クルタ族転生   作:ryyonn

53 / 62
決定したトーナメント表と、一ヶ月の修行期間

 

 

 我愛羅とドス・キヌタの試合は、あっけないほど簡単に幕を閉じた。

 

 いや、試合と呼ぶことすらためらわれるほど、一方的な展開だった。

 

「始め!」

 

 試験官の合図と同時に、ドスが動いた。

 

 腕に仕込んだ音波攻撃を使い、相手の動きを封じようとする。

 

 しかし――。

 

 我愛羅は、動かなかった。

 

 足元の砂がひとりでに動き出し、ドスへと襲いかかる。

 

「なっ……!?」

 

 ドスが反応する間もなかった。

 

 砂が身体を包み込み、逃げ道を塞ぐ。

 

 そして、我愛羅が片手をわずかに動かした。

 

 次の瞬間。

 

 グシャッ!

 

 嫌な音が、会場に響いた。

 

「――っ!」

 

 観客席のあちこちから、息を呑む音が聞こえた。

 

 砂が解ける。

 

 そこに倒れていたドスは、すでに動かなくなっていた。

 

「勝者、砂瀑の我愛羅!」

 

 試験官が勝者を告げる。

 

 だが、歓声は上がらなかった。

 

 あまりにも一方的。

 

 あまりにも冷酷。

 

 そして、何よりも――相手を殺すことに、我愛羅が一切のためらいを見せなかったことが、会場全体に重苦しい空気をもたらしていた。

 

 我愛羅は倒れたドスを一瞥することもなく、淡々と試合場を後にした。

 

     ◇

 

◇心視点◇

 

(……やっぱり、こうなるか)

 

 心は、静かに息を吐いた。

 

 我愛羅の実力は、予選に残った下忍たちの中でも突出している。

 

 砂による自動防御。

 

 相手の攻撃を寄せつけない防御力。

 

 そして、捕らえた相手を容赦なく仕留める攻撃力。

 

 そのどれもが、同年代の忍とは思えないほど完成されていた。

 

 だが、心が気にしていたのは、強さだけではない。

 

(やっぱり、殺すことに抵抗がないんだよな……)

 

 我愛羅の表情には、怒りも、喜びも、ほとんど見られなかった。

 

 ただ、相手を殺した。

 

 それだけだ。

 

 原作の記憶がある心には、彼がどんな環境で育ってきたのか、ある程度わかっている。

 

 しかし、今ここで我愛羅の事情を語るつもりはなかった。

 

 自分が知っていることと、周囲が知っていることは違う。

 

 余計なことを口にすれば、不自然に思われるだけだ。

 

 心は、隣にいる仲間たちへ視線を向けた。

 

 ナルトは険しい表情で我愛羅の背中を見つめている。

 

 サクラは顔を強張らせ、サスケは黙ったまま我愛羅を観察していた。

 

 誰もが、今の試合に衝撃を受けている。

 

 その気持ちは、心にも理解できた。

 

 だが――。

 

(本番は、これからだ)

 

 心は、静かに拳を握りしめた。

 

     ◇

 

 

 

「……皆の者、静粛に」

 

 やがて、会場の上部から第三代目火影・猿飛ヒルゼンの声が響いた。

 

 ざわめきが、少しずつ収まっていく。

 

「これをもって、第三次試験予選を終了する。諸君らは、厳しい試験を勝ち抜き、ここまでたどり着いた。まずは、その努力を称えたい」

 

 ヒルゼンは、集まった下忍たちを見渡した。

 

「さて、本戦は一ヶ月後に行う」

 

「一ヶ月後……?」

 

 ナルトが小さく呟いた。

 

 心は黙って説明を聞いていた。

 

 一ヶ月という期間。

 

 それは、予選を勝ち抜いた忍たちが、本戦に向けて実力を磨くための時間だ。

 

 同時に、各国の大名や里の上層部が観戦に訪れる本戦に向け、準備を整える期間でもある。

 

「本戦では、諸君らの戦いを各国の大名や里の有力者たちが観戦する。忍としての実力を示す重要な機会となるだろう」

 

 ヒルゼンは、穏やかな口調で続けた。

 

「ただし、ここまで勝ち残ったからといって、必ず中忍になれるわけではない。戦いの内容、判断力、忍としての資質。それらを総合的に見て、昇格の可否を判断する」

 

 その言葉に、下忍たちの表情が引き締まる。

 

「そして、本戦の組み合わせについてだが――」

 

 ヒルゼンが合図を送ると、試験官が一歩前へ出た。

 

