う!」
受験者たちの間に緊張が走る。
心は隣に立つ三人を見た。
ナルトはやる気に満ちた顔で拳を握り、サクラは真剣な表情で説明を聞いている。サスケはいつもどおり無口だったが、その瞳には強い闘志が宿っていた。
首筋の呪印は、カカシの封印術によって抑えられている。
心が自然エネルギーに関係する力を吸収したことで、あのときの激しい痛みも和らいでいた。
そして何より、今のサスケは呪印の影響でチャクラを使えなくなることもない。
心は、その点に安堵していた。
原作の展開を知る身としては、サスケがここで力を発揮できるかどうかが気がかりだったからだ。
「なお、予選は一対一の勝ち抜き戦とする。敗者はそこで失格。勝者が第三次試験へ進む」
試験官が説明を続ける。
「対戦相手はこれから表示する。名前を呼ばれた者は、下の試合場へ降りろ!」
壁面のモニターに、受験者たちの名前が表示され始めた。
心は静かに画面を見つめる。
そして――。
『第一試合、うちはサスケ対赤胴ヨロイ!』
サスケの名前が呼ばれた。
「……俺か」
サスケは短く呟くと、試合場へ向かおうとする。
「サスケ」
心が呼び止めた。
「何だ?」
「呪印のことを忘れるなよ。封印されているとはいえ、無理はするな」
「わかってる。だが、心配はいらない」
サスケは口元をわずかに上げた。
「すぐに終わらせる」
「期待してるよ」
心が笑って送り出すと、サスケは軽く手を上げて階段を下りていった。
◇
試合場。
サスケの対戦相手、赤胴ヨロイが向かい側に立っていた。
ヨロイは、眼鏡の奥からサスケを観察している。
「お前がうちはサスケか。ずいぶん有名らしいな」
「……それがどうした」
「いや、少し試してみたいことがあってな」
ヨロイの口元に、不気味な笑みが浮かぶ。
心はその様子を見て、原作の記憶を思い出していた。
赤胴ヨロイの能力は、相手に触れることでチャクラを吸収すること。
近接戦闘に持ち込まれれば、厄介な相手ではある。
しかし、今のサスケなら問題ないはずだ。
「それでは、第一試合――始め!」
試験官の合図と同時に、ヨロイが動いた。
「チャクラを吸い取ってやる!」
ヨロイは一気に距離を詰め、サスケへ手を伸ばす。
だが、サスケは真正面から受けることはなかった。
身体を横へずらし、相手の腕をかわす。
そのまま、ヨロイの懐へ踏み込んだ。
「なっ!?」
鋭い蹴りがヨロイの脇腹へ叩き込まれる。
「ぐっ!」
ヨロイの身体が横へ吹き飛んだ。
観戦席がざわめく。
「速い……!」
サクラが思わず声を漏らした。
サスケの体術は、以前よりも明らかに洗練されていた。
心との訓練で、相手の動きを見極めること、無駄な動作を減らすこと、そして攻撃後の隙をなくすことを徹底的に叩き込まれてきたからだ。
ヨロイはすぐに立ち上がったが、表情には焦りが浮かんでいた。
「ちっ……!」
再びサスケへ突進する。
今度は腕を大きく伸ばし、どうにか触れようとした。
しかし、サスケは後ろへ跳んで距離を取る。
「お前の能力は、触れなければ意味がないんだろう?」
「……!」
ヨロイの表情が強張った。
「だったら、近づかせなければいい」
サスケは両手で印を結んだ。
「火遁・豪火球の術!」
口から放たれた巨大な火球が、試合場を赤く染める。
「なっ、火遁だと!?」
ヨロイは慌てて横へ飛び退いた。
火球が地面を焼き、熱風が吹き抜ける。
観戦席のナルトが目を輝かせた。
「おおっ! サスケ、すげえってばよ!」
「騒がないの、ナルト」
サクラがたしなめるが、彼女自身もサスケの戦いぶりに驚いていた。
以前のサスケなら、これほど余裕を持って相手を圧倒できただろうか。
心との訓練で積み重ねた経験が、確実に実を結んでいる。
ヨロイは火球を避けたものの、体勢を崩していた。
そこへ、サスケが瞬身で一気に距離を詰める。
「終わりだ」
「しまっ――!」
サスケの拳がヨロイの腹部へめり込んだ。
続けて放たれた回し蹴りが、ヨロイの身体を宙へ浮かせる。
最後に、地面へ叩きつけるような一撃。
ヨロイは床に倒れ、そのまま動かなくなった。
「勝者、うちはサスケ!」
試験官の宣言が響く。
圧勝だった。
サスケは呼吸を乱すこともなく、静かに観戦席を見上げた。
心と目が合う。
心が親指を立てると、サスケはほんの少しだけ口元を緩めた。
そのまま試合場を離れ、仲間たちのもとへ戻ってくる。
「お疲れ、サスケ」
「ああ。大した相手じゃなかった」
「そう言うと思ったってばよ!」
ナルトが笑う。
「でも、すごかったわ。チャクラを吸収される前に、最後まで相手に触れさせなかったもの」
サクラの言葉に、サスケは肩をすくめた。
