「第七試合、始め!」
審判の声が響いた瞬間、キバが地面を蹴った。
「行くぜ、ナルト! 赤丸!」
「ワンッ!」
キバと赤丸が左右に分かれ、ナルトを挟み込むように走る。
犬塚一族が得意とする、獣のような連携攻撃。
原作のナルトなら、この時点でかなり苦戦していたはずだ。
だが、今のナルトは違う。
「へへっ、そっちから来るなら好都合だってばよ!」
キバが飛び込んできた瞬間、ナルトは身体をわずかに傾けた。
「なっ!?」
拳が空を切る。
ナルトはキバの懐へ入り込み、体勢を崩すように足を払った。
「うおっ!」
キバはとっさに跳び退き、転倒を避ける。
しかし、ナルトは追撃を急がなかった。
相手の動きを見極め、次の攻撃に備えて構え直す。
その様子を見たキバの表情が変わった。
「おいおい……。今のを避けるのかよ!」
「そりゃ、毎日修行してるからな!」
ナルトは胸を張った。
心との修行は厳しかった。
体術の基礎から徹底的に鍛えられ、木登りや水面歩行を通してチャクラコントロールも磨いてきた。
以前のナルトなら、勢いに任せて突っ込んでいた場面でも、今は相手の動きを見て判断できる。
もちろん、まだ未熟な部分はある。
それでも、同年代の忍と戦うには十分すぎるほど成長していた。
「だったら、これでどうだ!」
キバが印を結ぶ。
「忍法・獣人分身!」
赤丸がキバそっくりの姿に変化した。
二人は同時にナルトへ襲いかかる。
左右から迫る二つの影。
しかし、ナルトは慌てなかった。
まず赤丸の動きを避け、続いてキバの拳を受け流す。
さらに一歩踏み込み、キバの腹部へ拳を叩き込んだ。
「ぐっ!」
キバの身体が後方へ飛ぶ。
「キバ!」
赤丸が慌てて駆け寄る。
ナルトはその場から動かず、二人を見据えていた。
観戦席から、驚きの声が上がる。
「おい、ナルトの奴……キバを圧倒してるぞ!」
「さっきから、ほとんど攻撃を受けてないじゃないか!」
キバは歯を食いしばり、立ち上がった。
「くそっ……! こんなはずじゃ……!」
犬塚一族の誇りが、簡単に負けることを許さない。
「赤丸、行くぞ!」
「ワンッ!」
二人は再び動き出す。
今度は身体を高速回転させ、風を巻き起こしながら突進した。
「牙通牙!」
轟音とともに、二つの回転する攻撃がナルトへ迫る。
だが、ナルトは落ち着いていた。
攻撃の軌道を見極め、ぎりぎりまで引きつける。
そして――。
「そこだ!」
ナルトは横へ跳び、突進をかわした。
二人が通り過ぎた瞬間、ナルトは地面を蹴る。
磨いてきた体術とチャクラコントロールを組み合わせ、キバの背後へ一気に回り込んだ。
「なっ、速っ……!」
キバが振り返るよりも早く、ナルトの拳がその背中を捉えた。
「ぐあっ!」
キバは地面を転がり、赤丸とともに倒れ込んだ。
ナルトは追撃せず、少し離れた位置で構えを解く。
「まだやるか、キバ?」
その問いかけに、キバは悔しそうに顔を歪めた。
もう一度立ち上がろうとする。
しかし、身体が思うように動かなかった。
「くそ……オレの負けだ……」
「勝者、うずまきナルト!」
審判の宣言が響き渡る。
会場が大きな歓声に包まれた。
「やったってばよー!」
ナルトは両手を上げて喜んだ。
観戦席では、サクラが笑顔で拍手している。
「ナルト、すごいじゃない!」
サスケも腕を組んだまま、口元をわずかに緩めた。
「……少しはやるようになったな」
そして、心は満足そうにうなずいた。
ナルトの成長は、心自身もよく知っている。
だが、実際の試合でその成果を見られるのは、やはり嬉しかった。
――よく頑張ったな、ナルト。
ナルトは観戦席を見上げ、心を見つけると、満面の笑みで親指を立てた。
心も小さくうなずき返す。
◇
「第八試合! 日向ヒナタ対、日向ネジ!」
名前が呼ばれた瞬間、会場の空気が変わった。
同じ日向一族。
だが、二人の間には深い溝がある。
ヒナタは緊張した面持ちで試合場へ降りていった。
対するネジは、落ち着いた足取りで歩いてくる。
「……ヒナタ様。あなたが私に勝てるとは思えません」
ネジの声は冷たかった。
ヒナタは一瞬、目を伏せる。
それでも、すぐに顔を上げた。
「わ、私は……逃げません」
試合開始の合図が響く。
二人は柔拳の構えを取った。
ヒナタは勇気を振り絞り、ネジへと踏み込む。
だが、ネジはその動きを見切っていた。
ヒナタの攻撃を受け流し、的確に反撃を叩き込む。