「これから、くじ引きによってトーナメントの順番を決定する。決まった組み合わせは変更できない。各自、結果を確認するように」

 

 いよいよ、本戦の組み合わせが決まる。

 

 ナルトは拳を握り、サスケは静かに目を細めた。

 

 サクラは緊張した面持ちで、心は落ち着いてくじの結果を待った。

 

     ◇

 

 

 

 くじ引きが終わり、試験官が結果を発表した。

 

 会場の壁に、トーナメント表が掲示される。

 

 そこに記された組み合わせを見て、下忍たちはそれぞれ反応を見せた。

 

第三次試験・本戦トーナメント

 

Aブロック

 

一回戦

 

うずまきナルト

VS

日向ネジ

 

 

二回戦

 

秋道チョウジ

VS

春野サクラ

 

 

 

三回戦

 

油女シノ

VS

Aブロック二回戦の勝者

 

 

 

Bブロック

 

一回戦

 

砂瀑の我愛羅

VS

うちはサスケ

 

 

二回戦

 

枢流陀 心

VS

カンクロウ

 

 

三回戦

 

奈良シカマル

VS

山中いの

 

 

 

 

「……ネジ」

 

 ナルトは、トーナメント表に記された名前を睨みつけた。

 

 先ほど、日向ヒナタを圧倒した男。

 

 自分の実力に絶対の自信を持ち、運命は変えられないと語っていた男だ。

 

「絶対に勝ってやるってばよ……!」

 

 ナルトの拳に力がこもる。

 

「今度こそ、あいつにオレの忍道を見せてやる!」

 

 その目には、強い闘志が宿っていた。

 

 隣でサスケが、わずかに口元を上げる。

 

「せいぜい頑張るんだな、ナルト」

 

「なんだと、サスケ!」

 

「負けて泣くなよ」

 

「泣くわけねえだろ!」

 

 二人のやり取りを見ながら、心は小さく笑った。

 

 ナルトにとって、ネジとの戦いは大きな意味を持つことになる。

 

 そして、ナルトは簡単には諦めない。

 

 心は、そう信じていた。

 

     ◇

 

 

 

「……え?」

 

 一方、トーナメント表を見たサクラは、目を丸くしていた。

 

「チョウジ……?」

 

 対戦相手の名前を、もう一度確認する。

 

 秋道チョウジ。

 

 予選で、試合をすることなく本戦出場が決まった少年だ。

 

「え、ちょっと待って。私、チョウジと戦うの?」

 

「……うん」

 

 チョウジは、青ざめた顔で頷いた。

 

 彼の脳裏には、予選でサクラがテマリを相手に見せた光景が蘇っていた。

 

 圧倒的な速さで攻撃をかわし、最後には一撃でテマリを壁まで吹き飛ばした、あの怪力。

 

 あれを、自分が受けるかもしれない。

 

「……僕、棄権しちゃ駄目かな」

 

「えっ!? ちょっと、チョウジ!」

 

 サクラが慌てて声を上げる。

 

「まだ戦ってもいないでしょ! 勝負はやってみないとわからないわよ!」

 

「でも、あのパンチ……」

 

「大丈夫よ! ちゃんと手加減するから!」

 

 サクラは胸を張った。

 

 しかし、その言葉を聞いても、チョウジの顔色は戻らなかった。

 

 心は二人を見ながら、苦笑した。

 

(……サクラの怪力、完全に同期の間で有名になったな)

 

 本人に悪気はない。

 

 ただ、森の中で大蛇丸と戦った経験が、彼女を大きく成長させたのだ。

 

 とはいえ、チョウジにとっては、なかなか気の毒な組み合わせかもしれない。

 

     ◇

 

 

 

「我愛羅……」

 

 サスケは、トーナメント表から視線を上げた。

 

 少し離れた場所に立つ我愛羅を、横目で見る。

 

 先ほどのドスとの戦い。

 

 あの圧倒的な力。

 

 そして、相手を殺すことに何のためらいも見せなかった冷たい表情。

 

 サスケの胸の奥で、闘争心が燃え上がった。

 

(あいつと戦えば……)

 

 自分の力が、どこまで通用するのか。

 

 心との修行で鍛えた体術。

 

 磨き上げた忍術。

 

 そして、大蛇丸との戦いの中で覚醒した写輪眼。

 

 それらが、あの砂の少年にどこまで通用するのか。

 

「……面白い」

 

 サスケは小さく呟いた。

 

 その目は、我愛羅から離れなかった。

 

 心は、そんなサスケの横顔を見ていた。

 

(サスケも、ずいぶん変わったな)

