サスケとシノの勝利で、会場の空気は徐々に熱を帯びていた。
第三試合の対戦者が発表される。
「第三試合! 剣(ツルギ)対、カンクロウ!」
名前を呼ばれた二人が、ゆっくりと試合場へ降りていく。
剣は無言で相手を見据え、カンクロウはいつものように気だるげな表情を浮かべていた。
「ったく、面倒くせぇな……」
カンクロウがぼやく。
しかし、その視線は油断なく相手を捉えていた。
試合開始の合図と同時に、剣が動く。
カンクロウは正面からまともに戦おうとはせず、相手の動きを見極めながら距離を取った。
そして、頃合いを見計らうと、背負っていた人形を利用して反撃に転じる。
剣が対応しようとしたときには、すでにカンクロウの仕掛けた罠にはまっていた。
「そこまで! 勝者、カンクロウ!」
あっという間の決着だった。
カンクロウは肩をすくめながら試合場を後にする。
原作と変わらない結果。
心はその様子を静かに見届けた。
そして、次の対戦者が発表される。
「第四試合! 山中いの対、テンテン!」
「よしっ!」
いのは拳を握り、気合いを入れた。
その顔には自信が浮かんでいる。
一方のテンテンは、いのを見据えながら両手を構えた。
「よろしくね。手加減はしないから」
「こっちだって!」
二人が試合場へ降りる。
心は腕を組み、いのの姿を見つめていた。
――いのなら大丈夫だ。
これまで一緒に過ごしてきた時間を思い返せば、彼女がただ力任せに戦う忍ではないことを、心はよく知っている。
やがて、試合開始の合図が響いた。
「始め!」
先に動いたのはテンテンだった。
「行くわよ!」
テンテンは素早く忍具を取り出すと、次々と投擲する。
クナイ、手裏剣、そして軌道を変えながら迫る複数の忍具。
いのは身をひねり、飛び退き、どうにか攻撃をかわしていく。
「くっ……!」
テンテンの攻撃は途切れない。
一つを避ければ、次が迫る。
その手数と速度は、いのに反撃の隙を与えなかった。
いのは何度か印を結び、心転身の術を仕掛けようとする。
しかし、テンテンは動きを止めない。
いのが狙いを定めるよりも早く、次の攻撃が飛んでくる。
「そんなに簡単に当たってあげないわよ!」
テンテンがさらに忍具を投げつけた。
いのは横へ転がって避けるが、頬にかすり傷ができる。
距離を取ろうとしても、テンテンはすぐさま追いすがってきた。
「なんなのよ、もうっ!」
いのの表情が険しくなる。
心転身の術が決まらない。
相手の動きを封じるどころか、術を使うための時間すら作れない。
焦りが、苛立ちへと変わっていく。
「いい加減にしなさいよ!」
いのは叫びながら、自分の髪へ手を伸ばした。
そして、ためらいなく髪を切り落とす。
「なっ……!?」
テンテンが一瞬、目を見開いた。
切り落とされた金色の髪が、試合場に散らばっていく。
しかし、テンテンはすぐに気を取り直した。
髪を切ったところで、戦闘能力が上がるわけではない。
むしろ、いのが何かを仕掛けようとしているのだとしても、今の自分なら攻撃を続けて押し切れる。
そう判断したのだ。
「もう終わりよ!」
テンテンは攻撃の手を緩めなかった。
いのは追い詰められ、次第に防戦一方になっていく。
会場の観客たちも、勝敗は決したと考え始めていた。
「テンテンの勝ちだな」
「山中の忍は、もう反撃できないだろ」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
だが、観戦していた心は、まったく違うことを考えていた。
隣にいたサクラも、いのの姿をじっと見つめている。
「……いの」
サクラが小さくつぶやいた。
心は彼女に視線を向け、静かにうなずく。
「大丈夫だ。いのは、まだ諦めていない」
いのの動きは、追い詰められた者のそれではなかった。
苦しそうに見えるのは事実だ。
けれど、彼女の視線は絶えずテンテンの足元と、試合場に散らばった髪の毛を捉えている。
心はそれに気づいていた。
――なるほど。あれを仕込んでいたのか。
テンテンが最後の攻撃に移る。
両手を動かし、忍具を構えた。
「これで終わりよ!」