技量の差は明らかだった。
ヒナタは何度も立ち上がり、諦めずに向かっていく。
しかし、ネジの柔拳は容赦なく彼女を追い詰めていった。
「なぜ立ち上がるのです。あなたでは私に勝てない」
「それでも……私は……!」
ヒナタの声が震える。
それでも、彼女は一歩も引かなかった。
観戦席で、ナルトは拳を握り締めていた。
ヒナタが傷つく姿を見ていられなかった。
それでも、彼女が諦めずに立ち向かう姿から目を離せない。
やがて、ネジの攻撃がヒナタを捉えた。
ヒナタは倒れ、立ち上がることができなくなる。
「そこまで! 勝者、日向ネジ!」
試合終了の宣言が響いた。
ヒナタは医療班に運ばれていく。
ネジは表情を変えず、試合場を後にしようとした。
そのときだった。
「待てよ!」
ナルトの声が会場に響き渡った。
ネジが足を止める。
ナルトは観戦席から身を乗り出し、強い眼差しでネジを睨みつけていた。
「お前、ヒナタにあんなことしやがって……!」
「何か問題でも?」
ネジは冷ややかに返す。
「お前のような人間に、何がわかる」
「わかんねーよ! でもな!」
ナルトは拳を握り締めた。
「オレは絶対、お前に勝つ! お前のその考え方も、オレがぶっ飛ばしてやるってばよ!」
ネジは一瞬だけナルトを見つめた。
そして、興味を失ったように視線を逸らす。
「……好きにしろ」
そう言い残し、試合場を去っていった。
ナルトはその背中を睨み続けていた。
心はそんなナルトの横顔を見つめる。
原作でも、ナルトはネジに勝つと宣言した。
だが、今のナルトは以前よりも強くなっている。
体術も、チャクラコントロールも、着実に成長してきた。
それでも、日向ネジは天才と呼ばれる忍だ。
決して簡単な相手ではない。
――さて、ナルトはどこまで成長できるかな。
心は静かに、次の戦いを見据えた。
◇
「第九試合!」
審判の声が会場に響き渡る。
「枢流陀心対、ロック・リー!」
「……は?」
心は思わず声を漏らした。
対戦相手の名前を聞いた瞬間、嫌な予感が的中したことを悟る。
リーはすでに試合場へ降りていた。
緑色の服に、特徴的なおかっぱ頭。
その姿勢はまっすぐで、瞳には燃え上がるような闘志が宿っている。
「心君!」
リーは心を見上げ、力強く拳を握った。
「ついに、この日が来ましたね!」
心は内心で頭を抱えた。
――いや、来なくてよかったんだけどな……。
リーの実力は知っている。
そして、その師であるマイト・ガイの熱血ぶりも、嫌というほど知っていた。
以前、リーがサスケに挑んだ際には、ガイまで登場することになった。
あのときは何とかやり過ごしたが、今度は自分が相手だ。
逃げるわけにもいかない。
「心君。あなたの実力は、以前から気になっていました!」
リーは一切の迷いなく宣言した。
「あなたと全力で戦い、己の青春を燃やしたいのです!」
「……できれば、もう少し穏便に青春を燃やしてほしいんだけど」
心のぼやきは、リーの耳には届いていなかった。
観戦席では、ナルトが身を乗り出している。
「心とリーの試合か! こりゃ面白くなりそうだってばよ!」
サスケも真剣な眼差しで試合場を見下ろしていた。
リーの体術は本物だ。
試験前に自分が戦ったときも、歯が立たなかった。
そのリーと心が戦う。
サスケにとっても、見逃せない試合だった。
サクラといのも、心配そうに心を見つめる。
「心、大丈夫かな……?」
「心なら大丈夫でしょ。でも、あのリーって人、相当強いわよ」
いのがそう答えた。
そして、心はゆっくりと試合場へ降りていく。
リーは深く頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
心も礼儀として頭を下げ返す。
「こちらこそ。……まあ、ほどほどにな」
「はい! 全力で参ります!」
――まったく、話が通じてない。
心は小さくため息をついた。
審判が二人の間に立つ。
リーは構えを取り、心も静かに腰を落とした。
会場中の視線が、二人へと集まっていく。
片や、類まれな身体能力と体術を磨き続けてきた努力の天才。
片や、枢流陀一族の緋の眼を持ち、数々の死闘を乗り越えてきた少年。
互いの実力が、ついに試される。
「第九試合――」
審判が手を上げた。
リーの瞳が輝く。
心は静かに息を整えた。
「始め!」
こうして、枢流陀心とロック・リーの戦いが始まろうとしていた。