 

 以前なら、自分の力を証明することばかり考えていたはずだ。

 

 今もその気持ちはあるだろう。

 

 だが、仲間と一緒に鍛錬を重ね、実際に命を懸けた戦いを経験したことで、サスケの中にも変化が生まれている。

 

 心は、その成長を嬉しく思った。

 

 ただし――。

 

(我愛羅は、簡単な相手じゃないぞ)

 

 心は、サスケの背中を見つめながら、心の中でそう呟いた。

 

     ◇

 

 

 

「……カンクロウかぁ」

 

 心は、トーナメント表を見上げた。

 

 自分の対戦相手は、砂隠れの忍・カンクロウ。

 

 傀儡を操る、特殊な戦い方をする忍だ。

 

(あいつ、棄権しそうだな)

 

 心は、前世の記憶を思い返した。

 

 原作では、カンクロウは本戦でシカマルと対戦することになり、戦いを棄権していた。

 

 今回の組み合わせは違う。

 

 それでも、彼が本戦で棄権する可能性は十分にある。

 

 何しろ、カンクロウは先ほどの心とリーの戦いを目の当たりにしているのだ。

 

 

 重りを外したリーの攻撃。

 

 八門遁甲による爆発的な速度。

 

 それらを受け止め、最後には圧倒して勝利した心。

 

 砂隠れの忍たちからすれば、心もまた、できれば戦いたくない相手だろう。

 

 そのカンクロウ本人はというと――。

 

「……マジかよ」

 

 トーナメント表を見たまま、顔を引きつらせていた。

 

(俺、心と戦うのか?)

 

 先ほどの試合を思い出す。

 

 壁が砕け、床が割れ、目にも止まらぬ速度で攻防が繰り広げられた。

 

 そして最後には、八門遁甲を使ったリーが敗れた。

 

(……俺、死確定じゃねえか)

 

 カンクロウは、思わず頭を抱えた。

 

 自分の傀儡術が通用するかどうか以前に、相手の動きについていける気がしない。

 

 そもそも、あの緋色の瞳は何なのだ。

 

 砂隠れの里で鍛えてきた自分の実力が、まるで通用しないのではないか。

 

 そんな不安が、次々と頭をよぎる。

 

 心は、遠くからカンクロウの様子を見て、苦笑した。

 

(……まあ、気持ちはわかる)

 

 もっとも、心としては、カンクロウと戦うこと自体に大きなこだわりはなかった。

 

 棄権するなら、それはそれで構わない。

 

 相手を無理に追い詰めるつもりもないのだから。

 

     ◇

 

 

「えっ!? 私、シカマルと!?」

 

 いのの声が、会場に響いた。

 

 トーナメント表を指さし、目を輝かせている。

 

「何よ、これ! シカマルと試合なんて、ラッキーじゃない!」

 

「……はぁ」

 

 シカマルは、これ以上ないほど面倒くさそうな顔をしていた。

 

「何がラッキーだよ。お前、俺と戦うんだぞ?」

 

「だから何よ!」

 

「……いや、別に」

 

 シカマルは、深いため息をついた。

 

 いのは、そんな彼の反応など気にも留めず、心の方へ振り向いた。

 

「ねえ、心! 私が勝ったら褒めてね!」

 

「いや、まだ勝ってないだろ」

 

「勝つからいいの!」

 

「……そうか」

 

 心は苦笑した。

 

 いのの恋心は、試合の組み合わせすら自分に都合よく解釈しているらしい。

 

 シカマルは、心に視線を向けた。

 

「……お前も大変だな」

 

「まあ、慣れたよ」

 

「そりゃ何よりだ」

 

 シカマルは、再びため息をついた。

 

     ◇

 

 

 

 こうして、第三次試験予選は終了した。

 

 それぞれが本戦の組み合わせを確認し、仲間たちと話しながら会場を後にしていく。

 

 ナルトは、すでにネジとの戦いに向けて気合十分だった。

 

「よーし! 一ヶ月、めいっぱい修行するってばよ!」

 

 帰り道、ナルトは心の隣に並び、勢いよく宣言した。

 

「なあ、心! 一緒に修行しようぜ! 一ヶ月あれば、もっと強くなれるはずだ!」

 

 ナルトの目は輝いていた。

 

 心と一緒に鍛錬すれば、今よりもずっと強くなれる。

 

 そう信じているのだ。

 

 サスケも、少し離れたところで耳を傾けていた。

 

 彼もまた、この一ヶ月を無駄にするつもりはない。

 

 サクラも、本戦に向けてさらに修行を重ねるつもりだった。

 