勝利を確信したテンテンが、いのへと踏み込む。
その瞬間だった。
「……え?」
テンテンの足が止まった。
いや、止まったのではない。
動かなくなったのだ。
踏み込もうとした足が、地面に縫いつけられたかのように動かない。
「な、何これ……!?」
テンテンは慌てて足元を見た。
そこには、地面に散らばっていたはずの金色の髪が、彼女の足首に絡みついていた。
一本一本は細い。
だが、それらは複雑に絡み合い、テンテンの動きを封じていた。
「まさか……!」
テンテンが顔を上げる。
その先には、息を切らしながらも、まっすぐこちらを見据えるいのがいた。
「ようやく捕まえたわよ」
「髪を切ったのは、このためだったの……!?」
「そうよ。あんたの攻撃を止めるには、これしかなかったからね」
いのは自分の髪を切り、それを試合場にばら撒いていた。
テンテンが攻撃を続けることも、最後に一気に決着をつけようとすることも予測していたのだ。
相手が自分の勝利を確信し、足元への警戒を失う瞬間を待っていた。
そして、今。
テンテンの動きは封じられた。
「心転身の術!」
いのが印を結び、精神を飛ばす。
テンテンは避けられない。
彼女の身体が一瞬、ぴくりと震えた。
次の瞬間、いのの意識がテンテンの身体を支配する。
いのはテンテンの身体を動かし、試合場の中央へ歩かせた。
そして、審判へ向けて口を開く。
「……私の負けです。棄権します」
会場が静まり返った。
「勝者、山中いの!」
一拍遅れて、歓声が沸き起こった。
「うそだろ!?」
「最後まで仕掛けていたのか!」
「すげえ……あの状況から逆転したぞ!」
試合場の上で、いのは術を解いた。
テンテンはその場に膝をつき、悔しそうに唇をかんだ。
「やられたわ……。まさか、あんな手を使うなんて」
いのは額の汗をぬぐい、少しだけ得意げに笑った。
「忍者の戦いは、力比べだけじゃないってことよ」
もちろん、髪を切ることも、術を仕掛けることも、すべてが賭けだった。
テンテンが最後まで警戒していれば、成功しなかったかもしれない。
それでも、いのは勝利をつかみ取った。
心は小さく息を吐き、笑みを浮かべた。
「やっぱり、いのは強いな」
サクラも嬉しそうにうなずく。
「うん! さすが、いのね!」
試合場から戻ってきたいのは、心たちの姿を見つけると、ぱっと顔を輝かせた。
「心! 見てた!? あたし、勝ったわよ!」
「ああ。最後までよく考えていたな」
「えへへ……当然でしょ!」
褒められたいのは、照れくさそうに笑った。
その様子を見ていたシカマルが、呆れたように肩をすくめる。
「まったく……あいつ、心が絡むと本当にわかりやすいな」
「うるさいわよ、シカマル!」
いのがすかさず言い返す。
いつものやり取りに、心は苦笑した。
だが、休む間もなく次の試合が告げられる。
「第五試合! 春野サクラ対、テマリ!」
「えっ、私!?」
サクラは驚いたように目を見開いた。
そして、すぐに表情を引き締める。
テマリは大きな扇を背負い、余裕のある足取りで試合場へ向かっていた。
「木ノ葉のくノ一か。どこまでやれるか、見せてもらおうか」
サクラはその姿を見つめた。
相手は砂隠れの忍。
大きな扇を使う戦い方も、どんな術を持っているのかも、まだわからない。
それでも、以前の自分なら恐怖で足がすくんでいたかもしれないが、今は違った。
心との訓練で積み重ねてきた時間。
ナルトやサスケと一緒に、何度も繰り返してきた鍛錬。
そして、もう仲間の背中を見ているだけでは嫌だと思った、あの日の決意。
サクラは拳を握り締めた。
「……大丈夫。私だって、戦える」
心はその背中へ声をかける。
「サクラ。無理はするな。でも、今までの訓練を信じろ」
「うん!」
サクラは振り返り、力強くうなずいた。
テマリが試合場の中央で立ち止まり、サクラを待つ。
二人の視線が交差した。
審判が手を上げる。
「第五試合――」
会場のざわめきが静まっていく。
「始め!」
こうして、原作とは異なる組み合わせとなった第五試合。
春野サクラと、砂隠れのくノ一・テマリの戦いが始まろうとしていた。