「能力がわかれば対処できる。大げさに騒ぐほどのことじゃない」
心はその様子を見ながら、内心で安堵していた。
呪印によるチャクラの制限がなければ、サスケは本来の力を発揮できる。
心は気を緩めず、モニターへ視線を戻した。
◇
『第二試合、油女シノ対ザク・アブミ!』
次の対戦カードが表示された。
「……シノか」
心は、木ノ葉の同期である油女シノへ視線を向けた。
シノはいつもどおり、表情をほとんど変えずに試合場へ向かっている。
その対戦相手は、音隠れの里の下忍、ザク・アブミ。
原作では、ザクはサスケたちと遭遇した際に腕を痛めていた。
だが、この世界では違う。
サスケたちと遭遇することなく、負傷もしていない。
つまり、ザクは本来の実力を発揮できる状態だった。
それでも、心はシノの勝利を疑っていなかった。
油女一族の忍術は、相手にとって非常に厄介だからだ。
体内で飼育する寄壊虫を操り、敵のチャクラを吸収する。
しかも、シノは無駄な動きをせず、相手の能力を冷静に見極める戦い方を得意としている。
正面から力をぶつけるタイプのザクとは、相性が悪い。
「それでは、第二試合――始め!」
合図と同時に、ザクが両腕を構えた。
「へっ、虫使いかよ! そんなもので俺を倒せると思うなよ!」
ザクの両腕には、空気を圧縮して放つための穴がある。
その能力を使えば、強力な衝撃波を放つことができる。
ザクは両腕をシノへ向けた。
「食らえ!」
轟音とともに、圧縮された空気が放たれる。
シノは横へ跳び、攻撃を回避した。
衝撃波が背後の壁へ激突し、鈍い音を響かせる。
「逃げてばかりか? だったら、これでどうだ!」
ザクは次々と衝撃波を放つ。
シノは無言のまま、最小限の動きでかわし続けた。
しかし、心は気づいていた。
シノがただ逃げているわけではないことに。
攻撃を避けながら、少しずつザクとの距離を詰めている。
そして、シノの身体からは、目に見えないほど小さな虫たちが広がっていた。
「……いつの間に?」
サクラが呟く。
「シノは、相手が攻撃している間に虫を近づけているんだ」
心が小声で説明した。
「ザクは自分の攻撃に集中している。その隙に、シノの虫が少しずつ身体へ取りついているんだよ」
「なるほど……」
サクラは真剣な表情で試合場を見つめた。
ザクはまだ気づいていない。
シノが距離を取るたびに、寄壊虫が彼の身体へと近づいていた。
「逃げ回ってんじゃねえぞ!」
ザクが苛立ち、両腕を大きく構えた。
「これで終わりだ!」
強烈な衝撃波が放たれる。
シノは直前で身体を傾け、攻撃をかわした。
そして、静かに告げる。
「……もう遅い」
「何?」
ザクが眉をひそめた、その瞬間。
シノの寄壊虫が一斉に動き出した。
「なっ!? なんだ、こいつらは!」
虫たちがザクの腕や胴体へと群がる。
ザクは慌てて振り払おうとするが、虫たちは次々とまとわりつき、チャクラを吸い上げていった。
「くそっ! 離れろ!」
ザクは腕を振り回し、衝撃波を放とうとする。
しかし、先ほどまでの勢いがない。
チャクラを吸収され、術を維持する力が失われていた。
「ば、馬鹿な……!」
シノは淡々と告げる。
「お前は、自分の攻撃に集中しすぎた。相手の動きを見ることを怠った結果だ」
「この野郎……!」
ザクは最後の力を振り絞ってシノへ突進した。
だが、足元がおぼつかない。
シノはわずかに身体をずらし、ザクの攻撃をかわす。
そして、寄壊虫がさらにチャクラを吸い取った。
ザクは膝から崩れ落ち、そのまま床に倒れた。
「勝者、油女シノ!」
試験官の声が響いた。
シノは何事もなかったかのように虫を回収し、静かに試合場を後にする。
観戦席では、ナルトが感心したように声を上げていた。
「すげえ……! シノ、あんな戦い方もできるんだな!」
「シノらしい戦い方だったわね」
サクラも頷いた。
サスケは腕を組み、冷静に試合を振り返っている。
「相手の能力を見極め、気づかれないうちに対策を進める。無駄のない戦い方だ」
「そうだな」
心も同意した。
シノは、相手の力を正面から打ち破る必要がなかった。
相手の能力を理解し、その弱点を突く。
忍者らしい、合理的な勝利だった。
そして何より、ザクはサスケたちと遭遇していなかったため、負傷していない。
その状態の相手を、シノは正面から圧倒したのだ。
心は静かに息を吐いた。
原作と同じ結果になったとしても、そこへ至る過程は少しずつ変化している。
自分たちの存在によって変わった未来もあれば、変わらずに進む出来事もある。
だからこそ、油断はできない。
心がそう考えていたとき、モニターに次の対戦カードが表示され始めた。
第三次試験の予選は、まだ始まったばかりだった。