 そんな三人を前に、心は少し申し訳なさそうに頬を掻いた。

 

「……悪い」

 

「ん?」

 

「俺、この一ヶ月は一人で山に籠もるわ」

 

「…………」

 

 ナルトの動きが止まった。

 

 サスケも足を止める。

 

 サクラは、きょとんとした顔で心を見つめた。

 

「……え?」

 

 ナルトは、聞き間違いかと思った。

 

「い、今……何て言ったってばよ?」

 

「だから、一ヶ月間、一人で山に籠もって修行するんだよ」

 

「…………」

 

 ナルトの頭が、ゆっくりと傾いた。

 

 言葉の意味はわかる。

 

 日本語としても理解できる。

 

 だが、どうしても頭が受け入れようとしなかった。

 

「……い、一ヶ月?」

 

「うん」

 

「……一人で?」

 

「そう」

 

「……山に?」

 

「そうだって」

 

「…………」

 

 数秒間。

 

 ナルトは完全にフリーズしていた。

 

 やがて、ようやく言葉の意味が脳に浸透してきたらしい。

 

「えーーーーーーーーっ!!」

 

 木々を揺らすほどの絶叫が、帰り道に響き渡った。

 

「何でだってばよおおおおお!!」

 

 ナルトは頭を抱えた。

 

「一緒に修行しようって言ったじゃねえか! 何で一人で山に籠もるんだよおおお!」

 

「いや、ちょっと集中して鍛えたいことがあってな」

 

「オレたちと一緒じゃ駄目なのか!?」

 

「今回はな」

 

「そんなあああああ!!」

 

 ナルトは、その場に崩れ落ちそうな勢いだった。

 

 サクラは呆れながらも、心に尋ねる。

 

「……心、本当に一人で行くの?」

 

「ああ。みんなには悪いけど、今回だけは自分の修行に集中したいんだ」

 

 心の表情は真剣だった。

 

 ただ強くなるだけではない。

 

 この一ヶ月で、身につけておきたいものがある。

 

 本戦では、これまで以上に危険な相手と向き合うことになる。

 

 そして、その先には木ノ葉崩しが待っている。

 

 大蛇丸の計画を、どこまで阻止できるのか。

 

 自分の力を、どこまで高められるのか。

 

 今は、仲間と一緒に過ごす時間を少し削ってでも、集中する必要があった。

 

 もちろん、ナルトたちを見捨てるわけではない。

 

 彼らには彼らの修行がある。

 

 それぞれが強くなるための時間だ。

 

「……そっか」

 

 サスケが静かに口を開いた。

 

「お前がそう決めたなら、好きにしろ」

 

「サスケ!」

 

 ナルトが抗議の声を上げる。

 

「お前、納得してんのかよ!」

 

「心には心の考えがあるんだろ。俺たちは俺たちで修行すればいい」

 

 サスケは、心をまっすぐ見つめた。

 

「……本戦で、置いていかれるつもりはないからな」

 

 心は、その言葉に笑みを浮かべた。

 

「期待してるよ、サスケ」

 

「ふん」

 

 サスケは顔をそらしたが、その口元にはわずかな笑みがあった。

 

 サクラも、小さく頷く。

 

「わかった。私たちも頑張るわ。だから、本戦ではちゃんと見ててよね」

 

「ああ。楽しみにしてる」

 

 そして、三人の視線が再びナルトへ向いた。

 

「…………」

 

 ナルトは、まだ納得できないという顔をしていた。

 

「……心」

 

「ん?」

 

「……絶対、強くなって帰ってこいよ」

 

 先ほどまでの騒ぎが嘘のように、ナルトは真剣な顔で言った。

 

「オレだって、一ヶ月でめちゃくちゃ強くなるからな! 本戦で、びっくりさせてやるってばよ!」

 

 心は、ナルトの頭に手を置いた。

 

「ああ。楽しみにしてるよ」

 

「……へへっ!」

 

 ナルトは、ようやく笑顔を取り戻した。

 

 ただし――。

 

「でも、やっぱり一緒に修行したかったってばよおおおお!」

 

 直後、再び絶叫が響き渡った。

 

「うるさいわよ、ナルト!」

 

「ウスラトンカチ……」

 

 サクラとサスケが呆れる中、心は苦笑しながら空を見上げた。

 

 こうして、予選は終わった。

 

 そして、本戦まで残された時間は、一ヶ月。

 

 心にとって、それは単なる休息期間ではなかった。

 

 これから訪れる戦いに備え、自分自身をさらに高めるための、大切な時間だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。